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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
第一話「ルラレラティアへようこそ!」
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17、「ナィアーツェの迷宮」

 お風呂が空いたので、ボクもシャワーを浴びることにした。

 バスルームは洗面所の付いた脱衣所が別になっていてそこそこの広さがあるものの、長い長いナィアさんの蛇ボディが全部入るほど広くはなかった。

 おトイレした時にも思ったけど、ナィアさんどうやってシャワー使ってるんだろう。

 人型の上半身だけシャワーを使うのかな。髪とかキレイに整えてるから、少なくともちゃんとお風呂に入ってるのは間違いないと思う。

 洗濯機っぽいっものがあったので覗き込むと、ファナちゃんの服が入っていた。そういやファナちゃん、バスタオル巻いただけで出て来てたっけ。せっかくなので噂の紐ぱんの形状を確認しておく。うん、えっちぃ。

 残念ながらブラっぽいものは見当たらなかった。まぁ、ボクだって上半分のタンクトップみたいなのをブラ替わりにしてるわけで。ファナちゃんはそれすら要らないっポイ。

 自分の服も全部脱いで、全部投げ込んでスイッチを入れておく。ナィアさんの話じゃすぐに仕上がるって話なのでシャワー浴びてる間に終わると思う。

 お風呂もやっぱり消耗品の類はあまり無いようで、手製らしき石鹸のようなものと髪に使っていた香油らしきものがあったので、せっかくなので使わせてもらう。

「……お風呂場にでかい鏡って、うーん、なんか、いやん」

 ぜんら全裸~。ちょっと気取ってポーズを取ってみる。現実そのまんまが再現されているようだ。少しくらい腰をきゅっと引き締めて、お胸増量とかしてくれてもいいのにね。男の子に見えるくらい凹凸の少ない流線型ボディは……うん、まあ、ドンマイ?

 バスルームを出たら洗濯物が乾燥まで終わっていたので着る。こんな短時間でお洗濯終わるとか、メイドロボとか居るらしいし、かなり科学技術?が進歩してるみたいだよね。

 ついでにファナちゃんの服も持ってバスルームを出た。

「すっきりさっぱり~」

「あれ、アユム、服そのまま着たの?」

 そういうファナちゃんは、なんかひらひらしたメイド服っぽいのを着ていた。メイドロボ動いてるって話だったし。備品がのこってたのかな。

「ん? ちゃんと洗濯したよ。はい、ファナちゃんの」

 一番上には細い砂時計みたいな形の布きれ。

「きゃー!」

 悲鳴を上げたファナちゃんが、奪い取るようにして、脱衣所の方に駆けこんでいった。




 さて、これから遺跡探検なわけだけれど。ナィアさん入れて三人ってちょっと戦力的に心配だよね。

「ファナちゃん、こないだのお姉さんとか都合つかない?」

 見た感じ白い鎧とか装備してたし、盾役にいい感じだと思うんだけど。

「りる姉のこと? うーん。たぶん、無理。こないだのもわたしを心配して来てくれただけで、本当は忙しいんだよね」

「そっか」

 まあ、リルファリアさん、見た目は中学生みたいだったけど二十云歳らしいから普通に社会人なんだろうね。あるいはファナちゃんとか女神様関わってるみたいだし、運営に関わってたりするのかも。

 とすると、他に知り合いとか居ないしどうしたものかな?

 考えていると。

「にゃっはー! 呼ばれてないけど、にゃにゃにゃ、にゃーん!」

 突然、部屋の中にドアが現れて。

 ちびねこちゃんが妙なポーズを決めながら飛び出てきた。

「話は聞かせてもらったのです! つまり、人類は滅亡する」

「……なんで?」

 いきなりすぎて意味不明。

「アユム、そこは”な、なんだってー!?”って言わなきゃだめでしょ」

 ファナちゃんのツッコミも意味不明。

「なんでと聞かれたらっ! ノリでっ! なのです!」

 むふーと息を吐いて仁王立ちするちびねこちゃん。

 ノリで人類滅亡したらたまったもんじゃないよねー。

「ティア・ローか。元気なようで幸いだ。しかし、どうやってナィアーツェのねぐらに来たのだ?」

 ナィアさんも、いきなり現れたちびねこちゃんに少し驚いてるみたい。

「なぜならっ! わたしはっ!」

 ちびねこちゃん謎の変身ポーズ。

「勇者だからっ! なのです!」

 むふー、って鼻息がちょっとかわいい。あとそれ質問の答えになってない。

 まあ、女神様の分身みたいなものって話だったし。シスタブでグレちゃんが聞き耳立てていてなんか連絡とかしたんじゃないかなって思う。

 シスタブを引っ張り出して2Dグレちゃんをつつくと、口笛を吹いてごまかすようなアニメパターンになった。考えは当ってたっポイ。

「ちびねこちゃんも一緒に冒険してくれるんだ?」

「ん、いちおー、お仕事なのです」

 しっぽをぴん、と伸ばしてちびねこちゃんが胸を張った。

「お仕事?」

 なんだろう。

「この遺跡は、LROとして用意されたものじゃないのです。危険度の判定を行うのです。おっけーならLROのシステムに取り込むのです」

「ふーん?」

 アーティファクトとか見つかるって話だし、ナィアさんが話してくれたようなそういう設定のダンジョンかと思っていたら。どうやら本物の遺跡ってことらしい。

「って、マップとか作ったのって開発の人じゃないの?」

「ゲーム用に作ったダンジョンは別にあるのです。ここはそうじゃないのです」

「んー、つまり、どういうこと?」

 よくわからないねー。まあちびねこちゃんは運営の人が操作してるっぽいけど、NPCの人も中に人が入ってるんじゃないかっていうくらいしっかりしてるし、人類シミュレーションみたいな感じで世界を作ったのかな。現地の人が自分たちで作った遺跡って感じ?

