23、「普通に死亡フラグ」
――まずは、もう少し情報の整理が必要だよね。ヨイムちゃんも情報が必要とか言ってたし。
というわけで。
「いくつか聞きたいことがあるんだけど、ナナさん」
「なんでありますか? なんでも聞くであります」
ナィアさんを交えて、いろいろナナさんに尋ねたところ、色々なことが分かった。
着水、とか大気圏内航行とか、普通の船にしては時々妙な表現するなーって思ってたら、ただの戦艦じゃなくって宇宙戦艦だったり。
まあ、よく考えたら普通の船ならエアロックとかないよね。巨大潜水艦なら無きにしも非ず?
大破した際の護衛任務の詳細は軍機ということで教えてもらえなかったけど、ナィアさん曰く、大災害後に宇宙からこの星に帰還する動きがあり、その時のものではないかということだった。
ナナさんが調子っぱずれな口笛を吹き始めたから、たぶんあってる。
なんで詳細を秘密にするのかは謎なんだけど、めんどくさい軍人の仕様ってやつなのかも。
でもって、敵、についてはナィアさんもナナさんも口を濁して教えてくれなかった。
けど、宇宙でシェラちゃんの創造主の野井さんが頑張ってるから当面問題はないとのこと。
野井さんといえば、ナナさん達を作った、というか設計したのも野井さんらしい。オートマタの生みの親だから当然と言えば当然かもしれないけど。
シェラちゃんが、わたしがお姉さんなの、とばかりにちょっと偉そうにナナさんの頭を撫でていたのがかわいかった。
場所的に迎え来るのが困難な場所であることはともかく、地上と連絡を試みなかったのかと尋ねたところ、通信設備が軒並みやられていて無理だったとか。
500年前なら、普通にタブレットってやつ使えたんじゃないのかなって思ったけど、オートマタはそう言うの持ってないんだって。
「こちらからも聞きたいことがあるであります!」
ナナさんの方からもいくつも質問された。
こっちの世界情勢みたいのなのはボクにはさっぱりわからないから、ほとんどはナィアさんが受け答えすることになった。
ナィアさんも、あんな砂漠の遺跡に住んでる割に妙に事情通だよね。
ボクも初めてこっちの政治形態とか聞いたんだけど、500年ほど前は普通にボクたちが想像するような王様とか居たみたい。神様が実際に存在する世界なので王権神授説を地で行くというか、神様に任命されて各地を治める感じらしい。でもって大災害で国が崩壊してからは、王様というか領主レベルで都市国家みたいなのが主流みたい。
国という言葉は今でも使われているけれど、実際には神殿を中心にしたエリアという考え方が近いのだとか。ファナちゃんの補足によると、LROで言う12のエリアがそれにあたるらしい。無人島エリアも位置づけ的にはプレイヤー主体の国、みたいなものなのかも。
500年前のものは今ではほとんどが遺跡になっていて、宇宙船は建造はおろか運用もままならないこととか、ナナさんはほとんど浦島太郎じみたショックを受けてしまったようだった。
いろいろ話を聞いたナナさんは、やや青ざめた顔でむむむとつぶやいた。
「ヒフミの懸念もよくわかるであります……。そんな状態であれば、この艦一隻で世界征服も不可能ではないであります」
まあ、現実世界の方から見ても、宇宙戦艦なんてSFの世界の存在だし。ファンタジー世界でも、ちょっとばかり常識外れな存在ではあると思う。
「まあ、女神様がそのようなことはお許しにならないであろう」
ナィアさんはそう言うけれど。こっちの神様って、ええっとアニメっぽい二頭身の光神くらいしか見たことないんだけど、そこまで神様っぽくないというか、なんかシステマチックでそういう調停とかしそうにないんだよね。
運営の双子女神ちゃんたちは、こまけーことはいいんだよっとか放置しそうな気も。でもまあ、ティア様はそゆこと許さなさそう。自称神様は……笑いながら嬉々としてもっとやれと煽ってきそう?
