12、「三枚一体! 御札乱舞ッ!!」
「アユム、アユム、だいじょぶ? どしたの? 貧血?」
ぺちぺちと誰かに頬を叩かれて、目を覚ました。
なんか、すっごく既視感。
これって。
「ひ」
思わずその手をはねのけて、後ろ手に後ずさり。
そのままどこかに頭をぶつけた。
「あいたっ!?」
「……んー? なんかアユムが変」
きょとん、とボクを見つめてくるファナちゃん。
ファナちゃんだ。
知らないけど知っている「誰か」じゃあない。
どこだここ。
ぐるり、と周りを見回して気が付いた。
ここ、最初に入った祠だ。
ボクが頭をぶつけたのは、地下に降りる階段の柱だったみたい。
大きく開け放たれた扉からは外が見えていて、ここは迷宮の中じゃないんだ、と少し安心する。
「だいじょうぶだろうか、アユム殿」
ダロウカちゃんの声。
顔をあげると、ダロウカちゃんにユキノジョウ、ナィアさんにシェラちゃんファナちゃん、全員がなんだかきょとんとした顔で、何やってんだコイツってボクを見つめていた。
「え?」
あ、もしかして。ボクがリタイアしちゃったから、全員が入り口に戻されちゃったんだろうか。
「あゆむ、だいじょぶ?」
そして、なせかまおちゃんまで居た。
「あ、うん。みんな、ごめんね」
頷いて起き上がる。
「ファナちゃんも、ごめんね。心配してくれたのに、手を振り払っちゃって」
「それはいいけど。本当にだいじょうぶ? まおちゃんの説明の途中で、いきなりふらふらってして、ばたんって倒れたんだよ? 頭とか打ってない?」
「……説明の途中?」
そんなのは記憶になかった。
ボクの最後の記憶は、思い出したくもない恐怖で塗りつぶされている。
「うん、そだよ。まおの迷宮ちゃんの、システムのせつめい」
「説明も何も、リタイアしたボクたちになんの説明が必要なの?」
首を傾げると、ファナちゃんが同じように首を斜めにした。
「何言ってるの、アユム。今からダンジョンに入るんだから、その説明だよ?」
「……え?」
今から入るって。
それにまおちゃん、一番奥で待ってるって、それだけしか言わなかったよね……?
頭の中が疑問符だらけ。
いったい、どうゆうことだ。時間が巻き戻っているとでもいうのかな?
「ん、とりあえず説明つづけるね。まおの迷宮は、いっぽんみちで、一番奥までたどり着けたらクリアです」
状況がわからず、目をパチクリさせているうちにまおちゃんが説明を続け始めた。
「妖怪とか、おばけとかが、いっぱい脅かしにきます。いじめちゃだめだよ? お札システムってゆーのがあって、おばけはお札を投げると退散します。通路はいっぽんみちだけど、左右にお部屋があって、探索するとお札とかアイテムが見つかることがあります。あと、謎解きとかあって、それを解かないとさきにすすめなくなったりする」
にんまり笑って、まおちゃんがお札を三枚取り出した。
「初期あいてむはこれだけ。あとは探索してみつけてください! 正式に迷宮解放するときには有料で販売するよてい」
うふー、と目を¥にしてまおちゃんが笑った。意外に黒いよね。
「今回はまおも一緒にいくので、質問とかご意見とかあったらその場でいってね?」
「うむ、了解した」
ダロウカちゃんがまおちゃんからお札を受け取って頷いた。
どうやら謎解きやアイテムを駆使したリアルアドベンチャーゲームと言った感じのアトラクションっぽい。
……ボクがさっきまで居た、あそこって。
――いったい、どこだったんだろ。
どこか遠くから、クスクス笑う女の子の声が聞こえた気がした。
正直言って、先の異様な悪夢?体験があったので、ボクは入りたくなかったんだけど。
「こないだは一緒にいけなかったけど、今日は一緒に迷宮探検できるね!」
って、楽しそうにしているファナちゃんの笑顔を曇らせたくはなかったので、非常にびくびくしながら階段をおりることになった。
「あははー。アユム、もしかして怖がり? 暗いとこキライ? わたしこういうの平気だから、だきついてもいいよー?」
「わーい」
とりあえずファナちゃんをぎゅーっとしながら階段を降りた。
うん。我ながら現金だね!
さっき悪夢の中で下りた時には、どんどん真っ暗になってしばらく手探りで歩いたけれど、今度はそういうことはなくて、最初っから壁に提灯がぶら下がっていて、仄暗くはあるものの真っ暗って程じゃない。
「なかなか雰囲気あるでござるな」
「うん、楽しいオバケ屋敷をめざしたの」
階段を降りながら、まおちゃんがこの迷宮を作った目的だとか、経緯だとかを話してくれた。
まおちゃんの迷宮は、個人で作ったものなのでシステム的には普通の場所で、独自のジョブシステムとかはできなかったらしい。それで、運動が苦手な人でも楽しめるようなアドベンチャーゲーム型にしたのだとか。
「でもオバケは本物を用意した! わたしは本物志向のオ・ン・ナ、なのー!」
えへんと胸を張ったまおちゃんがカワイイ。あと女ってゆーより幼女。
「へー」
……ところでホンモノのオバケってどゆこと?
