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淡々忠勇  作者: 香月 しを
淡々攻防
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斎藤・8



「良い子にしてたらご褒美くれるって言いましたよね」


「お前、良い子にしてなかったろ。しかも、そんなもんはいらん! と突っぱねたぞ」

「いります!」

慌てて言うと、土方が噴き出した。可笑しそうに笑っているのを、じっと見詰める。

「ほんとにお前は正直だなぁ。武士に二言はねぇんじゃねぇのか?」

「いただけるものはいただきます。どこに連れていってくれるんです? 祇園ですか島原ですか。女を買うのも奢りですか?」

「…………いや……お前、むっつりか」

 ゲラゲラと笑う。刀で斬られ、熱を出し、ふらふらな状態なのに、悲壮感もなにもない。その潔さが、眩しいのだ。これが、俺の相棒。立場も年齢も性格も、何もかも違うのに、隣にいるのが当たり前と思う。


「まあ……ですが……」

「うん?」

「今夜のところは、早くお休みください。鬼の副長も、怪我と熱には敵わないでしょう?」

「…………まったくだ! そういうお前もな!」


 カラっとして笑う。こんなところは、太陽のように明るい近藤局長と似ていた。新しく絞った手ぬぐいを額に乗せると、土方はすぐに寝入ってしまった。


「今日は本当に……胆を冷やしましたよ、相棒」


 生きていて良かった。自分も、この人も。

 まるで魂の欠片を失ってしまいそうな喪失感。それは今後もきっと俺を襲ってくるのだろう。相棒が、潔い間は、ずっと。だが、潔いからこその相棒なのだ。だからこそ、命を懸けたいと思う。命を預けたいと思う。


「これっくらいで胆を冷やすなんて、まだまだだな、青二才」


 片目をあけてニヤリと笑う。狸寝入りもお手の物か。


「まったく…………あんたって人は本当に……」



 翌日の朝。


 早くから叩き起こされて痛む身体に鞭を打って局長室に赴けば、そこには厳めしい顔をした局長と恐ろしい笑顔を浮かべた山﨑が座って待っていた。


 不逞浪士を捕まえたというのに、二人揃って大目玉。一緒に呼ばれていた原田だけは涙ながらに局長から感謝され、だいぶ調子に乗っていた。土方が用意していた俺と原田用のご褒美の予算は、山﨑と局長の懐に入れられ、原田を誘って三人で祇園に出かけて行った。あまりの事に追い縋ろうとした土方だが、昨日の今日で身体がうまく動かない。俺とて同じだ。骨折した足では追いかける事も出来なかった。


「どうしてくれんだよ! 折角の御楽しみを持ってかれっちまったぞ!」

「それは、俺が言いたい」

「俺の金ぇえ!」

「俺のご褒美……」


 騒いでいると、局長室の障子が、バンと開けられた。面白いものを見つけたような顔をして、沖田が立っている。


「やぁ、また痴話喧嘩ですか?」


「痴話喧嘩じゃねえええええ!!」


 騒がしい。だが、心が安らぐ。

 屯所内には、土方の怒鳴り声と、沖田の高笑いが、どこまでも広がっていった。





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