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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
第五話「ボク的セカイの歩き方」
195/228

14、「本当は違うから」

毎度間が開いてすみません。

「……アユムさん」

 ボクをじっと見つめながら、ルイちゃんが手の平の先をこちらに向けた。

「……なぁに? ルイちゃん」

 警戒しつつ、剣を構える。

「私の想いは、迷惑ですか?」

「何度も言うけど、ボクにはもうシェラちゃんとファナちゃんが居るから」

「それは、わかってますけど。でも、あまりにもつれなくないですか? というか、私がこれだけアピールしてるのに、前よりどんどん扱いが雑になって来てる気がするんですけど」

 じり、とルイちゃんが一歩前に出る。

「……それは自分の胸に手を当てて考えてみた方がいいんじゃ?」

 正直言って、ルイくんが森で頑張ってるとこに出くわしたのはかなりショックだったしなぁ。たぶん、お互いに。色々恥ずかしい所、見たり見られたりって気まずいよね。

「うぐっ。確かに心当たりがなくもないですけどっ。私が、アユムさんのことを、その好きって言ってから。かなり距離を開けられてる気がするんです」

「だって、浮気になっちゃうし」

 これも何度も言った気がするけど。

「だって、それじゃ。ううーっ!」

 ルイちゃんが顔を真っ赤にして、地団駄を踏んだ。

「どうして、わかって、くれないんですか? 私、もう、あたまぐちゃぐちゃで」

 ぴたり、とルイちゃんが伸ばした指の先が、ボクの顔を指した。

「だから、アユムさんを倒してっ! わからせてやるんですっ! 私が、どれだけ、アユムさんのことを想ってるのかって」

「……意味不明なんだけど」

 かわいさあまって憎さ百倍とかいうやつなんだろうか。

「行きますっ!」

「わー」

 ルイちゃんが魔法の矢を撃って来たのでとっさに剣で上空に弾き飛ばす。

「変態がヤンデレ化してるわねっ! どうでもいいけど修羅場はあんたたちだけでやってよねっ! ってわけで死ね魔王っ!」

 乱入してきたルイちゃんにあっけにとられてたイズミちゃんだけど、小さく鼻で笑ってキューちゃんに飛びかかった。

「シェラちゃんファナちゃんそっちはお願いねっ!」

「ピ!」

「まっかせなさぁい!」

 再び魔法の矢の応酬が始まって。

 イズミちゃんも珍しくちょっとだけ空気を読む気になったのか、ボクとルイちゃんの方には飛ばしてこない。

「……当たれ、当たれ、当たって!」

「嫌だよ」

 【空歩き】や【影移動】を駆使して、ルイちゃんの魔法の矢をかわす。

 ルイちゃんはこないだ【賢者】のカード引いたとか言ってたから、たぶんこの魔法の矢は【賢者】にくっついてるやつなんだと思う。個別のカスタマイズが出来ないから、威力はそんなにないみたいだし、連射も大したことない。

 けれど、ボクが近づこうとすると、ルイちゃんは一定の距離を保って牽制の魔法をバラ撒いてくる。リキャストが異常に早い。牽制用の魔法は別に用意してるんだろうか。それとも賢者のスキル?

 ……なんだろう。微妙な違和感がある。

 決してうまい攻撃だとは思えないのに、こちらの流れに持っていけない。それどころか、なんとなくこちらの行動を誘導されているような。あるいは、何かを狙って、タイミングを計っている?

 とはいえ、ボクもそんなに体力があるわけで無し。

 今のうちにいくつか仕込みを……っと。

「ちゅーか。拳で殴り合えば分りあえるとか少年マンガのセカイかよってにゃー。見た目美少女の癖に結構、脳筋やな。撃ってるのは魔法やけど」

「キューちゃんはこっち来たらだめでしょっ!?」

「わりっ。ツッコまずにはいられなかったんでにゃ。穴があったらいれたいってヤツ? おほっ」

「あんたら、まとめてぶっとばーす!」

「ぎゃー! ほらイズミちゃんまでこっち来たじゃないっ!」

「……今」

 一瞬イズミちゃんに気を取られた隙に。

 ルイちゃんが、ぞろりとしたローブのあちこちにあるポケットから、たくさんの宝石の粒を取り出してばら撒いて。

「あ。宝石魔法っ!?」

「増強【麻痺】」

「うぐっ」

 ぱりっと、全身を電気が走ったようなしびれが襲って、身体が動かなくなった。

 1時間正座した後みたいに、手足の感覚がまったくなくって、しびびび状態。まったく身体を動かせないというわけじゃあないけれど、感覚が全然ないのでふにゃふにゃで立っていられない。崩れ落ちるように倒れ込んだけど、感覚がなくって痛くもなんともない。けどたぶん。あちこち擦りむいた気がする。

 ってゆーか。麻痺とかこんな簡単にプレイヤーにかかるようじゃ、イタズラし放題なんじゃ。

 宝石魔法で威力とか成功確率とか上げてるのかも。

「……」

 ルイちゃんが、近づいてきて。

「アユムさん」

 ボクのそばでしゃがみ込んで。無造作に、ボクの頬に触れた。

「アユムさん」

 そのまま、添寝でもするようにボクに身体を摺り寄せて。

 ボクの胸に、頬を寄せる。

「アユムさんの、心臓の音がします」

 その手が、ボクの身体に触れて。たどたどしい手つきながらも、撫でまわしてくる。

 麻痺していて、どこを触られているのかよくわからないけれど。快も不快も感じないけれど。

 頬を赤く染めて、興奮した様子のルイちゃんから、かなり微妙なところを触られているのだとわかった。普段から妖精さんにいろいろ見せつけているせいか、周りに人が居る状態で行為に及ぶのにまったく躊躇がないというか。ルイちゃん攻めすぎ。