「むむむ……。ナナたちはこのまま、深海で眠ったままの方がよいのでありましょうか」
「んー、こっちとしてはどっちでもいいんだけど。その義足だけは作らせてほしいかも」
「艦長を任命することなく、使用するのは難しいでありますなー……」
ナナさんが腕組みしてさらにむむむと唸る。
「機人種の人が壊れちゃったりしたら、今でも使えるんでしょ? なんでかんちょーさんがいないと使えないのさー」
思わず尋ねたら。
「……修復装置を小官たちが好き勝手に動かせた場合。要するに機人種をいくらでも複製できてしまうのであります。勝手に自分自身を改造することだって出来るであります。軍隊で、兵器が、勝手に自己増殖して自分を改造して行ったら……想像はつくでありますな?」
「あー」
つまり、こういう言い方はあれだけど。
それはロボットが、ロボットを作れるということで。SFでよくある、ロボットの反乱みたいなのが起こせるってこと? それを防ぐために、ナナさん達の判断だけでは修復装置を好き勝手に動かせないようになってるってこと?
「オートマタの反乱だー」
ファナちゃんも気がついたらしく、なるほどーと頷いている。
「んー。じゃあさ、一時的にネーアちゃんを艦長に任命して、修復装置使ったらすぐに艦長辞任とかじゃだめなの?」
ナナさんが悩むほど難しいことじゃない気がするんだけど。
「……残念ながら、世界情勢を聞いた今では、出会ったばかりのあなた方を全面的に信頼することが難しいのであります。艦長の命令は絶対なのであります」
ナナさんは、ちらり、とネーアちゃんの方を見てため息を吐いた。
「……むう」
ネーアちゃんも、出会ったばかりのナナさんにいきなり絶対に大丈夫だから信頼してとは言えないらしい。
まあ、ナナさんたちにとっては。例えて言うなら、核兵器を発射できるボタンをそこらの一般人に渡すわけにはいかない、という感じ? 仮にぽちっとな、してもなんとかなる世界情勢ならともかく、持っているだけで世界征服出来かねない力を委ねるのは問題がある、という考えなのかも。
「……とりあえず、情報を共有して再度採決を取るであります」
ナナさんが椅子に座って何か操作する。
すると正面のディスプレイにがーっといっぱい文字が流れて。
『――ヒフミ・ヴェータは変わらず反対である。得た情報は、危険性を裏打ちするものである』
軍服幼女が一瞬現れて、すぐに画面から消えた。
『――ヨイム・ヴェータは条件付きの賛成に転じる。ただいま得た情報には客観性が無い。検証できる情報元を求む』
もうひとりの軍服幼女は、画面いっぱいに表示されて、なんだかこちらを窺うようにじーっと見つめてきた。
「うーん。ナナ・ヴェータは保留に転じるであります。保留1、賛成1、反対1でありますな」
腕組みしたナナさんが、少し口をとがらせて言った。
「言い出しっぺが保留とかどういうことなの! ナナさんが賛成すれば、それで決定じゃないの、なの!?」
マキちゃんが詰め寄ろうとするが、ナナさんは椅子を動かして上の方にすーっと移動してしまった。
「単なる多数決であれば、既に先の採決にて反対2で否決されているのであります。コアユニットは、三人全員一致が原則なのであります。小官は、ナナ・ヴェータは、このまま海底で朽ちるより、再び大海原を、宇宙の海を航海したいと望むものであります。しかし。……この艦を今の世に出すことに、大変な危惧を覚えるのであります。まさか、そこまで世の中が変わっているとは思いもしなかったのであります」
『――ヨイム・ヴェータは、情報の提供を要求する』
ナナさんの方にちらりと目を向けて。
画面の軍服幼女がそう言って、MAPにルートを表示させた。どうやら、自分の所まで来い、ということらしい。
「……とりあえず、ヨイムちゃんのとこ行ってみようよ」
ボクたちは艦橋を離れて。また緑の矢印に従って、移動することにした。
ひとりづつでも、説得しなきゃね。
「わー! ちっちゃーい! かわいいー!」
ヨイムちゃんは、ファナちゃんがそう言ってぎゅうと抱きしめるほどにちっちゃくってかわいかった。体型自体、6、7歳くらいの幼女なのに、それをさらに小柄にした感じ。
「……情報の提供を求む」
ぐるんぐるんと、ファナちゃんに振り回されながらヨイムちゃんは無表情にそう言った。
感情面ではナナちゃんの方が優れている感じ?
