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4話



 息が切れる。


「はあ、ハァ...っ。はぁ...」


 肩で息をする。息を整えないと。今なら少し落ち着ける。


「すぅ......ゴホッゴホッ...」


 むせながらも何とか深呼吸する。そこで気づく。


「あ...れ?」


 私はいつの間にここまで来たのだろうか。気づいたら帝国軍側の森の近くまで来ていた。森といっても、帝国軍側の大将からは大分離れたところだ。後ろが少し気になって振り返る。


「っ...あ」


 思わず口に手を当てた。ひどい景色だ。血と泥と炎と...。何が起きてるのか。戦争というものはこういうものなのか。腕や足が曲がらない方向に曲がって倒れている死体や砲撃で吹き飛ばされたのか腕や足が無造作に落ちている。辺りは血、ち、チ...。いや、泥なのか? 分からない。臭いも、もう分からない。鼻の機能がうまく動かない。


「ひゃっはああ!!」

「ッ!!」


 危ない。そうだった。ここは戦場、いつまでも余所見ばかりしてはいられない。少し身長の高い帝国軍の兵士が私を見てニタ―と不気味に笑う。


「おらぁ! って...あれー? あたんねーなあ...」


 様子がおかしい。


「殺す、コロス、帝国軍のために、勝利は我らにあり!」

「くっ...ファイヤーボール!!」


 ファイヤーボールで5メートルほど後ろに吹き飛ばす。


「うそ...」

「うひひうっひゃ...」


 フラッと立ち上がる。嘘でしょ...。おかしい。怖い。恐い。

敵は剣を振りかぶりながらこちらに走ってくる。


「ファ、ファイヤーボールファイヤーボール!!」


 でない。何も起こらない。


「うっひゃっひゃっひゃ!! どーやら弾切れのよーだな!!」


 う、嘘...。こんなタイミングで魔力が切れるなんて。


「ひゃっはあああああ!」


 ここで私は死ぬの...? 悪役令嬢エーファ・ルディグリフとして?


「死ねぇえええええ!!」

「エーファあああ!!」


 幻聴だろうかノヴィーさんの声が聞こえる。


 剣が肉に刺さる音がやけに耳に響いた。だけども痛みはない。


「ノ...ノヴィー...さん?」


 私の前にいたのは、剣に貫かれているノヴィーさんだった。


「く...ぐぁあああああああ!!」


 ノヴィーさんは力を振り絞り剣で薙ぎ払う。


「ぐぁ!」


 敵は飛ばされて動かなくった。


「ノ、ノヴィーさん?」

「ぐ...エ、エーファ」

「ノヴィーさん!!」


 胸に剣を刺したまま崩れ落ちるノヴィーさんをどうにか受け止める。


「ど、どうして...?」

「罪のない、お前が...。死ぬ、のは...だめだ。ゴホッゴホッ」


 咳を一緒に血が口から吐き出される。


「もうしゃべらないでください!」

「そ...れに、妹...と重なったんだ。助けなきゃ...って」


 ゆっくりとノヴィーさんは自分の首にかけてあるネックレスに触れる。そして強く握りしめ、ブチッとそれを首からはずした。


「なにを?」

「こ...れを」

「え?」

「もし...。もしも...おれ、の妹に会う...ことがあったら」

「はい」

「渡してくれ...」


 そっと受け取る。


「それで、もし、妹と会うことがなかったら...ゴホッ」


 ヒューヒューと呼吸が小さくなる。


「なかったら...。エーファ...が持っていてくれ...」

「ノヴィーさん...」

「いい...か?」


 ぐっと私の手を握る。強く強く。そして、力強く言葉を発した。


「必ず生きろ! 生きて、生き延びるんだ!!」


 そう残して、ゆっくりと手の力がなくなっていた。


「ノヴィーさん?」


 返事はない。


「ノヴィーさん!」


 動かない。ただ、血だけはずっと...とめどなく流れ出てくる。


「い...や」


 そんな、わ、私を庇って死んだ。


「ひっ、ヒッ、ひっ...」

「ッ?!」

「ひゃ、ひゃ...」

「まだ、立ち上がるの...?」


 ノヴィーさんが薙ぎ払った敵が、ノヴィーさんを殺した敵がまた、あの不気味な笑い声をしながら立ち上がる。傷口からは絶えず血が流れ続けているのに。それなのに立っている。


