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1.私立桜宮学院中等部入学式

 

 1.入学式


「和希ぃ! 早くー!」

 瑞希が和希のいる男子寮の門の前で叫ぶ。

「今、来ただろ。ネクタイ結びにくいんだよ」

 和希はネクタイを結ばずに出てくる。

「ヘタクソ」

「あっ! 言ったな!」

「へへへっ!」

 瑞希は学校に向かって走る。

 ―ここは全寮制の私立桜宮学院中等部。桜舞散る今日は、入学式だ。

 私立の金持ち中学だが、瑞希と和希は特別入学者で、入学試験でトップ3人までが卒業までの学費を免除してくれる。中高一貫校のため、6年間の学費が無料ということだ。



   入学式


「綾瀬和希…、綾瀬和希…」

「綾瀬瑞希…、綾瀬瑞希…」

 二人はクラス発表の紙の文字を目で追う。

「あった!」

 先に声をあげたのは和希の方だった。

「…なにこれ0組?」

 瑞希が目をこらす。瑞希の名前があるのは少し離れて貼ってあった、0組の欄。

「和希、何組?」

 瑞希は和希に寄る。

 和希の名前は3組にあった。

「何? 0組って…」

 瑞希が張り紙を見つめながらゆっくり歩いて行くと誰かにぶつかった。

「痛ぁっ!」

 瑞希は地面に尻もちをつく。

 (あ、上級生?!)

「ごめんなさいっ!」

 瑞希はサッと立ち上がる。

 (女子…だよね…)

 瑞希は目の前にいる生徒に戸惑う。

「名前…」

 きれいな声だ。

「えっ、あっ綾瀬瑞希です」

「綾瀬さんか…、0組?」

 瑞希は目の前にいる生徒の言葉にうなずく。

「ボクも。あ、ボク、高橋和馬。1−0」

「ふーん…一年か、じゃあ、またね」

 瑞希が立ち去ろうとすると、高橋が瑞希の手を握った。

「うん。あ、一緒に行こうよ。教室、結構複雑なとこにあるから。」

 高橋が瑞希の手を引く。

「えっ、あ、じゃあね和希。」

 瑞希は引かれるがまま教室に向かう。

「み、瑞希?」

 和希はひとり置いていかれる。


 ―ん…?

 ―さっき…

 ―「ボク、高橋和馬」

 ―ボク? 和馬?

 ―男?

 ―男ぉ?!


「いやっ! 放して!」

 瑞希は高橋の手を振りほどく。

「どうしたの?」

 高橋はきょとんとした顔で瑞希を見つめる。

「どうしたも、こうしたもないでしょ! なんで女子の制服着てんの? キモいんだけど!」

 瑞希は高橋から離れるようにして後に下がる。

 確かに、高橋は女子の制服を着ている。間違えるのも無理ない。

「ひどいなぁ、綾瀬さん。0組への依頼だよ」

「依頼?」

 瑞希は顔をしかめる。

「あれ? 知らないで入学試験受けたの?」

 高橋の言葉に、少しイラつきを感じながらも瑞希はうなずいた。

「0組にはね、特殊能力を持った子が集められるんだ」

「特殊能力?」

 瑞希が首をかしげる。

「うーん…、僕は特殊でもないんだけどね。ちょっと他とは別っていうか…」

 高橋がしばらく黙りこむ。

「僕はねー…、んー…、変声の能力なんだ。出そうと思えば、おっさんの声も出せるし、ソプラノ歌手みたいな声も出せる。今しゃべってるのは、自然の普通の僕の声だけどね」

 高橋が微笑む。いまいち、微笑む意味が瑞希にはわからなかった。

「ねぇ、なんでそんなことが分かったの? いつ調べて、アタシは0組になったの?」

 瑞希は高橋にきく。確かに、それは大きな疑問点だ。

「んっとねー、僕も今日発表で今日教えられたから、分かんないとこ多いんだけど…。試験教室の椅子に、なんか機械があったんだって。それは、特殊能力になにかしら反応する機械で、僕らの能力に反応したんだって」

