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淡々忠勇  作者: 香月 しを
淡々攻防
33/44

土方・8



斎藤が隙を作るのは珍しい。それだけ弱っているという事だ。隙をついて、捻挫して腫れている足首の上に足枷をはめた。ずっと痛かったのだろう。触れれば相当痛い筈の足に触れても、斎藤は無表情のままだった。痛いのが当たり前だから、足枷をはめられている事にすら気付かなかったのだ。両足の自由を奪われて、斎藤は焦ったように俺を見た。

「土方さん、頼む。これを外して、俺に浪士を……」

「駄目だ。今のお前には任せらんねぇ」

「土方さん!」

「駄目だ。お前に死なれたら困るんだよ、俺ぁ」

「俺だってあんたに死なれたら困る!」

「お前さぁ、相棒の事が信じられねぇのか? 試練だよ試練。相棒ってぇのは、どっちかがどっちかを守るようなもんじゃねぇんだ。これは、本当の相棒になるための試練だと思わねぇか?」

「…………」

「ん? なんで黙るんだ?」

「あんたは嘘つきだから、そうやって俺を誤魔化すんだろう。そう言えば、俺が言う事をきくと思ってるのか?」

「……信用ねぇなあ~」

笑ってみせると、斎藤は自由のきかない足をそのままに、拳を畳に押し付けて頭を下げた。


「御願いします。土方さん。どうか……」

「駄目だっての。お前さ、俺の事、物凄く弱いと思ってねぇか?」

「思ってません。ただ、俺は、あんたを守りたい。命をかけて守りたいだけです」

「あのな……それがお前の相棒としての在り方だってぇんなら、他の奴を探せ。俺ぁそういうのはお断りだ」

「…………」

「お前は、真っ直ぐに気持ちをぶつけすぎる。俺だって、相棒は大切なんだよ。今回は、お前がそんな状態なんだから、俺が頑張るしかねぇだろう?」

「せめて、山﨑さんが戻ってくるまで…………」

「いやぁ、戻ってくるの待ってたら奴等に逃げられちまうかもしれねぇしな。折角の機会を無駄にしたくねぇのよ」

「何故、命がかかったこの時に、そんなに淡々としてられるんだ!」

「お前のが、うつったのかな?」

斎藤が唇を噛んだ。「なぁ、良い子にして待ってたら、後で遊郭で豪遊させてやるからさ! 俺の奢りだぜぇ? 別嬪さん侍らせて、楽しもうや」

耳元に息を吹きかける。険しい顔で俺を睨みつけてきた斎藤から、慌てて離れた。

「そんなものは、いらん! 俺は……あんたさえ生きていてくれたら……」

「よぉ、なんか死ぬ事前提みてぇになってるけど、俺ぁ死ぬつもりはねぇぞ」

「せめて、表にいる監察の連中を……」

「嫌だ。そんなに大勢で動いたら、すぐに気付かれて逃げられちまわぁ」

「土方さん、いい加減に……」

「いい加減にするのは、てめぇだ、斎藤。もう行くからな、でかい声で騒ぐなよ。気取られたら、その方が危ねぇ」

「ひじ……ッ!」

「黙れ」


わざと冷たく言い放つ。斎藤はそれだけで、静かになった。笑ってみせる。また後でな、そう言っても、斎藤はもう反応しなかった。



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