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名も無き龍が眠る地に  作者: 佐野ひかる
平和使節と騎士見習い
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2ー4 謁見

王宮の門を目の前にして、メルティナ達使節団はぐるぐる巻きにされていた。


門前には門番の他に十数人の衛兵が待ち構えており、あっと言う間に全員確保された。シャーナの指示で王宮では武器を抜かないように言い含められていたからだ。


全員の捕縛が済み、衛兵の一人が「クーゼル様に連絡を」と言い、伝令が宮殿に向かおうとした瞬間に範囲の睡眠魔法が発動した。


メルティナ達をぐるぐる巻きにしていたロープで、衛兵達をぐるぐる巻きにしたのは、船で見かけた隠れ護衛だった。

どこかで見たような灰色の髪は、先ほどすれ違った御者ではなかったか?


メルティナが視線を向けると、シャーナが気付かれたと察知して説明した。


「シルサリスは優秀な暗殺者で、私の護衛なのです。待ち伏せの排除を頼んでいたのですが、思った以上に人数が多く、戻りが遅くなったと言っています。」

「そうでしたか、助かりました、ありがとう。」

「姿を見られるなど暗殺者として失格ですけど、メルティナ様に免じて折檻は無しにしましょう。」


あまりの厳しさにメルティナの護衛騎士が震え上がった。


再び使節団一行の体裁をきちんと整え、宮殿に入っていく。

謁見の間に繋がる大きなアーチの前にいた衛兵に、シャーナが何事か指示しているようだ。


「ウェルディア王国より平和使節団御一行様がお見えになられました!」


高らかに宣言され、衛兵達の武器が下げられる。


正面の玉座の白い人影がピクリと動いた。

どこからか豪華な服装の老人が慌てたように小走りでやってきた。


「その方等はどうやって…」

即座にシャーナに黙らされた。沈黙の魔法だ。声を出そうとすると呼吸ができなくなる。


すたすたと緋毛氈を進み、シャーナが指示する位置で跪く。


玉座に腰掛けているのは真っ白な美女だ。髪も衣装も冠も全てが白でできている。長い髪にはキラキラと宝石が散りばめられ、美しい薄物のように肩に広がっていた。


「はるか東、ウェルディア王国より平和使節として参りました。聖龍王国ルゴーフを治めるいと気高き女王陛下にご挨拶申し上げます。」


女王は少し困ったように答えた。


「聞いておらぬが。」

「申し上げにくき事でございますが、こちらからは何度も書状や使節をお送りいたしました。」

「なんと。」


女王の反応から察するに、今までの使節皆殺しも彼女の意向では無いようだ。女王は横目で胸を押さえながら声を出そうともがく老人を見、シャーナをちらりと見て言った。


「大臣、発言を許す。」

シャーナが魔法を解除し、大臣と呼ばれた男はぶはっと息を吐き出した。


「へ、陛下、恐れながら、こちらの使者がどのように戻ってきたかをお忘れでなければ…」

どうやら向こうの使者も同じように首だけ戻されていたようだ。


「忘れるものか。みな妾の大切な友人や臣下であった。」

女王の美しい藤色の瞳に悲しみがよぎる。


メルティナは失われた使者達との関係性の深さに背筋がヒヤリとした。

やっていないと言い募って信じてもらえるわけがない。

今すぐ首をはねられてもおかしく無いレベルだ。


シャーナが言っていた勝利条件は「生きて戻ること」だが、ここに来ていまだ生きて帰れる気がしない。


しかし女王はここで断罪することはなかった。

「少し休みます。使者殿に部屋を。」

女王は優雅に立ち上がり、侍女達に付き従えられて退出した。


大臣が小走りで追いかけていくのが見える。一時の猶予は得たが、女王の心情を考えると未だ窮地なのは否めない。


一行は塔のかなり高い部屋に案内され男女で部屋を分けられた。護衛達はメルティナと離されることに多少抵抗したが、シャーナによって三人は沈黙させられ、おとなしく部屋に入っていった。


