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名も無き龍が眠る地に  作者: 佐野ひかる
平和使節と騎士見習い
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2ー6 見習い試験

筆記試験はとても簡単だった。基本学校で習った内容を確認する程度のものだった。

実技試験もとても簡単だった。得意武器でちょっと試験官と打ち合う程度のものだ。

しかしその後の適性検査が、受験要綱の説明文を読んでもよく分からなかった。


「魔導器を使って個人の資質を調べ、本人の希望と適性を擦り合わせます。」


仕組みや理論が知りたいのに、説明に「魔法」だの「魔導器」などの単語が入ると途端に胡散臭く思える。種明かしを見せない手品や、完成品しか見えない工場見学に来た気分になる。


受験者が一人づつ控え室から呼びだされていき、一枚の紙を手に戻ってくる。

そこには各自の能力を星三つで評価したものと、それ以外に特殊な才能や特技が書かれているらしい。

自分の希望通りだったことに大喜びの男子が見せてくれた紙に、まだ呼ばれていない子達が群がり、私も混ざって見に行った。


体力、魔力、知力など、各自の能力がザックリ星3つで評価されている。こういう占いが前世でもアトラクションであったなあ、と思いながら見ていると名前が呼ばれ、検査室の前の廊下の椅子に並んだ。


私の直前に入って出てきた子は、真っ青に青ざめて涙目になっていた。

希望と適性が合わなかったのだろう。


自分も覚悟はしないといけない。

本当は魔法の適性があったらいいなとか思うけれど、うちは父も兄も脳筋だ。母の親戚筋にも魔術師はいない。


「脳筋コースで良いので騎士団に入れますように。」


やがて私が呼ばれ、完全に防音された小さな部屋に入った。

中には何か不思議な光を放つ道具と、試験官が二人待っていた。

魔導器とやらの近くに座っている人が、私がユージーンである事を確認し、サングラスのようなものを手渡してきた。


「光が強いことがあるから、なるべく見ないようにして欲しいけど、みんな見たがるのよね。」

早速かけてみるとなかなか強い物で、薄暗い部屋の中ではもう人の顔の判別もつかないほどになった。


「ではここに手をおいて。」

試験官が私の右手を銀色のひやりとした板の上に導いた。そのまま待つ。


待っている。



試験官が「ごめんねー。」と言いながら私の手を持ち上げ、もう一度板に置きなおした。


別に光ったりはしないんだなと思いながら待っている。



試験官が「ごめんねー。」と言いながら私の左手を板の上に置いた。


足とかも乗っけるのかなと思いながら待っている。



試験官が「外していいですよー。」と言い、サングラスを外して試験官に渡す。


「待合室の方で待っててもらえるかな?本は好きに読んでていいから。」

「わかりました。」


検査室を出ると元いた部屋とは反対側の、待合室の方へ向かう。

あれ?みんなは紙をもらって控え室に帰っていったよね?私だけ違う?


