白熱した会議
滝沢チームの会議は白熱した。このチームで固定されてから、もう二年半位になる。その為にお互いがお互いを皆んなが分り合っているので、言いたい事も遠慮なく言い合う。この討論が良い作品を生み出して来たと滝沢自身、自負していた。
「よし!大体意見も出尽くした所で各人の役割を割り振りたいのだが…いつもの感じて良いか?」
「滝沢さん、オレ、そろそろ建物とかそっち系やりたいんですけど」
いつもは女性キャラクターを担当させている井上 澄夫が発言した。
「イヤな、井上!オレの考える女性のイメージを一番近い形で再現出来るのはお前なんだよ」
「でも、人物なら野中さんでも良いじゃないんですか?」
「何言ってんの、井上、アタシだって背景とかやりたいっつうの!一番若いアンタが我儘言ってんじゃないよ」
今度は男性キャラクターを担当させている野中 聖子が発言した。
「イヤな、野中も井上もさぁ、ゲームの良し悪しはキャラクターの出来で決まるとオレは思ってる。ユーザー目線で考えて見てくれ。やっぱ、キャラがカッコ良かったり可愛かったらよりゲームの世界に入り込んでいけるだろ?」
「じゃあ、逆にしてあげたらどうです?井上が男、野中が女」チームで一番の古株の寺尾 文宏が発言した。寺尾は趣味がバードウォッチングや山登りと言うだけあって自然背景を描かせたら滝沢ですら舌を巻いてしまう程の実力者だ。
「これはオレの持論になるかも知れんが、キャラはやはり異性が描いた方が魅力的になると思うんだ。ほら、良くあるだろ?女の子に別の娘を紹介してもらう時に "可愛い娘が居るから" って聞いて、行ってみたら以外とそんな事なかったって…だから、男は女、女は男を見る目の方がより魅力的なんだよ」
滝沢は言い訳がましくなった気はしたが、決して的外れな事は言っていないと言う自負はあった。それは皆んなの納得顔を見れば分かった。
「そうですね、時間も余りありませんし、今回はその方が良いかも知れませんね」
学生時代にヨーロッパ留学の経験がある藤木 弥生だ。藤木は本場のバロック建築などをスケッチして回っていたらしく、街並みを、それも建物を描かせたら右に出る者はいない。
「よし!これで決まりだな。お前らが作業を進めている間に、オレと小園でベースを作っておく。ある程度仕上がったらファイリングして小園のパソコンに送ってくれ」
「えっ?滝沢さんのトコじゃなくて良いんですか?」同じく街並み担当の二番目に若い脇田 怜央だ。
「あぁ、今回は時間も余りない。オレのチェックなしでそのまま小園のパソコンに落とし込んで行く。何、心配すんな。オレ達のチームもこの面子で二年半やってるんだ。皆んなを信頼してるから出来る事さ。さぁ、皆んなはある程度のベース作りから始めてくれ。その間にオレはラフになると思うけどデッサンを始める。色付けはそれぞれに任せる。今日は徹夜になるぞ!皆んな頑張って行こう!」
「オッシャ!やりますか!」「ヨシッ!気合い、気合い!」
こうして、作業しては会議、会議が終わったらまた作業の繰り返しを三日間続けなければならなかった。こうして一ヶ月ほどかけてベースを作り、その後、ストーリー展開を話し合いながら実際の操作性を確かめつつ進めて行く。おそらくの目算では半年で販売へと漕ぎ着けたいと滝沢は算段していた。
皆んな、黙々と作業を続け、食事もおにぎりやサンドイッチ片手に頑張っていた。そうして夜も更けて行った頃、滝沢の携帯電話が震えた。
「ハイ!滝沢です」
「龍翔君?アタシだけど…どうしたの?今、何処」画面も確かめずに出たものだから分からなかったが、可憐からだった。
「まだ会社だよ。どうかしたか?」
「会社?もう九時半よ。何かあったの?」滝沢はすっかり忘れていた。今日は九時には帰ると言って出掛けていた事を。
「あぁ、ゴメン。忘れてたよ。ちょっとトラブっちゃって、詳しくは言えないんだけど、しばらく徹夜になると思うんだ。オレの事は気にしなくて良いから、先に寝てて良いよ」
「そうだったんだ。大変ね。分かった、今日は先に寝とくね。何だったら明日から差し入れでもしようか?」
滝沢には可憐の気遣いが嬉しかった。しかし、男と言うものは、こういった時、やたらと周りの目やメンツ、自分の置かれている立場と言ったものを気にしてしまうものだ。
「イヤ、良いよ。可憐が来たら、折角、頑張ってくれてる部下達も気を遣ってしまうだろうし…でもありがとう!ここが正念場なんだ。本当に気にしなくて良いから」
「そう…分かった…それじゃあ頑張ってね」
「あぁ、ありがとう。それじゃあ、お休み」
「うん、お休みなさい」
電話を切った後、滝沢を後ろめたさが襲った。しかし滝沢の可憐に対するこういった対応、扱いがあんなに悲しい運命を可憐に強いてしまったのかも知れない。