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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
第二話「世界を歩こう」
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22、「戦艦ヴェータの謎」

 緑の矢印に従って移動すること一時間弱……。

 なのに、三次元MAPで見るとまだ半分も来ていなかった。

「もー。船だとしても大きすぎじゃなあい?」

 思わずため息を吐いてしまった。

 というのも。

 なんかここって、やたらと複雑な構造になっているんだよね。

 一階層上に上るのに、最初に三階層下りる必要があったり、エレベータらしきものは電気が来てないらしく動かなくってずっと階段だったり、その階段もだいたいは一階層分しか無くて次の階段までまた結構歩く羽目になったり。

「テレビ局とかさ、占拠されたりしないようにやたら複雑な構造になってるとか聞くし。この船もきっとそういうのなの」

 白いおしりをぷるんぷるんさせながら、マキちゃんも疲れた息を吐いた。

 中身が男だってわかってるけど、見た目美少女が熱い吐息を吐いたらちょっと色っぽい。

 まさか、ボクを誘ってるんですかー?

(……アユム?)

 はい、ごめんなさい。冗談です。

「いや、おそらくは、ブロックごとに切り離したり組み替えたりできるように、小さな区画をつないだ構成になっているからであろう。海の底にあることと言い、一度大破して、生きている部分だけで再構成した結果ではないかと思うが」

 ナィアさんが壁のつなぎ目を指でなぞりながら言った。

 確かに、壁の妙な幾何学模様は所々不自然な切れ目が入っていて、組み合わせが変わったんじゃないかっていうのが正しいように思える。

「……そうかもねー」

 まあ、何でもいいけど。疲れてきた……。

 曲がり角も多いし、天井は低いしで、小回りの利かない浮遊が使いにくいので二本の足で歩いてるんだけど。ファナちゃんボディはちっこくって歩幅が小さいから、一生懸命足を動かしても大して進まない。

 これまでは浮遊か、お魚状態で海中だったから気にならなかったけど。こういう時は、ちょっとコンプレックス感じちゃう。ファナちゃんちっこくってかわいーいいなー!って思ってたけど、こういう苦労もあるんだね……。

「……ナィアーツェの背に乗るか? ネーアを背負っているが、尾に近い所であれば大丈夫であろう」

 ボクが疲れていることに気が付いたのか、ナィアさんがしっぽを差し出してきた。

「……え、うん。ありがと、ナィアさん」

 最初は遠慮しようかと思ったんだけど。正直、身体のだるさの方が勝った。

 ファナちゃん、砂漠は平気で歩いてたからそれなりに体力はあると思うんだけど、三位一体の影憑依が少なからずちっちゃいファナちゃんボディに負担をかけている可能性もあるし。

(……さっきからもー! ちっちゃい、ちっちゃいって、アユムひどいー!)

 え、あ、ごめんファナちゃん。でもちっちゃくってかわいい。

(あと、疲れてるのは、わたしのアバターとアユムの体格が違い過ぎて、動かすのに慣れてないせいだと思う)

 そっかー。

 確かに泳いでる時はそもそもお魚のように体をくねらせることが初めてだから、全部ファナちゃんの感覚でやっちゃってたけど。二本の足で歩くのは普段自分でもやってることだから、妙に違和感があったんだよね……。

 ともあれ。せっかくなので、ナィアさんのご厚意に甘えることにする。

 危険も少ないようだから、と最低限の武器だけ持って、ナィアさんの荷物はボクの影収納にしまった。抱きつくようにナィアさんのしっぽの上に倒れ込むと、ナィアさんのひんやりとした潤いのあるお肌が気持ちよかった。

「しっかりつかまるように」

「はーい」

 見あげると、ネーアちゃんのスカートの中が丸見えだった。もちろん、ぱんつ穿いてないからいろいろ見えちゃいけない物が見えてしまっている。

 べ、べつにこれが目的だったわけじゃないからね!?




 ――さらに三十分後。

 足の遅いボクが、ナィアさんにおんぶしてもらったおかげでスピードアップしたのかもしれない。緑の矢印が大きなドアを差していて、三次元MAPでも艦橋と思しきあたりにようやく到着した。

