16、「浸食」
間が開いてすみません。常態化してますね……。
――結局ルイちゃんは、ボクの部屋にお泊りすることになった。
家が厳しいらしくてちょっとひと悶着あったんだけど、ボクたち4人で写真撮って送ったらとりあえず許可はもらえたみたい。
シェラちゃんご飯で晩御飯。相変わらずシェラちゃんのご飯はおいしいね。
そんでもってベッドで身を寄せ合って女子とーく。リアルのボクの部屋のベッドはシングルだから流石に4人も入るのは大変。もうあっちもこっちもくっついて、ふれあって。抱きついて、抱きしめて、ちょっと幸せ。残念ながらちゃんと服は着てるけどっ。
……いや、ボクが女子トークとか何言ってるんだってきがしないでもないけど。
【影憑依】でお互いの心の内まで全部わかり合った同志だけれど、前にファナちゃんに言われたようにやっぱり口にしないとお互いに分からないこともあるから。
恥ずかしがるルイちゃんにちょっとイタズラしながら4人でごろごろしながらいっぱいいろんな話をした。
リアルのルイちゃん、ルイーズちゃんは、あっちのルイちゃんと違ってなんだかとても落ち着いた感じだった。いや、お風呂でもベッドでもいっぱいイタズラしちゃったし、顔真っ赤でぷるぷる震えちゃってるんだけど、なんていうかあっちで襲われた時の様な嫌な感じがしないって言うか、見た目は全く一緒なのになんか中身のあり方が違うっていうか。
そう、あれだ。向こうのルイちゃんって、男の子の時も女の子の時も、中身が思春期の男の子っぽいんだよね。そういうところがボクが受け入れがたかった要因の一つなんだけど。
「……リアルのルイちゃんって、なんか向こうと違うよね。向こうのルイちゃんって、こう、なんかどろどろしてる下心?みたいなのが割と透けて見えるんだけど、ルイーズちゃんはなんだかそういうのが無くって……天使みたい?」
「あ、それわたしも思った。ルイーズちゃんってなんかリアルの方が作り物っぽいっていうか感情があんまり見えないよね」
ハナちゃんも同意するようにうんうんと頷く。
「……なんだかひどい言われ様ですね。でも、アユムさんにはお話しませんでしたっけ?」
ルイーズちゃんが、ボクのイタズラから逃れるように、シェラちゃんの方にもぞもぞと移動した。シェラちゃんが歓迎するようにルイちゃんを腕の中に受け入れて、ぎゅって胸に抱えて頭をなでなでしてる。なんかうらやましい。
「んー。話って、なんの?」
「リアルの私は、好きとか嫌いとか、あんまりよくわからないんです。だって、男女どっちを好きになっていいかわからなかったから。……というか今さらながらこの状況って、私、どう認識したらいいんですかね? 思い切って告白して、振られて、それでも実力行使に出て、自分の勘違いを指摘されて、逃げて、でもアユムさんが追いかけて来て」
ルイちゃんがもぞもぞとシェラちゃんの腕の中で体の向きを変えて、ボクを上目づかいに見つめて来た。
「……アユムさんのハーレムに強制加入されたってことでいいんでしょうか」
「んー。ボクたちってちょっと、特殊だからなぁ」
ハナちゃんと顔を見合わせて、ねー、と頷きあう。
「ルイちゃんがそれを望むなら。ボクたちを受け入れられるのであれば。そういうことになるよ」
ボクはボクの都合でルイちゃんから少し距離を取っていたけれど、ハナちゃんとシェラちゃんの意見は同じで。「アユムがいいなら別にいいよ?」ということだった。
【影憑依】でお互いのなにもかもを知っている仲だから。そこに入って来られるならばかまわないんだって。
「……今度、もう一度、【影憑依】を試させてください」
「うん」
「きゃ」
真面目な顔をしてるルイーズちゃんの鼻の頭をついばむようにキス。
「不意打ちは卑怯です!」
「えー。ルイちゃんがそれ言う?」
うふふ。これはちょっと、良い声で鳴いてもらわないといけないね。
「よし、シェラちゃん! ルイちゃん押さえて」
「ピ!」
「ハナちゃん、やっちゃお!」
「あいあい!」
「きゃ、きゃあ! そんなとこくすぐらないでっ」
「よいではないか、よいではないかー」
「よくないですっ!」
「ボクを痺れさせてあんなことしたくせにー」
「うぐっ」
「今がチャーンス」
「ひゃあっ」
「アユムのえっちー。手つきがマジなんだけど……」
「ハナちゃんもやっちゃえ。うりうりー」
「きゃー! もー」
4人でいっぱい、お互いにいろんなところをくすぐりっこしたよ!
