表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
淡々忠勇  作者: 香月 しを
淡々忠勇
3/44

斎藤・3



後ろ向きの男達を刀で突いていく。あまりにも簡単に訪れた死に、彼等は何を思うだろうか。返り血が目に入った。腰につけた手ぬぐいで、顔を拭く。この着物も手ぬぐいも、もう使い物にならぬ、と舌打ちをした。土方の声が更に大きくなる。中にいる男達の顔が見えた。上気した顔をぶるぶると振りながら、上着を脱いでいる。


「斬ってしまうのは勿体無いな。お前、本当に男か?」

「ふふ~ん、そんなに気になるなら前を寛げて確認してみるか?」


男達は土方に群がり、体のあちらこちらを触り始めた。真っ白な首筋が見える。そこに口をつけそうになった男を、後ろから突いた。


「ぎゃ!」


残り四人が、各々の刀に手をかける。抜刀は許さなかった。手首を落とす。土方の体に触れていた手。男達は、悲愴な叫び声をあげた。もう刀を持つ事が出来ない。侍であるのにも関わらず。しかし、そう悲観する事もないのだ。すでに命がないのだから。バタバタと倒れていく男達の向こう側で、土方が不機嫌そうにこちらを見ていた。


「大丈夫ですか?」

「……全部斬っちまいやがって」

「ああ、これから親玉が戻ってくるそうです。監察が動いているから、後はお任せすればいいのではないかと」

「…………なら、いい。世話ぁかけたな」

「ほんとに。あまり無茶をして心配をかけさせないでください」

「心配? したのか、お前が?」

「しましたよ。嘘は嫌いなんでつきません」

「その割には全然慌てた素振りじゃねぇじゃねぇか」

「……慌てるのと心配するのとは、必ずしも一致するとは限りません。慌てたところで貴方が助かるわけでは……」

「ああ、もういい。わかったわかった」

土方は面倒臭そうに首を横にふると、早く縄を切れと言って体を摺り寄せてきた。ぷつり、と切る。ようやく自由になった手で縄のかかっていた辺りを撫で擦り、土方は溜息をついた。

袂から、山吹を出す。倒れた男達の亡骸に置き、手を合わせた。

「八重の山吹か」

「ええ、たくさん咲いていたもので」

「朴念仁のお前にしちゃあ、粋な事をするじゃねぇか」

「は?」

「今じゃただの乱暴集団になっちまったが、こいつらも最初は志を持った集まりだったんだろうよ。それが、このざまだ。なんの実もならなかった奴等に手向けってとこだろ?」

「……意味がわかりませんが」

「八重の山吹だろ? 実のねぇ花じゃねぇか」

「そうなんですか?」

「……いい。お前にそういうのを期待した俺が馬鹿だったんだ」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