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今度は国王様と面会です!

 ナディル先生に過去の出来事を教えてもらった日の夕方、アランとライモンドが暇を告げている最中に家令が一枚の手紙をもって部屋にやってきた。

 封筒に押された封蝋を見て思わず顔を顰めると、素早くアランが伺う。


「リーリア様、どなたからの手紙でしょうか?」

「カミッラ正妃様からです。今、開けて内容を確認するのでお待ちいただけますか?」


 何の用事もなくお手紙を出す方ではない。ソフィアの事を調べろと言ったのはカミッラ正妃だし、また何かを言いつけられる可能性は大いにある。

 家令から受け取ったナイフで、封筒の上部を開くと中に入った紙が一枚ではないのが見えた。


 取り出した手紙の文面を目で追う。先日の謁見に対する短い社交辞令の後に続く、助言と言う名の命令に頬が引き攣る。


「大丈夫ですか? 頬、すごい引き攣ってますよ?」

 

 ライモンドがおずおずといった調子で指摘する。その顔に一抹の不安があるのは、旧国派の騎士でカミッラ正妃の性分をよく知っているからだろう。


 二枚目以降の私信ではない部分をアランに渡すと、視線を落とした顔が私と同じ様に引き攣る。


「これは……」

「はい。ソフィア様が行う事になっていた、『奇跡』の一部です。先日、ソフィア様がレナート王子と共に遠征に出られたので、私に『聖女』として代わりを行ってはとご助言がありました」


 アランが読み終わったものを受け取ったライモンドも天井を仰いでしまう。


 二人に渡した方は、ソフィア様が請け負う予定だった『奇跡』の行程表である。

 『奇跡』の内容はいい。運良くというか、カミッラ正妃が精査したのか、いづれの願いも水に関する事になっている。規模もそこまで大きくないから、私の『魔術』でも十分対応できる。もっとも、護衛の二人は私の『奇跡』の事情は知らないから、この戸惑いに内容は関係ない。


 一様に顔を顰めた理由は日程にある。

 最初の対応日は明後日で、数か所の村を北へに向かう様に移動し、四日かけてシャンデラにほど近い村まで移動する計画が書かれている。


「これ、今からこっちに用意しろって事ですかね? もっと早く言って欲しいですよね」


 日程書類を指で弾きながら、ライモンドがアランと私に同意を求めるような眼差しを向ける。

 本当に。私もそう思う。でも、その辺りの事情も、私の持つ手紙で説明されていた。


「それは、遠征が決まるよりも前にソフィア様の為に組まれたものなんです。私に『聖女』らしい仕事が必要と、カミッラ正妃様がしつこく……いえ、粘り強く教会派に詰問……打診し、ようやくこの厳しい日程が提出されたそうです。是非、やり遂げて教会派に目に物見せて欲しいとお願いされてます……」


 私が『聖女』と名乗る事に、懐疑的な者が教会派を中心にまだ多いのは知っている。それは、あの処刑の日の一度しか、それらしい『奇跡』を起こしていないからだ。

 このまま、『聖女』の称号を二分しない為に、教会派は『奇跡』に関する事案を私に譲りたくない。だから、問い合わせがあっても伏せていたのだと思う。


 今からでは準備の厳しい日程でも、カミッラ正妃から助言という形で示されれば、命令である事は二人も十分に理解している。アランが難しい顔で引き結んでいた口を開く。


「宿の手配と移動の経路はこのまま使えます。同行の兵は旧国派で組み直す必要がありますが、急な出立には慣れております。先日の遠征はデュリオ王子の可能性もあったので、二分隊程度なら旅装が整っている者も多いでしょう。明後日の早朝出立で、初日が少し駆け足になる行程でいかがですか?」


 騎士団の準備は、間に合う答えが返ってきた。


 カミッラ正妃からの手紙に目を落とす。

 最後の村はシャンデラからほど近く、その日の宿泊もシャンデラになっている。

 シャンデラではソフィアが巫女となり、イリーナが殺されている。まるで、それについて聞き及ぶ事を促すように、手紙の最後には、依頼が済めばシャンデラで羽を伸ばしても良いと書かれている。


「カミッラ正妃様のご助言を受け容れようと思います」

 

