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あれが役に立つなんて!

グラスの水が温くなってきたと感じ始めた頃、ジャンが満面の笑みを浮べて戻ってきた。


「レナート王子! 準備ができました」

「ありがとうございます。一体、どんな準備をしたのですか?」


 ちょっと得意げにジャンが顔を上げる。懐かしい表情に思わず笑みがこぼれる。子供の頃、知らない遊びを教えてくれた後もジャンはこんな表情をよく浮かべていた。


「どんな仕事でも、心を解放する場所があります。騎士の場合は、それが待機所や休憩室のようです。一部屋お借りして、少々細工をしてまいりました」


 確かにそんな場所は、誰にも何処にでもあるのかもしれない。私にも、以前は外苑があった。


「細工をしたという事は、姿を見せずに素の彼らを見られるのですね」

「はい。しかし、こちらの声も聞こえてしまいます。ご満足頂けるまでは、何があっても声を上げてはいけません」


 そこまで言って、何かを思い出したのかジャンが顔を顰める。

 私の前に回り込むと、丁寧に一礼する。


「環境には十分配慮しましたが、お聞き苦しい話題が出る可能性がございます」


 ジャンが礼をとってまで告げるなら、王宮や国政に関する聞き苦しい不満が出るのかもしれない。


「大丈夫です。そういった発言も仕方ありません」


 やや不本意そうな顔のまま、ジャンが他より少し離れた建物を目指す。


「あちらでございます。レナート王子があまり目立たず移動できて、件の方々が素になれる場所として選びました」


 騎士団の中でも一段と古い建物に近づくと、何人かが私に気付いて慌てて礼をとる。そっと唇に人差し指を立てて、忍んでいるから内密にと告げる。


 建物に入ると、騎士たちの汗の匂いなのか独特の香りがした。僅かに軋む床を踏んで奥へと足を進める。微かに笑い声が聞こえてきて、ジャンが声を潜めて囁く。


「ここは、下級騎士を中心に雨天の訓練で使われています。あの一番奥の部屋に理由をつけて、件の方々を招いております。我々は手前の部屋に入りましょう」


 さっきのジャンの言葉を思い出して、気を引き締めてから扉を静かに開ける。


 男達の大きな笑い声が一段と大きくなる。

 声の元である壁を見ると、握りこぶし大の穴が空いていた。近づくと額縁の裏が見える。


 まさか、レナート王子の為に魔法で壁に穴を開けたのだろうか。そっとジャンを見ると得意げな笑顔が返ってくる。

 些かやりすぎな気がするが、有能で過保護な従者に微笑み返して穴に身を寄せる。男たちの声がその場にいるみたいに、一語一句はっきりと聞こえた。


「俺たちは運がいい! 冷や飯食いが次期国王の護衛候補だ!」

「まだまだ、決まりではないだろ? 内密だし個人的にと言っていた」


 砕けた口調に、あの時の黒ずくめが重なる。

 どちらもよく似ていると思っていたが、こうして聞くと二人の男の違いがよく分かる。


「なんだ、お前のほうが喜びそうなのに随分と冷静じゃないか?」

「俺は君ほど困っていないからな。俺の方が評価されているし」


 ちょっとの沈黙の後に、何かが大きく崩れる音がした。思わず身を竦めてジャンを振り返ると、やれやれと言った様子で肩を竦める。

 再び、耳を澄ますと気短そうな声が苛立ちを含んで怒鳴る。


「くっそ、なんだその目は! むかつく奴だな! お前に負けた覚えはないぞ」


 やっぱり、こちらは違う。あの時の黒ずくめの男も『くそ』って言ったけど、もっとあっさりとした言い方だった。

 もう一人の男が負けじと言った感じで怒鳴り返す。


「き……俺もお前に負けた覚えはないぞ!」


 基本の言葉が丁寧で、苛立ったり怒ったりするとわざと荒くする。あの時と話し方が同じだ。

 もっと確かな確証を得たいのに、男たちが沈黙してしまう。

 何かを乱暴に置く音だけが、静かな中に響く。こちらの息遣いが届いてしまいそうで、少し不安になってきた頃、落ち着きを取り戻した声で再び男たちが話し出した。

 

「お前は同僚になるかもしれないからな。とりあえず、仲直りするか?」

「まぁ、そうだな」

「あー、面倒だ。本なんて崩さなきゃよかった。おっ、いいものがあった」


 何かを捲るような音が微かに聞こえた。なんだか耳障りな笑い声が響く。一体なにを見ているのだろうか。騎士の休憩所におかれているのは物語か、剣の紹介本だろうか。


「おい、お前も見ろよ。この娼館の絵、随分と女の顔と体に嘘がある」


 娼館? 女? 顔と体と嘘? 何を見ているのか? 