「って言ってる間にさっそく出たでござる!?」
ユキノジョウが盾を構えて前に出る。
みると。暗闇のなかに、ぼう、と燃える火の玉が。
「あ、いじめちゃだめなの!」
まおちゃんが、め、とばかりにユキノジョウの背中を引っ張る。
まおちゃんの説明によると、決まった位置にいるオバケと、巡回しているオバケがいてどちらもお札を渡すことで退散するらしい。
「むぅ、戦闘はなしか。ナィアーツェは役に立てぬな」
弓を構えて火の玉を射抜く寸前だったナィアさんが、悲しそうに弓を下した。
「お札には下級、中級、上級があって、オバケレベル以上なら退散してくれます!」
まおちゃんが火の玉に小さく手を振りながら言った。答えるように火の玉がぷるぷる震える。
「……なんかカードゲーム的なノリ?」
あとぷるぷるする火の玉がなんかカワイイ。
「んー。カードゲームとかみたく、属性とかまでいれるとお札の種類多くなりすぎちゃうから」
「下級は……これだろうか」
ダロウカちゃんがお札を1枚、火の玉に差し出した。
すると。
きゅー、きゅー、となんだか喜んだような鳴き声?がして火の玉が消えてしまった。
「おー。きえたー」
本当のオバケみたい。
「こんな感じで、障害を排除しながら先に進むのだー!」
まおちゃんがパタパタ楽しそうに両手をばたつかせた。
「おし、お札見つけたでござる。むむ、中級ですなー。ふひー」
「あの鬼はたぶん上級かなー」
きんにくむきっむきな赤鬼さんが道を塞いでたんだよね。巡回型ならどこかの部屋に入ってやり過ごしてもよかったんだけど明らかに門番型。お札がないとダメっぽい。
「いや、しかし上級のお札は効かなかったが。特級とか最上級とかのお札が必要なのではないだろうか?」
「あ、だめだったんだ?」
「三枚でいっこ上のお札に換算されるので、まとめてわたしたらいいです!」
「ふはははは! このお札をくらえ! 三枚一体御札乱舞ッ!!」
「なんでダロウカちゃんそんな必殺技っぽくお札渡すのさー」
「むー。この謎解きむずかしいよぉ」
「それ答えはあ行の3番目、さ行の5番目で、”うそ”だよ」
「にゃんとー!?」
「雪女だー!」
「着物の下って下着穿いてないってほんとうなのかなー?」
「アユムのばかー!」
「のっぺらぼうだー!」
「顔描いてあげようか」
「落書き禁止ー!」
「わんわん!」
「わんちゃんだー!」
「それは送り犬ってやつではないだろうか」
「え、アユムのことー?」
「それは送り狼って、ファナちゃんひどいっ!?」
「む、隠し扉を発見した。何やら棒のようなものがあったが、ナィアーツェにはわからぬ」
「不確定名:?棒でござるか。鑑定とかだれか出来るでござるか?」
「サイコロ2こふって、知力ボーナス足して10以上で成功だよ」
「いや、サイコロもないし知力ボーナスってなにさ?」
「おー? 祓串?みたい。 下級のオバケならこれ振るだけでいなくなるって」
「ファナちゃん、いまどうやって鑑定したのっ!?」
知識ボーナスとかなにっ!?
「え? ゲーマーならマイサイコロ常備は常識だよ?」
「どこの常識なのそれ……」
「無くならないとはすばらしい! これなら一度引き返して部屋を探索し直すのもありではないだろうか」
「うわ、呪われたでござる!?」
「えーっと呪いの効果は……巡回中のお化けが寄ってくるだってー」
「お札あんまりないよ?」
「祓串を振るしかないのではないだろうか! はらいたまえ~きよめたまえ~!」
ぶんぶん。フレーフレー。
「むう……。通路の突き当りに扉、ということは。おそらくここが最後、だろうか」
「けっこう歩いたしねー。どんだけ広いんだか! もう足が棒でーす!」
「いや一本道っていっても脇道が無いってだけでぐねぐね曲がってたから、敷地面積じたいはそうでもないかも?」
「よし、開けるでござる」
ユキノジョウが大きな扉を押し開けると。
そこは、吹き抜けの大部屋になっていた。
「……?」
けど、そこにはオバケもいなければ、仕掛けも無くって。
ただガラーンとした空間になっていた。
「どゆこと?」
まおちゃんに尋ねると、まおちゃんはちょっと恥ずかしそうに。
「えへ……まだできてない」
って言った。
ラスボスっぽい、でっかいオバケと、それを倒すためにの仕掛けを用意したかったんだけどでっかいオバケが捕まんなかったんだって。
大部屋の奥に小部屋があって、地上に通じる螺旋階段になっていた。
「なかなか楽しかったでござる」
「みんなでわいわいできるのがいいよね」
「謎解き難しかったー」
みんなで感想。
でもまあ、結局のところ全員一致したのは。
「オバケの意味なくない?」
ってことだった。
見た目でが色々あって面白くはあるけれど、ただ通路をでーんと塞いでるだけでオバケである必然性があまりない。
和風なダンジョンだからお化けとか妖怪にこだわりたい気持ちはわからないでもないけど、あれなら扉にカギをかけておいて、カギを集めて扉を開いて行くのと変わらない。
「もうすこし、妖怪やオバケならではの演出だとか、お化け屋敷のようなびっくりさせたり怖がらせるような要素とかあったらよかったのではないだろうか」
ダロウカちゃんがむふーと息を吐いた。
「んー。知り合いの知り合いに、そういうの得意そうな子がいるんだけど、協力お願いしてみようかなー」
「……まおちゃん、つかぬ事をお聞きしますが―。その人、狐のお面被ってたりしない?」
「え、あゆむ、知ってるの?」
「お願いだからその人はやめてー!」
……思わずガタガタ震えながら、ボクは大声をあげてしまったー。あわわ。