 ありがとね、とナィアさんのしっぽから下りて、ちょっと伸びをする。

「じゃ、開けるよー?」

 ここのドアは電気が通っているみたいで、壁の小さなディスプレイに明かりが灯っていた。

 文字は読めないけど、おっきなボタンがあったのでたぶんこれが開くボタンだよね、って迷わずぽちっと押す。

 ぶしゅーっと空気音がしてドアが左右に開く。

 ……部屋の中は、薄暗い。

 正面の巨大なディスプレイに海底が映し出されていて、なんだか水族館か映画館の中みたいだった。

 なんか、すごいね。

 ぼんやり眺めていると。


「――ようこそ、戦艦ヴェータへ。歓迎するであります!」


 上の方から、誰かに声をかけられた。

 見上げると、可動式のアームに支えられた椅子が、音もなく下りてくるところだった。座っていたのは、軍服っぽい制服を着た若い女性。たぶん、機人種(オートマタ)

「小官は、第七方面軍所属、戦艦ヴェータのコアユニット、ナナ・ヴェータであります」

 椅子から降りて敬礼しながら、きりりとした眼差しでボクたちを見詰めて来る。

 ネイビーブルーの制服。白い制帽。女性だけれどスカートではなくってズボンを穿いている。

「……あ、ども」

 ぺこりと頭を下げる。

「……失礼ですが、官姓名をうかがってもよろしいでありますか?」

「えっと、ボクは……」

 どう名乗ろうかと迷って。

 どうにも説明しづらいので三位一体の影憑依を解除することにする。

「ボクはアユム、こっちはファナちゃん、シェラちゃん」

「こんにちわー」

「ピ」

 二人が軽く頭を下げる。

「なんと。影族だったのでありますか。千客万来でありますな」

 ナナさんは、少し驚いた様子だったけど、すぐに納得したように小さく頷いた。

「こっちがナィアさんとネーアちゃんで、向こうがマキちゃんです」

 紹介すると、ナナさんは機人種にしては珍しく、ひどく驚いたような顔で何度も瞬きをした。

 視線の先は……ナィアさん?

 まあ、ナィアさんみたいな蛇女種って珍しいみたいだから、驚くのも不思議はないけれど。

「……デカトリース艦長!?」

「うむ? わたしはデカエネーアだ。人違いでは?」

 って、ナィアさんじゃなくって背中のネーアちゃんの方でしたかー。

 けど、なんか似た名前??

「失礼しました。しかし……もしかして、皆様は、民間人、なのでありましょうか?」

 少しばかり目をぱちくりとさせながら、ナナさんが言った。

「ナィアーツェは、元、という但し書きはつくが第三方面軍に所属していたことがある。しかし、現在は軍組織そのものが解体されて無くなっているので意味があるまい」

「……今なんと? 軍が、解体された、と聞こえましたが」

 ナナさんが問い返す。

 ってゆーか、なんか軍人さんっぽい雰囲気あるともってたら、ナィアさんってそっち方面の経験者だったのかー。

「うむ、その通りである。500年ほど前の大災害ののち、軍を組織として維持運用できる状態で無くなったため、現在では解体されて各地域ごとの騎士団レベルになっていると聞いている」

「……なんと。ようやく、お迎えが来たと、思っていたのに」

 がくん、とナナさんが肩を落とした。

「お迎え?」

「……当艦は、護衛任務中に敵の攻撃を受けて大破し、当海域に着水しました。生き残った乗員は小型艇で全員脱出しましたが、艦長は、必ず迎えをよこすと。どれだけ時間がかかっても、必ず迎えをよこすと、約束してくれたのであります」

「一緒に逃げなかったの?」

「小官はコアユニットですので、艦から離れることはできないのであります。他の機人種のクルーも艦を修復するために残る必要があったのであります」

 ますます肩を落として、しゃがみこんで床を指でつつき始めるナナさん。

「……では、もしかして、では約束というのは! もしや、あなた達を迎えに来るということだったのか!?」

 ネーアちゃんが、驚きの声を上げた。

「先ほど、小官はデカトリース艦長と見間違えましたが、もしや貴殿はデカトリース艦長の血縁なのでありましょうか?」

 ナナさんが、改めてネーアちゃんを見つめる。

「遠い昔のことだ。もはや誰が、何のために残したものかも伝わっていない。だが、きっと、そうに違いない。わたしはこうして、祖先の約束を果たせたことを嬉しく思う」

「感動であります。感激であります!」

 ネーアちゃんが手を伸ばし、ナナさんと握手をした。

 なんか、ちょっとだけほろりときた。




「……ところでさ、見たところどこも水漏れとかしてないみたいだし、五百年も経ってるんだしとっくに直ってるんじゃないの? 迎えを待つ必要なんてあったの?」

 落ち着いたところでナナさんに声をかける。

 まあ、外から見たら岩山にしか見えなかったけど。艦橋まで歩いたところ、中はどこも壊れてるように見えなかったしね。

「……当艦は戦艦であります。兵器なのです。道具が勝手に自分の判断で動くわけにはいかないのであります。武装はともかくとして、大気圏内航行なら問題ない程度に修復は終わっているのですが、上官の命令なく発艦は出来ないのであります」

