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異世界の哲学  作者: 玄徳
運命の哲学
1/12

神は死ん・・・でいない!?

どうも。読んでいただきありがとうございます。玄徳です。今回が初投稿になります。


高校生が空いた時間を割いて書いたものですので、どうか温かい目で読んでください。


ご意見、ご感想をお待ちしています。

 その一人の少年は、凍える冬の川の中で溺れながら、ぼんやりとした面持ちで走馬燈を眺めていました。


 もはや手足に感覚といったものはなく、その少年の死は目前に迫っていました。少年の齢は十五、六といったところでしょうか。もはら死人と比べても遜色ないほどに青白いその顔は未だ幼さが抜けていませんでした。両の目に宿る深淵の、なんと深いことでしょう。


 少年は彼岸への道すがら、自分の僅かばかりの人生の断片を並べ、最後に自分の生をこう評したのでございます。


 勿体ない生き方をした、と。


 灰色の空が鈍く光りました。


・・・・・


・・・


ああ、これはダメですね。


そうですか。


はい。欠陥が多いです。まあ初めてはこんなものです。やり直しましょう。


・・・もう少し続けてみます。


飽きられますよ?


構いません。私は飽きませんから。


そうですか。まあ、やれるところまでやってごらんなさい。そうして得た経験を、次へ生かせばよろしい。


はい。


・・・


・・・・・


 異世界という概念を、あなたはどのようにお考えでしょうか。妄想の延長線上? あり得たかもしれない平行世界? 輪廻転生の一部? まあ一つ私から言わせてもらえるならば、一つの終わりは一つの始まりを生むのでございます。川で溺れて死んでしまった少年は、別の世界、俗に言う異世界で今再び目を開けるのでありました。そんなことが本当に起こるのかって? それは、死んでみなければ分かりますまい。


 


 少年、業欄(ごうらん)(とおる)は柔らかい土の上で目を覚ましました。まだ意識がぼんやりしています。寝ぼけたように頭を起こして周りを見渡すと、そこは森の中でございました。きぃきぃと鳥の鳴く声が遠くから聞こえます。


(んー・・・・・。・・・・・!!??)


 少年が事態を飲み込むまでにどれ程の時間を要したでありましょうか。自分の身に起きたことを理解するまでの流れを追ってみましょう。


 川に流され何処かに行き着いた?→周りは草木だらけで明らかに森なので違う→誰かに助けられた?→森に連れてくる理由がない→そもそもこんな所知らない→見たこともない生き物がいる!→ここは地球上じゃないのでは?→というか僕は死んだのでは無かったのか?→ここは死後の世界?


 ざっとこんな流れでございます。結局ここは死後の世界ではなく異世界なのでございますが、そこは些細な違い。いずれ誤解も解けるでしょう。

 

 転生する前に着ていた学生服とはうってかわって、ぼろの布切れに身を包んでいた少年は、靴も靴下もない素足で森の中を歩き回りました。日差しが温かみを帯びているからでしょうか、少年は不思議と肌寒さを感じませんでした。


 辺りを見れば、蟻のような生き物や、蝶のような生き物が次々と少年とすれ違います。「ような」とついているのは、その生き物と少年の中で基本情報として描かれている蟻や蝶との間に微妙な相違があったからです。


 蟻のような黒い生き物は、一見隊列を組んで地を這っているように見えますが、よく見れば口から生えたトゲが前の蟻のような生き物の尻にできた空洞に突き刺さって連結していました。体格も少年が見知っている蟻より大分大きく、親指ほどもあります。


 蝶のような生き物は、鮮やかな黄色い羽を持ち合わせていましたが、羽が六枚あり、十数匹の群れが一斉に羽をばたつかせ可視化できるほど濃い黄色の鱗粉を放つ姿は異様とも言えました。


(毒とかあったらどうしよう・・・。あまり近づかない方がいいかな)


 少年には好奇心や探究心がないわけではないのですが、流石に身の安全には代えられなかったようでした。そそくさと虫のような生き物達から逃げるように足を進めていった少年は、十分ほど歩いた頃でしょうか。森の中でも開けた場所に出ることができました。中央には大きな切り株が一つあり、さながら秘密基地のようでした。


 歩き疲れた少年は、切り株に腰を掛けると、自分がここにいる意味を考え出しました。姿勢は自然と、「考える人」になっていました。


(ここが死後の世界と仮定するなら、僕は何をするためにここに呼び出されたんだろうか。ここは天国とも地獄ともつかないし、そもそも生前の僕が聞いていた天国とか地獄とか、黄泉や彼岸とかいった概念がここに当てはまるかも分からない。考えろ・・・僕がここにいる意味を・・・)


 ポクポクポク・・・


 少年は考え続けました。


(仮に自分が死者の魂を呼び出す側として、何を目的とする? その時の僕の立場は? 神のような、この世界を創造できるような存在がこの世界の一部に組み込むために僕を呼び出したのか?)


