33、「いきなり大当たり」
……間が開きすぎてすみませぬ。
――真っ暗。全方向に落ちていくような浮遊感。
わ。もしかしてこれが無重力ってやつ? ぐ、ぬ、あわわ。
ふんばれなくてキモチワルイ。
(すごーい! ふわふわー?)
≪落ち着いてください、アユム様≫
『聞こえるかね、アユムくん。こちらからはそちらが確認できた』
「あ、えーっと。野井さん? 聞こえてますけど。どこだろ」
【影渡り】って。基本は対象の背後に出てくるはずなんだけど、周りが真っ暗で良く見えない。いや、完全に真っ暗じゃあなくって。あれって、星の光?
ジュ・トゥ・ヴーが転移できるだけの場所を確保してから呼ぶって言ってたけど、まんま宇宙空間っぽいんですけど。
≪姿勢制御を空間戦闘用モードに切り替えました。慣れるまで少しかかると思います≫
あいあい。
あ。視覚にも補正かかったかも。そっか、今ボク、ジュ・トゥ・ヴーに乗ってるから、ボクから見たら野井さんってちっこいはずなんだよね。
よーく目を凝らしてみると、ズーム機能で一部が拡大されて視界の端に表示された。前方のやや下よりで白衣の野井さんが手を振っている。宇宙空間っぽいのに、宇宙服みたいなの着てなくって、地上とまったく同じような格好だ。
その両隣に、赤いメイドさんと青いメイドさんが立っていた。直接会うのはたぶん初めてだけど、たぶんシェラちゃんの心の中で会ったお姉さんたちだと思う。
「野井さん、こちらでも確認できました」
ええっと。こうかな。
モード変更の影響か、手足を動かす感覚で、どこのバーニアをどれだけ動かせばいいのか、手に取るように分かった。
慎重にバーニアを動かして、野井さんたちがボクの顔の高さになるように移動する。
単なる飛行と違って、動くのにも止まるのにも姿勢制御用バーニア使わないといけないので、やり方はわかってるんだけどすっごく大変。基本的にはシェラちゃんが機体制御してるので、ボクの考えた方向に動かしてくれるんだけど、あくまでボクが主なので、カンセー?とかいろいろ理解した上でボクが動かそうとしないと、変な動きになっちゃう。
『紹介しておこう。こっちの赤い服の子がヴェラ、青い服の子がテッラだよ』
「あー。その節はどーも? アユムです。あと、ファナちゃんとシェラちゃんとレイちゃんとイェーラちゃんが居ます」
代表でボクが挨拶する。
(アユム、そのせつはーって、なんか知り合いみたい?)
うん。ほら、シェラちゃんの心の中でね、会ったことあるんだ。シェラちゃんのお姉さんたちだよ。
(そうなんだ?)
『ヴェラよ』
『テッラだ』
赤メイドさんと青メイドさんが、優雅に一礼する。
こっちは無重力でふわふわしてるのに、まるで地上に立ってるみたいな動きだった。
「あ、前に会った時は片腕だったけど、治してもらったんだね」
確か、刀を持ってた青メイドさんの方だったっけ? あの時は片腕がなかったのに、今はちゃんと両腕がそろっている。
『地上の戦艦ヴェータでパーツを作成してもらってね、修復したんだよ。宇宙ではアレに利用されないように、そういった装置が無くて修復が困難だったんだけどね、地上に有ってよかったよ』
「そうなんですかー」
『……というか、この二人とアユムくんたちは初対面ではなかったかね? いや、テッラが負傷したからヴェラを連れて行ったという説明は以前にしていたかな』
「あー。いえ。シェラちゃんを起こすときにちょっと、お二人から干渉がありましてー?」
不幸になるとわかっているから起こすな的なこと言われたんだったかな。
かくかくしかじかと、かいつまんで以前、赤メイド青メイドのお二人に出会った時の話をする。
『ふむ。二人からは何も聞いていなかったが』
野井さんがメイドさんたちを見つめると、二人そろってそっぽを向いた。
「それより、ここって何もないうちうくうかんみたいですけど、どういうことですか?」
『なに、後ろを見たまえ』
「うしろ?」
ぷしゅ、と左右の肩の姿勢制御用バーニアを一瞬吹かしてくるりと身体を反転させると。
「……わお」
――そこには、光の泡に包まれた、巨大な島が浮いていた。
(すごいぞ、ラ○ュタは本当にあったんだ!)
ファナちゃんそれ違う。けど、実はそうなんだよと言われても不思議じゃあないかも?
宇宙空間にぽっかりと浮かんだ島には、中央に大きな城の様な建物があり、そこから放射状に街が広がっていた。かなり近代的な建物で、砂漠で見た朽ちた高層ビル群とか、新品だったらこんな感じかなという雰囲気。しかし植物らしき緑も多く、川のようなもいくつか見える。都市ではあるけれど、自然と調和しているところが某アニメの天空の城にそっくりだった。
島の上空には雲も浮かんでいて、島の下半球部分は海のように水でいっぱいになっていた。
うーん。なんかすごい。
うちうコロニーっていったら、こう、円筒形の内側に人が住んでる感じの思い浮かべるけど。これ、島を丸ごと宇宙に浮かべた感じだよね。
『まずは本星に一番近いコロニーから。念のため姫人形で来てもらったが、ここから何かわかるかね?』
「うーん、どうだろ? イェーラちゃん何かわかる?」
というか、宇宙に出てからずっと静かだよね。
視界の端に別窓が開いて、コックピット内のボクの視点が表示された。一緒に乗りこんだイェーラちゃんがボクの顔の横で、口をパクパクしながら何か必死にボクをつついてるのが見える。どうしたんだろう?
