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淡々忠勇  作者: 香月 しを
淡々攻防
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斎藤・6



土方の汗を濡れた手ぬぐいで拭ってやった。


屯所へ戻ると医者が待っていて、俺と土方の傷の手当てをしてくれた。土方の傷は、山﨑の読みと違い結構深いものだったのだが、山﨑の処置が良かったのか、案外早く治りそうとの事だった。俺の足首は、骨が折れていたらしく、何故早く治療しなかったのかと、こっぴどく叱られた。ぐい、と患部を強めに引っ張られた。くるぶしに板をあてると医者は足首を包帯でぐるぐると巻き、しばらくは安静にしているように、と念をおして帰っていった。


副長室には、布団が二組。

俺と土方のものだという。同じ部屋で良いのかと、気になって隣に立っていた土方を見ると、ひどく苦しそうな顔をしていて驚いた。額には、暑い季節でもないのに汗をかき、震える手で斬られた腕を押さえていた。痛いのか、と聞くと黙って頷く。そういえば山﨑が、今夜は熱が出るだろうと言っていた事を思い出した。

枕元には、水の入った桶と手ぬぐいが置いてあり、俺は土方を布団にいれると、手ぬぐいを絞って額にあてた。


「ありがとな」

珍しく素直な言葉を吐くものだと感心していると、土方は妙に優しく笑った。

「……何かおかしいですか?」

「別に。なぁ、斎藤、お前もちゃんと手当てしてもらったのか?」

「してもらいましたよ。ひどく怒られました。手当てをするのが遅い、と。骨が折れていたそうです。」

「だろうな。で、手は?」

「…………診てもらいました」

「ほんとに馬鹿だな。見せてみろ」

辛そうに呼吸している土方の顔の前に、包帯だらけの手指を差し出す。


 足枷を無理にはずそうとした為に、両手の爪が剥がれてしまっていた。相棒である土方が命の危機に晒されている時に、自分だけのうのうと部屋で待つなど、出来なかったのだ。

「どんなに力を込めても、枷が外れなかった」

「剣を握る手だぞ? 大事にしろよ」

「命を大事にしない貴方に言われたくない」

「いや、それ、こっちの台詞だから。しかし爪剥がすなんて、痛そうだよな。水を使ったら、飛び上がる程痛ぇんじゃねぇか? 手ぬぐい絞った時に何も感じなかったのか?」

「……そういえば、少しチクリとしたか……」

「いや、そんなもんじゃすまねぇだろ! お前、ほんとに大丈夫なのか?」


実のところ、まだ、頭がよく切り替わっていないのだ。あの部屋で、山﨑が悔しそうな表情で言った言葉。土方が斬られたのだと、それを聞いた途端、言葉を忘れた。何を言ったらいいのか、どうすればいいのか、ただ、腹の底から湧いてくる何かを抑えきれず、叫んだ。山﨑は、『副長が斬られた』としか言っていない。それだけ聞いて、土方の死を考え、俺はどうにかなってしまいそうだった。


(いや、実際どうにかなってしまったのだ)


じっと、土方を見詰める。 俺が黙ってしまっているのを不思議に思っているのか、土方もまた俺を見詰めてきていた。



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