 ポクポクポク・・・


 少年は悩み続けました。


(前世に悔いがあったり、前世に犯した罪を償わせたり・・・そんなところだろうか。前世・・・まぁ確かに、今にして思えばろくな人生を歩んではいなかったかな。それで人生をもう一度やり直したいか、と聞かれたら微妙だけれど。罪を犯した、というのも、納得はできる。でも・・・)


 ポクポクポク・・・


 少年は一時間以上、思考の海に身を投じたままでした。


 ふと、足元に何かふさふさとしたものが触れていることに気付き、少年は思考の海から引きずりだされました。それは、まさしく少年がよく知る、うさぎに類似した生き物でした。耳があまり長くないのと、目が青いことを除けば、それはまさしくうさぎといえるでしょう。白い体毛が心地よく足を撫でます。


(警戒心とかないのかな・・・)


 周りを見れば、うさぎのような生き物は一匹ではありませんでした。二十匹近くの群れが少年を取り囲んでいました。それを見た少年が何気無しに足元の一匹を抱き上げてしまったのは、それまでの虫のような生き物に比べて、あまりにも毒々しさや攻撃性を感じなかったからでしょう。見た目が少年の中のうさぎによく似ていたことからも、まさかこの愛くるしい生き物が自分を攻撃しようなどとは、露ほどにも思っていませんでした。


 突然抱き上げられたうさぎのような生き物は、今まで彫像のように微動だにしなかった少年が動き、あまつさえ自分を抱き上げたことに驚き、本能に基づいた防衛手段を行使したのでございます。


「うわあああああああああああああ!?」


 そのうさぎのような生き物は白いふさふさとした毛を一瞬にして逆立て、少年に突き刺したのです。少年は何が起こったのか分かりませんでしたが、とにかくこのうさぎのような生き物を離さねばと思い手を放しました。ところが、毛は先端が鍵爪のようにでもなっているのか、少年にぴったりとくっついたまま離れません。ちくちくしても幸い痛さは感じなかったものの、少年は困嵐(パニック)に襲われました。


 そんな少年の奇声に触発されたのか、周りにいたうさぎのような生き物達は蜘蛛の子を散らすように四方八方へ逃げていきました。


 少年は必死になってうさぎのような生き物を振りほどこうと試みましたが、片手から引き剥がそうと掴めば、その掴んだ手が体毛に引っかかって振り落とせなくなります。その手から引き剥がそうと試みれば、引き剥がすために触れた部分に体毛が引っかかるのです。


 そんな歯痒い思いを繰り返している内に、少年は自分の方に一人分の足音が近づいてくるのを聞き取りました。鬱蒼とした森の中を音楽を奏でるように足音を鳴らしながら進むその者は、うさぎのような生き物と悪戦苦闘しながらも此方を警戒している少年の前に姿を現したのでございます。


「ああ! 悲鳴が聞こえたと思って来てみれば、あなた、モードルを怖がらせちゃったのね!」


 その者は細長い耳が特徴的な女性でした。容姿から推測すれば、年は少年より僅かばかり上といったところでしょうか。煌めくような緑の髪は肩の辺りで切り揃えられ、翡翠石のように深い蒼の目は透き通っているようであり、動物の皮で作られたのであろう、狩人のような装備を有していました。その女性は少年を見つけると、その手の内で体毛を逆立てているうさぎのような生き物(どうやらモードルと呼ばれているようです)にすぐに気が付きました。


「駄目じゃない! モードルは体力が尽きるまで敵に張り付いて仲間が逃げる時間を稼ごうとするくらい仲間思いなのよ? もしかしてあなた知らなかったの?」

「・・・」

「ん? あ、ちょっと待っててね、モードルの毛に引っかからない素材の手袋があるから。」


 その蒼目の女性は少年がなにやら考え込むように固まっているのを、モードルの方に原因があると思ったのか、腰に巻かれた革帯(ベルト)に付いてある保結袋(ポケット)の中身をまさぐり始めました。


 しかし、その時少年の懸念は全く別のところにありました。それは、このうさぎのような生き物の名前がモードルだということでも、その女性の容姿があまりにも見目麗しいことでもありませんでした。


(言葉が通じている・・・!?)


