14、「ある日、森の中」
遅くなりました……。
「……おお?」
MK2のポータブル・ポータルを使って移動した先は、日本昔話に出てきそうな感じの、和風な木造のお家の中だった。和風っていっても畳とかじゃなくって板の間と土間の、もっと古い作り。天井板はなく梁がむき出して、一段高くなった木の床に囲炉裏。天井からぶら下がってるのは自在鉤ってやつ? あのお鍋とかぶら下げるやつ。
「はは、雰囲気あんだろ? 田舎っぽくってオレ好きなんだよな、こういうの」
MK2が囲炉裏のそばの、草を編んで作ったような座布団みたいなのの上に胡坐をかく。
見た目幼女なのにはしたないね。かわいいぱんつが見えてますヨ?
こほん。
「……山岳エリアって、和風な感じなの? なんか和風エリアより和風な感じだね」
あっちはなんか某国民的RPGに出て来るような、なんか古代日本っぽい感じがするけど、それに比べてこっちは日本昔話の世界っぽい。まあ向こうは妖怪とかお化けとか神社っぽいのはかなり和風な感じだけど。主にホラー方面で。
「ああ。ここは有角族の村のはずれでな。この家は俺の隠れ家のひとつだ。有角族ってゆうのは、なんか山伏っぽい恰好してるの多くってなー。名前も普通に漢字で日本風で、日本の山奥の隠れ里、みたいな感じだな」
「へー。ここ村なんだ? 他の家もみてみたいかも。いこうシェラちゃん」
「ピ!」
さっそくシェラちゃんと一緒に外に出ようとしたら。
「ああ、ちょいまち。有角族が読心能力持ちってのは知ってるか?」
と、MK2に止められた。
「え? うん」
そういやwikiで見たかも。心を読める、種族なんだっけ?
「だから、あんた、変なこと考えんなよ? まあ、有角族の方もわざわざ口にしないことに関してあれこれ言うことはねーけど、全部筒抜けなんだからな?」
「……なんかボクが常日頃からよからぬことを考えているような言い方が気になるんだけどー?」
「幼女のぱんつみてニヤニヤする変態にゃ釘差しとく必要があんだろーが?」
「ぐふ、わざとでしたかーっ!?」
「プ」
ってゆーか、中身男なのにかわいいぱんつ穿いて見せびらかすMK2の方が変態だと思います!
MK2に案内されて、山岳エリアのポータルへ向かう。
……うん、しかし。
MK2に有角族に会ったら気をつけろとか言われたけど、全然人影がないでござるー(ユキノジョウ風味)。
有角族の村って、こう、うらぶれた、というか寂れたというか。ニワトリ小屋とかヤギを囲ってる柵とかがあるから、一応、人は住んでるんだろうけれど、誰も外歩いてなくって、道端も草ぼうぼうで、なんか廃村なんじゃないかって感じだった。建ち並ぶ民家も崩れ落ちてないのが不思議なくらい。藁葺屋根だったりするから、ちょんってつついたら崩れちゃいそうな感じんだけど。
「……なんか思ったより寂しいとこなんだねー」
「俺たちが来てるから、余計なトラブル起きねーように引っ込んだのかもな。迷惑だろうから手早くいくぞ」
「うん、そだね」
幼女なMK2に手を引っ張られて着いたのは、なんだか半分崩れ落ちた遺跡。
「あれ、ポータルって神殿とかじゃないんだ?」
「ここは隠れ里だからなぁ。普通のプレイヤーが使うポータルはこことは別のとこあるし。じゃ、俺この辺で待ってるから。開通してきな」
「わかったー」
なんでそんな誰も知らないようなポータルをMK2が知ってるのかは気になるところではあるけれど。まあ、廃神様だしね。ツッコむだけきっと無駄だし。
「いこ、シェラちゃん」
「ピ!」
シェラちゃんと二人して、崩れかけた遺跡に潜る。
元は石造りの建物だったんだろうか。レンガとかじゃなくって、大小さまざまな石を綺麗に積み重ねている感じ。少し奥に入ると見慣れた魔法陣っぽいポータルが見えた。
MK2は万が一、ここのポータルが見張られていることを考えて入ってこなかったみたいだけど、見た感じだーれもいないのでその心配は不要だったっぽいね。
床に手をついてポータル開通。念のため他のエリアに移動可能か、ウィンドウを表示させて確認する。
うん。MK2には前科があるからねー。まさか山の中で閉じ込められるってことないだろうけどさ。いちおうね?
「開通してきたよー」
戻ってくるとMK2の姿が見えなかった。
「あれ、どこ?」
帰っちゃったのかな。
きょろきょろと周りを見回していたら、すーっと空気に色が付いたように、いきなりMK2が現れた。
「わ、びっくりさせないでよ」
「いや、万が一、追手とかいたらってな。【姿隠し】をな」
「そんなカードあるんだ?」
をを、それ使えばお風呂覗き放題っ!? わおっ!?
……いやよく考えたらボク女の子だし一緒にお風呂に入れば堂々と見られるんでしたー。あははー。
「……なんか変なこと考えてるみたいだが。だいじょぶか?」
「え、大丈夫デスヨ?」
ってゆーか、そんなにボクの考えてること顔に出てますかっ!?
「おし、じゃ、森の方いくべ」
「はーい」
小さい足で、意外にしっかり、とことこ歩くMK2。
都会っ子で山歩きとかしたことのないボクはあっという間に、息ハァハァ。
「だらしねーなァ」
「ボク、部活とかもしてないし、運動はあんまりねー。ハァハァ」
シェラちゃんと夜の運動会は大好きだけど!
