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魔導召喚の契約士  作者: 匿名
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1_弱者と覚醒

 碧暦420年の夏、熱気と湿気のなか、力を極めようと守護神たちが守り抜く神殿で鍛錬していた。


 目的は世界を支配している邪神を打ち倒すために。


 祖国を燃やされ、親しい友人や家族を奪った憎き敵。


 あの時の抗えない弱さと悲しみは絶望を味わった。


 神殿に邪神を討つことができる秘術があると、魔王軍のひとりが口漏らし、その場に行きついた。


 古臭い石造りにツタが生え、痛み放題だったが、守護神と名乗る人物と出会い、鍛錬つけてもらうことに至った。どんな辛くても耐え抜いて、邪神を倒すことで唯一の救済(解放)だと考えていた。


 いまでも耳に残る祖国の悲鳴と自分の名を呼ぶ友人や家族たち。


 邪神を討つまでその声が聞こえなくなるのをひそかに願い、修行に励む勇気をくれた。


 冬に近くなるころ、突然、神殿の結界が崩れ落ちた。


 なんの前触れもなくガラスを割ったように砕かれ落ちていく。


「邪神を封印しろ!」


 数十人のフードをかぶった者たちが現れ、男を取り押さえ、守護神を囲む。


「ちがう、そいつはここの守護神だ。邪神じゃない」


「うるさい」


 鉄の棒のようなものに殴られ、男は気絶をする。


「○○(男の名前)! お前らああ――」


 気が付いたとき、男ははりつけにされ、四肢を壁に括り付けられ、身動き一つたてられない。フードの者たちはなにか唱えている。


 フードたちの前に、守護神であった亡骸が散乱している有様が広がっていた。


「○○(守護神)!!!」


 男は何度も叫び、縛られた四肢を無理にでも抜け出そうともがくが、無駄な抵抗だった。鎖は切れず、また魔法で解除の呪文を唱えるも無駄に終わる。


 フードたちの詠唱が終わると同時に、地面に魔法陣が現れるのを目にして、とっさに魔法で魔法陣を吹き飛ばす魔法を放ったも、その魔法は無効化されてしまう。


「なに!?」


 驚くのもつかの間、魔法陣から鎖が無数に飛び立ち、男の全身を縛り上げ、魔力を吸われていく。体内から力が抜かれていく。堕落のような疲労に満ちたような重力に押さえつけられる感覚が全身に広がっていく。


 どうすることもできず、フードの者たちに訴えた。倒れる前に。


「なぜ、こんなことをする! 俺はただ、鍛錬していただけだ! 邪神を討つために」


「邪神の遠吠えなぞ聞かぬ」


 フードの者たちのひとりが声を上げた。


 フードを脱ぎ捨て、白髪と白いひげを生やした男が正体を現し、皆の者と一緒に手を上げる。魔法陣は男を模様が描かれた鎖に強く縛られていく。


 痛みと我慢ならない精神の弱まる一方で、意識も少しずつ薄れていく。


「俺は…邪神…じゃ……ない」


 声にならない言葉を最後、意識が完全に途絶えた。


 暗い海を彷徨っていた。


 目を開けているのかどうなのかはっきりとしない。そんな漠然とした感覚が身を包む。


 どこまでも続く暗く闇の海。どこが底なのか空なのかさえ、わからないほど暗い。泳げるほどの力はなく、ただ流されるまま、海に従わせられる。


 そんなとき、誰かが自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。


(しゅご…守護神様!?)


 男がそう尋ねると同時に、その声の持ち主が現れた。


 白い靄に包まれた人のカタチをした何かだった。


「時間があまりない。我は見送りにしかできぬが、これをお主に授ける」


 白い靄が男を覆っていく。暖かい。寒さで震えているとき、干した太陽の光で暖かくなった布団にくるまれるようなそんな感覚だった。


「○○…?」


 男が呼びかけた。守護神の名を。


 けれど、呼びかけに応じることはなかった。


 もう一度叫ぶ、何度も何度も。けど、誰一人答えることはしなかった。




 目が覚めた。


 気づけば知らない天井、知らないベッドの上で横たわっている。


 ぶら下げた白い発光する電球がまぶしく照らしていた。


 片手で目を隠す。


 慌ただしく起き上がる。


 目の前にあった鏡を見た。鏡は男を一回り蔽えるほどの大きさだ。


 その鏡に映し出されていた姿は男を漠然とし青ざめた。


「これが…俺?」


 見たそのものが、もはや人獣と言えるほどの姿をしていたから。


 犬のような耳が頭部から生え、する老い牙は口の中から見えた。顔はトラのような猫に近い生き物で、目は鋭く獲物を狩るような赤い瞳をしていた。


 だけど、それ以外――頭部以外は人間で変わらない。


 服装はひどい状態で、シャツ一枚とパンツ一着のみ。声が茶色く薄汚れた手袋があるだけ。


 外観とは裏腹に人間に近い体格だったのは少々驚きを抑えられた。


(そういえば、魔力はどうなったんだ?)


