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7話(アレク視点)


 いつの日だったか知らない。俺は姉上が心底嫌いになった。ずっと好きだった姉上を何故嫌いになってしまったのかは分からない。その大嫌いな姉上が先日戦死したと報告があった。嬉しいはずなのにどこか辛くて...。


「アレ...ク、アレク!」

「どうした? 最近お前、様子がおかしいぞ?」


 本当におかしいのは誰だ?


「アレクサンダーさん、きっとお疲れなんですよ、今日は家でゆっくりした方がいいと...。最近眠れてないみたいですし」

「アイカさま...」

「そうだなアイカ。アレク、今日は帰っていいぞ」

「ですが!」


 殿下に誘われたお茶会を途中で抜け出すなどできない。


「アイカの意思に逆らう気か?」


 有無を言わせない殿下の目つき表情。こんなにも暗い目をしていただろうか。


「ッ!」


 ズキリと突然頭が痛みだす。気持ちが悪い。殿下とアイカ様のお言葉に甘えよう。


「今日は言葉に甘えることします」

「お大事にしてください」

「ああ。グティエーレ、見送ってこい」

「かしこまりました。殿下」


 グティエーレさんはジル殿下が子供の時から仕えている側近。常に冷静で品があり、誰もが羨ましいと思うくらいの知識と美しさがある。

殿下に挨拶をして部屋を出る。


「すみません、グティエーレさん...」

「いえ、大丈夫です」


 グティエーレさんはにっこりとほほ笑む。男の自分でもドキッとするようなその笑み。


「そういえばアレクさん」

「は、はい!」

「最近体調でも崩したのです?」

「はい...みたいです」

「話なら聞くことはできますよ? 玄関まで遠いですし、歩きながらでも」

「...えと」


 悩みというか...。


「姉上の事で」

「姉? ああ、エーファさんのことですか」

「はい」

「戦死したとお聞きしましたが、名誉あることですね」

「は...い」


 やっぱり名誉のあることなんだ。何を俺は...。


「それで、エーファさんの事で何か?」

「いえ、ただ、何かずっと心の奥底で違和感があって」

「違和感?」

「言葉では説明しにくいんですが、もやもやしたような。たまにそれが原因で頭が痛くなって」

「ほう...」

「でも、多分風邪のせいだと思います。すみませんどうでもいい話になってしまいました」


 ははっと苦笑してしまう。グティエーレさんは何か考えているのだろうか眉を寄せている。


「あの」

「アレクさん」

「はい!」

「私から一つプレゼントです」

「プレゼント?」


 ポケットから取り出されたのは黒い石が付いたブレスレット。


「これは私が小さい時にもらったお守りなんです。これをつけると風邪も治って体調も良くなるんです」

「そ、そんな大事なモノもらうことできません」

「いえ、私には必要ないので。さ、手を出してください」

「あ...と、ありがとうございます」


 右手を出して服を少しまくる。グティエーレさんが持っているブレスレットをつけてくれるらしい。


「神の祝福があらんことを」


 カチリとブレスレットがはまったと同時に自分の中の違和感も消えた。











 それからどうやって屋敷に帰ったのかは覚えていない。気づいたら屋敷で食事をとっていた。


「今、何といったアレク」

「だから、あの女が死んだことはよかったと言っているんです」

「お前の姉だぞ」

「今は違います」


 違う。俺は姉上にそんなこと思っていない。


「大体、何故父上がそこまであの女の肩を持つんですか。もうこの家のものではないでしょう」


 口が閉じない。無意識にそれが当たり前のように言葉がスラスラと出て来る。

当たり前? そうだ、そうじゃないか。あの女が死んだのはあのお二方に逆らったから。ただの罪人に情などいらない。


「...そうか」


 俺の言葉にもう父上は口も開かなければ目も合わせてくれなかった。悪いことはしていない。これが当たり前なのだから。

父上は早く目を覚ますべきだ。




 視界の端で黒い石が光った気がした。


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