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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
第三話「セカイを解放しちゃおう!?」
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11、「理解してはいけない」

「――っ!?」

 思わず悲鳴を上げそうになって、必死で押さえる。

 落ち着かなくちゃ。深呼吸、深呼吸。

 状況を確認する。

 襖は開かない。ナィアさんたちの姿はない。

 消えたのは、どっち?

 ……たぶん、ボクの方。左の襖の向こうから聞こえていたはずのぶつぶつとしたつぶやきは無く、欄間から覗いていた明かりも今は見えない。

 だからきっと、あの場から消えたのはボクの方なのだ。

「うん、落ち着かなきゃ。こんなの、ホラー映画じゃよくある展開じゃない」

 口に出して、大きく深呼吸する。

 大丈夫。ここは、まおちゃんの迷宮。とっても怖いことがあったとしても、それは怖いだけで、命の危険はないはず。ファナちゃんも、シェラちゃんも、無事でいる。そのはず。

 落ち着こう。大丈夫。

 何度も心の中でつぶやいて、深呼吸を繰り返す。

「――よし」

 ぱん、と自分の頬を自分で張って気合いを入れ直す。

「……飛ばされたのは、ボクの方。じゃあ、ここはどこ? 一本道のはずだけど」

 周りを見回す。見た目はまったく変化がない。

 いや、ボクが一か所でじっとしているせいか、壁に掛かる提灯の色が変わりつつあった。

「このままじっとしてると危ないね」

 左の襖は開かない。右の襖は、たぶんさっきとは別なんだと思うけど、心情的に絶対開けたくない。

「じゃあ、進むしかない?」

 いちいち口に出してしまうのは、たぶん、きっと、一人でいるのが心細いから。

 ちらちらと揺れる提灯の灯りを見ながら考える。

 なんだか、周囲の気温が急に下がってきた気がする。ぶるり、と身体が震える。

「……これはもう、ぜったいゴールして。まおちゃんに一言物申さなきゃいけないね」

 たった一人で歩くのには、少しばかり勇気が必要だった。

 うん、怖がらせた罰として、ぱんつの一枚でも見せてもらわないとやってられない!

「進まなきゃ」

 ボクは、その場を後に先に進むことにした。

 けど、やっぱりボクは慌てていたんだと思う。




 気が付いたのは、慎重に壁を伝いながら十数分進んでからだった。

「シスタブ使えばいいんじゃないっ!?」

 冒険中に別れ別れになることがあまりなかったのですっかり頭から抜け落ちてたよ。

 今回はMAPとか描いてないけど、パーティメンバーの位置表示は可能なはず。さらに言えば普通にシスタブで連絡すればいーんじゃない?

 慌ててシスタブを取り出して操作する。

 画面を切り替えてチャット画面を出してからふと気が付いた。


 ――なんで誰もボクに連絡してこなかったんだろう。


 チャット履歴にはボク宛のメッセージは無く。

 それに、よく考えたらシェラちゃんは影族のカードつけてるし、前みたいに”影渡り”でボクに合流してこないのはなぜだろう。

 あ、それをいったらボクもファナちゃんと合流は出来るはず。ってことはシェラちゃんも慌てて気が付いてないのかな。

 合流するにも、今みんなどこにいるのか確認する必要はあるよね。

 パーティメンバーの位置を表示させようとシスタブで周辺表示を行う。

「……え?」

 画面の中心、ボクを意味する光点のそばに、二つの光点。

 ナィアさんと、ユキノジョウ?

