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眠れる可憐

前日同様、一応携帯電話でアラームをセットしておいた滝沢だったが、アラームを止め、左隣を見ると可憐は静かに寝息を立てて眠っていた。

「このところ、心労をかけていたからなぁ。仕方ない、そっと寝かしといてやるか」

滝沢は一人静かにベッドを出ると、コーヒーを入れようとキッチンへ向かった。

「えーっと、豆、豆っと…どこだ?わからんなぁ」

仕方なく冷蔵庫から牛乳を取り出しグラスに注いだ。牛乳を一気に飲み干すと、グラスをその場で洗おうとした。シンクを見ると、水垢みずあか一つなく、綺麗に磨かれていた。何だか洗い物をするのも躊躇ためらった滝沢だが、少しでも可憐の負担を軽くしてやりたいと思い直し、グラスを綺麗に洗った。シンクも出来るだけ綺麗にしたつもりだが『可憐が見たら叱られるかなぁ』と思いつつ家を出た。

仕方なく、滝沢は朝食を、会社の行きがけにコンビニエンスストアに寄り、菓子パンを買って出社した。

『妻が朝寝坊をしただけで私は何一つ、ろくに出来ないのだ』と思い知らされた滝沢だった。


会社に着くと、チームの皆んなは示し合わせたように作業を始めていた。

「皆んな、おはよう!何だ、もう始めていたのか」

「おはようございます、滝沢さん。皆んな、就業一時間前には揃ってましたよ」小園が明るい笑顔で答えた。

「そうか、オレ一人スマンなぁ。よし!オレもやるか」皆んなのやる気に押されてか、滝沢は買ってきた菓子パンをかじりながらの作業になってしまった。


作業は思いのほか、順調に進んだ。

「こりゃ、今日は少し早く帰れそうだな?」

「そうですね。皆んなペース速くてバンバン、データ送られて来るから、こっちの方が追いつかないくらいですよ」それぞれのデータを集約して自分のデータベースに整理して行く作業の滝沢と小園が逆に追われるほどに皆んなのペースは順調だった。

結局、この日は午後八時に上がる事になった。

「皆んな、ありがとうなぁ。これから飯でも連れて行ってやりたい所だが、皆んな疲れてるだろうから早く帰って休んでくれ」

「大丈夫ですよ、滝沢さん。今のヤツ完成したら、打ち上げで思いっきりご馳走になりますんで」脇田が悪戯いたずらっぽく答えた。

「それ、領収証落ちるかな?」滝沢のおどけた問いに

「な、訳ないでしょ」との寺尾の真面目な一言で皆んなが大笑いをした。

三日振りの電車での帰宅になった滝沢だが、随分と久しぶりに感じた。ふと、駅前でケーキ屋が目に入った。

「心配かけちゃってたし、可憐の好きなチーズケーキでも買って帰るか」チーズケーキを片手に帰路に付き、歩き出した滝沢の目に、やがて家が見えた。

「あれ?おかしいな?電気…付いてない?」変な胸騒ぎがして残り数10mを駆け足で向かった。

「ただいま!可憐?いないのか?」やはり、家中の電気は消えている。

「可憐?何処だ?」バスルームにもトイレにもいない。

「まさか?もう寝たのか?」寝室のドアを開けた。すると朝と同じように眠っていた。

「何だ!寝てたのか」少しホッとしてチーズケーキを冷蔵庫にしまった。その時、滝沢は違和感を感じた。

「そうだ、シンクだよ。シンクが綺麗になってない。汚くはないけど、オレが朝、グラスを洗った時と一緒だよ」

滝沢の胸騒ぎは一層激しく揺れ、洗面所に行き洗濯機の中を見た。

「たんまりまってる訳じゃないけど、可憐がこんな状態を放って置くはずがない。こんな中途半端な状態だったら普段余り洗わない物と一緒に洗濯機を回すはずだ」

滝沢の不安は一層深まり、再度、寝室に向かった。

「可憐!可憐、起きないか!」必死にり起こそうとしたが、まるで無反応だ。全く、死んでいるみたいに…

心配になった滝沢は可憐の口元に耳をてがった。かすかだが、息はしている。次に手首に親指を当てた。しかし、脈もわずかだが感じられた。

「どうなってんだ?」滝沢はポケットから携帯電話を取り出し "119" と押した。

「もしもし!妻が…妻の意識がないんです。えっ?イヤ、分かりません、帰宅したら意識がなかったんです。だから脈はありますって!ハイ、住所はさいたま市見沼区の…」

やがて、救急車が到着した。市内の総合病院に搬送され、滝沢は胸騒ぎを抱えたまま、祈る様に待合室で待った。


どれほどの時間が過ぎただろう?処置室から医者が出て来た。

「先生!可憐は…妻はどうなりましたか?」

「滝沢さん、正直な所をお話しします。こちらへ…」滝沢は案内されるまま、処置室に通された。

「奥様なんですが…何か薬を服用されていたとかはありませんか?」

「薬?…イヤ、ないと思いますが」

「そうですか、では何かアレルギーとか、後、気になる何かを食べたりとかは…」

「アレルギー?イヤ、ありませんし、何より今朝、私が会社に行く時から起きた形跡がないんです。詳しくは分かりませんが、恐らく24時間以上、眠ったままだと思います」

「に…24時間以上?…んー?」医者はしばらく黙り込んだ後、重い口を開いた。

「滝沢さん、申し訳ありませんが、原因は分かりません。もっと詳しく調べなければ何とも言えませんが、現時点ではどこにも異常は見られません。本当にただ、眠っているだけと言った感じで…」

「じゃあ、しばらくは入院と言う事ですか?」

「イヤ、しばらくとは言い切れません。なにぶん原因が分からない事には、いくら入院して頂いていても、回復するとお約束は出来ません。検査の結果次第にもよりますが、専門の病院を探して頂くか、大学付属病院などの研究施設を併設しているような大きな病院ところでないと、当病院ウチでは…」

何とも歯切れの悪い返答に滝沢は少しイラッとした。

「ここって総合病院じゃないんですか?」

「滝沢さん!落ち着いて下さい。総合病院とは言っても何でも、どんな病気でもと言う訳じゃありません。あくまで過去の症例に合わせた適切な処置を施すのが我々の使命で……」滝沢をたしなめるように説明する医者であったが、その言葉も滝沢の耳には段々と入らなくなって行った。

『妻は…私の可憐はどうなってしまうんだろう?』

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