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淡々忠勇  作者: 香月 しを
淡々攻防
32/44

土方・7



山﨑が持ってきた話は、この料亭の一室に不逞浪士が集まっているというものだった。


(まったく……人使いが荒い事だな……)

初めて使う料亭。山﨑は、最初からここに不逞浪士が集まる情報を得ていて、わざとここに決めたのだ。腕のたつ斎藤ならば、例え二十人集まっていても、大事ないだろうという予想をたてて。恐らく、表には数人の監察が待機していて、何かあれば踏み込んでくる予定だったに違いない。

だが。それは無理な話だ。


「土方さん、何を企んでる? あんたがそうして笑う時は、ろくな事が無い」

勘の鋭い男だ。斎藤は、淡々とした様子で刀を引き寄せる。大仕事の前にこの男を納得させなければならないという、更に難しい仕事が出来た。

「……この料亭に、不逞浪士が集まっている。数は二十人。今、山﨑が応援を呼びに行った」

「応援などいりません。俺が一人でも……」

「二十人だぞ? 普段のお前でも怪しいとこだ」

「普段……とは?」

「大坂から戻ってきたばかりで、疲れてるじゃねぇか。万全の状態じゃねぇ」

「そんな事は……」

「それに!」

何か反論しようとしていた斎藤は、口を噤んだ。「それにな、斎藤。お前、足を捻挫してんだろ」

「…………何を言って……」

「足首そんなに腫らして、捻挫してねぇとは言わさねぇぞ。泥濘で転んだ時に、捻ったな? なんで言わねぇんだよ」

「別に痛くなど……」

「いい~や、それぁ相当痛ぇぜ? もっと早く気付けばよかったな。お前は顔に出ねぇから困る」

立ち上がる。手を伸ばし、顎を撫でてから頭を軽く叩いてやった。珍しく、斎藤の顔が青くなる。


「あんた……まさか……」

「奴等に逃げられるのも癪だ。俺が部屋に踏み込む」

「馬鹿な!」

「なに、運がよけりゃ二人とも助かるさ。運が悪かったら、二人ともお陀仏かな?」

「俺は、あんたのそういうところが怖いんだ! 何故自分を大事にしない!」

「結構、大事にしてると思うんだがなぁ?」

「嘘を言うな! おい……なに笑って……」

「いやあ……斎藤、随分怒ってるな。なかなかこういう機会は無いからな。面白い」

「く……こ、の……暢気な事を……」

顔を真っ赤にして怒っている斎藤は、実に新鮮だった。にやけてくる顔を制御できない。更に斎藤が怒る。その手にはいまだに刀が握られていた。

「斎藤、ちょっと御願いがあるんだが」

「……御願いだと? 俺の願いはきかないつもりなのにか?」

「まぁ、そう怒るな。なに、簡単な事だ」

斎藤の後ろにさっとまわり、袂からそっと器具を取り出した。見つからないようにそっと動かす。

「え、ひじ……」

「何もしねぇよ、相棒」

「は? おい、何して……!」


足元の固いものに触れた。ぎゅっと握り、後ろへ放り投げる。


「それは俺の刀……!」

「ぼうっとしてて命を落とすなよと、俺ぁ前に言った筈だぜ? 斎藤」

力の抜けた斎藤を軽く突き飛ばした。そのまま倒れながら、斎藤がぎょっとした顔をする。

「……な……これは……」

「だから、今言った通り。注意壱秒、怪我一生……」

「ふ……ざけるな……!」

「南蛮渡来の足枷だ。ちっとやそっとじゃ外れねぇぜ」



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