 思わずジャンを見ると、凄く嫌そうな顔をしていた。耳を両手で覆う真似をして、私に聞くなと必死に指示を出す。

 何となく……それがはしたない種類の本だと理解して頬を膨らませる。 

 休憩室という公共の場で、はしたないものを男の人が平然と見たり話したりするのが信じられない。

 頷いて耳を閉じようとした時に、聞き捨てならない単語が聞こえてきた。

 

「最近、とんでもないじゃじゃ馬に会って、女への夢が壊れた」


 じゃじゃ馬? この声にじゃじゃ馬と罵られた記憶が頭を掠める。

 男が『私』の事を語れば、似ているという以上の確実な証拠だ。壁に額がつくまで、ぐっと身を乗り出す。


「じゃじゃ馬? いいじゃないか。気が強い女を躾けるのも一興」

「躾けられるじゃじゃ馬じゃない。あれは暴れ馬……いや、野生馬だ」


 なんだか、なんだか、なんだか、なんだか、なんだか!!!

 『私』を指しているとは考えたくない。でも、証拠になるから『私』であって欲しい。複雑な思いに頭を抱える。


「どこの令嬢だ? 美人か? 可愛いか?」


 『私』の名前を言って。でも、言わないで。


「名は言えん。だが、顔はいい。黙って大人しくしていれば、すごい美人だ」


 やっぱり事が秘密だからか、男が名前を伏せる。

 がっかりしてるのに、何故か『美人』という言葉には頬が緩んでしまう。


「美人の野生馬。いいじゃないか! 会いたいね」

「やめとけ、顔が良くても下着が最悪だ!」


 下着? 声にならない悲鳴を上げて顔が赤くなる。

 あれは仕方なかった。ああしなければ、身動きがとりにくい。

 そもそも、下着なんて見せる事は考えてない。見せないならば、あのズロースは色も悪くて襤褸いけど、温かくて履き心地は最高なのだ。

 必死に自分に言い訳をしても、膨らんでいく羞恥心が止められない。耐えかねて、会話を止めようと踵を返した私の耳に、決定的な会話が飛び込んでくる。


「見たって事は恋人だったのか?」

「違う! 俺は嫌々見せられたんだ。白の愛らしいドレスの美人なら、普通は清楚なのを期待するだろ? あの女、ぼろぼろの焦げ茶色のズロースを履いてた。あれ以来、女の下着に疑いを持つようになった。くそっ、最悪だ!」

「それは夢が壊れる。災難だったな、ベッペ!」


 あの日の、あり得ないドレスと下着の組み合わせ。舞踏会の夜にする令嬢は、滅多にいないだろう。一応、言い訳するのなら、私だっていつもじゃない。あの日だけだ!

 だから、何もかもが確定した。

 偶然の『私』の恥かしい秘密を知っている男の名は、ベッペ・ボニート。彼が私と対峙した黒ずくめ男で間違いない!


 ジャンの袖を引いて部屋の外に出る。

 隣の部屋に鍵となる黒ずくめの男がいるなら、今すぐに踏み込みたい。でも、取り逃がす事になればすべてが水の泡だ。

 