……健全に。
――翌日。
「……ううー」
なんだかすごく疲れた顔のルイーズちゃん。昨日はちょっといじめすぎたかも。リアルでも涙目ルイちゃんかわいい。
【影渡り】は知り合いのそばに転移するスキルだから、帰りはルイちゃんを送ることができない。なのでちょっとだけ早起きして、ルイちゃんを送ることにする。
「悪いけどハナちゃんは先に学校行っててくれる?」
「うん、けど、まだ眠いー」
ハナちゃんは一度、家に帰ろうとしてたんだけど学校挟んで正反対だからね。ボクの部屋から直接学校に向かうことになった。あとハナちゃんが学校に行ってくれたらボクは【影渡り】で学校に行けるしね。
そんなわけで、ルイちゃんと二人で電車の中。
「……」
「……」
ルイちゃんの学校はボクの部屋からも結構距離があるので、だいぶ早い時間だった。
特に会話もなく、ただちょっとだけ肩を寄せて。
「じゃあ、また。向こうで会おうね?」
「はい」
最後にそう言って別れた。
「……アユムさ、やっぱり変じゃない?」
「何が?」
電話して、前もって人気のない所に移動してもらったハナちゃんに【影渡り】で合流したら、なんだか首を傾げていた。
「なんで【影渡り】できるんだろ」
「え? だってボク【影族】のカード入れてるし」
「アユムが影族なのは知ってるけどさ、なんでリアルでカード使えるのかな?」
「……別におかしなことじゃないよね?」
「そうかなぁ? なんかおかしい気がするんだけど」
「朝早かったし、ハナちゃん寝ぼけてるんじゃなあい?」
「んー。そうかなぁ」
ハナちゃんは何度も首を傾げている。
しょうがないので、人目もないし、ハナちゃんをぎゅーって抱きしめた。
「もー。じゃあ、またお昼にね」
ハナちゃんはちょっとため息を吐いたあと、小さく手を振って自分の教室に行ってしまった。
「んー……。何かおかしいかな?」
考えてみるけどよくわからない。
でも別に問題はないので、すぐに考えるのを止めた。
そんなことより。新人さんも増えたことだし歓迎会の準備しないといけないよね。
あー、授業受けるのがなんだか面倒になってきたー。けど昨日午後さぼっちゃったから今日は真面目にしないといけないのだった。
夜。あんまり時間は無いけれど、ちょっとだけLROにログインする。
「あら、アユムちゃんいらっしゃい」
人魚なハーマイオニーちゃんがちょっだけ物憂げな表情で出迎えてくれた。
「ハーマイオニーちゃん、何か良くないことでもあったの?」
「んー。島のシステム周りの影響がまだ直ってないの」
「幼女保護結界とか?」
「そう。まあ、新人さんに本来の島エリア見てもらえる分にはいいんだけどね」
「そうかもね」
この分だとしばらく侵略戦とかやらないかも。
とりあえずシスタブであっちこっちにメッセージを飛ばす。歓迎会の準備をしなくちゃなので。
……イズミちゃんが誘ったみたいで、いつの間にかキル子ちゃんもパーティに入ってたよ。
シスタブもらえなかったっていってたけどどうにか手に入ったみたいだね。
あんまり会いたくない相手だけど、誘わないわけにはいかない。幸いログインはしてないみたいなのでメッセージだけ送っておいた。
そういやイズミちゃんってルイちゃんの学校のそばに居たみたいだけど、何かあの辺に用事でもあったのかな。ちょっとした好奇心で、ついでにイズミちゃんに問い合わせのメッセージを入れておく。
こんなとこかな。
島掲示板とかちょっと覗いて、調理ギルドの予約状況とか確認したんだけど、どこも考えることは同じみたいで予約は一杯になっていた。
「んー。魔王城でなくなってるなら島議事堂の部屋借りてやるかなぁ」
お料理はシェラちゃんに作ってもらうとして。
今週末は歓迎会で。
色々連絡が終わってログアウトしようとしたら。
「あー。ちょっと待ってくれる、アユムちゃん」
「ん?」
振り返ると、ハーマイオニーちゃんじゃあなくって、白衣にメガネの自称神様がボクのプライベートルームに突っ立っていた。
「あの、いくら運営の人でも、いきなりプライベートルームに入ってくるって、ちょっと失礼だと思うんですけど……」
「んー。あたしの創った現実世界を勝手に改変する方が失礼じゃないかなーってあたしは思うんだけどね? いやさ、年末の打ち上げとか、目の前で見ていおいて今の今まで全然認識してなかったあたしも悪いんだけどさ、神の目を欺くというか、あたしの認識まで書き換えちゃうとかさ、ちょっとね、びっくりだよアユムちゃん」
いつもより、ちょっと真面目な様子で。
自称神様が両手を白衣のポケットに突っこんだままでボクをじーっと見つめてくる。
「もしかするとさー、こないだの灼熱エリアの件も、アユムちゃんだったのかな?」
「……何の話ですか?」
「ん? 黒幕は誰かって話」
……意味不明なんですけど。