 ふと気になったことだ。


 あの時、フードの者たちによって魔力を奪われた。魔力が減れば精神的にも押さえつけられるほど病弱になる。1回の下位魔法を唱えたら、めまいがして倒れるのかそのまま立ち上がったままなのか、それが

気になった。


 幼いころに一度だけ下位魔法が唱えることができるようになり、調子に乗って中位魔法を教科書から使用したとき、バッタリ倒れてしまったことがあった。


 あのときは、急に意識が飛び、視界が真っ白になった。


 限界を超えた魔力越えと診断され、数日間はまともに動けない体となった。自身にある魔力値が限度を超えると死ぬか、意識が途絶え数日は動けなくなる。


 ギリギリだと疲労と空腹が一斉に襲ってくるという。


 下位魔法のみ唱えてみて様子を見るということにする。そうすれば、多少危なくても対策はとれる。多分。


「えーと…魔法を唱えるのは半年ぶりだな」


 鍛錬に集中するために魔法を言葉だけで放てるように訓練していた。イメージと言葉だけ。詠唱は時間がかかるうえ集中するために隙がどうしても出てしまう欠点があった。


 邪神との戦いだと時間の勝負でもある。


 守護神の教え通りに、詠唱は捨て、言葉だけで唱えることができるようにした。


 その結果、魔法の大半は詠唱なしで唱えることができるようになったが、本来の詠唱の際の言葉が思い出せなくなってしまったのは致し方ない状況だろう。


「下位魔法を選択」


 頭の中に浮かぶ魔法名を選択する。


 深呼吸し、静かに息をするかのように吐いた。


「『アクアター』」


 し~んと静まり返る。


 あれ? と思い、今度は詠唱してみることにする。


「我が魔法の水精において命ずる『アクアター』」


 水がない場所から突如、水が噴き出した。


 床から天井へ水が噴水のように吹き上げたのだ。数秒も満たずに鳴りやんだが、まさか…詠唱しないと発動できない体となってしまったのだろうか? と驚愕する。


 床に膝をつき、ガックリする。


「今までの努力が水の泡」


 あれほど苦しい試練に耐えてきたのに、言葉(呪文名)で発動できないなんて最悪だ。


 けど、一度魔力を奪われている身としてみれば、まだいい方なのかもしれない。そう思うことに使用。これ以上、落ち込んでいたら立ち上がるのに苦労してしまう。


 ジグは足をつけ立ち上がり、他の呪文を試す。




 結果、中位魔法程度なら詠唱しても発動は可能であるということが証明された。しかも、魔力切れはほとんどなく連続で放つこともできる。だけど、呪文名だけの発動方法は全く意味がなさない。いや、使えなくなってしまっているのだ。


 覚えている範囲の詠唱と呪文名。大半の呪文名は覚えているのに詠唱のときの言葉が思い出せないのが相当悔しく思う。


 こうなるだったのなら、せめて教材を捨てずに身近に持っているべきだった。再び落ち込む。情けない、ああなんという情けなさだ。すべてが水の泡だ。なんのための試練だったんだろうか。ああ、俺は才能が失くしてしまったんだ。


 悔やんでしまう。


 そのとき、扉が勢いよく開けられた。


 そこに扉があったのかと疑問を抱くほど、部屋の周囲を細かく調べていなかった。


 おいと言わんばかりに突然目がくらんだ。


 何かしらの魔法の副産物だろうか。視界がゆがみ、倒れてしまった。




 気がつけば、そこは凶漢の半裸の男がでっぷりと大きな椅子に腰かけている。


「つきましたぜ、お頭!」


 お頭と呼ばれる凶漢の半裸の男。下半身が布切れのようなものでしか覆われておらず、下から丸見えの状態だ。アレが大きい。


「ほうか、こいつか……」


 お頭はニヤっと笑みを浮かべ、俺を睨みつけた。


 お頭は俺になにを思い抱いているのかわからないが、知らない方がいいものだとすぐに直感でわかる。


 お頭の隣から静かに歩み寄る一人の少女がいる。


 背は高く見えるが、俺自身よりも背は小さいと思う。耳がとがっており緑色の髪に青い瞳を持っている。肌は露出しているところが多く、気に食わない部分も露だ。


 そんな姿でよく、この場所にいられると腹がたってしまう。


「コイツが最後の獲物か?」


 獲物……俺のことか?


「上等だな。お前らには2倍の報酬を与えておこう」


 報酬? 俺を捕まえた連中のことか?


 左右にいる男。服装はれっきとして裕福ではないが、刃物のようなものを腰に下げ、お頭に忠誠を誓っている様子からして手下か協力関係者かのいずれかだろう。


「ああ、俺のつまさきがうずいているぜ」


 お頭はそう雄たけびを上げている。


 少女が近づく。まさか。


 少女がお頭の下半身の布をめくり、舐め始めた。


(!!!!)