 ナディル先生が過去を語ってくれた事で、レナート王子の『贋物』の意味が私には分からなくなった。でも、それで出来る事がなくなる訳じゃない。

 レナート王子の『廃太子』の話から、ソフィアの過去を調べるようにカミッラ正妃は勧めた。ソフィアの過去は、レナート王子の今後に関わるという事だ。

 当然だけど、カミッラ正妃の誘導はデュリオ王子を王にする為にある。乗って分かる事は、レナート王子の不利になる内容なのだろう。

 何もしなければ、離れていく気がするレナート王子を理解する事が出来ないまま物事が進んでしまう。

 強がりになるかもしれないけれど、得た情報をどう使うかは私の自由で、受け取って判断をするのは私自身だ。だから、どんな情報でもないよりもあった方がいい。


 知らずに指先に力が入って、皺の寄ってしまった手紙に気づく。肩の力をゆっくりと抜くと、小さく息を吸ってアランとライモンドを見る。


「アランは騎士団との調整を至急お願いします。この機にシャンデラで巫女や『聖女』について学びたいので、大修道院へ訪問の申し入れと一日でいいので滞在延長を都合して下さい。ライモンドは旅に必要なものを家令に教えて頂けますか? 終わったら、ここにいないジュリアへの連絡もお願いします」


 二人の護衛騎士が急な遠征への戸惑いを消して、主の願いを叶える騎士の顔で頷く。動き出した騎士の背を見送って、私も準備の為にドレスの袖をまくって気合を入れる。

 故郷から王都に来た以来の大移動だ。準備も大変だし、規模を見定めて魔術の準備も、早速しておかなくてはいけない。


 翌日は、早い時間から『聖女』としての旅の準備に追われる事になった。急な決定の為に騎士団から調整の伝令が度々訪れて、頻繁に中断するので用意が中々進まない。

 昼過ぎになって、漸く移動用の服を詰めたトランクを閉じる。もちろん、荷物はこれで終わりではない。

 一つ大きなため息を吐いて、ベッドの上に広げた二つのドレスと合わせたアクセサリを見下ろす。


「どちらが『聖女』に見えると思う?」


 旅の支度を手伝う侍女を振り返る。

 ソフィアには『聖女』の服に相応しい巫女の服があるけれど、貴族の令嬢で巫女の経験のない私には当然ない。レナート王子として臨んだ『祭祀』で見たソフィアの真似て白いドレスを出してみたけど、やっぱり私のドレスは社交用にしか見えない。神聖さなのか、清らかさなのか、『聖女』としては何かが足りないのだ。


 同じような感想を持っているのか、侍女もやや浮かない顔をして答えを口にしない。ほんの少しの沈黙の後に、おずおずと侍女が提案を口にする。


「リーリア様、アクセサリーを変えてみましょうか? 銀はレナート王子の髪色の印象がございますし、デュリオ王子の髪色に合わせて金にしてみると……」


 侍女の言葉がどんどんと小さくなって消えた。どうしてかは分かる。

 このドレスに似合う金のアクセサーは幾つか持っているけれど、どれを着けてもきっと舞踏会に赴く令嬢にしかならない。


 ドレスを前に途方に暮れていると、ドアを叩いて入室を求める家令の声がした。許可すると大きな箱を幾つも抱えて、従僕と共に入って来る。


「それは、どうしたの?」

「たった今、カミッラ正妃様のお名前で届きました。後、こちらのお手紙もです」


 箱と手紙をテーブルに乗せて、家令と従僕が部屋の外へ出る。どちらを先に空けるか迷った末に、箱の方を開ける事にした。

 箱は貴族に人気の衣料品店の品だから、今の状況を救う品が入ってい可能性がある。手紙の方は開いたら、また更なる問題で頭を悩ませる心配があるから後回しがいい。


「あっ……」

「まぁ!」


 仄かな期待と主に箱を開くと、包まれていた白のドレスに侍女と共に声を上げる。

 真っ白なドレスはしっとりとした滑らかなな生地で、縁取りには繊細で上品な金の刺繍が見て取れた。花ではなく蔦であるのが、控えめで普通のドレスと印象が違って見える。

 手に取って身体に当てると姿見の前に立つ。袖は長く肌があまり見えない様になっていて、首元も繊細レースによって覆われている。

 腕や首筋の肌を見せる最近の流行とは、一風違うデザインが清廉で頑なな蕾を思わせた。


「着用されてはいかがですか?」


 侍女の言葉に頷いて、早速着用してみる。

 私もオーダーで利用する店の品だからか、サイズは贈り物なのにぴったりだった。侍女の手で他の箱も開いてもらうと、似たデザインの生成りのドレスと、それぞれに合わせた細金細工のアクセサリも出てきた。


