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名も無き龍が眠る地に  作者: 佐野ひかる
竜の見た夢
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1ー2 成長

しばらくして出会った生き物は四つ足の獣だった。


自分と比べるとかなり大きく見える。

木の上から観察していると、どうやら群で暮らしているようだ。


大きな個体が4つと、小さな個体が4つ。

より近くで観察しようと木からするりと降り、近くの茂みから顔を出した。


すると小さな個体の一つがすぐそばにいて、真っ黒い湿った鼻で彼をふこふこと嗅いだ。

小さいのが気付いた事に大きいのも気付いた様だったが、別段なんの反応もなかった。


獣からすれば小鳥ほどの大きさのトカゲなど恐れるようなものでもなく、小さいのがじゃれて遊ぶのにふさわしい、取るに足らないものと認識されたようだ。


ならば安心して頂くとしよう。

ありえない形にトカゲの口が開く。小さい獣の頭部を包み込むように食事を開始する。


だが、小さな獣が怯えて小さな声を発した瞬間、すごい速さで大きな獣たちが駆け寄ってきた。


威嚇するような大きな声で吠えながら、小さな獣にまとわりつくトカゲのような何かを引っ掻いた。

あるものは尻尾に噛み付いて小さな獣から引き剥がそうとする。


痛い。邪魔をするな。


引っ掻くもの、噛み付くものももろともに飲み込んだ。


他の小さな獣は遠巻きにしてこちらを見ているだけだが、大きな獣は大きな2体が飲み込まれたのを見てなおこちらに飛びかかってきた。

もう、食事としては充分なのだが、彼らに引く気は無いと知り、残る大きな獣も飲み込んだ。


見回すと、小さな獣の気配はすでに近くに無かった。追いかけるまでもないだろう。こちらに向かってさえ来なければいい。


それよりも食事の後には眠りが訪れる。邪魔されない場所を探さなくては。


ーーーーー


息苦しさに目を覚ました。全方向から押されているようだ。

何か夢を見ていたような気もするが忘れてしまった。それどころではない苦しさだ。


獣を食べた後に雨風を避けて休めそうな洞窟を見つけ、意識が途切れそうなのを何とか堪えながらかろうじて滑り込んだのが最後の記憶だ。


洞窟から出している頭を後ろに向けて確認しようにも、首から背中にかけてしっかりと抑え込まれているように動けない。

だが、抑え込んでいる何かはそれ以上に噛み砕こうとしてるわけではなく、ピクリとも動かない。


疑問符にまみれながらも離れるべく、洞窟の外に向かって少し体を動かしてみる。


首が自由になり、洞窟の方を振り返ってみると、なんと余裕で大きな空洞だと思っていた洞窟に体がはまっていただけだったのだ。

自分の半身を一口で食べようとする外敵などはいなかった。


それに、前回食べた獣のことも考えていた。


小さな獣は戦う力もなく容易く食べることが出来た。だが、大きな獣が襲ってくることは想定外だった。団体行動をする生き物には気をつけなくてはならない。


充分に離れてから仕留めるか、声が聞かれないように対策を講じるか、単独行動の生き物だけを狙うか。


その時ふと他の生き物の気配を感じた。音と匂いで。


こんな感覚は以前には無かった。獣からいただいた能力なのだろう。

見ると小さな獣よりもうひと回り小さい毛むくじゃらな何かが凄い勢いで逃げていく後ろ姿だけが見えた。


素晴らしい逃げ足だ。だが今必要な能力では無いと判断して追いかけることはしなかった。


改めて自分の身体を確認して見る。


嗅覚は格段に上がったが、あの時見た黒い鼻が付いてるわけではないようだ。

口のすぐ内側に強い牙が並んでいる。位置によって長さや太さに違いがあるが、きっと意味があってのことなのだろう。

手足に特に変化はないようだが爪だけが太く強いものに変わっていた。

それとこれまた意味があるのかよくわからないが、首の周りをぐるりとふかふかの黒い毛皮が覆っていた。


そして身体は以前の十倍以上に大きくなっていた。

はっきり比較できるものがあるわけではないが、大きな獣の二倍以上になっていると思う。


なぜ急に大きくなったのか、たくさん食べると比例して大きくなるのか、決まりがよくわからない。


だが、大きいことは戦う際に有利に働くだろう。


眠る場所選びにだけはくれぐれも注意しよう。飢えて死ぬことがない自分が、動かすことも壊すこともできない小さな穴に閉じ込められたままになってしまうのは決して楽しくはないだろうから。


考えがひと段落ついたところで、彼は歩き始めた。

成長を遂げ、自分の能力をある程度把握し、より多くの情報を得るために森を探索するのだ。


そして出来れば安心して休める場所があればいい。


もうすっかり風に吹き飛ばされてしまう身体ではないが、やはり雨風で身体を冷やされるのは好ましくないし、自分より大きく強い生き物が存在しないとは断定できない。


あてもなく歩き続け、空は赤く染まり、やがて夜空の色へと溶けていく。


空を飛ぶ小さな生き物の集団が空を横切っていくのが見えた。飛べない自分では追いかけることはできないし、今更小さな生き物を食べてもどうかという気がして見なかったことにする。


やがて完全に日が落ち、辺りは暗闇に閉ざされた。

ただ黙々と森を歩く程度であれば、ある程度の障害物を避けることもできるようだ。


だが、草の手触りが柔らかい場所で座り込み、少し考えることにした。


未だ強く食事をするべきという欲求は残っているが、決して空腹のためではなく、より強く生きやすい生き物に進化するための食欲だ。


だが、その進化への欲求もどこから来たものか、何のためかはわからない。


ゆっくり考える時間はたっぷりある。たとえ結論は出ないとしても。


いつの間にか空は白く、僅かな日の光を雲の後ろに隠しながら輝きをもたらし始めた。


昨夜とは違って空を通り過ぎる小さな影は、朝の訪れを軽やかな歌声で讃えているようだった。


彼は再び歩き出した。

木々の隙間から差し込んでくる日の光が横顔を暖める。


空を飛べるというのは良いな。


だが今の彼には鳥達を捕らえる術がない。

頭上の小鳥達の歌声もそうだが、昨夜と違って森は多くの生き物の気配で溢れていた。


生き物によっては活発に活動する時間が異なるのだろう。明るい時間に活動するものや、暗闇の中を行くのに適したもの、それぞれの得意分野で生きているということだろう。


突然目の前の視界が開けた。眼前に広がる青い海。


これは、いつか夢で見た美しい青の一つだ。


足元は切り立った崖になっており、森はここで唐突に終わっている。

目の前にははるか下方に岩にぶつかる白波が見える。


初めて見る海に何だかとてもワクワクして、近くで触れて見たいと思い、降りられそうな場所を探して崖に沿って走り出した。


しばらく進んだところで、段になった部分が海に向かって張り出しているところを見つけた。今いるところまで戻ってこれる保証はないが、海に対する好奇心が勝った。


覚悟を決めて垂直に近い崖を駆け下りた。

1章(1ー10まで)は毎日0時に更新されます。

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