「……わー。めんどくさいんだね」

 思わずぼやいたら、ナィアさんに「そう言うな」と優しく肩を叩かれた。

 しっかし、500年前ってなんか戦争でもしてたのかな? ナィさんとこが遺跡になっちゃったのもなんか500年前の災害がどうとかだった気がするけど。

「……あの、それよりちょっと聞きたいの」

 マキちゃんがナナさんに詰め寄った。

「ここ、超科学の遺跡なの? ならもしかして身体の欠損を治せるような、そういう医療設備とかあったりしないの? なの」

「当艦のクルーは、基本的には機人種で構成されております。軍艦ですので、機人種の修復や再生を行う設備は備わっているでありますが……。生身の人間には適用不可能であります」

 ナナさん即答。

 ……ネーアちゃんのこと、ここに来たら解決するかもって思ってたのに。

 ボクたち、なんか全然違うイベントに巻き込まれちゃってるってこと?

「その欠損というのは、どのようなものでありますか? 種族や年齢は?」

「……見ての通り、ネーアちゃんの両脚の膝から先が欠けているの。種族は飛沫族で、年齢は十二歳なの」

 マキちゃんがナナさんに詰め寄って、そこでようやくナナさんはネーアちゃんの膝から先が無いことに気がついたらしい。

「……少し、見せてもらっても、よろしいでありますか?」

「うん、かまわない、けれど」

 なぜか、ネーアちゃんがマキちゃんの方を見つめて首を傾げた。

 ナナさんは、ネーアちゃんの脚の様子を確認し、下半身お魚状態にしてもらったりしたあと、ふむーと何度か頷いた末に口を開いた。

「機人種の技術を応用した、本物と同じように動く義足であれば、作成は可能であります。流石に飛沫族のように可変式は難しいでありますが、差し替え式であればそちらも可能であります」

「おおー! よかったじゃないネーアちゃん」

「この足が、治るというのか?」

「いえ、申し訳ありませんが、治るわけではなく、あくまで代替手段であります」

 ナナさんが少しだけ顔を曇らせて、正面のディスプレイを指さした。

 艦内図のようなものが表示され、ルートが表示される。どこかの小部屋の様だ。

「ここが修復装置のある場所であります」

「……それを使えば、ネーアの足が治る、なの?」

 マキちゃんが、ぎゅっと拳を握りしめる。じっとディスプレイを見つめて。

 確かに、それが本当なら、ネーアちゃんの足は治ると思う。

「詳細は後ほどお伝えするとして、その問いには、はい、と答えるであります。ですが」

 急にナナさんが両腕を胸の前で組んで仁王立ち。

「医療用に本来の用途とは違う使い方をするには、艦長の許可が必要なのであります!」

「……つまり?」

「どなたかに艦長をやってほしいのであります! この際民間人でも、緊急避難ということでゴマカスのであります!」

 わお。

 戦艦の艦長さんだって。

 主砲、発射!とか、左舷弾幕薄いよ、なにやってんの!とかやっちゃう? やっちゃう?

 むー? ……やっぱりなんか最近、思考に微妙にファナちゃんの趣味が混じって来てる気がする。今は合体してないのになぁ。

「……では、祖先の代りをわたしが果たすとしよう」

 ネーアちゃんが、声を上げた。

 マキちゃんは無言。

 ファナちゃんは、ちょっと不満そう。やっぱ主砲撃ちたいとか考えてそう。

 ナィアさんとシェラちゃんは任せる、とばかりにボクをじっと見つめている。

 ……まあ、いんじゃないかな。

 ボクが頷こうとした時。


『――ヒフミ・ヴェータは反対である。武装はほとんど使用不可能とはいえ、当艦は軍艦である。いくらデカトリース艦長の血縁とはいえ、民間人の手にゆだねるのは法に触れる』


 いきなり、ディスプレイにちんまい軍服姿の幼女が映し出されてびっくりした。


『――ヨイム・ヴェータも反対する。まずは、情報が必要と判断する。緊急措置は十分に検討してからでよいと考える』


 画面を半分に割って、さらにもう一人幼女が映し出された。最初のヒフミちゃんとそっくりだ。

「むむむ、賛成1反対対2なのであります……」

「今の子たち、何?」

「戦艦ヴェータは三人のコアユニットの合議制で構成されているのであります」

 ふむー。

 つまり、あの二人をせっとく(物理的でも可)しなきゃいけないってことだねー。

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