3話
「全員起きろ!!」
誰かの声で目が覚める。どうやらぐっすり眠っていたらしい。
こんな状況で眠れるなんて...ノヴィーさんのおかげね。
私は起き上がるとテントの布を捲って出る。ほかの人もぞろぞろと出て来て、真ん中の広場に並んでいた。私はどこに並んだらいいのか分からずノヴィーさんを探す。
「何うろうろしてるんだエーファ」
「あ、えと、どこに並んだらいいのか分からなくて」
うろうろしていてよかった。ノヴィーさんが見つけてくれ声をかけてくれた。
「そんなもんテキトーだ、テキトー。ここら辺に並んどけばいいだろ」
テキトーでいいのか。とりあえずノヴィーさんについていく。
全員が並び終わったところで、ロナルド...少尉が前に出る。
「諸君、最後の夜は眠れましたか? 今からは諸君には戦地に向かってもらいます。安心してください。戦地はすぐそこです。諸君らは我々王国の国民です。つまり、これは義務なのです。王国の勝利のため敵を一人も残さず殺しなさい!」
ロナルド少尉のありがたい演説が終わる。これではまるで独裁攻略ですね。なんて思いながら、ノヴィーさんを見るとどうやら同じことを思ったらしい。私も向かおうと足を動かす。
「待ちなさい、エーファ」
「...はい、なんでしょうかロナルド少尉」
「貴女は1番前、最前線での出陣してもらうことになっています」
「はい、存じてます」
「逃げるなよ」
逃げる? この男は私を甘く見すぎではないでしょうか。
「昨日思ったことですが貴女はまだ子供、死を知らない無知なね。一言申しますが死にたくないのなら神にでも祈ることですね」
ロナルド少尉はそう言うと、テントに戻っていった。
「あいつ...!!」
「ノヴィーさん大丈夫です」
いや、本当は大丈夫じゃない。皮肉を言われた挙句、神に祈れと言われた。また神だ。神に祈って全てが上手くおさまっていたらこんな事にはならなかったはずだ。あんなことも起きなかったし、私は...。
「...ファ...エーファ!!」
「ッ...あ、すみません」
「考えすぎるなよ。あいつの言う事なんて忘れちまえ」
「そうですね。私も荷物をとってきます」
そう言って私もテントに戻る。荷物らしい荷物なんてないけど気持ちの問題だ。右手の薬指にはめている指輪、お父様から貰ったお母様の指輪をそっと撫でる。
行ってきます。お父様、お母様。
待機所から、戦地までは歩いて20分くらいらしい。私はノヴィーさんと隊の前を歩きながら弾まないような弾むような会話をする。
「森を抜けたら、もう...。なんですね」
「ああ」
「ノヴィーさんは何回目なんですか? こうしてここを歩くのは」
「2回目...だな」
私が待機所に行ったとき思ったことだが、人の死体があった、しかもまだ新しい死体が。そう考えるとノヴィーさんが2回目だというのも頷ける。
「にしても、本当にその身一つでいくのか?」
「はい、といっても魔具があるので身一つといえるかは分かりませんが...」
「マグ?」
「これです」
首にかけていたネックレスをみせる。
「魔具とは魔石と埋め込んだものです。これがあるかないか、レアものかそうでないかによって魔法の威力は大分違うんですよ」
「そうか、その魔具についている魔石にために俺らは戦ってるんだったな」
「そんな感じですね」
私が持っている魔具は学園に通っていたころからつけていたもの。馴染みはいいが、威力はそれほどない。
「まあ、ここら辺は気持ちの問題ですかね」
「ん?」
「あ、いえ」
なんでもないですと苦笑する。そう言えば、どんどん悪臭がしてきた。そろそろ着くのだろうか。冬ではないのに寒い。森の木々が太陽の光を遮断しているからだろうか。それとも死を隣りあわせだからだろうか。きっとどちらもだろう。考えすぎて、考えられなくなってきた。ノヴィーが頻繁に私を主って話かけてはくれるが、返答をうまく返せているだろうか。少し落ち着こう。深呼吸だ。
「さて、エーファ...ついたぞ」
森を抜けるらしい。光が目に入る思わず目を細める。ついたのは木が1つもない荒地、少し遠い向かい側の森からは帝国軍がタイミングよくでてくる。心臓が波打つ。あの人たちを殺さないといけないのかと。
「エーファ、前に出なさい」
「ッ...はい」
ロナルド少尉に言われて前に立つ。
「貴女が進まないと私達は死にます。いいですね」
「は...い」
声が震える。
「かかれ!!!」
ロナルド少尉の声で私は走り出す。帝国軍も向かってくる。深呼吸する。吸えなかった。どうしよう? どうすればいいんだっけ? あれ、走って私は...。
「エーファ!」
ノヴィーさんの声が聞こえる。そうだ! まず私は
「シールド!」
身体にシールドを張る。そして次は強化したファイヤーボールだ。撃てる数は150発。つまり
「ファイヤーボール!」
燃やすんじゃなくてぶつけることを目的に打てば...。
「ぐあ!!」
前の人間がふきとび後ろ人も巻き沿いで飛ぶというわけだ。ファイヤーボールじゃなくてもよかったけど、連続的に撃てるのだから仕方がない。それに...甘いかもしれないけど気絶してくれた方がいい。殺すのではなくて...。
「はああ!!」
撃って撃って撃ちまくる。今は帝国軍も王国軍が混ざっているから意識しないといけない。
「おら!」「うおおおお!」色々な声が聞こえる。人が死んでいく。目の前で人の首が落ちる。血が吹き出る。ダメだ...集中しないと、でも足が震えてしまう。
「死ねえええええ!」
「ッ!!」
私より2倍くらいデカイ男に剣で薙ぎ払われる。身体は重力に従わず吹っ飛ぶ。
「がっ...は...はぁ...!」
シルードを張っておいてよかった。服は少し切れてしまったが、ケガはそこまでしていない。
「ッチ! 魔法使いはこれだから面倒なんだ!」
敵はゆっくり近づいてくる。まずい。今の衝撃でシールドが半分ほど壊れてしまった。貼りなおすには相当な魔力がいる。
「白い服なんか着やがって、よほど死にてーらしいな!」
敵は剣をもう一度振りかぶる。
「ッ! 仕方がないですわ!」
ファイヤーボールを2発撃つ。
「グハッ!!」
吹き飛んだ。よかったどうにかなったらしい。
「白い服は着たくて着たわけじゃないです!」
殿下、この白い服のおかげで、本来の目的が達成されましたよ。
心の中で皮肉を言う。
「というか私、皮肉を言うほどせっぱつまってないということかしら...」
いや、こういう時だからこそ、色々考えてしまうのだろう。何故なら周りの声が一つも聞こえないのだ。頭に響くのは自分の声だけ。
ただ撃って、撃って、撃ちまくって。気絶させるだけ。
ちらッとノヴィーさんを探す。
「うおおおお!!」
よかった、生きてるみたいだ。
「...はああ!! ファイヤーボール!!!」
白い服が白くなくなっていく。泥と少しの血で染まっていく。だけど気にしてはいられない。服がボロボロになっても気にしてはいられない。シールドは完全ではないしファイヤーボールの撃てる回数もある。気は抜けない。
生きなきゃ
死にたくない
倒す
殺さず
吹き飛ばせばいい
もう訳が分からず、ただ撃つだけ
迷ったら『死ぬ』
ただ撃ち続けるしかなかった。