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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
第三話「セカイを解放しちゃおう!?」
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18、「そのためのメイドですから」

「チッ。しゃーねぇ、てめえら耳かっぽじってよーく聞きやがれぇ? 二度は言わねぇからなァ」

 どうやらクエストを求めるプレイヤーが集まり過ぎて仕事にならないらしく、しかたなく開始時間を早めることにしたらしい。

 さてさて、LROでのクエストって初めてだけど。どんな感じで進めるんだろうワクワク。


「報酬アイテムだけが欲しい奴ァは引換券くれてやっから闇神神殿の受付に行きやがれ! めんどくせぇお使いクエストなんざをやりてぇ頭イカれた奴ァは、しょーがねぇから引換券配り終わるまで待ちやがれッ! オラ、引換券欲しい奴ァ勝手にもってけ!」


 そう言って、犬耳のマスターがなんか定期券くらいの大きさの木の板を、鬼は外!とでも言いたげにそこらでざわめいてるプレイヤー達に投げつけ始めた。

「ちょ」「手抜き杉」「マジデ」「いや話が早くていんじゃね?」

 集まっていたプレイヤー達が、床に落ちた引換券を拾って酒場を出ていく。

「えー……」

 ボクは、ぽかーんて口を開けたまんま何を言うことも出来なくって。

 いや、ほら、うん。いくらなんでも風情ってもんが無さすぎじゃなあい? クエスト関連の人が「どうせてめえらクエスト報酬のアイテムが欲しいだけなんだろう? あぁん?」って態度で引換券投げつけてくるとか。

「うわー、ヴェイオさんブチ切れてるねー」

 ファナちゃんがなんか苦笑してる。知り合いなのかな。βでクリアしてるわけだし。

 茫然としたまま突っ立ってるうちに、ほとんどのプレイヤーは引換券を拾っていなくなり、酒場の中はすっからかんになってしまった。

「……あんだよおい、あんだけ言っても残る頭おかしい奴がいるともったら勇者坊主の関係者かィ」

 犬耳マスターが口の端を吊り上げて歯を見せた。片目に傷があってすっごく凶悪な顔に見えるけど、どうやら笑っているらしい。

 んー。よく見ると愛嬌があるかもー? ……だけど、勇者坊主って誰のことだろ? ファナちゃんは違うだろうし。

 思わずファナちゃんを見ると。

「あはは。ヴェイオさん、こにちわー」

 ファナちゃんが苦笑しながら挨拶を返した。ボクはどうしたものかとキョロキョロ。なんか犬耳マスターは口調が乱暴だし、ちょっとボク苦手なタイプなんだよね。

「おう、ハナカよぅ。勇者の坊主にも、たまにゃチビドラ連れてメシ食いに来いって言っといてくれや」

「はーい。にーちゃんに伝えとくね!」

 ファナちゃんがそう答えたので、たぶん勇者坊主っていうのがファナちゃんのお兄さんの事なのかな。勇者(笑)だって。そうすると……チビドラっていうのは合法ロリ嫁の人かな。

 ぼんやり考えていたところに。

「んで、そっちのはハナカの知り合いかァ?」

 じろりと犬耳マスターに片目でにらまれて、思わず背筋がぴんと伸びてしまう。

「え、はい。アユムです。こっちはシェラちゃん」

「ピ!」

 シェラちゃんと二人そろって、ぴしりと気を付け状態。

 なんかスジ者っていうかヤーさんみたいな迫力あるよね、犬耳マスター。

「……はん、おめぇさんもなんか、勇者坊主と同じニオイがすんな。まあ、要するにろくでもないことをしでかしそう、ってェことなんだがよォ」

 じろじろ見つめられて、タジタジ状態。

 なんでこんなに絡んでくるのさー。

「もー。ヴェイオさん、その辺にしてはやくクエストやってよー」

「ん? おう、そーだったぃ。丁度時間だなァ」

 ファナちゃんが割り込んでくれて助かった。

「まあ、クエスト自体はほとんど前と変わっちゃいねぇよ。人数が増えたせいでオレァ商売もままならねぇくらいに忙しくなっちまったが、基本簡単なお使いだ。今から渡す木札の仕事をこなしてきな」

 犬耳マスターは後ろの壁にぶら下がっていた小さな木札をひとつ、ボクたちに向かって投げてよこした。

「……迷い犬探し?」

「おう、とっとと依頼主ンとこ行ってきな」

 しっし、と追い出すように手を振って、犬耳マスターはカウンターの奥に引っ込んでしまった。

「……ファナちゃん、これどういうこと? 説明不足すぎると思うんだけど」

「えっとねー」

 そう言いながらファナちゃんが説明してくれたのは次のような内容だった。


 酒場っていうのは個人からの依頼を受け付けている、いわゆる冒険者ギルドに似たような仕組みがあって、クエストのストーリーとしては、駆け出し冒険者が酒場のマスターにいっぱしの仕事が出来るということを示すために、街の中で出来る簡単な仕事をいくつかこなす、という感じの流れで、実際に酒場に依頼された仕事の中からランダム(主に犬耳マスターの気分)で振り分けられるらしい。