 それをゲーム的に使えるようにしようってことかな。

「大体そんな感じなのです!」

「……あれ、ボク口に出して言ってた?」

「つまり、カードが出る様になったり、ゲーム的なポイントをゲットできたり、そういう風になるのです」

 むふー、と鼻息ちびねこちゃん。

 カード出るのはイイネ。

「うむ? その、システムとやらに組み込まれるということは……それは今後、異邦人が次々にナィアーツェの遺跡を訪れるようになるということか? ナィアーツェの認めた数名ならかまわぬが、好き放題に荒されるのは困る」

「だいじょーぶなのです。こっちから人を呼びこんだりはしないのです」

「ならばよかろう」




 話がまとまったようなので、出発の準備をする。

 といっても、いつでも取り出せるように武器を腰に差したりとかその程度。そもそもダンジョンアタックってどういう用意したらいいかわからないしね。

「まあ、さほど危険はないが。万が一はぐれたりしたときのためにパーティ登録をしておこう。リーダーはアユムでよいな?」

「え、うん、了解」

 ボク、リーダーとかやったことないけど。まあ、たぶん大丈夫。

 ファナちゃんに教えてもらって、全員のシスタブやタブレットをボクのとくっつけてパーティ登録をする。

「では行こうか。ナィアーツェが案内するから、皆はついて来てくれ」

「はーい。ところで、ここが地下十階って、すでに相当深いところな気がするけど。この遺跡ってどれだけ階層あるのかな?」

 ドアから出ようとしたナィアさんの背中に問いかけると。

 ニヤァ、と笑いながらナィアさんが振り向いた。

「最下層は999階だ。ナィアーツェもそこまではなかなか行けぬがな」

「……ほえー?」

 そんなに深いの?

「……メイドさんいるのって何階?」

「地下777階だ」

「わお」

 攻略にいったい何年かかることやら……。




 ――はい、そう思った時期がボクにもありました。

「ここが地下777階だ。この辺りは特に重要な研究がおこなわれていたようで、警備のメイドロボなども巡回しているので気を付けるのだ」

「……うん」

 転移装置であっという間でした。

 そりゃ元が研究施設で、その機能がいまでも生きてるのであれば移動手段だっていろいろあるよね。エレベーターとかでも何時間とかかかりそうだけど、なんか光で出来た魔法陣っぽいのの上に乗ったらあっというまだったんだよね。

「ひゃっはー! 冒険のはじまりなのです!」

 ちびねこちゃんが元気に丸めた新聞紙をぶんぶんと振り回している。なんかなごむ。

 あの剣で結構すごい衝撃波とか出してたのも前に見たけど、絵面がほんわかしすぎ。

「……」

 ファナちゃんは無言で拳を握りしめて、周囲の警戒をしている。

 ボクも、気を付けないとね。種族特性的にはボクがシーフの役割だし。

 ……って、あれ? イメージ的にそういうつもりでいたけど、ボク罠感知とかカギ開けとか、そういったスキル全然持ってないよね。迷宮探検にシーフ技能抜きとか、大丈夫なんだろうか。

 まあ、ナィアさんがソロで回ってたってことはお任せして大丈夫なのかも。

 秘儀、全部お任せの術。無責任すぎ?

 スロット1個しかないのが全部悪いのだー。

「アユムもファナも、そこまで警戒する必要もない。この階層のIDカードは持っている。警備のメイドロボが故障でもせぬ限り、襲われることはない」

「……それなんかのフラグっぽい。それにメイドさんに襲われなくても、罠とかあったら」

「研究施設に罠など仕掛けるバカはいない。研究員が困るだろう」

 ナィアさんが呆れた声を上げた。

「えー? ダンジョンなのにモンスターも襲ってこなくて罠もないの?」

「期待にそえなくて悪いが、ここは遺跡に過ぎん。物語のような冒険はあまり期待しないでほしい」

「そっかー」

 まあ、言われてみればそうだよね。入り口とかはセキュリティでカードとかないと入れないようにするかもだけど。中にトラップとか仕事する人困るよね。ちょっと残念。

 せっかく初めてのダンジョンアタックなんだから、もう少し冒険っぽいことを……。

「――っ!」

 腰の後ろに差した剣を左右それぞれに抜く。ボタンを押して、短い刃を発生させる。

『……マイ・マスター?』

 角を曲がったとたん、そこに立っていたのは、朽ちかけた人形の姿だった。

 まるで、ゾンビのようだった。服はぼろぼろ、腕は片方しかなく。目の部分にはただ空洞があるだけ。ただチカチカを明滅するその眼窩の奥に、狂気を感じる。


 ――ぞっとした。元の姿が容易に想像できるだけに、その不気味さが際立つ。

 何かを求めるように伸ばされた腕。反対の肩口にはねじ切れたような金属のパーツ。ボタボタと漏れる、赤い血のようなオイル。

 こちらを認識しているのかさえわからない。失われた眼窩で虚空を見つめ、半開きになった口からは。

『……マァァァイ、マァスタァァぁ~?』

 壊れかけたスピーカーのような。割れたしゃがれた音が漏れる。


「……ナィアさん!」

「かなり古いな。主を失ってずっとさまよっていたのか。こういった手合いはもう全て処理したつもりだったが」

 ナィアさんが弓を引き絞った。

「……安らかに眠れ」

 光の速さで、矢がゾンビメイドロボの眉間を貫いた。

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