「ジャン。私はグレゴーリ公爵の元に一度戻ります。状況を整えるまで、ベッペ・ボニートの監視をお願いします」

「ベッペ・ボニートですね。彼がお探しの騎士なのですか?」


 その言葉に頷くと、踵を返して急ぎ足でグレゴーリ公爵の元へと向かう。建物を出ると太陽はもう頭上の一番高い所にあった。


 グレゴーリ公爵の部屋に戻ると、早速ベッペ・ボニートが『私』を襲った人物であったことを説明した。

 話しがズロースの件に及ぶと、真面目なグレゴーリ公爵が吹きだす。


「お笑いにならないで下さい、グレゴーリ公爵」

「いやいや。失礼。うちのジュリアもじゃじゃ馬ですが、ディルーカ伯爵令嬢も噂にたがわぬじゃじゃ馬ですな」


 噂にたがわぬとは心外だ。ここ数年の私は、大変お淑やかな令嬢だと自認していたのに。


「じゃじゃ馬はとにかく、動かしがたい証拠と言えます。至急、ベッペをここに呼んでより詳細な証言を得て頂きたいです」


 身を乗り出した私を、グレゴーリ公爵が手で制する。それから棚に近づいて幾つかの書類を取り出す。


「何の書類ですか?」

「保留にしていた未処理の書類です。ディルーカ伯爵令嬢を襲ったのは三人。ストラーダ枢機卿に知られる事なく、全員を捕らえるのが望ましいでしょう。下準備として、第二隊長ダルボラ伯爵を含む『教会派』の上役数名をここから離します」


 ダルボラ伯爵。その名には覚えがある。牢に捕らえられた『私』の聴取に、ストラーダ枢機卿と共に来た人物だ。たった一度しか来てないのに、何度も足を運んで『魔女』と私が仄めかしたという嘘だらけの調書を作った。


「一緒に捕らえて、ダルボラ伯爵からも聞きださないのですか?」

「問題もある人物ですが、ダルボラ伯爵は上位騎士としての強さを持っております。尋問で簡単に口を割る事はないでしょう。レナート王子がお出になった後、舞踏会での上役の動きを確認しました。『教会派』の多くが舞踏会に参加者として出ており、ストラーダ枢機卿と接触があった者はおりません」


 ストラーダ枢機卿が上役と接触していない意味に拳を握りしめる。


「下級騎士たちに、ストラーダ枢機卿が直接指示をした可能性が高い。そういう事ですね!」

「はい。今回は黒ずくめの者とストラーダ枢機卿の繋がりを追う事に集中し、まだ脆い下級の騎士だけを崩します。ここに『教会派』の上役を残せば、彼らの捕縛もストラーダ枢機卿の捕縛も必ず横やりが入る。まずは、その障害を取り除きましょう」


 そこからの流れは、何だかとても早かった。

 グレゴーリ公爵が、次々と信頼する騎士に指示を出す。誰かが戻って来るたびに、どんどんと状況が整っていく。半刻もしないうちに、騎士団から障害になる人物が姿を消した。

 全ての状況が整った後、遂にベッペがグレゴーリ公爵に呼ばれた。


 部屋に最初に入ってきたベッペは、私の姿を認めるとやや濃いめの茶色の瞳を輝かせた。きっと護衛に取り立てられる事が決まったと、勘違いしていたのだろう。

 でも、グレゴーリ公爵付きの騎士が挟むように左右に並ぶと、途端に笑顔を消して目を泳がせる。

 低く腹に響く様な声で、グレゴーリ公爵がベッペに問う。


「ベッペ・ボニート。騎士として、一切の嘘は吐くな。舞踏会の晩に貴様は何をした?」


 一瞬で青ざめる。逃げるように足を引いた途端、左右の騎士がそれを許さないように距離を狭める。決して逃げられない状況を悟ると、ベッペの青い顔がみるみる白くなっていく。


「な、なにも知りません。お、俺は、騎士としての任務に……」

「もう一度、問う。ディルーカ伯爵令嬢が舞踏会の会場を出た後、捕縛されるまでの間。お前は何をしていた?」


 歯の根が合わなくなって、ベッペの唇が小刻みに震えた。この態度だけでも、彼が関わったのは一目瞭然だった。


「で、ですから……私は任務についておりました」

「誰とだ?」

「……ひ、ひ、一人です」


 尚も抵抗する様に嘘をベッペが重ねる。グレゴーリ公爵が、私に居心地の悪そうな視線を寄こす。これは、あの情報を口にせよという意味と捉えて、非常に不本意だけど一歩前に進み出る。

