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漏洩

滝沢の家は都心から少し離れていて、一時間ほどは電車に揺られなければならない。しかし、乗り換えは一度だけで済むのでまだマシだろう。これで一応は庭と呼べるものが付いている一戸建てを買えたのだから、そこは良しとしないと他の連中に対してバチが当たる。滝沢にとっては満員電車も慣れたものだ。

実を言うと、可憐かりんと知り合って直ぐに、滝沢はこの家を購入したのだ。だからこの通勤ルートはもう二年近く続けている事になる。

滝沢は、どちらかと言うと見た目は美しいと言うより可愛いと言った方がタイプなのだが、可憐はどちらかと言えば前者の方だ。だが、初めての食事の時、キャビンアテンダントとして働くりんとしたイメージとは違い、可愛く見えた。その時から滝沢は『絶対にこの女性を嫁さんにするぞ!』と思ったのだ。その為の武器として今住んでいるマイホームも大いに役に立ったのかも知れない。


やがて会社がある新橋駅に着いた。所謂いわゆるサラリーマンのメッカとも言われる地だ。

出社して直ぐの事だった。部下の小園こぞの まことが滝沢の元に駆け寄ってきた。

「滝沢さん!おはようございます!出社早々すみませんが、ちょっと見てもらいたいものが…」部下の逼迫ひっぱくした様子に滝沢は少々面食らった。

「何だ?どうしたんだ?」

「これです、これ!」小園はパソコンのモニターを見るように滝沢にうながした。

そこには他社のゲームメーカーの新商品を発表するニュースが映し出されていた。それはそうとして、問題はその内容だった。何とその新商品は、滝沢達が今まさに発売に向けて行なっているその物と類似していたのだ。

「何だ?こりゃ!おい、小園!一体どういう事だよ」滝沢の怒りは、どこにもぶつけようもなく、つい部下に迫ってしまった。

「解りません。僕もなになにやら…」小園が狼狽ろうばいするのも無理はない。なにせ、このゲームは七割を滝沢自身が、三割をこの小園が発案してスタートさせた物だったのだ。この新商品に対する想いは、この小園とて滝沢と同じ物を持っている事だろう。

「で?データの管理なんかはどうなってたんだ?」滝沢は冷静さを取り戻し、問題の元凶を探る為に部下に指示していった。小園もパソコンのキーを叩きながら問題点を探っていった。

「ダメです!解りません。データが回線を通して漏洩ろうえいした痕跡はありません。データをコピーするにしたって、キーワードを知ってるのは僕と滝沢さん以外いないはずですから他の人間はファイルを開く事も出来ないはずです」

確かにそうだ。ファイルをコピーして社外に持ち出す事は考えられない。してやストーリーや仕掛けなどの案に関わる事だけなら口頭なんかでの漏洩も考えられるが、マップや街並み、キャラクターに至るまでそっくりその物となればデータごとれたとしか考えられない。

「本当に痕跡はないのか?」

「はい。僕の力ではこれ以上は調べようがありません」

正直な所、ことパソコンに限っては滝沢よりも小園の方が詳しい。と言うより小園は社内随一と言っていいだろう。しかし、ライバル社がデータを盗んだと言う証拠がない以上、相手を訴える事も出来ない。かと言って今まで約八ヶ月かけて造り上げて来た物を発売出来ないとなると、会社に対する損失はかなりのものになるだろう。

「小園、スマンがこの商品はもうダメだろう。とりあえず開発部長に報告に行って来る。作業はストップだ。残念だが仕方がない」そう言い残して滝沢は部長の元へ向かった。


「何?何でそんな事になるんだ!原因も分からんのか?」部長の怒号が滝沢の耳に突き刺さった。

「申し訳ありません。パソコン検索にいて会社ウチで一番の小園が分からないとなると他に手立てはありません。会社に大きな損失を与えてしまう事は百も承知です。ですが、もう一度チャンスをいただけませんか?今の商品を発売後、直ぐに取りかかれるように新作の案を用意していたんです。それを一週間以内で企画を立ち上げてまた直ぐに新商品に取りかかります。お願いします」滝沢は腰を90°曲げて部長に懇願した。

「分かった。実績があるお前が言う事だ。それに期待して、今回の事は忘れよう。ただし…一週間は長すぎる。三日だ。三日後には作業に取りかかれるようにしろ」正直なところ三日はキツいスケジュールだ。しかし、会社に与える損失分を考えれば致し方がなかった。

「分かりました。ありがとうございます。三日後には作業に取りかかります。それでは失礼します」

仕方なく啖呵たんかを切った滝沢だが、勝算がない訳ではなかった。おそらく三日間では企画会議は中途半端に終わるだろう。しかし、滝沢には今まで何作ものヒット作を作り出して来たノウハウがあった。作業効率を考えて頭の部分に集中して企画を立ち上げ、後は作業をしながらになるだろうが、残りを皆んなで話し合いながら進めて行けば何とかなるはずだと滝沢は自負していた。


「小園!会議だ。今までたずさわってたチームの人間をみんな会議室に集めろ!」

「えっ?何の会議ですか?」

「詳しい説明は後だ!とにかく全員集めてくれ」

こうして会議が開かれた。

「良いか?今回進めてたヤツは全部忘れてくれ。今からその後に出そうと思ってたオレの新作案を発表していく。但し、会議は三日間しか与えられていない。だから資料もなしだ。悪いがオレが説明しながらホワイトボードにイメージなりを書いていくから各自メモを取りながら聞いてくれ。質問なんかは後で時間をもうけるからまとめて頼む」

こうして滝沢達、チームの汚名返上の戦いが始まった。

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