高橋
桜宮学院中等部 12時54分 入学式1時間前
「ったく…なんだよ…」
僕、高橋和馬は小石を蹴りながら中庭を歩く。
僕は今日桜宮学院中等部に入学する新1年生だ。
「くそっ…」
僕は勢いよく小石を蹴る。
ガツンッ!
「あ…」
僕は思いっきり校長の車に小石をぶつけてしまった。
僕はそのことから逃げるように、校門のほうに小走りで向かった。
そうそう、僕はこの学校の特殊学級、0組に所属している。なんか、僕には超能力に近いものがあるらしい。その超能力とは変声の能力。なんか、いろんな声が出せるらしい。そういや、言われてみたら僕は高い声が出たり、低い声が出たりしていた。
で、この0組には依頼とかいうのがあって、0組の生徒はそれをこなさなければならない。入学式には出席しないそうだ。全校的に、変人の問題児クラスと通っているからだ。だから、0組の生徒は入学式の日に初依頼をこなすことになっている。
僕の依頼は、「亀の保護」。
要は亀の面倒見だ。この亀は黄金の亀といわれていて、普通とは違う…らしい。500年ぐらい生きてる、ミドリガメだという。それを港町南2丁目の宮原さんの家まで無事届けるとのことだ。でも、その宮原さん…一癖あって、男嫌悪症だというのだ。でも、女子にまかせるにしては、危険だという。なぜかというと、この亀を狙った凶悪なマニアが出ているのだという。そこで、童顔女顔で声も変えられる僕に依頼したとのことだ。本人は、僕が男とは知らないけど。先生が勝手に僕を女として紹介したらしい。
だーかーら! 今、僕は女子の格好。腰まである長髪のカツラに女子の制服。完璧だ。
こんな格好をしてるから、さっき、遅刻の0組女子に女子って間違われた。キモいじゃなんだ言われた。軽くショックだった。
「あーぁ…」
僕が落ち込んで歩いていると、目の前に黒い大きな車が止まった。
「おまえが、高橋か」
「はい…?」
僕の目の前に2メートル近くありそうなゴッつい男の人が2.3人ぐらい立ちはだかった。
「…なんでしょう…?」
「黄金の亀はいただく!」
「は?!」
僕は目を丸くする。
この連中が、亀を狙った凶悪なマニア?!
「大人しくしてろよ、小娘」
「え…?」
僕のこと、女だと思ってる?
そんなことを考えていると、背中にスタンガンを当てられていた。
…亀ごときに…。
僕の目の前が真っ暗になった。
「…やはり、おとりか?」
僕はゆっくり目を開ける。
…そうだ、変な奴らにスタンガン当てられて…。
車の中?
「いや、でも桜宮の1年の高橋に、この亀の依頼が入ってるって聞いたんだけどな…」
「お前の情報は当てにならねぇ」
「失礼だな。うーん…こいつじゃなかったんじゃないのか?」
「でも、こいつが怪しいし、センサーが反応した」
「あぁ、あれか。役に立つのか?」
「亀のデータを打ち込んでいる。あいつは特別だからな。反応するようにしてある」
「まだ隠し持ってんじゃないか?」
「どこにだ? 鞄の中はあさったぞ」
「体は?」
「おいおい、やめてくれよ。俺が犯罪者になるだろ」
「今更か?」
「まぁな。探してみるか?」
「あぁ。一回、そこの倉庫でおろすか」
「分かった。停める」
…どうやら、僕は誘拐されたらしい。亀のために…。
とりあえず、小型通信機で気付かれないように学校に連絡した。
キキーィッ!
急ブレーキ。そして、僕の寝とがっていたトランクの後ろの戸が開く。僕はとっさに気絶した振りをする。僕は男に担がれて、海際に立つ倉庫の中に連れて行かれる。
「…脱がすか」
「お前がやれよ」
「お前だろ」
「…どうなっても知らねぇぞ…」
足音が近づいてくる。
脱がされたら、男ってばれる…。
しかも、亀は僕のブラジャーの中…。
イチかバチか…。
「うわっ!」
近づいてきた男が急に起き上がった僕に驚いている。
「お前、起きてたのか!?」
「どうだかな」
僕は男と3メートルくらい離れて言う。
「女であろうが、容赦しねぇ。亀は俺のもんだ!」
「奪えるもんなら、奪ってみやがれ!」
「娘っ子に何ができる?」
僕は1人の男に蹴りを入れる。
「ぐぅっ!」
「ざまぁみやがれ!」
僕はぞろぞろと出てくる、男たちを蹴散らせた。
「ふぅ…」
僕は倒れた男たちの中に立っていた。
僕もかなりの傷を負った。
「高橋!」
「!」
倉庫の入り口には、さっきの遅刻0組女子綾瀬が立っていた。
「おまっ…なんで…」
「依頼よ! 急いできたんだから!」
依頼…。あ、さっきガッコに連絡したからか…。
「どうしてココが分かった?」
「カンよ。カ・ン!」
「…確率か…」
「何? なんか言った?」
「いいや」
僕は首を横に振る。
「ホラ、亀、届けるんでしょ? 自転車の後ろに乗っけたげる」
「あ…うん」
僕は綾瀬の自転車の後ろに乗る。
亀…おまえのせいだぞ…。
こんなやつの世話になるなんて…。