「椅子…」

 瑞希は入学試験のときの椅子を思い出す。

 …そういえば、おしりのところがかたかった…

「…それは分かったけど、アタシに何の特殊能力が?」

 瑞希の言葉に、高橋はポケットから紙きれを取り出す。

「綾瀬さん…、確率…変動能力…?」

 高橋が紙きれをみながら言う。

「なにそれ?」

「知らないよ。これに0組全員の特殊能力が書かれてるんだ」

 ほら、とばかりに瑞希に紙きれを見せる。

「なんなんだろー? 初めて聞くな…確率変動能力かぁ…」

 高橋が腕組みをする。

「確率…なんとか能力が、アタシにあるって言うの?」

 瑞希のことばに高橋は少し考えて、うなずく。

「そういやぁ、僕依頼があったんだ。綾瀬さんもセンセのとこ行って、能力についてでも、聞いてきなよ」

 高橋は紙きれをポケットに戻す。

「あ、教室、武道場突っ切って、100メートルくらい歩いたとこに、別の校舎があるから。じゃあね」

「えっ! ちょ…」

 高橋は走り去って行った。

「なによ…、さんざん意味不明なこと言って…。わけわかんない!」

 瑞希はズカズカと、いかにも怒ってます!とばかりな歩き方で、高橋の言う教室に向かった。



「ここか…」

 瑞希は顔が疲れていた。

 なにせ、瑞希のいた場所から武道場まで1キロほどあった。学校じゃないかと思うくらい広い学校だ。

 瑞希はとぼとぼと靴箱に靴を置き、上靴に履き替えて廊下を歩く。

 ―なんで、0組だけ別館?

 瑞希はそんなことを考えながら歩いていると、1−0というプレートが見えてきた。

「おはようございま…」

「遅ーい!」

 入るなり大きな声が瑞希の耳を刺激する。

「綾瀬瑞希!」

「はいっ!?」

 瑞希は大きな声を出す。

「私は、このクラスの担任、高木鈴鹿。みんなもう出たぞ」

「は…はぁ…」

 美人の女の先生なのに台無しだ…そう瑞希は思った。

「あ、あのー…」

「なんだ?」

「ア、アタシの確率変動能力ってなんですか?」

「あぁ…、和馬に聞いたな?」

 瑞希は先生の言葉にうなずく。

「確率変動能力とはまれに見る、特殊能力のひとつだ。ちょっと、じゃんけんしてくれるか?」

「は、はい?」

 瑞希は予想外の言葉に気が抜ける。

「じゃんけん…ぽん!」

 先生はパー、瑞希はチョキ。

「もう一回」

 じゃんけんを20回くらいやると先生は手を止めた。

 瑞希が20連勝だ。

「次は、トランプ。このトランプは1〜13のカード52枚入っている。これは、赤か黒か?」

 先生が裏向きのトランプの中から、一枚のカードを取り、裏向きで瑞希に見せる。

「黒」

 瑞希が言い、先生がトランプを表向けると、スペードの3。

「次は、このカードは、ハートかスペードかダイヤかクラブか?」

 また一枚取り出して、瑞希に裏向きで見せる。

「ハート」

 先生が表向けると、そのカードはハートの7。

「…これが確率変動能力」

「…運がイイだけじゃ…」

「ちがうね。運だけでここまで当たらないよ」

 先生の言葉に瑞希は言葉が出ない。確かにその通りだ。

「確率変動能力ってのは、2分の1の確率、4分の1の確率…というような、色々な確率があるなか、すべてを当てたりできる能力。まだ、謎が多い能力なんだけどね」

 瑞希は先生の言葉にうなずく。

「で、0組にはね、授業が少ない代わりに、『依頼』っていうのがあるの。今、みんなはそれぞれの依頼をこなしてるんだけど。綾瀬さんの依頼は…」

 先生が手元にあったパソコンをいじる。

「…あった、あった。マジシャンの手伝い」

 瑞希はあまりの依頼のしょぼさにガクッとくる。

「あれ? 変更が入ってる。高橋和馬の援護…」

「へ?」

 瑞希は思わず声に出してしまう。

 高橋和馬といえば、さっきのオカマ少年だ。

「高橋和馬が黒ずくめの男たちにさらわれた…か。和馬なら大丈夫だろうが、とりあえず応援を求めているみたいだから、行ってやって。黒のベンツでナンバーは、2319。県内ナンバーだそうよ。現在港町西を走行中」

 先生がパソコンに映し出された文字を読み上げる。

「なにしてんの? 早くいきなさい!」

 そう言われ、瑞希は教室から放り出された。

 ―なんであんなやつ、助けなきゃなんないの!

 そう思いながら靴箱に行くと、靴箱に自転車があり、「綾瀬瑞希」と名札まで付いていた。

「これで追跡ってか…」

 瑞希は、呆れたような目で自転車を見る。

 ―行ってやろうじゃん!

 瑞希は自転車に乗り、自転車で校内から出て行き、港町西に向かうのだった。




                    



               

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