[ん。レイが仲介する]
お願いねー。
『――ようやく気が付いたようね。この妖精ボディって通信機能がないのよっ! シスタブ貸しなさい』
あー。ジュ・トゥ・ヴーの軍用通信と直接つながってるボクたちと話せないんだ。
……それどころか野井さんとも全く話せないね。
レイちゃんが仲介してくれてるから今はたぶんつながってるけど。
シスタブでつなげたっけ? 前は自称神様が一時的に作戦行動用にネットワーク組んでくれてたけど。
≪前回の仕様をこちらで再現します……ネットワーク構築完了。イェーラにはわたしのタブレットを渡します≫
あいあい。お願いねー。
というか、イェーラちゃんももっと早く言ってくれればよかったのに。
『真空中じゃ言葉も話せないわよ』
あれ、コックピットの空気ないの?
≪空間戦闘モードでは姫人形の機体自体が宇宙服と同様の働きをします≫
あ。そう言えばいつも以上に中の触手っぽいのが絡み付いてると思ったら。スキンタイト宇宙服みたく密着してるんだ。
イェーラちゃんが動けるだけの空間は確保してあげてね?
≪了解しました≫
それでイェーラちゃん、ここから何かわかる?
『……1発目から大当たりってところかしら。出て来るわよ?』
え?
「野井さん、なんか出てくるみたいです!」
『……岩船の質量が最初に確認した時より少ないと思っていたが、やはりそういうことかね。ヴェラ、テッラ』
『コネクト・オン、ヴェクサシオン』
赤メイドさんの背後から、巨大な鎧が現れて赤メイドさんをがぱんと胸に吸い込んだ。
シェラちゃんの心の中ではボクが一方的にすりつぶしたあの鎧だけど、味方としてならずいぶんと頼もしいかも。大きさ、ジュ・トゥ・ヴーの倍くらいあるし。
『……テッラ、参る』
青メイドさんが、まるで流星のように宇宙に浮かぶ島に向かって駆け出した。宇宙空間なのにどうやってるのか知らないけど、地上みたいに宇宙を走れるみたい。
≪……敵機確認。姫人形タイプ、20≫
「わお。どういうこと?」
『人型兵器がこれだけあるとは……。私に秘密で製造していたと、そういうことか』
「これ、もしかして。このコロニーの人たちが地上攻める気でこっそり開発とかしてたのを、黒いモヤモヤに乗っ取られちゃった感じ?」
『……可能性は高いと思うね』
「こっちを不審な姫人形とみなして調査に来ただけって可能性は?」
『宇宙ではアレの侵略を警戒して、宇宙船、機動兵器の類は一切破棄されている。その禁止されたものが今目の前にある時点で、黒だと思うね』
「……あれ、人間が乗ってると思います?」
『宇宙にはテッラとヴェラ以外に機人種は居ないはずなのでね、おそらく機人種の代わりの制御機構を詰め込んだ機体で、そのために制御装置を乗っ取られたのだと思われる。おそらくは無人だろうと思うが、内部に捕らわれている可能性は否定できないね』
「シェラちゃん一応、通信してみて」
≪……応答ありません。機人種およびその他、人間の反応ありません≫
『……では、斬る』
真空中でどうやってるのか全く謎なんだけど、先行したテッラさんが刀を振るったらしく、先頭の姫人形が手足をバラバラに切り飛ばされた。
『ヴェクサシオン・レーザー!!』
ヴェラさんのロボが全身から幾筋ものレーザーを放った。
敵の姫人形は散開して躱したけれど、しかし、レーザーはぐにゃりと曲がって敵を追尾して2機の推進器を破壊した。
以前、ボクがばすたーなマシンで使ったやつマネしたのかな。
「ヴェラさん、コロニーの近くでそんなのぶっ放したら危ないですよ?」
『コロニーに当てる様な下手くそなまねはしないわよっ!』
[アユム、妹を救う]
そうだった、黒いモヤモヤだったとしたら、レイちゃんの妹にしてあげなきゃいけないんだよね。
「胴体と、頭は傷付けないでください!」
『無論。委細承知』
「おねがいしますねー」
そういえばテッラさんは手足しかちょん切ってなかったっけ。
ヴェラさんの方はちょっと心配だけど。
スカートの内側からライフルを引っ張り出して、セレクターを幼女化兵器にセット。
[ブレード・ファンネル配置]
スカートにはまっていたブレードファンネルが浮き上がって、ボクの周囲を固めるように一定の距離で配置される。
よーっしいくぞー!
スラスターを全力噴射! 宇宙だと加速も段違いだね!
(ひゃっはー! 撃つよっ!)
あいあい。
ファナちゃんが、先ほど胴体だけになった敵姫人形に向かってライフルを発射する。
すると。ぽん、と光を放って、たちまち幼女化した。
[確保]
すぐさまレイちゃん操るブレードファンネルがコの字型に降り曲がって、光の格子で回収する。
「……大丈夫?」
真空中で、いきなり身体を得て。そのまま死んじゃったりしてない?
[問題なし]
新しいレイちゃんの妹は、全身真っ白で、なんだか白エルフっぽかった。
……ロリダークエルフっぽいレイちゃんたちとは、ちょっと違う、のかな?
基本行き当たりばったりで書いてるものですから、32で上げた矛盾点解決できなくてどーしようみたいなのとか、妙に土日に体調悪かったりとか、4作品同時進行でつい後回しにしちゃったりとかですみません。