 新たに二人の騎士に『私』の汚点を知られる事になるのは忍びないが、背に腹は代えられない。


「水色のドレス……。茶色のズロース」

「ひいっ……」


 ベッペが恐ろしい事を聞いたような悲鳴を上げる。悪くない手応えだけど、『私』のズロースだけに些か納得がいかない。

 今にも何かの糸が切れてしまいそうな程怯えたベッペに、矢継ぎ早に『私』があの日に投げつけた罵詈を口にする。


「……すけべ。おたんこなす」

「……なんで、その言葉を知って……」


 私と彼の間であった一幕。特定されている事実を思い知ったベッペが、唖然と口を開ける。


「乱暴者。おたんこなす。すけべ」

「ち、ちがいます! だって、それは彼女が……」


 レナート王子のとびきり綺麗な顔で、一番冷え冷えとした笑顔を浮かべて見せる。


「そうですね。リーリアが見せたからですね。でも、見せたくて見せた訳ではありません。貴方が、ディルーカ伯爵令嬢を襲った。これは『叛逆』に関わる罪です。これ以上罪状を重くしたくなければ、詳らかに全てを話しなさい!」


 糸が切れたようにベッペが膝をついた。

 彼は落ちた。きっと知っている事の全てを話す。蹲った体を震わせるのを見て、安堵の息を吐く。

 瞬間、顔を上げたベッペが地面を蹴るように立ち上がって、私に向かって飛びかかる。


「裏切者!」


 そう叫ぶと同時に剣に手を掛けるのが見えて、慌てて横に飛び退る。鞘から抜くと思った瞬間、ベッペの体が反転した。

 足払いを綺麗に決めたグレゴーリ公爵が立ち上がる。目にも止まらないというのは、こういう事を言うのだろう。ジュリアの綺麗な足払いのお手本は、まちがいなくグレゴーリ公爵だ。


「捕らえよ! ベッペ・ボニートには『叛逆』の疑いがある。あと二名の名を、半刻以内にどんな手を使っても吐かせろ」


 グレゴーリ公爵が厳しい声で命じると、地面に倒れた体を二人の騎士が押さつける。ベッペが気の強そうな顔で唇を噛んで私を睨む。

 自分の派閥の盟主だと思っていた人物が、手のひらを反したら確かに『裏切者』と叫びたくなるだろう。


 ふと、一つの事実を思い出す。裏切者? 盟主? 

 『私』を救うと思っていたから、『教会派』は敵とばかり考えていた。でも、『教会派』にとってレナート王子の存在は敵じゃない。


「お待ちください。私に説得をさせてください」


 グレゴーリ公爵を止めると、騎士に抑えられて苦し気なベッペの側で膝をつく。

 ベッペが短く呻いて、私を罵る言葉を短く幾つも口にする。

 気に留めずに身を屈めると、その耳にそっと囁く。


「裏切りではありません。これも我々『教会派』の手の打ちにある事です。ベッペが捕まる事も布石。全ては計画通りで、貴方が打ち明けて下さらないと、我々『教会派』の目的が先に進まない」


 優しく甘く宥めるように言った言葉に、ベッペが驚いた様に目を瞬く。

 私はレナート王子。レナート王子は『教会派』の盟主。ストラーダ枢機卿やアベッリ公爵には通じなくても、その威光は下の者達には必ず通じる。

 柔らかく優雅に自信を持った笑顔で頷いて、更に甘い言葉を囁く。


「貴方がこんなに意志が強いとは知りませんでした。どうか耐えて一度は、負けた真似をなさって下さい。全てが終わったら『教会派』功労者として、必ず栄誉を約束します」


 すっと立ち上がって、ベッペに目配せをしてから言葉をかける。


「さぁ。罪を悔いたのならば、全てを詳らかになさい。貴方と共に動いた二人の男と指示した枢機卿の名前を!」


 既にベッペが私を見る瞳には、裏切者に対する憎悪はない。自分の未来を夢みる瞳で、ベッペが求める答えを口にする。


「一緒に動いたのは、二隊のブルーノ小隊長。三隊のイザッコです。指示をしたのはストラーダ枢機卿です」


 微笑んでから間違っていないと言いうようにベッペに頷いて、更なる言葉を引き出す質問を投げかける。


「どんな指示をされたのですか?」


 苦し気な顔を取り繕いながら、ベッペの口元に抑えきれない笑みが浮かぶ。ベッペは演技があまり上手ではないらしい。

 

「はい! ストラーダ枢機卿が二人を連れて、私の所にやってきたんです。そして、賊の振りをしてディルーカ伯爵令嬢を、騎士たちが捕らえに来るまで足止めしろと言われました」