 ルイちゃんみたいな美少女に、ぴったりと寄り添われて。悪い気がしないと言えばうそになるけれど。

 でも、どうしても。

 そんなルイちゃんを受け入れたくは無かった。

「……ねぇ、ルイちゃんの好きって、ボクにそういうイタズラしたいだけの気持ちなの? 相手の気持ちを無視して、自分の感情だけを押し付けて?」

 そっと。ルイちゃんを押しのけるように起き上がる。

「え、ウソっ!? 20倍掛けしたのに、そんなすぐに解けるわけが」

「【麻痺】はかかったままだよ」

 無理矢理、【操影術】で自分の身体に影を巻きつかせて動かしてるだけだったりする。

 というか自分でもそんなこと出来るとは思ってなかったけど、なんか今日は調子がいいというか。


 ――これまでできなかったことが出来る気がした。


「世は全て泡沫(うたかた)のごとし。【夢幻泡影(むげんほうよう)】」

 ボクが空間に溶けてゆく。

 うつろで、はかなく、夢幻のように。

 そうして、気が付いたら麻痺して倒れているのはルイちゃんで、ボクはその隣にしゃがみこんでルイちゃんの顔をじっと覗き込んでいた。

「……っ、あ。ぐ」

「うん。たぶん、影族のEXスキルってやつかな。種族ごとにふたつあるって話だったし」

 後天的にスキルゲットすることもあるんだね。知らなかったけど。

「……で、っあ」

「だよね、ちょっとぶっ壊れスキルっぽいね。本来の言葉の意味とはだいぶ違う気がするんだけど。限定範囲の事象を好き勝手に改変できるみたい」

 ちょん、とルイちゃんの頬をつついてみる。

「でね、ちょっと思いついたことがあるんだけど。試してみる?」

 周りを見回してみると、戦闘は終了していたみたいで。というかイズミちゃんも【夢幻泡影】に巻き込んじゃったかな。

 ……イズミちゃん、ぴくぴく痙攣してるね。

「ファナちゃん、シェラちゃん、先に謝っとく。ごめんね?」

「ちょっと複雑だけど、ゆるーす!」

「ピ」

「二人ともありがと」

 何にも言わなくてもボクがしようとしていることをわかってくれる、そのことがとっても嬉しい。

「ルイちゃん、これからボクがすることを受け入れられたら。キミの勝ちだよ」

 ボクは動けないルイちゃんの頬に、たっぷり時間をかけてキスをした。

 仮契約は成立。

「この挑戦を受けるなら、許可をしてね。【影憑依】」

「……」

 ためらいがちに、ルイちゃんが頷いて。


 ――ボクは溶けて、ルイちゃんの中に染込むように。ひとつになった。


 ひとつになってすぐに、困惑するルイちゃんの感情と記憶が流れ込んで来て。

 殴り合いとかしなくっても分かり合えた。

 ルイちゃんががボクのことをどう思っているのか、その想いが全部伝わって来て。

 同時に、ボクが思っていることもルイちゃんに伝わって。

 そして。だから、やっぱり。

「え、そんな、いや、えっ」

「……まあ、そういうことだよね」

 当然のように、ボクはルイちゃんに拒絶されて、ルイちゃんの中から追い出された。

 つまり、ルイちゃんはボクを受け入れられなかった。

 別にね、ボクの貧相な身体にイタズラしたいという欲望があったって、ボクの方は受け入れてあげられる。どれだけ醜い欲望を持っていたって、まあいいよって言ってあげる。

 ボクだってファナちゃんには常々そういう思いを持っているし、ファナちゃんがそれを知っているってことだって知っているから。

 ……だけどね。ボクは、誰でもいいわけじゃあないのだ。

 自分を好きになってくれそうなら誰でもいいとか。

 それは、ボクである必要がない。

 愛したい、愛されたいって気持ちはわかる。恋に恋する気持ちはわかる。

 けど、それは違うんじゃないかな。

「ちが、違うんです。だって、私は」

「なら、もう一度やってみる?」

「……」

 ルイちゃんは黙って、今度は物理的にボクを拒絶するように。

 両手で押しのけて、首を左右に振った。

「ひとつになるのって、すごく気持ちがいいけれど。”他人”を自分の中に入れるのって、すっごく気持ち悪いでしょう?」

 大体、ボクだって初めてファナちゃんとひとつになったときには。ボクの方から拒絶しちゃったし。

 あんまりルイちゃんのことは言えないんだけどね。

「……い、いいえ! ……はい」

 ルイくんはすっかりうなだれてしまって。

 その場にぺたりと座り込んで、泣き出してしまった。

「あーあ。なんか知らんけど美少女泣かせやがって、悪いヤツだにゃー」

「キューちゃんは結局、こそこそ逃げ回ってただけだったね……」

「まあなー。お、そろそろ時間だわ。魔王の勝利やでー」

 スキップしながら、キューちゃんが階下に降りて行った。

「……」

 ルイちゃんは、まだ泣いている。

「ごめんね」

 ルイちゃんが想いをわかってくださいって言うから、お互いに全てをわかり合った結果なんだから。

 ごめんね。

ちょっと最後の方、わけわからないでしょうから後でもう少し手をいれると思います。

→202012/13 18:30頃 700文字ほど加筆修正を行いました。

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