「良いのですか?魔法…」

「黙っていればなんとも無いですから。それよりお召し替えを。」

「え?」


ばさりと広げた布は、野営や船でもずっと使われていた転送陣だ。

部屋の入り口からは死角になる壁に貼り付けられ、中からお湯の入った水差しとドレスを持って出てきた。

あっという間に鎧を外し、体を拭かれ、ドレスを着せ、髪を整える。


小物を整えているときに、部屋がノックされ、来客が伝えられた。

扉が開かれると、淡い空色の髪の少女が入ってきた。


「お帰りなさい、エルダ。大変だったでしょう?」

「残念ながらまだ仕事の途中ですわ。」


エルダと呼ばれたシャーナはメルティナに振り返り、まだ早着替えに頭がついていかない彼女に少女を紹介した。

「こちらは聖龍王国の第一王女リンドーラ様です。」


シャーナ(エルダ)は私の冒険者なのです。」


二年前、10歳の誕生日に、最も優秀な冒険者が欲しいと女王にねだったそうだ。自分の代わりに世界中を飛び回り、土産話や珍しい特産品を持ち帰るお仕事だ。当時のパーティーを組んだまま、時々帰ってきたら王女にお土産を渡すだけで、膨大な契約金が支払われる。


そんな時に友好使節として東に向かった使者達の行方を知った。王宮で伝え聞く話と、シャーナ(エルダ)の話に食い違いがあった為、真相を調べて欲しいと頼んだ。


「そうしたらこんな大変なことに…」

シャーナ(エルダ)からは報告書と添付された小さなお菓子が届くばかりで、今日一年ぶりに戻ってきたのだそうだ。


「後はメルティナ様を送り届けるだけですから、もうすぐ帰れますよ。友好条約締結まで見守る必要がなければです。けど。」

「もうやめて、別に政治に口を挟みたいわけでは無いの!」


リンドーラが慌てて否定し、笑いながらシャーナ(エルダ)がこの国のお茶を入れてくれた。見たことのない香辛料の浮かんだお茶は、熱いのに飲むと身体の汗がすっと引いていく。暑い西の国ならではのものだ。

一方お茶請けは東の国で人気の焼き菓子が出された。リンドーラはたいそう気に入った様子だ。


「東の国のお話をもっと聞かせてくださいな。」


楽しいお茶会は部屋に侍女が灯りを持ってくるまで和やかに続いた。



晩餐は女王に招かれて、リンドーラも同席した。西の国の料理は素材も味付けも変わっていて、メルティナは非常に楽しめたと絶賛した。


「リンドーラから話は聞きました。両国の行き違いが解消された事嬉しく思います。」


メルティナはほっと胸をなでおろした。リンドーラから説明を受けたのなら首がはねられることはもう無いだろう。

後ろに控えた騎士達も、これが最後の晩餐でないことに表情が緩んだ。


「ですがまだ大臣を更迭するに至りません。」

「お母様?」

「私兵を取り上げ、財産の半分を没収しました。しかし後継が育っていないこの国で、これ以上人材を切り捨てる訳にはいかないのです。」


女王が長い睫毛を伏せ、悲しげに続ける。

「陰で糸を引くものが明かされない限り、彼の首を切ればこの国もまた痛むのです。」

リンドーラもそれ以上言うことができず、「わかりました」と小さく頷いた。


「さて、我が国の者があなたに迷惑をかけたお詫びを致しましょう。」

女王の小さな合図で、小箱を持った侍女が一歩前に進み出て、メルティナの前に音もなく置いた。


「恐れ入ります。見てもよろしいでしょうか?」

女王はゆっくりとした瞬きでそれを促す。


ツヤツヤに磨かれた小箱の中には、鳥の羽をモチーフにした銀のブローチが入っていた。


「それは身につけたものに敵意を抱くものが近寄れば青く輝き、強く握り締めれば一度だけこの国に瞬時に移動する、二つの魔法が込められた魔導器です。」


王国では一つの能力の魔導器でさえ高価なものだ。二つの力が込められた物など聞いたこともない。

しかも余計な機構も無く、本当にただのブローチに見える。


「このような物を、私如きが頂いてよろしいのですか?」

「私はもう二度とそちらに使者を送るつもりはなかったのです。黙って宣戦布告されるまで待とうと。そちらも同じでしょう?誰も行きたがらなかったのではありませんか?」


メルティナは何も言えなくなった。捨て駒として開戦のスイッチでしか無いと思われていた。それでも良いと思ってここまで来た。鼻の奥がツンと痛む。


「私の目を開かせ、亡き友人達の願いを繋いで下さったこと、感謝致します。」

女王が目を閉じ、ほんの僅か頭を下げた。リンドーラもにっこりと微笑んだ。


「それでは私にも東の国のお話を聞かせてくださいませ。なんでも、そちらにも竜が現れたのですって?」



帰りはとても楽な道のりだった。シャーナ(エルダ)は相変わらず有能に働き、彼ら全員を

王城まできちんと送り届け、再びルゴーフへ帰っていった。


彼女の言っていた通り、船旅はやっぱり退屈であった。


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