 鳥肌が全身を覆う。


 寒気が悪寒が全身を襲った。


 このお頭、まさかそんなことのためにそんな服装でいたのか。


「ああ、いいぞ。大分うまくなったな」


 少女となにかしらの音が響く。


 ああ、少女が貶されていく。それに、だいぶといったか…長い間このような生活を続けていたのかと耳を疑う。


「とりあえず下がれ」


 ハッと二人の男が下がっていく。お頭から放り出された小袋を手にもってその場から早々離れていった。


 残された俺とお頭と舐め続ける少女の3人だけとなった。


 俺はいまだに全身が動けないように束縛の魔法に囚われているようだ。


「お前さん、どこから来た? 見たところ…頭部だけ獣とは珍獣だな」


 珍獣。これは喜んでいいべきなのか。でも、腑に落ちない。


「まあ、どうしようかというわけでもなく、明日お前の最終回だ!」


(えーー!!)


「今日はゆっくりしていきな。明日はお楽しみ会を開いているからな」


 お頭は少女に仰向けになれと言い、その場をもてあそぶ光景へと変えた。


 反吐が出る。赤面する俺の顔を必死で隠し、しらを通すが、それでも音と光景が目についてしまう。


 パチンと指がならされ、俺は再びどこかへ飛ばされた。


 転送魔法も流通しているようだ。


 この世界は本当に知らない世界なのだろうか。


 知っている魔法がいくつかある。それに、部屋の作りも前いたものと似ている。ここは、異世界じゃあないんじゃないのかと思いながら、暗く湿気が漂う牢屋の中に転送された。


 牢屋に無事転送されたのか見に来た男がいた。


 男はジグがこの場所にきちんと入ったのを確認すると、事情を説明してくれた。


「お前さん、お頭に気に入られたようだな。明日は、決闘だ。勝てば、自由を得る。負ければ自由はお頭のものだ」


 つまり、明日は賭け試合のようなもので、勝てれば自由が手に入り負ければ、あのお頭と呼ばれる男の

もとで一生、束縛された状態――いわば、奴隷のような働きで過ごせということか?


 あのエルフもそうして囚われたのか?


「……」


「どうした、怖気ついたか? まあ明日は楽しみにしているよ」


 男は高笑いしながら牢屋を後にした。


 男が去った後、牢屋にはジグひとり。


 明日の試合をどうにかして抜け出す方法を考えていた。


「負ければ、あの男の元で……」


 そう考えると死ぬ方がまだマシだと感じられてしまう。あのお頭は狂っている。いや、常人じゃない。あんななかで一生奴隷で過ごすというのなら、俺はすぐさま命を絶ってしまうだろう。


「――鍛錬後は、魔道士・武闘家・剣士にも慣れたのに…それが、邪神だと言われて地に落ちた挙句、賭け試合に放り出されるとは思いもしなかった」


 さらにジグにとって致命的は詠唱でしか魔法が唱えられないということだ。


 覚えているものでも威力は最弱、効果は微力。


 相手次第によるが、凶漢や化け物と戦うこととなれば、勝ち目はない。


「――そこの君」


 誰かに呼ばれた。


 おかしい、ここにいるのは俺だけのはず。


「こっちだこっち」


 背後から声が聞こえる。ジグはその声へ耳と目を向ける。


 そこにいたのは茎だけでしんなりと折れてしまった植物がいた。


「おお。ようやく聞こえてくれる方がいらっしゃたな」


 植物は感心し、ジグにこう話した。


「お前さん、試合に出るのか?」


「ええ」


 何で知っているのだろうか。ここに来る連中はみんな同じだというのだろうか。


「何度も見ているからな」


 あ、やっぱり。


「お主の体からなんだか懐かしい香りと力が感じる」


 身体からって…いやらしい。


「香りって…」


「決して変態な発言じゃない。けど、わしはもう出ることができぬ。もし、明日の試合、勝つ自信があるのなら、わしから力を貸してやる」


 それはどんな…? とジグが聞き返すと、植物は答えた。


「お主からは懐かしい感じがしてたまらないのだ。わしの力をやる。それで自由の身になったと同時に、わしを開放してほしい。その間、お主の力を全力で使うといい」


 力を貸してやるっという話、のった。


 俺は、自由になりたい。植物も自由になりたいと言っているのだ。こんな繋がりは中々ない。ジグは承諾し、植物の力を借りることにした。


 すると、なにかはじけた。


 と同時に、声が聞こえた。守護神の声だ。


『汝の力だ。我ができることはこれだけしかできぬが、お主の思う気持ちがあれば成し遂げれるだろう。行け、邪神を討つんだろう。お主と我はそれを共通とした。植物もまた、自由を共通とした』


 右手が発光する。


 いくつかの色と一文字に描かれたものが浮かんでいる。


 これは――記号。しかも、遺跡にあった物だ。なんの文字なのかわからなかったが、守護神が言うには昔残してくれた先人たちの暗号だと言っていた。

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