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 誰もいない湖のそばで、二人は妖精探しをする。エスもマリアも言葉を発さなかった。エスはこういう時になにを喋ればマリアの気持ちがラクになるのか知らなかったし、マリアはとても空虚な気持ちだった。


 マリアは水面を見つめたり、草をかき分けてみたりする。


「なにしてるの?」


 甲高い子供のかわいらしい声が聞こえた。

 マリアが声のした方を見ると、中指ほどの大きさの薄い羽を生やした、小さな人間が、枝の間から、マリアを不思議そうに覗き込んでいた。


「今日の集会に人間が入り込んでいるってみんな騒いでる。ねえ、キミ、どうして泣いているの?」

「どうしてかしら?」


 涙は流れていないのに、妖精は人の気持ちを読み取るらしい。マリア目尻を触って確かめる。


「ふうん、そう」


 移り気な軽さで、小さな妖精があっけらかんと舞う。


「泣けるっていいことだよ!」

「そうね」


 マリアはこの無邪気な妖精に微笑んだ。


「ねえ、妖精さん。『月のしずく』を知らない?」


 妖精は細い首をひねる。


「知らないなあ。なにそれ?」


 妖精は内緒話をするようにマリアの肩にとまると、その耳に囁いた。


「キミに会いたい人がいるんだ。着いてきてよ」


 マリアは少し離れたところにいるエスに声をかけようとして、妖精に止められた。


「ダメだよ! 一人でっていう約束なんだ!」


 マリアが逡巡すると、


「お願い。約束しちゃったんだ」


 と妖精が泣きつく。

 その様子にマリアはほだされてしまった。


「わるい人ではないんでしょうね?」

「もちろん!わるい人じゃないよ!」


 その言葉にマリアは着いていく決心をした。


「いいわ。案内してちょうだい」

「うん。任せて!」


 小さな羽音をさせて妖精が森の方へと飛び立つ。

 マリアはエスを少しみて、どうせすぐ戻ってくるのだから、と妖精の後に続く。マリアは安心しきっていたのだ。この世界には、まだ、マリア自身を傷つけようとする人間がいなかったから。

 しかし、それはすぐに間違いだったことに気がついた。

 男の持つ猟銃の銃口が、マリアに向けられた。


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