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名も無き龍が眠る地に  作者: 佐野ひかる
灰色の子供と迷宮探索
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4ー2 迷宮探索

ユージーンは騎士寮で、父や教師達と話し合い、訓練は続けるが騎士団員となるかどうかは保留することを決めた。

教師達は優秀な彼女を惜しんだが、そういう選択をするものはこれまでにも少なからずいた為、ゆっくり考える時間を与える事に異議を挟むことはなかった。


そんなある日、ユージーンの下の兄キールが、迷宮の調査に赴く事になった。


タバーク村に魔物が現れるという噂で、冒険者が調査に出向いたところ、近くの洞窟から魔物が現れるのを確認した。さほど強くない魔物を退治した冒険者一行が洞窟を確認すると、奥深い穴で彼らが調査をするのは危険と判断したのだ。


一旦引き返した彼らが魔導器などを使って洞窟の構造を調査すると、そこには地下深くまで複雑な構造が続く迷宮が存在した。

更にその地下には強いエネルギー反応があり、魔王を生み出す可能性が秘められていることが分かった。


そして改めて迷宮探索に適したメンバーを編成して調査に向かう事になり、王国騎士団からも何人かが派遣される事になったのだ。


編成はありとあらゆる想定の上で、様々な専門家が召集された。


狭い場所で戦う前衛、それを援護する後衛、精霊魔法や精神魔法、神聖魔法の魔術師、治癒術師、魔導器の専門家や地図の作成者、罠や仕掛けに精通した狩人、そして武具の整備や生活の補助をしつつ荷物運びをする見習い騎士も同行する。


ユージーンはそれに参加したいと手を挙げた。

上の兄のティムトは苦い顔をして強硬に反対した。


しかし、キールは「良いんじゃないか?」と参加を認める方向のようだ。


「キールお前、気は確かか?」

「ユージーンはそろそろ「お預け」を覚える必要があると思う。」

時々ひどい扱いをされているような気がする。


「今回の調査では全員秘密厳守の誓約書にサインさせられる。だが、ユージーンだけは「上の者の命令を厳守する」という誓約をしてもらう。それが参加を許可する条件だ。」


これはかなりキツイ条件だ。何が起こるかわからない調査であるにもかかわらず、命令の絶対厳守を誓わされる。


仲間が倒れて、敵に勝てる道筋があったとしても「逃げろ」と言われたら全てを振り捨てて逃げなくてはならないし、逆に勝てる道筋がないのに「戦え」と言われたら例え武器が無かろうとも立ち向かわなくてはならない。


そして背いたものは尋常ではない痛みの戒めに縛られる。


ティムトはその苦しみを知っている。逃げなくてはならない場面で、激痛に襲われ、逃げ道を失ったら最悪死をも免れない。


「それでも良いから行きたいです。」

ユージーンの決意は変わらなかった。


「わかった、編成長に申請しておくよ。」


ティムトは嫌な予感で一杯になった。


ーーーーー


調査隊の出発する朝。


全員が秘密厳守の書類にサインをする中で、ユージーンの前には魔導器や書類が一際多く並べられた。


冒険者達や他の見習い達は、ふわふわの金の巻き毛の美少女の前に並べられた高価そうな魔導器を見て、「縁故採用は特別扱いか」と蔑むように見ていた。


しかし「命令違反があった場合は厳罰に処す。」「誓います。」というやり取りを聞き、交わされたのが自分達のものより重い誓約の魔法であることを知り、少しだけ見方を改めた。


ユージーンの所属は地上班で、迷宮入り口の近くでキャンプを作り、突入部隊や地上部隊の世話をする。

主に突入部隊の武器の整備や消耗品の補給、地上部隊の魔導器による追跡や調査結果の記録、そして何十人もいるメンバー全員の食事や休息の用意が見習い達の仕事だ。


キールは八人前後で構成される突入班の前衛の一人で、斥候のすぐ後ろか、時には隊の一番後ろを守る。前方で何かあれば素早く前に出て戦端を開き、一番後ろでは挟み撃ちにならないよう注意を払う。彼の得意武器は槍と短剣で、臨機応変に使い分ける。

