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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
第一話「ルラレラティアへようこそ!」
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 3、「スロットとカード」

「……とりあえず、スロットとカードの説明をするね。アユム、こっちにきて」

 グレちゃんは片手でおでこを押さえたまま、部屋の壁に向かってふわふわと移動した。ボクもグレちゃんのお尻をながめながら後に続く。

 壁には大きなテレビのようなものがはめ込まれていた。この間来た時には、βテストは終了しましたーとか表示されていたやつだ。今は何か不思議なデザインの模様が、まるでパソコンのスクリーンセーバーのようにくるくると回っている。

 画面はよくあるゲームのメニュー画面風になっていた。この間よりボタンが増えている気がするのは、プレイアバターに切り替わったせいでルームメニューが解放されたからなのかな。

 ログアウトボタンの他にもいろいろボタンが表示されていて、その中に”スロット&カード”と書かれたものがあった。

「スロットとカード?」

 LROって取扱説明書が薄っぺらなコピー紙一枚だけだったから、ゲームシステム的なのがよくわからなかったんだよね。

「ん、まずはそこに座って」

 グレちゃんが何か操作すると、壁のディスプレイの前の床が、うにょん、と盛り上がってテーブルと椅子のような形になった。スライムベッドと同じような仕組みなんだろうか。

「よいしょ」

 グレちゃんに言われるままに椅子に座ると、ふにょん、と柔らかく形を変えてボクのお尻にぴったりと合う形になった。とってもいいすわり心地。

 ボクが座ったのを確認すると、グレちゃんも、テーブルの上に降り立って、ぺたんと女の子座りをした。かわいいネ。

「じゃー、説明するよ? wikiとか見て予習してきたみたいだけど、最初から説明するのでちゃんと聞いててね」

「はーい」

 教師風のグレちゃんもイイネ!

「まず、LROにおいて、プレイヤーにはレベルという概念がありません。ステータスという概念も表面上はありません。魔物を倒しても経験値なんてものは入りません。プレイヤー自身がスキルや魔法といった特殊な能力を習得することはできません。なのですが、正式版になりスロットとカードという、よくあるゲーム的な機能が追加されました」

 グレちゃんがふわりと浮きあがって、ディスプレイに表示された”スロット&カード”というボタンにペタリと手のひらを当てる。

 すると、ディスプレイにLv10、と書かれた緑色の変な四角が表示された。

「大雑把な説明をすると、カードには特殊な能力やスキル、魔法といったものが記載されていて、このカードをスロットにセットすることにより、プレイヤー自身がそのカードに記載された特殊な能力を使えるようになる、という仕組みです。まあ、スキルや魔法を装備するようなシステムってわけ」

「おー。ゲームっぽい!」

 あれかな、たまにあるよね。アクセサリとかに魔法が設定されてて、装備することでその魔法が使えるようになるやつとか。

 ガチムキのいかにも物理戦闘職でございってキャラに回復魔法セットして殴れる後衛にするとか、わりと自由度高いシステムでボクは結構好きだ。

「スロットは、カードを設定するための枠です。イメージとしては、よくあるゲームの装備枠、防具やアクセサリーなんかを装備するところにあたるのが”スロット”、そして防具やアクセサリーにあたるのが”カード”、って感じかな」

「ふむふむ」

「プレイヤー自身にはレベルとかないけれど、スロットにはレベルと色があるよ。レベルは1から10まで。色は属性を表していて赤・青・緑の3種類。赤は物理、青は魔法、緑は両方を意味するよ」

「んー? すると、さっきボクが引いた緑の10ってかなりイイヤツだったりするの?」

 最初っから最大レベルとか、チートっぽくないかなっ!? しかも物理と魔法両方とかなんかお得な感じ! 光と闇があわさって最強にみえるとか。そんなかんじー?

「……ある意味では、そうかも」

 グレちゃんが、なんかすごく言いにくそうな顔でため息を吐きながら言った。

「……なんか普通の意味ではよくなさそうな言い方だね」

「うん。説明を続けるから、聞いてね? カードにもレベルや色があって、ひとつのスロットにはスロットレベル以下のレベルのカードを1枚だけセットすることが出来るの。カードにはいろいろな種類があるけれど、大きく分けてジョブ系・種族系・ステータス系・特性系・スキル系・魔法系・特殊系の7種別。詳細は実際に手に入れてカードの説明を読んでね」

 グレちゃんが光るウィンドウを操作すると、トランプくらいの大きさのカードが3枚現れた。

 グレちゃんが1枚づつボクの前に並べてくれる。

「この3枚が初期カード。青:魔法の矢 Lv0、赤:スラッシュ Lv0、青:癒しの光 Lv0」

「カードの色とスロットの色って何か関係あるの?」

「スロットとカードの色を同じにすると威力や効果が2倍になるよ」

「ふーん」

 ……んー?

「赤と青のカードしかないけど……これボクの緑色のスロットに差したら、どうなるの?」

「赤カードも青カードも、緑スロットに差すと効果は1.2倍になるよ」

「……へー、って、あれ?」

 んーっと、ちょっとまって?

 それってもしかして。

 ディスプレイに表示されたボクのスロットは緑のLv10が1こだけ。差せるカードは1枚だけで……効果は1.2倍。

「あれ……意外に微妙?」

 初期スロットを確定するためのスロットマシンに「?」が5個並んでいたことを考えると、たぶん初期スロットは最大で5こ持てるんだと思う。ボクが1個でレベル10の最大ってことは、複数スロットになるとたぶんスロットレベルが低くなると思う。

 初期カードが青2、赤1なんだとしたら最良なのは青スロット2こ、赤スロット1こ。スロットレベルが各3くらいある感じ?

