15、「それはみんなの力」
「――時間が無いので作戦を手短に説明するね。敵は海から来るので水際で止める。上陸させないように、迎撃して。あと、たぶん、一定以上ダメージを与えると逃げるから、飛行手段を持つ人たちは逃げそうになったら逆に島側に押し込んで。あと、敵はほーしゃのー吐くからきをつけて? いじょー」
ゴッド・ジーラは泳いでいるわけでなく、二本の足で海の底を歩いているとはいえ、とにかくでかい。駆け足をしなくったって、数歩で何百メートルも進んでしまうのだ。さっきは結構離れた場所で交戦したけど、もういつ来てもおかしくは無い。
「……作戦も何もねーだろそれ」
ハゲ頭のアンジーが、太陽光をキランと反射させながら言った。
「ボクの必殺攻撃は、強力過ぎて、島に上陸したら使えない。それにさっき使ったからまだクールタイムが回復してない」
「つまり、子猫はクールタイムが回復するまで俺たちに足止めしろっていってんのか?」
ガチ勢リーダーが少しムッとした顔でボクを睨み付けてきた。
「え、別に君達が倒しても構わないんだよ?」
なんかフラグっぽいけどっ。
自分が「別に倒してもかまわんのだろう?」って言った訳じゃなくって、他人に勧めてるわけだからセーフだよね?
「……ふん、了解した」
ガチ勢リーダーは、仲間のところへ戻って行った。
「ふむ。ではナィアーツェも足止めに参加するとしよう」
「あ、うんお願いね。でも、ナィアさん泳ぎ得意なら、逃げないように追い込む方にもまわってもらったほうがいいかな」
「海中からでは魔法の効果が薄い。ナィアーツェも浮遊を使うとしよう」
「おー、そういう魔法もあるんだねー」
「わたしも、援護する!」
ネーアちゃんが、ふんすーと鼻息荒く拳を振り上げた。
危険なのは確かだけれど、ネーアちゃんの気持ちを考えると引っ込んでてとも言いづらい。
「……えーっとナィアさん、ネーアちゃんのこともお願いしますね」
「うむ。任せよ」
よし、それじゃいきますかー!
(りべんじまっちだねー!)
海岸に移動すると、すでにガチ勢メンバーがスタンバっていた。
ゴッド・ジーラは、最初はサメみたいな姿で海岸を暴れまくったという話だったから、どうも最初っから水際で迎撃する方針で準備を整えていたたらしい。
魔法使いっぽい集団や、なんかバズーカ砲っぽいアーティファクトらしきものを構えた人たちとかが、隊列を組んで海を睨み付けている。ボクの交戦位置は伝えてあるから、だいたいの上陸地点の予想がついているのだろう。いくつもの隊に別れて、綺麗に配置についている。
んー、デカブツ相手だと、やはり遠距離攻撃主体になるよねー。
ファンタジーの世界だと剣でドラゴンに立ち向かう~なんてすぐ想像しちゃうけれど。基本的に現実と同様な動きしかできないLROのシステムだと巨大生物に近接攻撃なんて、殺してくださいって言ってるようなものだしね。実際、ボクも何にもできずに踏み潰されたしっ!?
「……来たぞ!」
誰かが叫んだ。
海面に、わずかに黒い影。
「第一攻撃隊! 構え! 撃てーっ!」
影に向かっていくつもの魔法の矢や、ミサイルっぽいもの!?が飛んでゆく。
どどどど、と水煙があがる。
「第二攻撃隊! 構え! 撃てーっ!」
おおっと、見てるだけじゃなくってボクも参加しなきゃね。
クールタイムはまだあと三十分くらいある。たぶん、魔法ミサイルなら確実に倒せると思うけど。行けるなら散弾タイプで。
「アユム、射線に気を付けよ。味方の弾にあたっては洒落にならぬ」
「あいあい。……なんかナィアさんってこういう集団戦とかも経験あり?」
なんか妙に硬い口調とか、軍人さんっぽいと思わないでもなかったり?
ナィアさんと二人、そろって空中に浮かぶ。
「なに、昔取った杵柄というやつだ。長く生きていると、いろいろなことを経験する」
「そうなんだー」
とりあえず、ボクも一発、ぶちかましちゃおーかなっ!?