「先ほどまでの私の服と比べて、ずっと『聖女』に見えますね」


 裾と翻してくるりとその場で回ってみせる。今度は侍女も会心の笑顔を浮かべて答えてくれる。


「とても素敵ですわ。低めのデザインのない靴が合いそうです。すぐに、お持ちしますね」


 いそいそと衣裳部屋に向かう侍女を見送って、待っている間に手紙の方の封を切る。

 依頼を受ける事へのお褒めの言葉と共に、準備を心配する文章が最初に目に入る。さらに読み進めて、用意された品について書かれた部分に目を瞬く。


 このドレスは、カミッラ正妃が輿入れに持参した品を、私のサイズに直したものだった。袖を通してない品で、『聖女』に相応しいと思うから下さると書かれている。

 言われて見れば、純白のドレスは婚儀用に見えなくもない。一見してそうと分からないのは、見慣れないデザインが多用されているからだろう。変わった刺繍の入れ方も、首まで覆うレースの作りも、もしかしたらバルダート固有の古典衣装の型なのかもしれない。

 

 何故、着れなかったのだろう……。考えて小さく首を振る。

 当時は今よりももっと旧国への当たりは厳しかった。遠くからこれ程の品を揃えて赴いたのに、旧国の意匠を理由に袖を通せなかったのなら切ない。

 切ないと思うけど、時を経て『聖女』の衣装として表に出すカミッラ様は、やっぱり強く逞しい。でも、ちょっと及び腰になる執念も感じる。


 複雑な気分でドレスを見下ろして、二枚目の手紙に差し掛かろうとした時、侍女が靴を抱えて戻ってきた。靴を合わせて問題ない事を確認して、先にドレスを脱ぐ事にする。

 脱いだドレスを手渡しながら、侍女によく言い含める。

 

「これは、凄く凄く丁重にしまってください。色々な想いが詰まっていそうなので、頂いたとはいえ汚したら後が大変怖そうな品です」


 他に似合うドレスはないし、カミッラ正妃の贈り物を使用しないなんてできない。

 脅かすような事を言って侍女には申し訳ないけど、着る私はもっと覚えているから許してほしい。


 元の服に着替えて、途中になった手紙を再び手に取る。

 『聖女』としてデュリオ王子の宣伝を必ずする等、カミッラ正妃らしい要求が並ぶ。全てに目を通した一番最後に、またとんでもない事が書かれていた。


「国王陛下と? 戻られたら謁見? 今日?」


 唖然と私が呟いた言葉に侍女が慌てて部屋を飛び出して、悲鳴のような声で家令を呼ぶ声が聞こえた。


 夕方、お城からの陛下帰還一報があった。知らせを受けて向かう馬車の中で、ジュリアと向き合う。


「ごめんなさい! 準備が忙しいのに護衛騎士を呼んで!」


 カミッラ様の手紙の最後には、国王陛下が戻られたら謁見を希望していると書かれていた。今日は呼び出す予定はなかったのに、急遽護衛騎士の三人を午後は呼ぶ事になってしまった。

 謝罪の言葉にジュリアが微笑する。


「あら、呼ばれない方が困りますわ。王家の命で私達はリーリア様を守っているんですのよ。お城に行くのに、護衛騎士がいないなんて大問題ですわ」


 確かにそうなのだけど、忙しいと分かっているから申し訳ない気持ちは収まらない。

 正直、謁見は今日でなくとも良いと、私は思う。国王陛下だって戻ったばかりで、きっと忙しい筈だ。大事な事はグレゴーリ公爵など、十分な情報を持った人から効率的になされた方が絶対に良い。

 光栄だけどやや迷惑な一大イベントに、盛大なため息を一つつく。


「ジュリア、私のドレスにおかしなところはありませんか?」

 