彼らは調査隊の主力で、そう行った編成の班は全部で五つほど編成されており、迷宮内の調査、地上班の護衛、待機、休息・休暇など、順番に割り振られていく。



この日はキールの班は地上部隊の護衛にあたり、食事の時間に二人は少しだけ話ができた。


「キール兄様、迷宮ってどうやって作られるのでしょうね?魔物も、暮らすなら地上の方が楽ではないですか?」

「エルフが調査した迷宮の報告書を見たが、アレは魔物が暮らすために作ったものではなくて、魔族が成長して造られるものだ。」


「魔族に造られる?」

「魔族は成長する過程で、多くの力を溜め込み、地下深くで眠りにつく必要があるらしい。その時迷宮のような構造が作られて、そこに魔物や魔獣が集まる。それらを喰らい、依り代にして魔王と呼ばれるものが誕生する仕組みだそうだ。」


「迷宮で魔王が生まれるの?」

「そうならないように、迷宮内の魔物を綺麗に一掃して、最下層で眠る魔族も討伐し、出入り口も封印するんだ。僕らが知る限り、今までに一度も魔王が生まれたことはないだろ?エルフ達の伝承では大昔に大変な目にあったそうだよ。」


「それじゃあこれって結構重要なお仕事なのね。」

「そうだよ、人間同士で諍いやってる場合じゃない。もっと強くておっかない化け物が、いつでも生まれようとしているんだからね。」

ユージーンは少しだけ気が楽になった気がした。こういう仕事なら全力で取り組めそうだ。


迷宮の調査はじわじわと進んでいく。


最初の全体調査では迷宮はおよそ五階層に分かれていて、地上に近い層は広く、深くなる程狭くなっていく。

全ての通路や小部屋をしらみつぶしに踏破し、行き止まりを埋めていく。


何日も緊張を強いられる調査隊はいくつかのチームに分かれて、何日か毎に交代して休暇で町へ帰る。


ユージーンも四日間の休暇でキャンプを離れる日がきた。

キールとはローテーションが異なるので、同じ日に帰宅する者たちと一緒に近くのタバーク村まで移動し、そこから馬車で騎士寮や自宅に向かうことになる。


タバーク村は温泉で有名なラッシの街から北にあり、森と砂漠に挟まれた小さな村だ。

これといった観光名所を持たず、賑やかさは無いがそれなりに郷土料理などもあって静かな良いところだった。


何かお土産になるものはないかしらと、ユージーンがふらふらと土産物屋を物色していると、脇道でうずくまる毛の塊を見つけた。


拾い上げてみるとそれは灰色の小さな子犬で、目をぎゅっとつぶって震えていた。


お土産は決まった。




ユージーンはタバークのお茶屋さんで、お茶を買いつつお湯を少し分けてもらい、暖かい濡れタオルを作って拾った子犬を拭いてやった。


子犬は最初は小さく縮こまっていたが、彼女の膝の上で温められ、少しづつ解けていき、やがてそうっと目を開けてユージーンを見た。


目が合った彼女は優しく「大丈夫よ」と声をかけた。

小さな生き物を見てユージーンの顔がほっこりと緩み、笑顔になっている自覚はなかった。


子犬は黒に近いような深い紺色の目を驚いたように見開いてユージーンを見つめ、次の瞬間人の子供の姿になって彼女にしがみついた。


ユージーンはこれはヤバイと気がついた。この子は犬でも人でもない。寮にも家にも連れて帰れない。


とっさに浮かんだのは金茶の髪のメイドだった。


ーーーーー


「こんなに堂々とやってくるとは思わなかったわ。」

「どうも、ついこの間ぶりです。」


北の国境門を通る時、ユージーンはお腹にしがみついた生き物をマントで隠して堂々と進んだ。

衛兵達は「エルフの国は危ないよ」と忠告してくれたが、「用事があるので」と押し通った。


エルフの国に入るとすぐさま見張りのエルフ達が現れて彼女を止めたが、両手を上げて「マルフィンとシルヴィール様に会いにきました」ときっぱり言った。

彼らはどちらの名前も知っていたようで、拘束することなく王宮に通され、小さな部屋で面会を許された。


程なくしてマルフィンが現れ、上記の挨拶が交わされた。

一緒に仕事で来ているはずのシルヴィールは見当たらない。姿を隠しているのだろうが、今は用がないので放っておくことにする。


「この子、拾ってしまって。どうしたら良いかと思って相談しにきました。」

ユージーンはマントを開くが、子犬だった男の子は彼女のお腹のあたりにしがみついて離れようとしない。


「獣人族ね、3、4歳って所かしら?」

よく見ると頭の上の灰色の髪の中に耳が埋まっている。

人の耳があるあたりには何もなく、裸のお尻にはふさっとした尻尾が丸まっている。


マルフィンは転移魔法陣を取り出して衣類を物色し始めた。