海上にわずかに顔を出したゴッド・ジーラ。
多少わずらわしそうにしてはいるものの、ガチ勢の攻撃が答えた様子はない。
まだ距離があるのと、海中で魔法が拡散しちゃったか。どうも魔法の矢ってSF作品で言うビーム兵器に近いものらしくって、水中だと極端に効果落ちちゃうみたいなんだよね。
アーティファクトの方はよくわからないけど、LROってなぜか遠隔攻撃系のジョブとかスキルってないみたいだし、そもそも命中率が悪いっポイ。
「散弾タイプを、範囲を絞って撃ったらマシになるかな?」
(大砲じゃないとおもしろくなーい!)
ファナちゃんそうぼやかないのー。マシンガン撃ってると思えば楽しいんじゃない?
(わーい)
「ふふ。さて、そろそろわたしの真の力を見せるときが来たようだ」
なぜか、ナィアさんの背中のネーアちゃんが偉そうにふんぞり返って笑っている。
「ネーアちゃん、ナィアさんの邪魔しないでね」
「何を言う。直接的な攻撃は劣るかもしれないが、わたしには声がある。歌が、ある!」
すぅ、と大きくネーアちゃんが息を吸い込んだ。
「――~~~♪」
高い、ミの音が鳴り響いた。
「……え?」
とたんに、なんだか力が湧いてきたような気がした。
「ほう、飛沫族の歌魔法か。”勇気の歌”というやつだな」
ナィアさんが感心したようにうなずいた。
(わー、なんか綺麗な歌声~)
「――~~♪♪♪」
不思議な響きの歌が、戦域全体に響き渡る。
オオーッ、とガチ勢連中も気合の声を上げて、攻撃の勢いが増した。
これ、ボクたちだけじゃなくって、全員に作用してる? すっごい。
ファナちゃん、ボク達も歌えない? 合唱したら、さらに効果があがるかも。
(ごめん、歌魔法ってスキルはあるけど歌知らないから歌えな~い)
なんとー。
そっか、魔法とかと違って、名前唱えるだけじゃだめなんだ。
じゃあ、やっぱり魔法の矢とかぶちかますしかないかー。
「よし、アユム。敵は巨大といえども生き物だ。目を狙え。ナィアーツェは左を狙う」
「あいあい。じゃあ、右いくねー」
右手を伸ばして良く狙う。
「そりゃー!」
(あははは、ずっきゅーん! ばっきゅーん!)
ネーアちゃんの歌に合わせて、魔法の矢の散弾を撃ちまくる。元々移動とかにも使ってたし、空中だと反動がひどいので狙いが定まらない。
「は!」
ナィアさんは流石で、弓で獲物を貫くように、一本、力強い光の矢を放って。
「ぐぉおおおおおおおおるん!?」
見事に左目を貫いていた。
「さっすがナィアさん!」
「……いかん、反撃が来る!」
(ほーしゃのーびーむが来るよっ!?)
「ええーい!」
見よう見まね。シノブがやっていたのを真似して、操影術で巨大な円盤を作って盾のように構える。
「ぐぉおおおおおおお」
顎の下あたりまで海中から顔を出したゴッド・ジーラが、大きく口を開けて。
蒼い光を、吐いた。
――ボクに、うまく、やれるかなっ!?
ってゆーかやれなかったらナィアさん達が死んじゃうよっ!