「どうし...て?」

「...帝国軍がエイエンナリィィィィ。ひゃひゃ」

「何で?」

「ひっひひひ。殺す...コロス」

「狂ってる...!!」


 狂ってる? クッテル? ああ、そうだクルッテルんだ。ここは戦場、自分を見失ったんだ...。


「おお、神よーショーリーは我らていこくー...」

「神だと?」


 また『神』か。神、神神神神神カミかみカミかみかみカミ神。


「あはっ...」


 神何ていない。


「あはは...」


 神がいたらこんなことは起こらない。戦争なんて起こらない。人は誰かを殺さないし殺されない。


「あはははは...」


 ふざけるな、何が神だ。


「あっひゃひゃひゃっひゃあああああ!!」


 笑いが止まらない。


「何が神だ! あひゃひゃ! 神なんていない!!」


 神への冒涜? なんとでもいえばいいさ。狂ってる? 元から狂ってたさ。ここに来た時点で。


「クルッテルクルッテル! ひひひひ!」

「クルッテル?! 知ってるさ!」

「死ねぇええええ!!」

「...悪いが私は死ねないんだよ」


 右手を翳す。全ての魔力を注ぐ。吹き飛ばすファイヤーボールはもう終わりだ。塵も残さず燃やしてる。


「うぉおおおおおおお!!」


 手から放たれた炎は敵の身体を覆い尽くす。


「アツイ、アツイイイイイ!!」


 パキンッと胸にあった魔具が割れる。駆使し過ぎてどうやら割れてしまったらしい。


「私は、必ず生きる。そして貴方の妹にこれを渡す」


 そっとノヴィーさんの身体を降ろして瞼を手でそっと閉じてやる。


「必ず生き延びてやる」


 重たい身体に鞭をたたいて、歩きはじめる。どこに行けばいいのかは分からない。ただ、帝国側の森が近い。そちらに行くしかない。森に足を踏み入れる。ここから遠くへ、遠い所へ逃げる。


「ああ、そうだ」


 服を全て脱ぐ。今更裸など、どうでもいい。服が残っていれば、もし、もしも王国軍がこれを見たとき死んだと思うだろう。脱いだ服を投げる。

冬じゃなくてよかった。冬だったら凍死している。歩こう。とにかく歩こう。


 歩き続ける。
















 どれくらい歩いたのだろうか。先程まで空は明るかったのにもう前があまり見えないほど、真っ暗だ。どこまで歩き続ければいいのか。


「う......」


 足の力が抜ける。だめだ。こんな所で止まらない。夜の森は危険だ早く抜けないと。そう思ってはいるのに動けない。喉が渇いた。


「休けい...しよう」


 木にドスッと寄りかかる。するとそこに落ちているものに気が付いた。木の実だ。赤くて甘そうな木の実!? 手に取ってみる。


「うまそうだ...」


 口に持っていこうとして止まる。毒が入っているかもしれない。木の実の汁を腕の関節に塗ってみる。確か、肌の薄い、弱い所に塗って痛いとか、ヒリヒリしなければ食べられるはずだ。


「...大丈夫そうだな」


 痛くないし、ヒリヒリもしない。口に入れてみる。甘い...喉が潤う。


「うまい...」


 手が止まらない。落ちている木の実を全部食べると、歩くためにもう一度立ち上がる。少しは回復した。12時間以上あるいてるんだ、森を抜けてもいいはずだが...。同じ場所をぐるぐる回っているのか? いや、それはない。煙が上がっている方向から遠くなっていくのは確認した。


「ごちゃごちゃ言っていられないか」


 歩き始める。木の実がたくさん落ちている方向に。もしかしたら、人がいる方向かもしれない。意識が朦朧しながらも必死足も動かす。




 ノヴィーさんのネックレスと指輪を握りしめて。





 

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