 明日の用意そっちのけで、選んだドレスを尋ねると、ジュリアが左腕のリボンに手を伸ばす。


「結構だと思いますわ。でも、このリボンが少しだけ捩じれております」


 直されながら聞いた言葉に、レナート王子を思い出す。本当にレナート王子は私の事をよく見ていたと思う。

 もう、出立から三日が立つ。 今はどの当たりを進んでいるだろうか。

 ラントまでのバルダート第二街道の道のりは、半分を越えているのだろうか。


 そっと馬車のカーテンを上げて、陽が落ちて薄暗くなった空を見る。西の空は遥向うはの地平線は、まるで燃えているかのように赤くみえた。


「そういえば、シュルテン修道院の以前の神官は分かりましたか?」


 赤い空から顔を逸らして、ジュリアに頼んでいた剣を尋ねる。


「ええ。あの修道院の神官はウィルソン伯爵でしたわ」


 以前クリスと謁見した時に、打ち負かされていた礼院長の顔がすぐに思い浮かぶ。根っからの教会派と言った様子の彼が、ウィルソン伯爵で間違いなかった筈だ。

 やや恰幅が良く年齢の分かりにくい容貌をしていたけれど、対応からは経験不足が滲み出ていた。


「当時のウィルソン伯爵……。今代ではなく先代ですか?」

「いえ、残念ながら先々代が携わったようですわ。その所為か、当時の詳細がほとんど残っておりませんでしたの。詳細を探し出すようにお願いしてありますが、見つけるのは難しいかもしれません」


 また一つ、答えまでの道が遠い事が明らかになって肩を落とす。簡単には見つからないと思っていたけど、予想以上に厳しい。


 周囲が暗くなって、城へとたどり着く。今日は国王が帰還したばかりだから、篝火がいつもよりも多く灯っていた。

 馬車寄せで馬車を降りると、三人の護衛騎士を伴って東棟にある国王陛下の謁見室に向かう。謁見室に入るのは、レナート王子としてクリス謁見した時以来になる。


 デュリオ王子は、もう国王陛下に国政の引継ぎは済んだのだろうか。たった、三日。本来なら決して携わる事のなかった国政は、上手くいっただろうか。

 知らないうちに祈るように組んでいた手を握りしめながら、広い東棟の廊下を見渡しながら進む。忙しく立ち働く文官の姿は数名見る事ができたけど、デュリオ王子に会う事はなかった。


 謁見室の側まで来ると、既に物々しい警備がしかれていて、国王陛下が待っている事がすぐに分かった。糸でつられたように上へと気持ちを意識して背中を伸ばす。


「いってらっしゃいませ。大丈夫ですわ。多分、今回のお呼び出しは諸々の慰撫と、婚約の祝福だけだと思います。笑って頷いていれば終わります」


 ジュリアの声に頷くと、謁見室のドアが私の来訪を告げる声と共にゆっくりと開いた。

 訪問される側ではなく、訪問する側として謁見室へと足を踏み入れる。玉座には国王陛下が、その隣にはカミッラ正妃が待っていた。


 現国王陛下。エドモンド・セラフィンは、先先代から続く旧国派を認める流れを汲む政を選んでいる。幼少時代から国内の多くを周り、自分の目で優秀な人材を選んできた活動的な人物だ。

 私のお爺様が先々代国王と知己があり、早くからお父様はエドモンド国王陛下にお仕えし、今は右腕とされる専属文官の地位を与えられている。


 無口な父だけど、国王陛下の話は何度も聞いている。

 情熱的な実務家。でも、子供みたいに手がかかる時がある。お父様はそう国王陛下を楽しそうに評価していた。


 玉座の前の一段引く場所で、ドレスの両端を摘まんでゆっくりと両膝を付く。


「ご無事の帰還を、心よりお慶び申し上げます。元気なお姿を拝見でき、大変光栄にございます」


 個性にかけるけど無難な口上を述べると、碧い瞳を細めた国王陛下が片手を上げて立ち上がるように促す。もう一度深く頭を下げてから立ち上がると、国王陛下の方へと顔を向ける。

