大切なものを贈る日
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人物紹介
立木ゆたか(たちき ―)
高校2年 169cm
図書委員
小さい頃からのお姫様好きをこじらせた結果、ドールという名の理想のお姫様に囲まれた生活を送るようになった
本人は高身長にスタイルよしと、お姫様というよりは女王様的な容姿であることにコンプレックスを感じている
髪は茶色のセミロング、目は赤よりの茶色。やや仏頂面が多いと言われるが、感情の変化は割りと激しい
悠里に出会って以降、相変わらずあまり自分には自信を持てないが、彼女の一番の友達であろうという意識を強く持っている
紆余曲折を経て、悠里とは恋人という関係に落ち着く
白羽悠里
高校1年 143cm
吹奏楽部。担当はフルート。称号は「吹奏楽部の白銀笛姫」。ゆたかが個人的に付けている称号は「銀笛の魔性歌姫」
オーストリア人のフルート奏者の母を持つハーフで、美しい銀髪と青色の瞳を持つ、小柄なお姫様を絵に描いたような女の子
既にフルートの演奏技術は大会を総なめにするほどだが、それ以外に関しては不器用で、勉強もあまり得意ではない。体育は何もできないレベル
古くから彼女を知る人は、フルートの技術だけを評価して、他のことには目を向けてくれないため、大好きだったはずのフルートにもかなり無気力になっている
ゆたかとの出会いの結果、再びフルートが大好きになって、彼女のためにアニソンを吹くことが増えた
結果的に、今まで知らなかった色々なことを知れるようになったが、アニメにラノベにゲームと、もろにゆたかの影響を受けた知識の広がりっぷりを見せている点については、ゆたかが一方的に心配している
元から大好きだったゆたかと恋人という関係になった
大切なものを贈る日
「ゆたか!今日も来ちゃいました!」
「うむ……こんな日までご苦労」
放課後。図書委員として図書室のカウンターに座っていると、いつものように後輩の悠里がやって来た。
すると、私の言った“こんな日”という言葉が引っかかったのか、不思議そうな顔をしている。
「いや、今日って何の日か知ってるでしょ?」
「ええと……木曜日、ですよね。今月は木曜の放課後がゆたかの図書委員の順番だって聞いていたので来たんですけど」
「…………マジか」
いや、この子、冷静に考えなくても世俗に疎すぎるでしょう。
悠里はすごいお嬢様で、天才的なフルート奏者で……それ以外はあまりにも何も知らない子だった。後、めちゃくちゃ可愛い。
……私はそんな彼女に、同性ながらガチ惚れしちゃったところがあって……今は一応、恋人ということになっている。
それが同性同士の、普通じゃないことだということはわかっている。……むしろ、わかっているからこそ、それを大切にしたいとすら考えている。だって、恋愛対象としてはゼロどころか、マイナスからスタートしているはずなのに、私は彼女を好きになってしまったのだから。
その気持ちには、ウソをつきたくない。……それが、私たち二人で出した結論だ。
私と悠里は友達として、そして恋人として一緒の時間を過ごす中で、少しは悠里の世間知らずさを矯正できていたと思っていたけど。バレンタインもちゃんと認識できていないようじゃ、まだまだみたいだ。
「えっとね、今日はバレンタインデー。一般的に女子が男子にチョコを贈る日なの。まあ、最近は友チョコとかも多いし、同性同士で贈り合うのも当たり前なんだけど」
「そうだったんですか!」
やっぱり初耳。信じがたいほどの世間知らずだけど、この子、私の彼女です。
「で、そんな日にボクがゆたかに会いにきちゃいけない理由ってあるんですか?」
「いや、ないけども。なんかさ、めっちゃぐいぐい来るやん、って思っただけだよ。……ホントは図書委員の仕事終わってから、悠里の家を訪ねて渡すつもりだったんだ」
苦笑しながら鞄からチョコを取り出す。
こういうのは多分、既成品でいいんだろうけど、なんとなく。……そう、本当になんとなく自作してしまった。
悠里があまり甘いものが好きじゃないのは知っている。だから、ほどよくビターな。あまり甘くない悠里好みのチョコを作ったつもりだ。
「ゆたか、ボクにチョコ、くれるんですか!?」
「まあね。その……一応、本命チョコ。他に渡す相手いないし」
「りさ先輩や未来にはないんですか?」
「あっ……未来ちゃんは用意してあげた方がよかったかもだけど、莉沙はそういうのじゃないしね。……一応、甘さ控えめで作ってるから、たぶん悠里も美味しく食べられると思うんだけど」
「えっ!?手作りなんですか!?」
……なんというか、いちいち悠里が驚いてくれるせいで、すごくこう……居心地が悪いというか、すごいことをしているんだな、という気分にさせられてしまう。やっぱり、重いこと……してるのかな。
一応、首を縦に振って返事とさせてもらった。
「すごいです!すごく嬉しくて……うーん、今すぐ食べて感想を言いたいんですが、校内で飲食ってダメですよね。なので、帰り道で、食べさせてもらいますね!」
「う、うん。……ありがと」
「でも、ゆたかにこうしてチョコをもらったのに、ボクからお返しできないのは申し訳ないです……」
「いいよ、そんなの。わたしがやりたくてやったことなんだし、悠里は知らなかったんだし。……それにさ、一応ホワイトデーっていうお返しの日もあったりするから、その時になんかお礼してくれると嬉しい、かな」
「わかりました。……でも、やっぱりもらいっぱなしは申し訳ないですし、ボク、悔しいんです。日頃の感謝の気持ちとか、ゆたかへの好きっていう気持ちを込めてチョコを渡せる日があったのに、そのチャンスを活かせないなんて」
なんというか、こういうところ本当に真面目なんだな、と思う。そこがまた愛おしいというか……ああもう、本当にこの子は。
「なので、チョコは渡せませんが……ボクの大切なもの、お贈りしますね」
「えっ?そんな、大切なものなんて受け取れな――んぅっ!?」
断ろうとした私の口を塞ぐように、悠里の唇が襲いかかってきた。
「んぅっ……んんっ……んっ…………むっ………………」
不意に唇を奪われた私は、そのまま悠里に全てを委ねることになってしまって――カウンターに。いや、図書室自体に誰か来たらどうしよう、というハラハラとした気持ちのまま、悠里と唇を重ね合わせ続けていた。
「んんっ…………ふぁぁっ……」
「ゆ、悠里っ…………」
キス直後の悠里は、笑顔でこう言う。
「ボクからのプレゼント、どうでした?」
「……こんなのプレゼントにならないでしょ。しょっちゅうしてもらってることだもん」
「はっ!?そ、そうでしたっ……!」
「バーカ。だから、プレゼントなんていらないんだって。私は悠里がこうして毎日傍にいてくれるだけで十分だから」
お返しとばかりに、ぎゅっと抱きしめてやった。……今度は私が攻める番だから、人が来たらどうしよう、なんて気にしてやらない。さっきの悠里もそんなこと気にしてくれてなかっただろうし。
「んんっ……ふぁっ、ふぁぁあっ!ゆたか、強く抱きしめすぎっ……んっ!」
「このままずっと一緒にいてもいいんだからね」
「そ、それは…………いいんですか?」
「いつもはダメだけど、今日ぐらいはいいの。だって、バレンタインデーなんだから」
一年の内で一度だけの、出血大サービスが許される日なんだから。