「シェラちゃんは……。あ、そっか。そういえばシェラちゃん、シスタブもってないんだっけ」

 シェラちゃんはLROにおいてはボクの装備品扱いで、パーティメンバーじゃないのだった。

 こういう時不便だよね。神殿で現地の人用にタブレット配ってるって話だし、今度シェラちゃんの分もらいに行かなきゃね。

 それはともかく。

 ユキノジョウとナィアさんがすぐそばにいることになってるのに。

 周りを見回すけど、相変わらず誰もいない。ただ漆喰の壁が続くだけだった。

「ゴールまでは一本道って話だけど。もしかして、そもそも道が複数あったりする?」

 スタートからゴールまでは一本道。だけと、平行にいくつもの道が並んでいたら? ボクはトラップで、並行するその別の道に飛ばされてしまったのかもしれない。

「……いやなトラップだね」

 もしかしたらシェラちゃんがこっちに飛んでないのも、何かそういうのを封じる仕掛けでもあるのかもしれない。

「まあ、いいや。とりあえず連絡しなきゃ」

 ええっと。ユキノジョウはアライアンスメンバーになるから、パーティ向けじゃなくって全体向けにしなきゃいけないんだっけ。ぽちっとなー。

「えーっと、アユムです。なんか、今、同じ場所にいるっぽいけど、ユキノジョウとナィアさんの姿が見えません。お二人は大丈夫ですか?」

『ふひぃー! アユム殿、いきなり姿が消えたでござるが、大丈夫だったでござるか?』

 シスタブからユキノジョウの返事が返って来た。

「うん、大丈夫です。ウチのシェラちゃんそっちにいますか?」

『いや、アユム。シェラはアユムと合流すると言って姿を消した。そちらには行っておらぬのか?』

 ナィアさんの少し困惑した様な声が。

「来てないです。うーん、やっぱり何か、空間とかいじってるのかな……」

 個人で作った迷宮でそんな仕組みまでできちゃうんだろうか。

 だいぶ疑問には思ったけれど、実際にシェラちゃんは合流できていないし、同じ場所に居るはずのナィアさんとユキノジョウの姿は見えない。

「あ、そだ。全体向けにしてるから、ファナちゃん、ダロウカちゃん、聞こえてます―?」

 ついでに呼びかけてみる。

『いや、ファナトリーアとダロウカは先ほどから呼びかけているが反応はない』

「あ、そうなんだ?」

 ボクの方には何にもログ残ってないとこ見ると個別チャットかな。

 周辺表示にはファナちゃんとダロウカちゃんを示す光点はなし。

 シェラちゃんが行方不明になっちゃったところを見ると、ボクが”影渡り”を試すのも危険かなぁ。

「……とりあえず、ひとりで行けるだけいってみますね。ユキノジョウはナィアさんと二人きりだからって変な気起こしちゃだめだぞー?」

 ボクだったらあのお胸の誘惑に耐えられないかもっ。

『ぬらしぷ』

「え? ユキノジョウ、今、何か言った?」

『ぬらさえ、えとしるば。えぴとべしぬれぶさ』

 何を言ってるのか、さっぱりわからない。意味不明な言葉の羅列。

 会話ログにも、ひらがなでわけのわからない言葉が残っているだけだった。

『ぬらしぺ』

『ねぷ』

『ころ、ずぷ』

『てれるし』

「え、ちょっと何言ってるの?」

 わけがわからない。

 それに今の、ファナちゃんとダロウカちゃんの声混ざってなかった?

「シスタブ、壊れちゃったのかな」

 えい、と斜め四十五度でチョップする。

 すると。

 画面の隅で踊っていたグレちゃんの2Dキャラが。


≪ぬらしぺ≫


 謎のメッセージを吐き出した。

「ちょっと、グレちゃんまでおかしくなってるのっ!?」

 いくらなんでも、おかしすぎる。

 シスタブとかグレちゃんとかはLROのシステムだから、そんなのに介入できるわけがない。

 ちょっと魔法で脅かすってレベルじゃない。まおちゃんが作った迷宮だからって、こんなの、あるわけがない。

 いったい、何が起こってるのさっ!?


≪アユム、へとむるぱ≫

≪ぬらしぺ≫


『ねぷ』

『すぷ、すぷ』

『呪』


 矢継ぎ早に、メッセージと会話ログが流れていく。

 何を言ってるのかさっぱりわからない。

 頭がおかしくなりそう。

「ピ!」

「え? シェラちゃん!?」

 聞きなれたシェラちゃんの声に振り返ると。

 いつものシェラちゃんが、ちょっと疲れたような顔で微笑んでいた。メイド服のあちこちが埃まみれになっている。蜘蛛の巣なんかがくっついてたりして、なんだかひどい目に遭ったみたいだった。

「よかった、無事だったんだ!」

 慌てて駆け寄ろうとしたら。


「――プゥ」


 笑顔のまま、シェラちゃんの首が。


 ……ごとんと床に落ちて転がった。


「い」

 声にならない。


「――~~~~ッ!!!」


 叫んだのか、

 何が

 れ


 たば


 ぬらしぺ・







「……大丈夫? アユム」

「……ん?」

 誰かに身体をゆすられて、目を覚ました。

 頭がぼーっとする。

 ボク、何してたんだっけ? ここどこだっけ?

 えーっと。

 思い出そうとして、不意に寒くもないのに背中がぞくりとする。

「突然、ボーっとしちゃって。寝不足?」

「んー? いや、そんなことは無いと思うんだけど」

 立ったまま、ぼんやりしていたみたい。

 心配そうにボクを見つめる、その小柄な身体を抱きしめてぎゅーってする。

「思い出せないけど、なんか怖い夢でもみてたような感じ」

「そっかー。立ったまま夢見るなんて、アユムって器用だね!」

「うふふー」

 ぎゅーってして、頬を摺り寄せる。

 その柔らかな感触に心地よさを感じながら。


 ……誰だっけ、この子。


 思い出せずにいた。

 ど忘れ? 確かに良く知っているはずなのに。どうしても思い出せない。

 すごく親しい仲なのに、大好きなはずなのに。なぜか名前を思い出せない。

 目の前に居て、ぎゅって抱きしめているのに。


「……なんで、顔が見えないの?」


「ぬらしぺ」



 ――ごめん、ボクもうダメ。

ぬらしぺ

 たぱ

へぬるぷ

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