始まり
“ねぇ、知ってる?雪の降る日にね…”
「うぅっ…。寒い…」
12月のとても冷える日、私はお気に入りの場所に来ていた。ここは人通りの多い場所からほんのちょっと外れた所にある。けもの道を辿って行くと小さな原っぱがあった。小さな子供たちも来ないようだ。以前、たまたま迷い込んでからすっかり気に入ってしまった。
「ここは落ち着くな…。今日で今年も終わる。来年の4月から高校生か…。来年もお世話になります」
誰もいない場所へ挨拶をし、この場を後にする。今日は大晦日。一人寂しくここに来た。一緒に過ごす恋人なんている訳もなく、家に帰ってお母さんと年末年始を過ごした。私はお母さんと2人で暮らしている。お父さんは私が小さい時に亡くなったらしい。物心ついた時からお母さんと2人だったから特別寂しいとかはなく、楽しく過ごしている。
そんなある日、お母さんから紹介したい人がいると、男性を連れてきた。数ヶ月お付き合いをしている男性で、春頃に結婚を考えているとの事。私はお母さんが幸せになるならと、お父さんになる人を受け入れた。男性とは何度か顔は合わせていたものの、ゆっくり話をするのは初めてだった。とても穏やかで優しい雰囲気で安心した。お母さんも嬉しそうだった。
「これから、母共々よろしくお願いします」
そう伝え、無事顔合わせが終わった。式を挙げる予定はなく、籍を入れるだけのよう。新婚旅行もお互い仕事の都合ですぐには行かないよう。お父さんの方が少し離れた所に住んでいるようで、新居には先に私とお母さんが引っ越して、その後に引っ越しをしてくるという流れになった。
「新しい家族か…上手くやって行けますように!」
4月に近づくにつれて、新しい事が沢山あり少し不安になった私は、お気に入りの場所に来ていた。考え事をするには持ってこいな場所だ。暫くボーっとしていると、背後からガサガサっと音がした。驚いて振り返ると、男の子が立っていた。
「あ…ごめん。驚かすつもりは無かった…」
「あ、大丈夫です…」
そう言って私はお気に入りの場所を出た。全く人が来なかったのに、来ることもあるんだなーと、少し残念な気持ちを抱えながら帰った。ここから私の生活は大きく変わった。いや、もしかしたら年明けてからかも…。