3話:ふたり
「バカじゃないの」
「あ?」
瑞希は自転車の後ろに和馬を乗せて走りながら言う。
「そんなに傷だらけになって。他に方法あったんじゃないの?」
「こっちの方が手っとり早いだろ」
「あっそ。意外と暴力的ね」
「うっせぇ」
それから二人の間に沈黙が流れた。
桜宮学院中等部0組棟
「…」
「…」
ふたりは0組棟の廊下を無言で歩く。
「あーっ! 和馬ー!」
「げっ…、高木ババぁ!」
「だれが、ババアだ! なにしてんの! こんな傷だらけになって!」
「うっせぇよ! こんな格好させやがって!」
「着替えなさいよ!」
「言われなくても、そうするに決まってんだろ!」
和馬は高木先生の持ってきた紙袋を持って廊下を走って行く。
「和馬ー! 記念写真撮るから、5分以内に帰ってきなさいよ!」
先生は和馬に向って叫んでいる。
「あのぉ…、聞いちゃ悪いかもなんですけど…」
「なに?」
「高橋って、二重人格だったりします?」
「いいや」
「でっですよね〜。やだなぁ、アタシったら…」
「多重人格よ」
「へっ?」
瑞希は目を丸くする。
タジュウジンカク?
「あいつの中には、5人の心がある。やさしい和馬、暴力的な和馬、悪い…不良な和馬、優等生な和馬、そして本来の和馬」
「それって…」
「その人格を自由に操作できたら、ちゃんとした能力よ」
「…能力…」
「うん」
「能力って、たくさん…2つある人もいるんですね」
「ん? おまえも和馬も3つだぞ」
「へ?」
瑞希は先生をみつめる。さっき聞いたのは確率変動能力だけのはずだ。
「確率変動能力と、能力反発能力、夢魔出現能力だ」
「確率変動能力? と、能力…?」
「能力反発能力と夢魔出現能力だ」
「その…それ、なんなんですか?」
瑞希の言葉に先生は大きく息を吸う。
「まず、能力反発能力は…」
「綾瀬っ!」
「たっ…高橋っ?」
瑞希の目の前には和馬が立っていた。
「おまえ、問題能力者なのか」
「へ?」
「おまえの力を見せてみろ」
「なっ…うわっ!」
瑞希は和希に突き飛ばされ、廊下に座り込む。
「どんな力を持っている?」
「しっ、知らないわよっ!」
「ウソをつくな!」
「っ…」
和馬の顔が瑞希に近づく。
「…!?」
和馬の目の色が茶色がかった黒から、赤に変わっていく」
「和馬! 綾瀬から離れ…ひゃっ!」
「先生っ!」
先生は廊下に倒れこむ。
「なにしてんのっ!?」
「うるさい! なんかしてみろよ」
「離してよっ!」
瑞希は和馬の手を振りほどく。
「いやっ! 近づかないでっ!」
瑞希は和馬から後退りをして離れる。
しかし、和馬はいつのまにか瑞希の手を掴んでいた。
「離してっ!」
「おまえの能力の方が、上だと言っている」
「だから何なのよっ!」
「やってみろっつってんだろっ!」
和馬は瑞希に顔を近づける。
「何のつもりよっ!」
「無理矢理でも見せてもらうぞ」
「わけわかんな…」
瑞希の頭に衝撃が走った。
「な…にすんの」
和馬の目にうずか見えた。
「やめ…てよ」
瑞希の意識が遠のいていく。
和馬の目のうずから目を離そうとしても離れない。
「いやっ!」
「―っ?!」
瑞希から白い光が発光される。
和馬は床に倒れこんだ。
「―っ…、なに? なにが…起こったの?」
瑞希は立ち上がり呟く。
床に倒れこんだ和馬と先生。
「なに? なんで…?」
瑞希はただ、立ちすくんでいた。