 そうすると初期カード全部同時にセット出来て、全部のカードの効果が2倍。

 それに比べてボクの場合、1枚しか装備できない上に、1.2倍止まり。

 ……なるほど、グレちゃんが頭押さえるわけだ。

 スロットのレベルが高いってことは、将来的に高レベルのカードを入手たときには役に立つかもしれないけど、現時点ではちょっと微妙な感じだよね。そんな高いレベルのカードなんて序盤で手に入るとは思えないしー。

「アユムは意外に頭の回転が早いのね」

 グレちゃんが少しだけ感心したように微笑んだ。そしてその笑顔のままボクにさらなる絶望を突き付けてきた。

「ここで残念なお知らせなんだけど。スロットにカードを刺した状態で行動すると、そのカードの色に応じた赤・青・緑ごとの経験値的なポイントがスロットにたまっていき、一定値に達すると新たなスロットが解放される仕組みなの。例えば、赤のカードをセットして使っていくと、赤に経験値が入って、新たに赤のスロットが拡張される、って感じ。ちなみにスロットは最大で10個まで増えるよ」

「……グレちゃん質問。さっきスロットの最大レベルは10っていったよね? 最大レベルだとその経験値って入るの?」

 まさか、ねぇ、と思って尋ねると。

「……(にっこり)」

 グレちゃんは笑顔で首を横に振った。

 なんてこったー。

 つまり、ボクはスロット1個しかないまま、つまりスキル1個しか使えない状態のままだっていうのかー。しかも倍率が1.2倍。

 仕様バグじゃないのー? コレ。

「まあ、気を落とさないで。ものすごーーーーーーーーっく低確率だけど、なんらかの行動でスロットが解放されることもあるから!」

「……」

 思わず無言でグレちゃんを見つめる。

 すると、グレちゃんはすーっと目をそらした。

「……ねえ、これってバグじゃないのー?」

「初期スロットで緑の10なんて、サイコロで6の目を10回連続で出すくらい確率低いんだけど」

 ちなみに6046万分の1くらいだったりする。ほぼ0とみなしていいよね?

「えー、ほら、ボクってラッキーガールだから?」

「じゃ、そのラッキーでスロット増えるのを期待するといいよ!」

「ぶーぶー」

「んー。ちょっと待ってね……」

 グレちゃんはウィンドウを操作すると、どこかに問い合わせを始めたようだった。

 しばらくどこかとチャットか何かでやり取りをしていたようだけれど、数分後、ようやくグレちゃんは顔を上げてにっこり笑った。

「ん、上司の許可が出たよ。自称ラッキーガールの運、試してみる? 本当はβテスターだけの特典だったんだけど、この間こちらの不手際で閉じ込めてしまったお詫びもかねて、特別に1回だけカードを引かせてあげる」

 グレちゃんがウィンドウをボクの前に広げて見せた。

 そこには無数のカードがぷかぷかと浮かんでいる様子が映し出されていた。

「カードにはランクがあって、ランクによって各カードごとの枚数に上限がある。例えば、世界で1枚しかないなんてカードもある。現バージョンでの総枚数は1億1440万2010枚。さらに特別大サービスで最低ランクを除いた★2以上の840万2010枚! この中から、好きな1枚をひいていいよ?」

「わーい」

 ちょっとでも強いカード手に入るといいなー。最低ランクを除いてあるってことは、少なくともどのカードをひいても初期カードよりは強いはずだよね。

 でも、このウィンドウからカードを引くってどうやるんだろ。指でつつけばいいのかな?

 そっと手を伸ばすと、ウィンドウに触れた指がそのまま中に入ってしまった。

「おー」

 あれだ、くじ引きの箱みたいな感じだね。ときどき手にカードのようなものが触れる。

「んー、しょっと」

 むにゃむにゃと、いいもんでますよーに、とお祈りして適当に触れたカードを引っ張り出す。

「おー。銀色のカード?」

 書かれた文字は、”影族(シエラ)”でレベルは5。

「おー、そこそこイイモノだよ。ラッキーガール(自称)は伊達じゃなかったね」

 グレちゃんが横から覗き込んできて、よかったねー、とボクの肩をぽんぽんと叩いた。

「基本的にプレイヤーは現実世界そのままだから、ほとんどの場合、種族は人間になっちゃうんだけど、このカードは種族カードの一種で、書かれた種族の特性を得ることが出来るカードだよ。多くの場合種族カードはいくつかのスキルや魔法、を含むからスロット1個でも多少はマシになるね」

「おー、それはイイネ!」

 影族のカードには黒っぽい人影のような絵が描かれていて、その下に使える技能が書かれていた。


 影渡り:自分の影から、知っている影に転移可能。

 影移動:影に潜んだまま移動できるようになる。

 影収納:自分の影に物をしまえる。

 操影術:自分の影を自由に操ることが出来る。

 影憑依:他者に憑依することが出来る。



 あとはいくつか???が並んでいる。現段階では使えないということだろうか。

 ……影族だからって、なんでも影ってつければいいもんじゃないと思うけどなー。

「……攻撃的な技能がナイっぽいんだけど。これセットしたら戦闘で役立たずなんじゃ?」

 それとも操影術っていうのが実は攻撃スキルだったりするんだろうか。

「あはは、とんだラッキーガールだね、アユムは」

 グレちゃんが肩をすくめてため息を吐いた。


 ……ため息を吐きたいのはボクの方だと思うよ。

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