「通信設備が壊れているということだが、オラクルネットワークに接続は出来ないのか?」
ナィアさんが自分のタブレットを取り出しながら電源を入れた。
「当艦は軍用である。ハッキングの恐れがあるので、専用回線を用い、一般回線につながるようにはなっていない」
「ふむ。ではナィアーツェのタブレットを貸してやろう」
こんな海の底でもオラクルネットワークとやらはつながるらしい。まあ、神様がやってるからそういうもんなのかもしれないけど。
「……情報源の提供感謝する」
首にファナちゃんをぶら下げたまま、ヨイムちゃんはタブレットに手を触れ。
『――コネクト』
そうつぶやいて。
ぼふん、と頭から煙を噴いた。
「ちょ!? だ、だいじょうぶっ!?」
あわてて駆け寄るも、問題ないとばかりに押しとどめるように手を突き出してきたので胸をなでおろす。
「情報の客観性を確認。ヨイム・ヴェータは賛成に転じる。現存する宇宙船が無いというならなおのこと、ヴェータは空と地上を結ぶ架け橋になる必要があると認むる」
「ピ!」
硬い口調でそういうヨイムちゃんの頭を、シェラちゃんがなでなでした。
「ふむ。ノイのやつの手助けになるかもしれぬ」
ナィアさんもつぶやいて、シェラちゃんと二人してどこか遠い場所を見つめるように天井を見つめた。
ヨイムちゃんに案内されて、ヒフミちゃんの所へ向かう。
「ヨイムか」
「ヒフミ、情報の提供である」
ちみっこが仲良く握手する様子は和みます。
「ヨイムは現状を鑑みて、当艦を世に出す方針を支持する」
ヨイムちゃんがきりりとした顔で敬礼をした。頭にまだちょっとコゲが残っているけれど。
「……ヨイムの意見は尊重する。しかし、法的にも倫理的にも、戦艦を民間人の手に委ねるのは問題があると判断する」
「そこだけが問題なの? じゃあ、軍人だったらいいわけ?」
思わず割り込む。
「ナィアさんが軍籍あったって話だし、じゃあ、ナィアさんが艦長さんやったらいいんじゃないの?」
そう言ったら。
「ナィアーツェは陸軍所属であった。宇宙軍は管轄違いだ」
「ただの民間人よりはマシではあるが、問題ありと判断する。船は陸を走るものではない」
ナィアさん本人もヒフミちゃんもそろってダメ出し。
……ほんとめんどくさい。頭硬いんだよね、どっちも。
「だいたい、もう、軍が無くなってるなら軍人かどうかなんて意味ないじゃない? 結局のところ、それって自分じゃ責任とれないから誰か押し付ける人用意しろってことでしょ? なら誰でもいーじゃない。その覚悟があれば」
「……なるほど、その考えには一考の余地がある」
ヒフミちゃんはあごに手を当てて、考えるようにした。
「……デカエネーアといったな。貴様には世界を崩壊させかねない危険を背負う覚悟があるか?」
「……」
ネーアちゃんは、即答はできなかった。
まあ、ファンタジーな世界の住人が、いきなり宇宙戦艦とか言われてもわけわかめだよね。
「……ネーアちゃんの足を治してやりたい、ただそれだけなの。それが、そんなにいけないことなの?」
マキちゃんが、前に出た。ヒフミちゃんが、じろりとマキちゃんを睨み付ける。
「ふむ。責任は背負えないと?」
「……いや、そのために、私が出来ることならなんでもする覚悟はあるの!」
ぐっと拳を握りしめて。マキちゃんがヒフミちゃんを睨み返す。
「マキ、君はどうしてそこまでわたしのことを……」
ネーアちゃんが、マキちゃんを見つめる。
「だいじょうぶなの。ネーアちゃんの代りに、私がなんでもやっちゃうの!」
「ほう。口だけでなら何とでも言えよう。ふむ、ではヒフミが貴様の覚悟を試してやろう」
ぞくり、と背筋が冷えた。
「アユム、ファナトリーア、下がっていろ」
ナィアさんがボクとファナちゃんの襟首をつかんだ。
船室の壁が、急に色を失って真っ白になり、さらには床だけ残して消失してしまう。
これは、もしかして、プライベートルームのプラクティスモードと同じ??
「ピ!」
審判よろしく、シェラちゃんがマキちゃんとヒフミちゃんの間に立った。
「最後までヒフミの攻撃に耐えきれば、認めよう、その覚悟を。死にたくなければ、早めに撤回するがよい」
いつの間にか、ヒフミちゃんの両手に光る剣が握られていた。
ライトセーバーみたいな感じ。青と赤の二刀流だ。
「……くっ、なの!」
おしり丸見えのマキちゃんも、木の棒を構えて対峙する。
「べ、別に、お前を倒してしまってもかまわないの!?」
「かなうものならやってみるがよい」
あー、マキちゃん。それ立てちゃいけないフラグだよ……。




