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名も無き龍が眠る地に  作者: 佐野ひかる
平和使節と騎士見習い
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2ー1 建国

国王は頭が痛かった。

しかし、それを言葉にしたり表に出したりすると、無意味な薬を飲まされる。


私の名はウェルド。国王という臣民の奴隷をやっているしがない者だ。


初めのうちは国内の問題について最終決定を下し、ハンコを押すだけの簡単なお仕事と聞いていたのに。


騙された。


毎日毎日官僚のジジイどもに、これはどうするあれはどうするとせっつかれる。


一度本気で嫌気がさして「苦しゅうない、良きに計らえ」で済ませようとしたら、おっかない顔のシルヴィールが飛んできて、めちゃくちゃ叱られた。


今は黒髪の幼女の姿で現れることが多いアイツだが、以前はゴツいおっさんの姿をしていた。三国志の関羽を想像していただければ、それにめっちゃ怒られる恐怖を分かって頂けるだろうか。


カンの良い方は気付いたかもしれない。

私はいわゆる「転生者」である。


前世では日本という国で普通に父親をやっていた。可愛い娘と、小憎らしい息子と、可愛いが気の強い妻の四人で普通に暮らすサラリーマンであった。


転生に気がついてから、私はすごい勢いで前世の再現を試みた。

水が自由に使えない、土の上を子供が裸足で走り回る原始的な世界に愕然としたからだ。


そして当然のごとく、頭のおかしいことを口走る奇妙な子供として森に捨てられた。


せっかく新たな人生が始まるボーナスステージだと思っていたのに、あっという間にバッドエンドまっしぐらである。

前世のゲームでは最良の選択肢を選ぶことが出来たが、このオープンワールドでは選択肢が無限すぎて難易度が高すぎる。


私は木に括り付けられたまま死を覚悟した。


だが運良くシルヴィールに見つけてもらったことで、何とか死地を脱することができた。


最初の会話は忘れもしない。


その時の彼の姿は半獣半人の少年だった。

銀色の髪と頭の上の耳が、なんだか前世のアキハバラを思い出すなと思いながら、一か八かで話しかけた。


「縄を解いてくれ。あとは自分で何とかする。」

二歳児の私がこう言ったので、彼はびっくりして固まった。


「何とかできるのか?」

「出来なきゃ死ぬんだ。やってみるしかないだろ。」


その疑問はもっともだが、通りすがりの子供にそれ以上の責任を負わせるつもりはない。

私の意識はまだ子持ちの中年男性の方が強かったため、彼はまだ子供に見えたのだ。


そして彼がわたしのほっぺたを軽くつまむと、物凄い疲労感に襲われて気を失った。


あとで考えてみればあれはわたしの記憶を読んでいたのだ。

ここにきた経緯と、前世の記憶も。


だが読まれる方が消耗するこの魔法は、二歳児の体力ではあっという間にブラックアウトしてしまう。


彼は私を自分の家に持ち帰り、目を覚ますたびに食事を与え、またほっぺたを摘まんで気絶するまで記憶を読んだ。


彼はある日、ほっぺたを摘まずに私の前に座って言った。


「非常に面白いものを見せてもらった礼がしたい。何が欲しい?」


その時はまた、前世の生活の再現にかかりたいと思っていたので、二歳児には不可能そうなことからお願いした。


「上下水道を整備したい。」

少し目を閉じて考えるような間の後、「わかった」と言って何処かへ行った。


食事の時間には帰ってきて、また私に質問を投げかけた。


「他に欲しいものは?」


私は思いつくままに、教育のシステム、流通、医療、便利な道具の作成や、人々を統治する仕組みなど、いくらでも提案することが出来た。


それほどまでに何もない世界だったのだ。



ある時、ついに思っていたことを口にして見た。


「これって礼じゃないのか?一体いくつ叶えたら気がすむんだ?」

「礼ではない。思い出したのだが、これが私の本来の仕事だった。」


ここからの話は衝撃的で、覚悟が無いなら聞かぬ方が良いかもしれない。

私も、中身が中年のおっさんでなければ、二歳児の体では爆発していたかもしれない。



何と、人類は一度滅んでいたと言う。


シルヴィールは情報を蓄積して保管するのが、自分の仕事だと長いこと思っていたと言う。


人類の絶滅した世界に取り残された彼は、自力で修復を行いながら残された知識を保管する作業を続けていた。


やがて人類でない文明や生物のコロニーが発生する。


しかし情報を集積するシステムは、とうの昔に人類とともに失われ、新たな技術や情報は一切こちらに入ってこない。


新たな情報が保存される事なく散らかる世界で、苛立ちを感じた彼は情報と意識を切り離し、収集する外部デバイスを作り上げたのだと言う。


世話焼きのケモミミ美少年かと思っていたら、生体コンピューターの外部デバイスだったでござる。


…息子が読んでいたラノベのタイトルみたいになってしまった。


続けよう。つまり、本来の仕事とは、必要に応じて溜め込んだ知識や情報を利用者に与える事であった。


この場合の利用者は私になるだろうが、何しろ二歳児なもんで、情報を与えられたところで何も出来ることがない。

そのため、そこらへんにいる人間を捕まえて知識を授け、代わりに全部やらせていたのだそうだ。


それからも、私が何か言うたびに、少し考えて出て行くことの繰り返しだったが、電気だけは再現できなかった。


何度やっても、どう作り方を変えても、「雷の属性を持った魔力」にしかならず、既存の技術では制御できない代物だった。

各家庭に供給などと言う恐ろしいことは出来なかった。


幸い、エルフの作った王国では魔力を使ったいくつかの仕組みが作られており、そちらを買い受ける形でこの国にも明かりを灯すことが出来た。


そのようにして今のウェルディア王国は作られた。



繰り返すが、そのようにして頑張って作ってきたのだ。私が。…主にシルヴィールだが。


それなのに西の聖龍王国ルゴーフの者は、こちらを侵略してでもこれらの技術を欲していると言う。


今までも独特なスパイスや南国特有の生鮮物と引き換えに、格安でいくらでも差し上げてきたのに、戦争も辞さない勢いだという。


シルヴィールだけなら熨斗をつけてくれてやらんでも無い。あれは自分で勝手に戻ってくるだろう。


だがそう言う話では無いのだ。

今の世界で、何が不足していて、何があれば便利だと言う事がわからなくては、これらの技術を彼から引き出す事はできない。


そして、それがわからない彼らは何を引き出すだろうか?

世界を滅ぼしかねない力でも望むだろうか?


彼は嬉々としてそれらの知識を出すだろう。自分の仕事として。


知識や情報に正義も悪もない。使う者によって毒や薬に変わるだけだ。


力だけで奪えないものがあると言うことをわかっていない相手に、何といって説得すればいいだろうか。


金の卵を産む金の鶏の物語も、一から聞かせてやらねばならないのだろうか。この私が?



考えれば考えるほど頭が痛い。それに胃もなんだかムカムカするような気がする。


その時、侍従から面会を求める冒険者が来ているとの知らせが入った。


西の国から来たと言う女性の冒険者だ。パーティーではなく女性が一人というのは珍しい。

少しは面白い話が聞けると良いのだが。

二章は2ー8まで、毎日0時に投稿の予定です。よろしくおねがいします。

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