最悪の未来予想図にざっと血の気が引いた。

全然見込みがないとこうなるんじゃ?光るはずの道具も全然光ってなかったし。


私はなんと言って家族に説明するか、そしてこの先何を仕事にして生きていこうか考えながら待合室に入ると、そこには先客がいた。

私の両親よりは若く、メルティナ叔母より少し大人の男性だ。


受験生はほとんどが基本学校を卒業したばかりの少年少女だ。だが実は年齢制限はなく、誰でも見習いになろうと思えばなれるのだ。


本を読んでいた彼が私に気がついたので、この施設のスタッフかな?と思い、小さくぺこりと頭を下げると、彼も礼を返してきた。

私は職業案内の本を取り、近くの椅子で読み始めた。


端から読んでいくが、どのお仕事もみんな素敵で面白そうだ。

出来れば世界中を旅する冒険者になり、誰も見たことのない景色を見たいと思いつつ、表向きは騎士団希望ということにしてあるが、他にも旅行記者なんてものもある。

自分で買い付けに外国に行く雑貨商もいるらしい。


なんだって出来るのだ。そのための努力さえ惜しまなければ。


からりと待合室の戸が開いて、試験官が顔を出した。


「カイアンさん、ユージーンさん、こちらに来てちょうだい。」


本を閉じて立ち上がった。本をあった場所に戻して試験官について検査室の前に行く。

カイアンと呼ばれた人はスタッフではなく、私と同じ受験生だった様だ。

受験生は殆どが基本学校を出た少年少女だったけれど、年齢制限は無いと書いてあったな。


彼が先に入って行き、私は廊下の椅子に腰掛けた。すぐに彼は紙を持って控え室の方に帰っていった。


呼ばれて入っていった部屋には先ほどの試験官とは別に、少女が一人増えていた。長い黒髪の少女は受験生たちよりも幼く見える。


不思議な機械は片付けられ、サングラスも渡されず、椅子に座るように言われた。

私の腕を掴んだその手はガリガリと言っていいほど肉がなく、前世の私を思い出してぞくりとした。


「試験官は外で待つように。」

二人とも部屋を出ていった。


扉が完全に閉まり、二人きりになると少女はイライラとした様子で話し始めた。


「転生者や前世の記憶を持つものは名乗り出るようにと言う決まりを知らないのか?」


なぜバレている?


掴まれた腕がきつく握られ、痛いわけでは無いが相手の怒りが伝わってきて、私は慌てて言い訳を口にした。


「き、聞いたことはありますが、私は家族に知られたくなかったので。」

「秘密は保持すると言う約束で発布したはずだが?」


怒られている。めちゃくちゃ不機嫌だ。か弱そうな少女なのに怖い。


彼女が私の腕を掴んでいる部分から、身体の力を吸い取られているような疲労感が流れ込んでくる。

冷たい汗がどっと吹き出して、心臓の鼓動がひどくうるさい。


「私にはお役に立てる能力が無いと思ったので別に良いかなって…」


声が小さくなっていく。そんな怒られるようなこととは思っても見なかった。


焦りの中で前世での生活が蘇ってくる。


具合が悪ければよくわからない検査や投薬の繰り返しでヘトヘトになり、調子が良くても本を読むのがやっとの毎日。

食事は大半が点滴で友達の一人もいなかった。ただ、生かされていただけの日々が。


そんな記憶があなた達は本当に欲しいの?


心の叫びがまるで彼女に聞こえたかのように、少女はびくりと体を震わせた。


「そう言うことでは無いのだ。」


少女の声から怒りが消えていた。

掴んでいた手をパッと離し、今度はそっと触れる。指先がほんのり光って見える。すると疲労感は消えて汗もすっかり引いていった。


「見習いとして学んでいく上で必要なのだ。騎士団に入りたいのなら申告しなければならないよ。もちろん家族や他の者に知られることはない。嫌ならばここだけの話にして君は家に帰ってもいい。」


びっくりするほど態度が激変している。さっきまで、胸ぐらを掴みあげられるものならやってやるとばかりに怒っていたはずなのに。


「父にも…騎士団長にも知らせないでもらえますか?家族に知られないで済むなら、このままここで学びたいんです。」


「問題ない。団長はこの件に関しては管轄外だ。では、外で待っている試験官に入ってもらうように言いなさい。」


少女は何かの書類に書き込みながら顔も上げずに指示を出す。


この偉そうな少女は一体何者なんだろうと思いつつ、私は扉を開けて先生方に入ってくるように伝え、もう一度最初の椅子に戻る。


少女が何か書き終わった書類をばさりと一人に投げてよこした。その書類を見た試験官はもう一人に書類をそのまま回し、一枚の紙にサクサクと記入をしてそれを私にくれた。


能力値は全てが星3つの満点状態で、備考欄には「精神系魔法に特化」と書き込んであった。試験官はにっこり笑って書類から目をあげた。


「良かったわね、ユージーンさん。これならどれでも好きなコースを選べますよ。」



家の中は祭り状態だ。


兄達は「うちから魔術師が生まれたぞ!」と踊り、父は適性検査の紙を額装すると言い出した。

母は「寂しくなるわね」と苦笑しながらも私の好物のグラタンを作ってくれた。

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