 グレゴーリ公爵に目配せすると小さな頷きが返ってくる。


「ベッペ。このまま、あの日の事は全て話してしまうのですよ。いいですね?」


 何度も頷いたベッペを騎士たちが手荒く立ち上がらせて、更なる取り調べの為に別室に連れて行く。


「さて、どんな狸をなさったのか。しかし、お見事でした。レナート王子」


 グレゴーリ公爵の晴れやかな笑顔に、側にあったソファーに体を沈ませて力を抜く。


「気が抜けました……」


 背もたれに体を預けて天井を仰ぐ。今のは、レナート王子の立場を上手く使った会心の出来だった。これで、ベッペは何もかも喋るだろう。

 グレゴーリ公爵が残りの二人を捉える為に、指示を出すのを目を閉じて聞く。騎士が入れ替わり立ち替わりする度に、状況がどんどんと進んでいく。

 ストラーダ枢機卿を抑える事が出来るのは確実だ。後は、いつ行うかだ。


 目を開いて、慌ただしい動きを眺める。既に太陽は頭上を過ぎただろう。

 ヴィントの丘はどうなったのだろうか。


 思いをはせていたら、見慣れない騎士が一人室内に入ってきた。

 旅装の装備に慌てて立ち上がる。グレゴーリ公爵が人払いを済ませると、私の前に跪いて騎士が報告をする。


「ヴィントの丘より一報です。未明にアベッリ公爵別邸に到着。夜明け前に制圧に入りました。家人の激しい抵抗と火災ががあり、時間がかかりましたが一人も取り逃がすことなく完了しました。書類の部屋もすでに見つけております」

「火災による作戦への影響は?」


 グレゴーリ公爵が尋ねる。そこは私も気になっていた。


「水魔法で隠し場所の部屋は、激しい損傷を免れました。一部に浸水やすすは見られますが、概ね無事である事は確認しております。しかし、火の勢いが強い上に制圧を優先した為、屋敷の半分が失われました」


 火災と聞いた時は冷やりとしたが、どうやら書類は無事みたいだ。あと心配なのは、周囲に状況が知れて『教会派』に漏れる事だ。


「火災はどのように周囲に伝わってますか?」

「ジョルジオ様のご指示で、討伐に向かう途中に火災を見つけて救助したという筋書きを流しております。家人は、医者に向かわせたという事で怪しまれた様子はありません。念の為、数名の兵を街道においてヴィントの丘から出る者には目を光らせています」


 ジョルジオは、指揮をとっているグレゴーリ公爵の次男だ。流石に咄嗟の事態にも良い対処をしているようで、ひとまず胸を撫で下ろす。


「怪我人などは、出ていませんか?」


 私の言葉に旅装の騎士が、一度深く頭を下げる。


「はい。騎士の被害は怪我人が少し出た程度です。私は制圧完了と隠し部屋発見の報告の為に、一足先に早馬として帰還いたしました。かなりの量の書類があった為、精査には少し時間がかかりそうです。ジョルジオ様は馬だけで構成した先発隊で、昼前には重要な一部を運び出すと仰っていました。二隊は午後に出発予定で、分量に応じては荷馬車を借りての帰還になるそうです」


 労ってから休憩をとるように命じて、早馬の騎士を下がらせる。

 思った以上に早く動いてくれている。この速度なら夕刻……日が沈む頃にはアベッリ公爵追及の資料も揃う事になる。


「グレゴーリ公爵。夕刻に資料が届くのであれば、到着を待っての決行で如何ですか?」


 確かな手応えに、心なしかいつもよりも上機嫌に見えるグレゴーリ公爵が頷く。


「宜しいかと思います。どちらかを早めにしてしまえば、警戒される恐れが高い。できれば、同刻が望ましいでしょう」


 きっと、夕刻からは忙しくなってしまうだろう。

 なら、今しかない。


「申し訳ないのですが、リーリアに会ってきても宜しいですか?」

「勿論です。きっと不安でしょうから、お慰めして差し上げたら良い」


 とても優しい眼差しで、グレゴーリ公爵が微笑んだ。


本日、更新未定です。

ちょっと仕事が忙しくて、書く時間がなかなかとれません。。

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