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 砂の上でポーカーをしていたカメのバルタザールと小人のジャスパーがエスとマリアを見つけると、彼らは陽気に笑い声をあげた。


「おや、戻って来よった。亡霊には会ったかの?」

「知っていて、言わなかったんだな」


 エスの咎めるような強い口調にジャスパーは動じた様子がない。


「知っていたに決まっておるわい。でなきゃ、こんなところにわざわざ来るものか」

「お主、それを住んでいる住人の前で言うか」


 バルタザールに白い目を向けられて、ジャスパーはこほんと咳払いを一つすると、ごまかすように「悪魔よ、少しあちらで話そうではないか」とエスを少し離れたところに連れて行こうとする。


「ねえ、賢者さま方。ちゃんと、エスのこと認めてくれるのでしょう?」


 慌ててマリアが問いかけるが、


「そんなもん、初めから認めておるわい」


 とエスを引っ張っていってしまう。エスの大柄な体躯を顔ほどの大きさの小人が引っ張れるわけもないので、エスも力を抜いているのだろう。残ったマリアは暇になり、バルタザールとジャスパーが散らかしたカードの絵柄を一枚一枚見ていた。


「お嬢さん。あの悪魔は孤独だ。その孤独な悪魔を放って元の世界に戻ってもいいのかい?」


 バルタザールがマリアに問いかける。暇つぶしなのだろう。


「わたくし、この世界の住人ではないのだもの」

「住めば都、とも言う」

「そうかしら?」

「そうだとも」

「でも、わたくし。家族に会いたいわ」

「そうかい。それもまた、道だな」

「賢者様はわたくしにここに残って欲しいの?」


 引き止められたらどうしようと、引き止められなかったらどうしよう。両方一緒にマリアは思う。ところが賢者は、マリアの求めていて、求めていない答えをくれなかった。


「それを決めるのはお嬢さんだよ。お嬢さんの人生がどんな終わり方を迎えようと、お嬢さんの後悔するような生き方をしてはいけない」

「できるかしら?」

「できるとも。お前さんはずっと、そうして来た」


 そんな会話をマリアとバルタザールが交わしている一方。ジャスパーがエスに単刀直入に会話を切り出していた。マリアがこの会話を聞くことはなかったのは、幸いだったかもしれない。


「悪魔よ。このままだとあのお嬢さんは亡霊に取り憑かれて死ぬぞ」





 …海から上がった二人は、並んで砂浜に座り、海に日が潜っていくのを眺めていた。


「ねえ、エス」


 マリアが海に小石を投げ込みながら、話しかける。


「愚かな夢追い人、ドン・キホーテのお話は知ってる?」


 これはもちろん、エスが知らないことを理解した上での問いかけだった。マリアは返事を待たずに続ける。


「騎士になりたいと願う男性が主人公なの。現実なんかちっとも見ないで、カビの生えかけた古臭い夢を追い続ける愚かな人。誰にも理解されなくて、ばかにされる。でも、それでも彼の隣には、いつだって友人の従者がいるわ。サンチョ・パンサ。彼は呆れた顔をしながらも主人のそばにいて、主人が間違った方向に行きそうになったら諌める度量もある。…ねえ、」

「……おれでよければ、そばにいます」


 エスの言葉にとうとうマリアは膝に顔を埋めて泣き出した。


「でも、わたくし、元の世界に戻らなきゃいけないのよ」

「いいんですよ、それで」


 エスは鼻歌でも歌うように軽く言い、それからマリアの頭を優しく撫でたのだった。


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