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淡々忠勇  作者: 香月 しを
淡々攻防
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斎藤・2



「おかえり」


土方が、足元の火鉢を見つめたまま声を出した。周りには誰の姿も見えない。誰の気配もしない。

「おかえりって」

再び土方が口を開いた。黙って見ていると、顔を上げた。その視線は、どうもこちらに向いているようだ。「おかえりって言ってんのが聞こえねぇのか! そんなとこに隠れてねぇで、とっとと顔を見せろ!」


険しい顔で怒鳴る土方に、慌てて飛び出した。さきほどまでの可愛らしい表情は何処へやら、不機嫌そうに顔を顰めて、土方は腕を組んだ。

「……あの……」

「お前、あれで気配を消したつもりか? まるわかりだぞ」

「え、そうでしたか?」

「他の奴等にわからなくっても、俺にぁわかっちまうんだ。なんでお前、こんなとこから帰って来た?」

「…………あんたが無事かどうか、すぐにこの目で確かめたかったから……」

瞬間、土方の顔が曇った。相棒だと口にした時から、時折こういう顔を見せる。迷惑がられているのか? 相棒なのに?

「……真っ黒だ」

「泥濘に足を取られて転びました」

「お前らしくねぇな」

「あんたに会いたくて、焦っていた……」

「焦ってどじを踏む……か。益々お前らしくない」

「俺らしくない事が続くから、相棒としては失格だとでも言いたいんですか?」

「…………」

沈黙が、肯定の意なのだろう。土方はそのまま顔を下に向けると、再び作業を開始した。「その格好をなんとかしてこい」

下を向いたまま言う。

「土方さん……」

「まずは、顔を洗って来い。着物を着替えて、近藤さんに帰ってきた報告をしろ。俺のところに来るのは、それからだ。今夜は山﨑が料亭に席を用意してくれた。話は、そこで聞こう」

「…………はい」


「斎藤」


「はい?」

「要人警護、ご苦労様でした。夜までは間がある。近藤さんへの報告が終わったら、少しゆっくりして下さい」

「……ありがとうございます」

土方の、こういうところが好きだった。いつもは横柄な態度だが、仕事を終えて戻ってきた隊士ひとりひとりに必ず労いの言葉をかける。これがあるから、また頑張ろうという気になるという隊士も少なくないのだ。突然他人行儀な言葉遣いになるのが、少しだけ寂しくもあるのだが、その穏やかな顔をみれば、そんなものは毎回吹き飛んでしまっていた。

「風呂ぉ入って、ちゃんと髪も洗ってこいよ」

「……承知」

丁寧な言葉遣いは、毎回、本当に一瞬の事だった。



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