 そうすることでクエスト終了後も酒場で仕事を受けられるようになるし、駆け出しにもいっぱしのゴブ魂?があるって証明することになるらしい。


「あー。じゃあ、引換券持ってった人は……」

「当然、酒場でお仕事はできまっせーん。まあ、武器の強さは変わらないからどうでもいいかもね」

「なるほどー」

 現地通貨を手に入れる手段はやっぱりあった方がいいしね。

 カードとかアーティファクトって、現地の人には使えないから売れないんだよね。プレイヤー同士では取引できるけど。

「じゃあ、さっそくお仕事しちゃおっかー」

「やっちゃうー」

「ピ!」

 張り切って、いってみよー。




「普通なら、早くて三日くらいかかるんだけどねー」

 ほえほえファナちゃん。

「三時間で終わっちゃったよ……」

 ってゆーか、シェラちゃん有能過ぎ。ボク、なにもやることなかったよ……。

 迷い犬はMAPに所在が書き込まれるし、探して欲しいって言われたちょっと珍しいアイテムはなぜかシェラちゃんが最初っから持ってるし、なんだかチート状態。

 ……そういやすっかり忘れてたけど、シェラちゃんってこのルラレラティアの中なら何でも検索とかできるんだったっけ。よくあるお使い系クエストの探し物とかまさにシェラちゃんの独壇場ってやつじゃないですかー。

「普通はこんな簡単にいかないんだよー?」

「そうだよねー」

 ファナちゃんと二人して顔を見合わせる。

「ピ」

 シェラちゃんが褒めて褒めてとばかりにお胸を張っていたので、頭をなでなでして上げる。

「つーかてめぇら仕事はやすぎんだよオイ。オレに夕方の仕込みさせろよ」

 犬耳マスターがぶつぶつ言ってるけどしりまっせーん。

「まあ、塩漬け依頼をこなしてくれて助かったっていやぁ助かったんだが。おし、規定数こなしたから、あとは異邦人向けの特別版だなァ」

「あれ、βとなんか変わった?」

 ファナちゃんがきょとん顔。

「おぅ。最後は専用のダンジョンいってボス退治だ。まぁ楽勝だろ。引換券はそこのボスが落とすから、オレんとこに報告はいらねぇぞ」

 シスタブのMAPにダンジョンの場所が書き込まれた。

「そうなんだー。んじゃ行ってくるね」

 ファナちゃんが手を振る。

「おう、またメシでも食いにきなァ」




「……納得がいかない」

「ねー」

「プー」

 正式版で追加されたらしいダンジョンは、犬耳マスターが言った通り楽勝だった。

 体力はかなりあったけれど、攻撃力は低いし、動きもノロい。たぶんソロで初期カードだけでも時間をかければ普通に倒せそうなレベルのボスだった。

 ……だった、けれど。

 そこで現れたボスっていうのが。

 超! でかかったのだった。

 なんていうか、クエ報酬の”一寸の虫にも五分の魂”があればそれこそ一撃で片がついちゃいそうな大きさ、だったりしたのだ。

「ぐぬぬ、何この報酬アイテムを手に入れてからクエをやれみたいな悔しさ!」

「しかもシステム上、クエストのリプレイって出来ないしっ!」

 ファナちゃんと二人そろって、ぐぬぬぬぬ。

 これ、ぜったいあの自称神様が用意したボスだね。うん。断言しちゃう。



 闇神神殿で受け付けに引換券を渡すと、「お疲れ様でした」と報酬の(前略)ゴブ剣を渡された。普通に持った場合、いわゆるロングソードって感じの片手剣みたい。鞘ごとかるく振ってみたけれど、アーティファクトなだけに軽々と振り回せる。

 んー。もしかして。

「ファナちゃん、よかったらファナちゃんの貸してくれる?」

「え、いいけど」

 自分のを右手に、ファナちゃんの(前略)ゴブ剣を左手に持つ。

 ぶんぶん。ぶんぶん。軽く両手で振り回してみる。

 あ、やっぱりいけそう。

 影族の双剣術って、短剣とかじゃなくってもいけるみたい。あっはー。

 ガチ勢リーダーは【両手持ち】を使ってたけど、ボクの場合【ダブルスラッシュ】がいけそう。わお。

「んー。どうする? 今日はもうそろそろ終わりにするー?」

「そだねー」

 もうすっかり夕方だし。巨獣エリアは……来週かな。

 神殿にいるし、ポータルはすぐなんだけど。

「じゃあ、プライベートルームに戻って晩御飯かなー」

「ピ!」

「わたしも行っていい?」

「だーいかんげーい」

 そのままお泊りしちゃおうよ。うふふ。ファナちゃんお持ち帰りィ。


 って。

 その時シスタブがぴこんと音を立ててメッセージが表示された。

 送信者はダロウカちゃんで。


『すまない、アユム殿、力を貸してもらえないだろうか。というか。助けてー……』


「ダロウカちゃん!? ダロウカちゃん!? どうしたのっ!?」

 慌ててこちらから連絡しようとするが、つながらない。

 確か今日は、モモちゃんと一緒に冒険していたはず。何かあったのかも。

「アユム、行こう!」

「うん!」


 ボクは頷いて、ファナちゃん、シェラちゃんとポータルへ飛び込んだ。

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