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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
第一話「ルラレラティアへようこそ!」
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 1、「可愛い天使のお出迎え」

 ――今日のお昼から、LROの正式サービスが始まる。

 土曜だし、きっとたくさんの人が今か今かと開始を待っているに違いない。だってボクがそうだし。時計をじっと見つめながら、いまかいまかと時間が来るのを待っている。

 先日、送られてきたLROを試しに使ってみてプライベートルームに閉じ込められちゃったけれど。実際にフィールドに降り立ったわけでもないのに、それでもあの体験は強烈だった。

 最初はゲームの中の世界じゃなくって、ボクが寝ている間に誰かに誘拐されて、どこかに閉じ込められたのかと思ったくらいだった。

 身体にはまったく違和感がなく、ログイン前に着ていた服もそのまま再現されていたのだから。ボクがかけているメガネだって、そのまんまだったし。それどころかお尻のポケットに入れていたスマホまで再現されてたんだから。

 そのスマホのおかげで掲示板で相談して、なんとか無事にログアウトできたけれど。

 たったそれだけの短い体験が、ボクの期待をいやがおうにも高めていたのだった。

 ちなみにあとで聞いた話なんだけど、スマホを持ちこめたのは、初期ログイン時に限り服やメガネやコンタクトレンズなど、身に着けているものがそのまま再現される仕様のせいなのだそうだ。

 あの後、運営の人から電話がかかって来て、不手際のお詫びと同時に”今後ああいった情報端末の持ち込みは許可しない方針”ということで、中で撮った写真なんかも削除するように要請された。

 あのとき会った、ねこみみの子の写真。もったいなかったなぁ。

「……また会えるといいんだけど」

 おみみを撫でられなかったのが、返す返すも残念だった。

 ごめんねすぐログアウト処理するから、っていきなり現れて、不手際をわびた後に何か光るウィンドウを操作したと思ったら。もうボクはログアウトして自分の部屋に戻っていた。

 別れ際の、正式サービスは今週末だからログインはそれまで我慢してね、ってねこみみをぴこぴこさせながらの笑顔が忘れられない。

 かろうじて、とっさに一枚だけ写真撮れたんだけど、公開前のゲームの情報を勝手に公開とかすると法的手段に訴えることもあるかもしれないねー、んふふ?とかちょっと運営の人に冗談交じりに脅されて、泣く泣く消しちゃったんだよね。

 ……ん? そういえば。

 フィールドには入れなくっても、ログインサーバーはもう動いているんだよね?

 ってことは、先に入って冒険用のアバターとか作ったりできるんじゃないかな。

「よし、試してみよう」

 今度こそは、きちんとログアウト時間を設定しておく。今日は土曜日だし、初回だし、がっつり四時間くらい設定しておくかな。

 今がお昼ちょっと前だから……。

 ピッピ、と表示を操作してログアウト時刻を16:00に設定する。

 よし、と。

 お昼ご飯は早めにすませて、おトイレだってちゃんとすませたし。

 あとは……着替えた方がいいかな? 部屋着で冒険はちょっとあれだしね。

 冒険しやすいようにがっちりした厚手のジーンズを穿いて、上に生地が厚めのシャツを着る。部屋の空調は適温に設定してあるから寒くは無いんだけど。

「……うーん。向こうは寒かったりするのかなぁ」

 パーカーくらいは羽織った方がいいだろうか。コートだと流石に冒険はしにくいよね。

 ちょっとした一人ファッションショーだ。小物も合せて、ああでもない、こうでもない、といろいろ組み合わせてみる。

 ……気が付いたら、とっくに12時を過ぎてしまっていた。

「あー! スタートダッシュに乗り遅れちゃう!」

 βテストに参加してた人たちとかはとっくに冒険用のアバターがあるはずだから、ただでさえボクは出遅れている。

 ボクは慌ててパーカーを羽織ると、ゴーグルを被り、抱き枕を抱えてベッドにうつ伏せになる。

「えへへ……れっつ! ぷれい!」

 パチンとゴーグルのスイッチを入れる。

 ちかちかと、真夏の夜空のように光が瞬き。

「よーし、遊ぶぞー」

 この間も聞いた、不思議なボーっという音とともに。ボクの意識は暗転した。




「……ふわふわ」

 気持ち良い柔らかさに包まれて目を覚ますと、この間と同じようにボクはまるでスライムのようなふわふわな丸いベッドの上にいた。

 やっぱりスライムベッドは気持ちいい。現実世界にもあるといいのになぁ。

 ちなみにこのスライムベッド、緩衝材なのだそうだ。通常、ログイン時そのままの状態でプライベートルームに現れるため、例えばベッドに横になっているとベッドの分少し空中に浮いた状態で出現してしまう。そうすると、ごちん、と頭をぶつけてしまったり大変なことになってしまう。

 なので、デフォルトではプライベートルームの出現地点に、このスライムのようなものに包まれた状態で現れる仕様になっているらしい。……うつ伏せだと窒息しそうな気もするんだけど。