「呼ばれてないけど、にゃんにゃにゃーん♪ ちびねこ勇者けんざーん、なのですっ!」
不意に空中にドアが開いて、ちびねこちゃんが飛び出してきた。
「にゃははー! ばりあーなの、でーすっ!」
なんかでっかい板のようなものが突然現れて。
「倍返しだー! なのですっ!」
ゴッド・ジーラの放った蒼い光を、まるで鏡のように反射して返した。
「ぐぉおおおおおおおおるん!?」
流石に想定外だったのだろう。自分の放った光で鼻先を焼かれてゴッド・ジーラが悲鳴じみた鳴き声を上げた。
「むっふー! なでてもいいのですよ?」
胸を張るちびねこちゃん。
すごいねー、となでなでしてあげる。
……まあ、やったことないのを見よう見まねでぶっつけ本番はアレだよね。
意気込んでいただけに、ちょっと拍子抜けしちゃったのは否定できないけどー……。
「撃てーっ! 撃てーっ!」
海岸からはひっきりなしに魔法の矢や、アーティファクトの攻撃っぽいものが放たれる。
しかし、ゴッド・ジーラは歩みを止めることなく島に近づいてくる。
「ってか、マジでゴ○ラ!」
「がんばれー! 早く倒して海で泳ぐでー!」
「つーか廃人連中よわくね?」
緊張感のない、無責任なヤジも聞こえて来る、けれど。
(もう腰のあたりまで来てる)
うん、マズイね。思ったより使えないかなー、ガチ勢連中。
足止めくらいしてくれることを期待してたんだけどなー。
まあ、そういうボクだって、散弾をうまく当てられず、全然ダメージ与えられてないんだけどね。
「にゃっはー!」
「喰らうがよい!」
ちびねこちゃんとナィアさんはヒャッハー!状態。多少溜めは必要な物の、ナィアさんがでっかいのをぶちかまし、反撃の蒼い光をちびねこちゃんが跳ね返してさらにダメージを与える。
ガチ勢連中の方には攻撃力が足りないのか、ほとんど蒼い光は飛んで行かない。たまに飛んで行っても、連中の上の方に居るシノブが影の世界に放り込んでいる。こっちのちびねこ・ナィアペアの戦い方を見て、シノブは防御に徹することにしたみたい。
シノブってなんか押しが強い感じだったのに意外だよね……。
「――~~♪」
ネーアちゃんの歌も、戦域に響き渡っている。
どうもちびねこちゃんが反射板みたいなのでさらに増幅して響かせているみたい。最初の頃よりずっと、効果が上がってる気がする。
しかし、戦域中に響き渡るような大音量で歌い続けるというのは、ものすごく体力がいる。
ネーアちゃんは、目をつぶり、額から汗を流しつつもだいぶ疲労がたまってる感じ。あんまり長くは持たないかもしれない。
魔法ミサイルのクールタイムは残りニ十分。これ以上島に近づいたら、撃つのが困難になる。
どうしよう。今さらだけどいったんプライベートルームに戻ってカードの設定変えて来るべきかな。散弾タイプは一発の威力が低いし、ばらまくから魔法の命中補正があんまり効いていない。ナィアさんみたいな、通常の魔法の矢のタイプの方が今はよさげなんだけど。
(わたしの"逆巻く渦潮”は? 足止めにならない?)
ん、やってみる。
「”さかまく、うずしおーっ”!」
いわゆるメイルシュトロームってやつ。普通のゲームだとかなり高レベルな魔法だったりするんだけど、LROでは★2の範疇に入っちゃう。一応、上級魔法の分類らしいけど、こんなのが★2ってなんか変な感じー。
ぐるぐるとゴッド・ジーラを中心に渦が出来る。★2のカードなので、多少はバザーでかき集めてレベルを上げといたけど、思った以上に結構でかい。
海とかおっきな湖とかでしか使えないからすっごく微妙な魔法だけどっ!?
(敵の進行がとまったー! いけてるっぽい!)
「うおおおおーーーーーっ!!!」
ゴッド・ジーラの動きが止まった、と見て取ると。海岸から雄叫びがあがった。
「え、ガチ勢リーダー?」
そういやあの人の名前すら聞いてないねー。
何をするんだろう、って見ていると。
助走をつけるように少し離れた場所から、駆け出して来た。
「え、何するの? あの人」
魔法部隊が、ガチ勢リーダーに浮遊をかけて。さらに護りの盾を何重にもかける。
「くらえーーーーっ!」
リーダーが、走り幅跳びのように、海岸線で思いっきり踏み切って飛び上がる。
地面を固めた上に、何か反射系統?のでポンと弾かれたのか、人間にはとても不可能な大跳躍だ。
「わお? 人間ミサイル?」
まさか、特攻する気?
前もって遅延で推進剤代わりの魔法の矢でも仕込んでいたのか、さらに背中からブースターのように噴射炎を上げながら、ぐんぐんとゴッド・ジーラに近づいてくる。
「出でよ、”一寸の虫にも五分の魂(Even a worm will turn)”!」
その両手に。
突然、長さ100メートルはあろうかという、巨大な両手剣が現れて。
「【鋭角化】【両手持ち】【パワースラッシュ】!」
「えー、マジでー?」
剣がでかすぎて、人がおまけにしか見えないのに。
スキルは発動すれば、その通りに動いてしまう。
「ぐぉおおおおおおおおるん!?」
冗談みたいにバカでかい剣が、ゴッド・ジーラの脳天に、突き刺さる。
「――とどめだッ!【衝撃】ォッ!!」
あー、これ戦闘のコツで聞いたコンボだ。
どごん、と衝撃が響き渡り。
――ゴッド・ジーラの頭が、爆発するように、弾け飛んだ。




