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淡々忠勇  作者: 香月 しを
淡々忠勇
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斎藤・2



件の寺は、門が閉まっていた。門番はいない。どうしたものかとうろうろしていると、後ろから肩を叩かれた。

「斎藤先生、こちらへ」

「……きみは……」

監察に属する隊士が、植木職人の格好をして立っていた。山﨑の指導の賜物だろうか、気配を感じさせずに近づいてきた事にひどく感心した。

「副長は本堂にいらっしゃいます。縄で縛られて、周りには五人の浪人が。親玉が帰ってくるのを待って斬る手筈になっているようです」

「斬らせぬ」

「堂の入り口には、更に五人。勝手口に控えているのは三人。何か物音がしたら、すぐに駆けつけられる距離です。全部で十三人。山﨑さんが大坂に行ってしまっていて、最善の策がとれるかどうか……」

「なに、全て斬ってしまえばいい」

「え」

「ここで待っていろ」

「さ……斎藤せんせ……!」

引きとめようと伸びてきた手をするりとかわし、寺の裏手から潜入した。山吹の黄色い花が暢気に咲いている。花の咲いているところを一本だけ引き千切り、袂へ入れた。



静かに、手入れをしたばかりの刀を抜いた。足音はさせない。そうした訓練は、いつもしていた。勝手口に控えているのは三人。声も出せない内に斬り捨てる。右へ薙いだ。手首が飛んだ男が大声を出そうと口を大きく開き、息を吸い込んだ。声が出る前に、頭上から刀を振り下ろす。後ろを向いていた男は自分が死んだ事にも気付いていないかもしれない。怯えて声すら出せなかった男は、何故こんな集団の中にいたのだろう。はねられた首が、無言でゴトリと土間に落ちた。


(あと、十人)


本堂に向かうと中から笑い声が聞こえてきた。何事かと耳を澄ますと、どうやらそれは土方のものであるようだ。新撰組の中で衆道が流行る切っ掛けとなった土方の遊び。なんでもない事をいやらしい声音を使って聞かせる事で、隊士達を密かにからかっているのは幹部連中の間では有名だ。しかも隊士達には自分が出している声だとは気付かせない。鬼の副長がそんな遊びをするとは考えてもいない若い隊士は、妙な方向に若さを拗らせていく。本当に性質の悪い遊びだ。


「うっは! やめてくれよ! 俺くすぐったいの駄目なんだからよ!」

「やめて欲しければ、その汚い言葉ばかり吐き出す口を少しは閉じておくんだな」

「わかった! わかったから! んぐう! むむうーーーッ!」

「…………」

「んッ、んッ、んんッ」


(よくやる……)


入り口で見張りをしなければならない男達は中で行われている事が気になるようで、皆、戸に齧り付いていた。土方は、益々艶めいた声を出し、まるで情事の最中の女を思い起こさせた。



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