 さて。

 二回目ともなると多少は慣れもある。んー、と伸びをしてから、よいしょ、と体重を移動させて起き上がる。

 すると。

「――LROへようこそ、キノサキ・アユム様」

 かわいらしい、女の子の声がした。

 真っ白な部屋の中央に、五十センチほどかな、中学生くらいの女の子をそのまま三分の一くらいに縮めたような小さな姿が浮かんでいた。髪は銀色。目は鮮血の様に鮮やかな紅。ふわふわの白いドレスを着て、そして背中には鳥のような白い羽が生えている。

 頭に天使の輪は無いけれど。まるで天使みたいだね。

 思わず見惚れてしまった。

 こないだはこんな子いなかったけど。

 ――あ。

「……もしかして、キミがシス子ちゃん?」

 wikiとか掲示板に書かれていたっけ。プライベートルームには、ゲーム関係の色々な手続きをしてくれるAI娘が居るって。

 目をぱちくりしながら、ボクの顔の高さに浮いている小さな女の子を見つめると、彼女は目を閉じて小さくお辞儀をした。

「はい。わたしはシステム・オペレーティング・コンパニオン、略してSYS-COのNo.7(タイプセブン)、グレイスと申します」

「あ、どうもこんにちは。ボク、城之崎(きのさき)(あゆむ)です」

 こちらもぺこりとお辞儀を返す。

 ……しかし、すごいね。

 かわいい。すごくかわいい。抱きしめて頬ずりしたいなぁ。

 こんな小さい人間なんているわけないから、どう考えたってポリゴンか何かで作ったCGに過ぎないはずなんだけど。

 目の前の小さな、グレイスと名乗った天使ちゃんは、どう見ても生きているようにしか見えなかった。さらさらの髪の毛。瞬きする。ちゃんと呼吸までしているようで、小さな呼吸音と、わずかに肩や胸が上下している。

「わー、なんていうか、言葉も出ないね……」

 ぐるり、とグレイスちゃんの周りをまわってみる。

 白い翼がぴこぴこと動いているけれど、羽ばたいているわけではないみたい。この翼で空中に留まっているわけではないようだ。

 どうやって浮いてるんだろう。ドレスの裾がふわふわ揺れているから、無重力っぽい感じ?

 んー、と下から覗き込もうとしたら。

「……あの、何を?」

 グレイスちゃんがスカートの前を押さえて、すーっと空中を後ずさりするように移動した。

「え? ほら、どうやって浮いてるのかなって気になって」

 別に、スカートの中が気になったわけではないデスヨ?

 いや、フィギュアとか人形とか、スカート穿いてたら、中どうなってるのかなーって気にならないこともないけどさ。

「……わたしのように空中を自由に移動できるスキルはいくつかあります。わたしの場合は”浮遊”ですね。物体にかかる重力を軽減するものです」

「へー」

 ボクもそういうの使えるようになるんだろうか。wikiによると確かプレイヤー自身はスキルとか魔法とか覚えないって話だったから、そういう能力を持つアーティファクトをげっとすればいいのかな?

 まあそれはそれとして。

 ぴらり、っと。おお。ちゃんと普通にめくれるんだ。ポリゴンとかだとスカートめくれないかなって思ったけど。

 ふむー。

「――あの……何を?」

「え、どんなかわいいぱんつ穿いてるのかなって気になったからさ」

 なぜ人はスカートをめくるのか。

 それはその向こうに神秘が隠されているからである。なんちゃって。

「でさ、紐パンはちょっとセクシー過ぎるとボクはおもうんだけど?」

 ボクとしては、フリルのついたレースのぱんつを期待していたんだけど。

 見た目相応にかわいらしいのがよかったなー。

「……」

 グレイスちゃんが、なんだかすごい笑顔を浮かべている。

「え、あれ?」

 笑ってるのに、なんか、すごく怖いんだけど。

 パリパリ、と何か小さく弾ける音がして。

 グレイスちゃんが、胸の前で両手を合わせて、ゆっくりと左右に開いてゆく。

「……えっと、グレイスちゃん、その手の間にあるものって?」

「雷の魔法ですよ(はあと)」




 気が付いたら、スライムベッドに埋まっていた。

 すごいや。まだフィールドに出たわけでもないのに、魔法初体験しちゃった。

 まだ体の芯がしびれてる気がする。癖になったらどうしよう。

「……」

 起き上がると、まだ笑顔でグレイスちゃんがこちらをにらんでいた。

「キノサキ・アユム様? まだチュートリアルも終了していませんが、先に警告しておきますね?」

 すーっと空中を滑るように移動してきて。ボクの胸の上に、とん、と降り立った。

 そして。

 道端の吐しゃ物でも見る様な目で、ボクを見下ろして。

「……わたしを含めたSYS-COシリーズに対するセクハラは、アカウント停止および削除の対象になる場合がありますので、言動には十分ご注意願いますね?」

 マイナス二十度くらいの冷たい眼差しで、グレイスちゃんがそう言った。

 ちょっとゾクゾク来た。

「うん、気を付けるね。でもって、グレイスちゃん、そんなところに立つからスカートの中見えてる」

「……(にっこり)」


 ――二度目のパリパリは、最初の三倍くらい大きかったよ。

 冒険に出るまで、まだまだかかります……。

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