 そうです。少年は彼女の足音が聞こえてきたとき、何よりもまず言葉が通じないことによる誤解を恐れ、警戒していたのです。端から見れば、少年は小動物を虐待しているようにも見えたでしょう。もし彼方の反感を買ってしまったら、丸腰で地の利がない少年は明らかに不利です。少年は修羅場を覚悟して彼女との会合に臨んだのです。しかし、どうやらそれは杞憂に終わったようでありました。


「はいはい、ちょっとじっとしててね。」


 女性は慣れた手つきで手袋を嵌めると、モードルを引き剥がしにかかりました。あれほど苦戦していたモードルがあっさりと剥がされ、森の奥へ投げ込まれます。


「足元に置いたりするとまた引っ付こうとするから遠くに投げないとダメなのよ。いやぁ、私も何度も失敗したわぁ」


 女性はそういって快活に笑うと、少年の纏う布切れに所々くっついている白い毛を一つ一つつまみ上げました。少年は思わず見とれそうになりましたが、そこまでお世話になるつもりはないのか、彼女の手を払い除けました。そして、助けてもらった身で流石に失礼だったかと一つ咳払いをし、その態度を改めました。


「先程は助けていただきありがとうございました。僕は業欄透と言います。モードルがこのような性質を持っているとは知りませんでした。」

「私はマタネ・グッバイ。よろしくね、トール君。」

「・・・いえ、業欄は姓です。透が名です。」

「なるほど! でもまあいいや。よろしくね、トール君。」


 いきなり名前で呼ばれた少年は、訂正させようと姓名の区別を伝えたのですが、どうやら向こうは名前で呼ぼうが苗字で呼ぼうがどちらでも構わないようでした。なんだか北欧神話に出てきそうな名前で呼ばれている気がした少年でしたが、そこはあまり気にしないことにしました。


(それにしても、よく別れそうな名前だなぁ。)


 そこもあまり気にしないことにしました。


「で、よろしくついでに聞いておくんだけど、あなた、この辺で見ない子よね? 家は何処にあるの?」

「えっと、日本・・・と言っても多分知らないでしょうね。なんというべきか・・・」


 少年はこの世界での自分の立場がよく分かっていませんでした。生前どこに住んでいたか、という質問かと一瞬考えたが、彼女の生気に溢れる立ち振舞いから見ると、ここが死後の世界だというのは間違いかもしれないと思っていました。少年は受け答えに詰まりましたが、予想外なことに彼女は納得したような面持ちでした。


「ああ、あなた神の連れ子なのね。道理でモードルも知らないはずだわ。」

「神の連れ子・・・?」

「ええ。神様がたまに別の世界の魂を選んで呼び寄せてくるのよ。それが神の連れ子。どういう基準で選ばれるかは分からないんだけど、あなたのような黒髪黒目の真っ黒けは私初めてみたわ。」


 なんと、自分が神様に選ばれた存在だったとは、と少年は驚きました。選定の基準が分からない以上必ずしも喜ばしいこととは限りませんが。そして、少年はさらに驚くべき事実に気付きました。


「か、神様がいるのですか!?神様が実在するのですか!?」

「え、ええ、いるわよ。嘘、そっちの世界にはいなかったの?」

「いるのではないかと考えられてはいましたが、それを証明できてはいなかったんですよ。」


 興奮気味の少年に気圧されるようにマタネは後退りました。神様が本当にいるのかどうか。中二を経験したばかりの少年は体の内から溢れる熱を止めることが出来ませんでした。


「証明なら出来るわよ? まずあなたのような魂を世界間で移動させられる存在がいるってことでしょ? それに私達エルフの長寿の体質も神様から賜ったものだと聞いているし、後はやっぱり神理(トゥルース)ね。あれは間違いなく神様からの贈り物だし。」

「その神理(トゥルース)というのは?」

神理(トゥルース)っていうのはね、神様から試練と称して与えられる超能力みたいなものよ。神理(トゥルース)を得るときには神様と短い話が出来るみたいだから、神様は絶対にいるっていう訳。」

「神様と話が・・・それは僕にも得られるものでしょうか?」

「うーん、どうともいえないわね。神様がどういう基準で神理を与えているのか、まだはっきりしていないもの。ただ、神理を持っている者って生まれつき見えてる世界が違うっていうか考える力や着眼点が常人とは違うって言われるから、トール君もそういう人ならいつか得られるんじゃないかな。」


 得られるとは限らない。でも絶対じゃない。神様は実在する。

 このことは少年の心に僅な光を灯しました。もはや少年の中でこの世界は生前の罪を償う死後の世界から、未知に溢れた冒険の世界へと変貌を遂げていました。


 もっと知りたい。


 この世界のことを。


 この世界の真理を。


 ふと、一陣の風が木々を抜け、木の葉を舞わせながら少年の背中を押し、髪を揺らしました。前の人生でどんなに他人の為に善行を積み、感謝されても、今日この時ほどの感動を覚えたことはなかったでしょう。


 少年の前に立つ可憐な女性は、腰に手を当て、悠然とした構えで少年と向かい合いました。


「じゃあ多少なりともこの世界のことを知ってもらえたところで、改めてようこそ! あなた達の言う異世界に広がる、ハミッタの森へ!」


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