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淡々忠勇  作者: 香月 しを
淡々攻防
23/44

土方・3



今日あたり戻って来るんじゃねぇか。そう言いながら動揺している自分に気付いた。戻ってきた斎藤に、なんと声をかければよいのか。斎藤は、どんな顔をして帰ってくるのか。


(まさか、まだ怒ってるなんて事ぁねぇだろうが……)


段々憂鬱になってくる。斎藤が帰ってくるのは嬉しい。しかし、帰ってきた斎藤の心の変化を知るのは怖かった。自分で遠のけておきながら、何を怖がるのだと笑ってみる。虚しい気持ちになり、冷たい畳に突っ伏した。廊下には、誰かの気配がする。


「あー。サボってる!」


「…………煩ぇのが来た……」


障子から顔を覗かせた沖田は、それを聞くと頬を膨らませてズカズカと部屋に入ってきた。顔のすぐ傍に正座をして、鼻息を荒くしている。

「何です? その言い草。折角斎藤さんが帰ってきたのを教えにきてあげたのに」

「……帰ってきたのか?」

「嘘です」

「…………何しに来たんだよ」

「何って……お茶飲みに来たんでしょ。淹れて下さいよ、寝てないで」

「今日は炭を熾してねぇから、すぐにぁ入れらんねぇよ」

「だったら、これはなんなんですか?」

沖田が転がしてあった湯呑みを拾い上げる。俺は黙って火鉢を指差した。

「湯呑みが転がってたって、ねぇもんはねぇよ。それ見てみろ」

「……確かに……鉄瓶からは湯気が出ていませんね。珍しい事もあるもんだ」

「うっかり忘れてたんだ。だが、ちょうどいい。今日は暖かいからな、灰の掃除でも……」

そう言いながら横を見ると、そこには既に沖田の姿は無かった。廊下へ飛び出しながら舌を出している。

「お手伝いは御免こうむります。一人でやってくださいよ」

「……ガキの頃ぁ喜んで手伝ったくせに」

「あの頃とは、灰の量が違うでしょ? 私だって、手あぶりの灰掃除くらいなら手伝いますけどね」

「ガキは、すぐ厭きるから困る」

「子供で結構です。大人の土方さんが、お一人で掃除してください。さぁて、巡回でもしてこようかな」

「他の隊士の邪魔をするなよ」

「……私を誰だと思ってんですか! 失礼しちゃうな、まったくもう」


沖田だと思ってるから言ったんだが、と思っていると、いつのまにかいなくなっていた。当番でもないのに巡回などする筈もない。どうせ近所の子供のところへ遊びに行ったのだろうと、溜息をついた。



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