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淡々忠勇  作者: 香月 しを
淡々攻防
30/44

斎藤・4



(確かに……あの人は、潔い決断を下す……)


前に、一人で捕まった時もそうだった。殺されるかもしれないというのに、一緒にいた護衛では万に一つの勝ち目もないと判断してひとり屯所へ戻らせ、俺を連れてくる予想までたてた。一歩間違えば殺されていたのにと窘めれば、その時はその時だと、サラリと言ってのけた。

確かに、不可能を可能とするその力は、頼もしいものなのだろう。しかし俺は、土方のその潔さこそが怖かった。自分を大切にしていないような気がする。鬼だなんだと罵られているその影で、自分の身を犠牲にしてまで、誰かを、この新撰組を生かそうとする姿を見るだけで、俺は胸が痛くなるのだ。

それが、焦れに繋がる。だから命を賭して守りたくなってしまう。相棒という免罪符を手に入れた今、簡単に死ぬような目に合わせないよう、ずっと見張っていたい。絶対に、土方を簡単に死なせてはならない。


(我ながら女々しいことよ……)




「そういうわけなので、出来れば俺の目の届くところにいてください」


それを聞いた土方は、目の前で酒を噴き出し咳き込んだ。袖で口元をぐいと拭くと、目を丸くして俺を見る。

「な……何を……」

「だから、俺が簡単に命を差し出してしまいそうなのが危うくて相棒でいる事が怖い土方さんと、土方さんが簡単に命を投げ出してしまいそうなのが怖くて相棒という立場を使って代わりに死んでもいいと思ってしまう俺がいるわけでしょう?」

「…………」

「面倒事に巻き込まれないように、部屋に閉じこもっていてくれたらいいわけですよ。俺が入口で見張ってますんで」

「いやいやいや……何を言ってんだ斎藤?」


 もとはといえば、潔すぎる土方が悪い。離れている間に無茶をされると思うと気が気ではない。隊士も増えて新撰組も軌道にのってきたのだ。何も副長自らが出向いて事を解決する必要は無いのではないかと思う。

 説明すると、土方の機嫌は下降した。元々、武士道をこよなく愛する土方だ。死に場所を探しているようなところがある。それを、相棒である俺が理解しない事が、不愉快なのだろう。これは、どこまでも平行線だ。きっと交わる点はない。なんとなくそれを感じ始めていた。


「もうこれは……出歩けないように縛っておくしか……」

「おいやめろ! 俺はそういう趣味はねぇ!」

「またまた……好きなくせに」

「そういうお前が、本当はこっちの趣味があるんじゃねぇのかぁ?」


 濡れた手ぬぐいを手にしながら土方に近付いて行く。冗談口とお互い理解しながら攻防戦を繰り広げていると、突然土方が俺を突き飛ばした。


「……痛ッ……突然何を……」

「…………ちょっと待て」

土方は、ふざけすぎて荒くなっていた息をなんとか落ち着けながら、ゆっくりと立ち上がった。畳の上を、みしりとも音をたてずに入り口へ移動して行く。感心して見守っていると、物凄い勢いで障子を開けた。



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