表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
淡々忠勇  作者: 香月 しを
淡々攻防
27/44

斎藤・1



道中、酷い目にあった。


この季節にしては暑いと感じながら歩いていると、突然の夕立。山道の途中であったので雨宿りをするような場所もなく、びしょ濡れになりながら歩いた。泥濘に足を取られ難儀していると、後ろから大勢の人の気配。気付けば山賊に取り囲まれ、戦う破目になった。


「命が惜しくないならば、かかってくるがいい」


続けざまに二人斬った。この後に町へおりなければならないので、血飛沫がかからぬよう、細心の注意を払う。刀をまた研ぎに出さなければならない、と舌打ちをしながら下段に構えると、山賊達が息を飲むのがわかった。

「ここ一月、俺はずっと機嫌が悪い。かかってくる者は、皆斬る」


一歩踏み出す。

山賊達は、散り散りに逃げ出した。



(少し……喋りすぎたか…………)


いつもの自分ならば、ただ黙って相手の出方を見、一番楽な方法で事態を収めた事だろう。苛ついている今は、それが出来なかった。相手の出方を見ている余裕がなかった。


(まるで芝居の台詞のようだったではないか。恥ずかしい事、この上ない……)


溜息をつき、刀を納めた。歩き出そうとした途端、泥濘で足を滑らせ、豪快に転んだ。血飛沫どころの騒ぎではない、泥だらけになった自分に、改めて溜息をついた。


山をおりると、市井の人々が眉を顰めて俺を見た。なるべく誰とも目を合わせないようにして屯所を目指す。途中、寺の境内で子供と独楽遊びをしていた沖田の姿を見つけた。相手もこちらに気付いたらしく、指を指して笑っていたが、声をかけずに無視をして先を急いだ。


(あの人に早く会わなければ……)


早く無事を確認しなければ。何時の間にか小走りになっている自分に気付いた。



気配を殺した。

まずは、土方の顔が見たかった。建物の裏からまわり、副長室に面している庭を目指した。隊士達は誰も自分に気付かない。山﨑から伝授された気配の殺し方は、大変役に立っていた。


(…………いた)


縁側に腰をかけ、土方は楽しそうに篩をふるっていた。足元にいつも使用している火鉢を置き、その隣に置いた木箱の中からひしゃくで灰を掬っては、手に持つ篩に載せている。時折、クスリと笑う。なんだ、相棒の俺がいなくとも、楽しくやっているではないかと拗ねるような気持ちになった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