 じっと見過ぎてはいけないけれど、間近に見るのは久しぶりでついつい視線がお顔にいってしまう。


 彫刻の様な均整のとれた美し顔立ちに、引き込まれるような強い眼差しと意志を感じさせる真っ直ぐな眉。国王陛下の面差しは、デュリオ王子によく似ている。


「よく来たな。正妃カミッラから、明朝より『聖女』の役目の為に王都を出ると聞いた。その前に、会う事ができて嬉しく思う。まず、其方の父であるリエトから手紙を預かってきた。収めると良い」


 国王陛下の従者と思しき人物が、封蝋の施された手紙を私に届ける。受け取った封筒に書かれた父の文字に、数日しか離れていないのに懐かしさと寂しさがせり上がる。

 宝物を抱くように抱きしめると、国王陛下の優しい声が聞こえた。


「リーリア・ディルーカ。詳細はまだ聞いていないが、不在の間の一件の概要は聞き及んでいる。此度は大変な心労を掛けたと理解している。この国の王として厳正な対応をとるつもりだ」


 その言葉に慌てて顔を上げる。

 厳正な対応の範囲にレナート王子は含まれてしまうのだろうか。過去の事例なら大丈夫だけれど、『廃太子』を願い出るとカミッラ正妃は宣言した。

 ちらりと目の端でカミッラ正妃を窺う。お面のような無表情を貫いていて、何を考えているか見えない。


 すぐにでも、今後の対応の詳細を尋ねたい。だけど、今の私が立場では、庇う言葉は許されない。それは、十分に理解している。

 カミッラ正妃が目の前にいるし、私はデュリオ王子の婚約者だし、一介の令嬢でしかない。

 歯がゆさに唇を引き結んで国王陛下を見上げると、憂いを帯びた眼差しと視線がぶつかる。


「父として、レナートの許しを請う事は許されるか?」


 まっすぐ告げられた言葉にしっかりと頷くと、カミッラ正妃の眼差しが非難の色を帯びて私を見る。

 気にせずに、口を開く。許しを願われた今なら、睨まれても堂々と庇う言葉を言っても良い筈だ。


「勿論です。レナート王子に過去に頂いた時間は、掛け替えのないものでした。別々の道を行く事になった今も、感謝の気持ちを持ち、互いの幸せを願いたいと思っております」

「そうか。過去の慣例を踏襲する判断を取る場合は、辛い思いをした其方から見て甘い内容になる可能性がある。その言葉を聞けたのは幸いだ」


 国王陛下の父としての顔を覗かせた柔らかな笑顔を、苛立たし気に肘おきを指でが叩く音が遮る。


「父である前に、王である事を私は望みます。どちらが王に相応しいか、選び直せる機会はそうはありません。リーリア、貴方にも婚約者としての最善を望みます。分かっておりますね?」


 婚約者としてデュリオ王子が王になる事を望めと、真っ向からカミッラ正妃が私を見据える。

 

「私は、デュリオ王子が望む最善を……」


 支持していると、言いたかった。でも、出立の時にレナート王子が示した言葉が、最後まで言葉を言わせなかった。


 デュリオ王子の本当の望みは何なのだろう。

 無理矢理に手を伸ばせば手に入る。でも、デュリオ王子は、それをしない。

 幾つも幾つも見送って、たくさんあった可能性をその手から零してないか。

 押しとどめさせているのは、誰? 今が本当に最善だったの?


 言葉を失って凍り付いたように固まる私を、深い緑の瞳を細めたカミッラ正妃が見下ろす。


「この数日のデュリオは、王に相応しい判断を見せました。いらぬと口にしながら、国王と同じ目で政を見ていた。何もかもが相応しいと分かっていて、このまま誰も彼もがデュリオを埋もれさせるのか? そんな、――」

「カミッラ、やめよ。王を決めるのは私で、リーリア・ディルーカに問う内容ではない」


 途中で遮って跳ねのける言葉に、カミッラ正妃が私からエドモンド国王陛下に視線を移す。


「どうかしら? 決めるのは王でも、決め手になるのは王ではないかもしれない」


次回の更新は 12月11日になります……


出来るだけ、コンスタントに更新していきたいのですが、

このところ忙しくてくて……。



次回は

王都を出て聖女として活動?


後章も、次回の中ほどで三分の一の区切りを迎えます。

王都以外での活動が後章中部分で山です。




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