「男の子の服もあるんですか。」

「私が着ていたものの中で無難な感じのものを出すわ。」


子供用の服をいくつか並べ、マルフィンはズボンのお尻の部分にちきりと切れ込みを入れた。

丁寧に穴をかがり、下着も同じようにした。

それをユージーンが着せてやり、椅子の上でちゃんと立たしてやる。


服を着させられ、びっくりしたような顔でユージーンを見つめ、時々周りを見渡す。


「お名前言えるかな?」

言われていることはわかるようで、小さな声で「はす、はしゅ」と答えた。


「じゃあ、ハースって呼ぶわね。私はユージーン。」

また小さな声で「はーす、と、ゆー、じーん」と繰り返した。


「このお姉さんはマルフィンよ」

「まるひ、まるひん?」マルフィンの名前はうまく言えないようだ。


そこにリンドーラがやってきた。


「まあ、ユージーン様、この間ぶりですね。」


彼女は聖龍王国ルゴーフの王女であったが、カイアンによって王宮に縛り付ける魔導器を外され、エルフの国に亡命してきたのだ。


「王女様、元気そうで良かったです。ユージーン、で結構です。」

王女は淡い空色の髪をポニーテールにして、とても元気で活発そうな雰囲気に変わっている。


「では、私も王女様ではなくてリンドーラで良いですよ。皆さんはお元気ですか?」

「主にカイアンですね?元気にしていますよ。今は王の警護に当たっているはずです。」


王女は顔を真っ赤にして「主にだなんて…そんな…」と俯いて手をパタパタと振った。


「あの方は私が今まで会った殿方とは全然違うので…その、そのような目で私を見ることもございませんでしたし、目を合わせても大丈夫でしたし、私の話を全て肯定してくださったので。」


ユージーンとマルフィンは分かっているという様にふふっと笑った。


しかし、すぐに下を向いたままのリンドーラは手を下ろし、重々しく口を開いた。

「今回の事は本当にルゴーフの者が失礼を致しました。」


「母…女王は人として許されない事をいくつも繰り返しました。そうしなければ滅びる定めの国ならば亡びるべきなのです。」

リンドーラは顔をあげた。深い海の瞳には強い意志がある。


「戦争になるというのなら、私はそちらの国について前線に行く覚悟があります。結果母を手にかけることになろうとも後悔は致しません。」

しかし、彼女の目には龍の力があるため、ユージーンと目を合わさぬ様に彼女の口元を見て話し続ける。


「…その覚悟があります。」


ここにも強い者がいる、とユージーンは眩しく思った。


「リンドーラは強いね…尊敬します。私は戦う覚悟が持てなくて、今は騎士団の見習いをお休みしている有様なのに。」

「私こそユージーン様を尊敬します。エルダが言っておりました。冒険者では、素早い判断と行動が出来る者こそ生き残ると。」


その時、ハースがユージーンの足元にやってきて彼女の服を掴んだ。


「まあ可愛らしい、獣人族の子供ですか?」

ハースはそちらをちらと見たが、ユージーンの服に顔を埋めてイヤイヤをする様にぐりぐりと顔をこすりつけた。


「そうなの、私拾ってしまって。…マルフィン、この子ここで面倒見てもらえる?」

「ここは孤児院じゃないですけど?…でもまあ、獣人族は人間の国に連れていけませんものね。良いですよ。」

「ありがとう、助かるわ。良かったわね、ハース。」


ハースは名前を呼ばれるとそちらを見る。

人の顔の表情はあまり変わりないが、ユージーンに呼ばれると尻尾がブンブン振り回されている。


「それから、マルフィンとこ、今日泊まっていっても良いかしら?」

キャンプから見て、家も騎士寮もエルフの国とは逆方向だ。「帰るのめんどい。」とは口に出さなかった。


「…良いけど、ここがエルフの王宮で、今のが前代未聞の発言だって理解してる?」

「そう言えば危害を加えられてないせいか、エルフが人間嫌いなのを忘れていたかも。」

「それは私のおかげですからね?こんなに憎悪の視線を集めておきながら、何ともないのは貴女くらいのものですよ。心臓に毛じゃなくて魔物でも生えてるんじゃないかしら。」


ユージーンは、毛の上位は魔物とか、マルフィンの発想に感動した。


「私の部屋泊まりなさいな、良かったらゆっくりお喋りしましょう。」

二人の会話を笑いながら聞いていたリンドーラの提案で、彼女の部屋で種族混合の女子会が開催された。



ユージーンの四日間の休暇はエルフの国で過ぎていった。ちゃんと家にはその旨を知らせるハガキを送った。


父は泣いた。

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