「……なんか、あんたがハァハァしてると別の意味っぽいな」
「しつれーな」
ん。
ぴこん、とシスタブにメッセージ。
ファナちゃんからだった。
『アユム、今日はどうするー?』
「ん、今、MK2にお願いして、迷いの森に向かってるとこー。ファナちゃんも来る?」
『いくいくいっちゃう! もー、わたしも誘ってくれればよかったのにぃ!』
「ごめんね。朝早かったし、いったんボクたちだけ下見して、あとはまおちゃんたちと一緒でいいかなって思って」
『もー! すぐ行くね!』
「はーい。待ってまーす」
ファナちゃんはパーティメンバーだから、リーダーの居る場所にログインする機能が使える。
もしくはちびねこちゃんにお願いして来ることもできるしね。
「なんだ、ちみっこねーちゃんも来んのか」
「うん」
「来たよ!」
言ってるそばから、ぽん、とファナちゃんが背中から抱きついてきた。
「おはよ、ファナちゃん」
「うふふー。アユム~」
ボクの背中に顔をすり付けてくるファナちゃん。なんか最近特に幼児化してる気がするね。
「よう、久しぶりだな」
「ん、MK2も久しぶり。相変わらずサギってる? 超サギー?」
「人聞きわるいことゆーな」
口をとがらせるMK2。だけど、大都市エリアでトラブルに巻き込まれたって、絶対なんかやらかしてるよね。巻き込まれたくないから聞かないけど。
「そんなことより、レッツぴくにーっく!」
「ぴくにーく!」
とにかくれっつごー。ファナちゃん来たら元気出てきたよ!
んー? それとも山歩きだからピクニックじゃなくてハイキングだったりする……?
二時間ほどハァハァしながら歩いた。
途中のうらぶれたお地蔵様にお祈り。ここがセーブポイントなんだって。
せっかくなのでなぜかシェラちゃんが持ってたお団子をお供えしておいた。
一応、MK2との約束はここまでだったんだけど。
「ここにポータブル・ポータル設定して終わりでもいいんだが、せっかくなので森まで入ってみるか?」
MK2がそう言うので。
「ぜひお願いします」
「いっちゃおー!」
森に入ることになったよ。
セーブポイントからほんのちょっと歩いただけで、日本の山奥といった感じの植生から、いきなりメールヒェンな感じの不思議植物な森に変わっちゃった。
「なんか、樹がピカピカしてるね」
「絵本の中に入ったみたい!」
ファナちゃん大喜び。光る樹をぱんぱんと手で叩いてみたり、妖精さんが腰かけにしそうなかわいいキノコをなでまわしてみたり大はしゃぎ。
「あは、女はこういうとこ好きそうだよな」
「見た目だけならMK2にぴったりなんだけど」
幼女だし。
「はン、遊園地で喜ぶようなガキじゃねーよ。それよりこっちだ」
「ん? 何かあるの」
MK2が大きな樹の根元で手招きするので首を傾げながら近づくと。
「……キノコの輪?」
「おう、妖精の輪ってやつだ。大森林エリアはな、外につながるポータルは1個もねーんだが、森の中であっちこっちにつながる仕掛けがあんだよ」
「そうなんだ?」
「わたしも初耳!」
開発に近いファナちゃんも知らないこと知ってるとか。MK2さすがHight神。
「建物はねーんだが、妖精とかが集まってる中心部に向かうにはこういうのを利用したらいい。まずは足を捕まえにいくぜ」
「……足?」
全員で手をつないで妖精の輪にえい、っと踏み込むと。
「綺麗な泉だー!」
ぴかぴかと水面が虹色に輝く、綺麗な泉のそばにぽん、っと飛び出た。
そして。
泉の水を飲んでいる、数匹の白い馬。
しかも。
額から角生えてる~!?
「まさか、ウニこーん?ってやつ?」
「いや、ローマ字読みじゃねーよ。ユニコーンだっての」
「お馬さんだ~!」
さっそくファナちゃんが突貫。お馬さんの首に抱きついて、あははと笑いながら大喜び。
お馬さんも、ひとに慣れた感じなのか、ぶるる、と鼻を鳴らしてファナちゃんの前に膝をついて背を向ける。
「おー? 乗っていいの? やったー!」
さっそくファナちゃんがお馬さんにまたがって、きゃあきゃあ騒ぐ。
「ん、俺らも乗っけてもらおうぜ」
MK2もお馬さんに近づき、よいしょ、と背中によじ登る。
「ほえー。ずいぶん大人しいんだねー」
よーし、ボクも!
なんとなく、ぴんときたかわいいお馬さんに近づいてお願いする。
「ねえ、ボクのこと、背中に乗せてくれる?」
「ぶるるるぁ!!」
「ぎゃー!?」
なんでか、鼻息荒く追い払われたー。
「プー」
怒ったシェラちゃんが前に出たら。
「……」
なぜかお馬さんは黙ってシェラちゃんに背を向けてしゃがみこんだ。
「なんでボクだけ断られるのさー!?」
「あー……。ユニコーンつったら、穢れ無き乙女のみ背に乗せるってのが定番なんだが。あんた穢れまくりなのかもな?」
MK2が何だか含みのある笑みを浮かべて苦笑した。
「そんなー!?」
中身男なMK2が乗れてボクが乗れないって納得いかないよ!?
……うん、まあ確かに穢れ無きって言われたらボク煩悩まみれ過ぎな気はするけどー。
※改稿版ではMK2と最初に出会ったとき、MK2の種族カードが有角族→飛沫族に変更されています。このため有角族について初めて知ったような描写になっています。




