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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
第一話「ルラレラティアへようこそ!」
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16、「野良メイド」

 ……まぁ、ナィアさんの思惑がどうであれ、ボクたちに悪い感情を持ってないことは確かだよね。もらってばっかりだったから、少しでもナィアさんに利益があるとわかって少しだけこっちも気が楽になったし。

「さて、では本題の生きている遺跡の話に入ろうか」

「ん、お願いします」

 軽く頭を下げると、ナィアさんは少し困ったように首を斜めにした。

「……とはいえ、あまり語ることは多くない。元は様々な商品を開発してきたとある企業の商品開発施設だった場所だ。墓穴との違いは、災害で埋もれたわけでなく、災害で周辺のインフラが死んだために放棄された施設だということだな。電気や水道、マナの供給施設は生きていたが、周辺の都市が壊滅したこと、食料の入手が困難になったためにこの場所を捨てたわけだ」

「そうすると、捨てられたものだから拾っていいっていう理屈なのかな?」

「ここを引き払う時に、持って行けるものは持って行ったからな。その際に残ったものは好きにしていいと言質も取っている」

 なるほど。何がどれだけ残ってるかは知らないけど、気兼ねなく漁ってよさそうだね。

「ボク、短剣とか欲しいんだよね。なんかいい武器を入手できたりしないかな」

 双剣術を使えるようにするには短い刃物が二ついる。スロットが少ないボクとしては、影族のカードを最大限に生かすためにも武器はそろえておきたい。

「む? 昨日渡した”いにしえの剣”では不満か」

「長さがちょっとねー」

「柄の長さはともかく、刃の長さなら調整は利くだろう」

「え? あ、そっか」

 ボタン押してる間たらーって液体金属が垂れて来て、離すと固まるわけだから、適当な長さでボタン離しちゃえばいいのか。今気が付いたよ。

「ごめんね、もらった武器も使いこなせてないのに新しいの欲しいとか言っちゃって」

「いや、かまわん。何か希望があった方が案内しやすい。それに短剣がいいということは双剣か、もう一本要るのだろう」

 ナィアさんがとぐろを解いて、部屋に立つ柱にするりと巻きついた。そのまま天井付近まで登って行き、壁に掛かっていた金属の筒を取って戻って来た。

「使うといい」

「ありがとう。もう一個、持ってたんだね」

「ナィアーツェは弓を使うので、剣はいらない。ファナは何か要るか? あまり危険はないが、今後のためにも何か身を守るための武具は必要だろう」

「……」

 ファナちゃんはちょっと悩んでいたようだけれど。

「手や腕を保護する小手のようなものはありますか?」

「しばし待て」

 ナィアさんがまたするすると柱をのぼってゆく。

「ファナちゃん後衛なんだよね? 杖とかの方がいいんじゃないの?」

 尋ねるとファナちゃんは首を横に振った。

「カードによる魔法って、別に杖とかいらないんだよ。ルラレラティアの人が使う魔法には発動体って言って杖とか指輪とか、聖印とかが必要なんだけど、わたしにはこっちの魔法って使えないし」

「そうなんだ」

 そう言えは魔法の矢って試した時に別に杖とか持ってなかったしね。

「でもなんで小手?」

「まだ飛沫族の5レベルだから今はスキルはないんだけど、6レベルになると格闘術がつくんだ。下半身がお魚な種族だから基本的には拳による殴りだけなんだけどね」

「……わお、撲殺人魚?」

 なんか将来の二つ名が早くも想像できそう。撲殺人魚ファナトリーア。なんかかっこいいー。

「もー、ひどーい!」

 ファナちゃんが笑いながら頬を膨らませた。かわいい。

「異邦人なら、これはどうだ。左は氷魔の小手メディア、右は炎魔の小手ナディアというらしい。その名の通り、氷の力と炎の力をそれぞれ持っている」

「え、それってもしかしてアーティファクト?」

 特殊能力のついてる装備って、そういうことだよね。

「うむ。しかし異世界からもたらされたモノらしく、どうやらこちらの人間にはまともに使える者がいなかったらしい」

「……そんな貴重な物もらっちゃっていいんですか?」

 ファナちゃんがためらいがちに言ったけれど。その目は既に小手にロックオンしている。

 どうやらすごく気に入ったみたい。

「言った通り、こっちの人間にはまともに扱えなかったシロモノだ。ファナが使えるのであれば持っていくがよい」

「ありがとうございます」

 ファナちゃんがさっそく小手を装備。

 目を閉じて、ん、と胸の前で拳を握ると。

「おー」

 左の氷魔の小手の方に反応が会った。青く輝いて、ひんやりと冷気が漂ってくる。

 人魚さんだから、水とか氷とかに相性がいいのかも。

「うーん、左だけかー」

 ちょっと残念そうにファナちゃんがため息を吐いた。

「ん、じゃあちょっと右の方ボクに貸して」

 ボクも格闘もってるんだよね。投げとか締めが主体だから小手はむしろ邪魔かもだけど。

 ファナちゃんから炎魔の小手を借りて右手に装着。

「ボクの右手が真っ赤に燃えるッ! えへへ、燃え太郎ッ!」

 カッコつけてポーズを決めてみた。

「……えっと、アユム」

「……いやん」

 ぷすんとも言わなかった。ハズカシー。

 ここはほら、ものすごい炎が燃え上がって、うわアユムすっごーい!ってなる場面じゃないの?

「まあ、アユムはそう気を落とすな。ファナが氷魔を使えるようだし、いずれ炎魔もファナを認めよう。両方ファナが使うといい」

 ナィアさんの微妙な慰めが心に突き刺さった。




「……それにしても、ここって寒いよね。砂漠の中なのに」

 とっくにお茶は飲み干してカップは空になっていた。少しでも暖を取ろうと二の腕をさする。

「ナィアーツェのねぐらは、地下十階だからな。このくらいの温度と湿度が快適なのだが、人間には寒いか。少し待て」

 ナィアさんがなんかリモコンっぽいものを操作すると、急にどこからか暖かな風が吹いてきた。

「……空調ついてるんだっ!?」

 なんて快適そうな御宅なんでしょう。グレイブホールの宿屋とか、あそこに住みたいとは思わなかったけど、ナィアさんちならずっと暮らせそう。

「風呂とトイレもある。なんなら、砂を落としてくるがいい。時間はあるのだろう?」

「え、ほんとですか!?」

 食いついたのはファナちゃんだった。やっぱり砂のじゃりじゃりはね。

「……ん? もしかして……ここって」

 水道も通ってるし、電気もつながってるぽい。それに地下十階とかって。

「ここってすでに、ナィアさんの言う遺跡の中なの?」

「うむ。ナィアーツェはここの管理人である」

「わお」

 通りで快適そうな御宅だと思った。




 ファナちゃんは覗いちゃだめだよ、絶対だからね?って何度も念押ししてシャワーを浴びにいってしまった。あれだけ念押しするってことは覗けってことだよね?

 一緒に入らない?って聞いたら「えっちー」って顔真っ赤にしてた。

 とりあえず、バスとトイレは別だったのでトイレを借りた。お茶飲み過ぎたかも。寒かったからおしっこ近くなったのもあるかもだけど。

 シャワーの音をBGMに、すっきりさわやか。普通に現代的な洋式トイレで、しかもシャワートイレだった。ボタンとかまでまんまなんだよね。消耗品は流石に備蓄がないのかトイレットペーパーのような物はなく、しょうがないのでビデしておしり乾燥で乾かした。

 ……ところでナィアさんってどうやっておトイレするんだろう。

 トイレなだけにそんなに広くないし、そもそもあの蛇ボディで便座に座れるとは思えないし。

 それに出すところって前の方?後ろの方?どっちについてるんだろう。

 知りたいけど、うーん。

 ぼんやり考えながらトイレから出る。

 すると、部屋がずいぶん明るくなっていた。あちこち浮かんでいた青白い照明は非常灯みたいなものだったらしく、天井全体が蛍光灯のように明るく輝いていた。

 なんかほんと、プライベートルームに似てるなー。

 手を拭くところがなくて、しょうがないのでパーカーの裾で手をぬぐいながら座ろうとして。


 ――天井からぶら下げられた、少女と目が合った。


「……え」

 その瞳に精気は無く、開かれたままで瞬きはしていない。だらりと伸ばされた舌。

 どう見ても、生きてはいなかった。

 どう見ても、死体にしか見えなかった。

 思わず、床に尻をついたまま、後ずさって。

 ナイアーツェの冷たい視線に、気が付いた。

「……ナ、ナィアさん?」

「ああ、気にするな。罠にかかったただの侵入者だ。しばらく留守にしていたからな。ナィアーツェがこの部屋にいろいろため込んでいるものだから、よくやって来るのだ、こやつらが」

 ナィアさんのため込んでいるものって。

 ボクがもらった剣とか、ファナちゃんがもらったアーティファクトとか。

 そういったものを、あさろうとして。盗もうとして。罠にかかってここで果てた?

 精気のない瞳が、虚空を見つめている。

 さっきまでは青白い、比較的暗い照明で全然気が付かなかったけれど。

 まさか、異邦人でなかったら。ボクたちもこんな風に?

「……どしたの、アユム。お風呂空いたよ。入ってきたら?」

 バスタルを巻いたファナちゃんが。

 立ち上がって、背にかばう。

「どうしたの、アユム」

 背の低いファナちゃんは、少し上の方にある死体に気が付いてないらしい。

「どうしたのだアユム」

 ナィアさんが不思議そうに首を傾げる。

「野良メイドが、そんなに気になるのか?」

「……野良のメイドってなに?」

 雇われてるからメイドなんじゃないの?

「そこにぶら下がっておるソレのことだが。こやつらは勝手にナィアーツェのねぐらを整理整頓などと言いおって勝手に模様替えするのでな」

「ぶらさがってるって……ひっ!?」

 ファナちゃんが上を見て悲鳴を上げた。

「ファナも何を驚いておる? 本では異邦人の住む世界にもメイドロボは居ると書いてあったが」

「……ロボ?」

 いやいや、リアルにそんなSFちっくなのは居ませんから! ゲームとかマンガとか二次元を除いては。

「正確にはこちらでは機人種(オートマタ)と呼ばれる機械仕掛けの人形だ。この遺跡がまだ現役だったころにこの施設を保守していた者たちだな。特にランクの低い清掃用のものなどは融通がきかないのでな。手荒ではあるがこうして罠にかけて作動停止させているのだ」

「そうなんだ……。本当の人間みたいだから、ちょっとびっくりした」

「最高級のハイエンドモデルになると子をせぬだけで人間とほぼ変わらん。今でも動いているのは、ほとんどが構造が単純な作業用だけだ。そやつらも年々、まともに動かなくなったり、狂ったりする。今の世の中では修理もままならぬからな」

「……」

「ふむ。興味があるか? ナィアーツェは蛇女なので契約できなんだが、封印(シール)された機人種は何体か居場所を知っている」


 ――え、メイドロボげっとできるの?

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