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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
第五話「ボク的セカイの歩き方」
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 9、「初めての防衛戦」

「……というわけで、想いを遂げさせてくださいっ!」

「ちょっとルイちゃんっ!?」

 ナニをするつもりなのかルイちゃんがボクの手にしがみついてきて。

 ちょっと嫌な予感がしたので【影操術】で拘束しようとしたんだけど。

「あ、今、幼女の国だった」

 種族カードが無効化されてるので不発、ってゆーかよく考えたら【影収納】とかも使えないから武器もアイテムも取り出せない!?

「ハァハァ、アユムさん。一緒に、気持ちよく、なりましょう……?」

「ボ、ボク、浮気はしないんだからぁっ!?」

 振り払おうとするものの、お互いに非力な幼女のはずなのに、なぜかルイちゃんはがっしりとボクの手をつかんだまま微動だにしなくって。

「……」

 無言でルイちゃんの顔が、ボクに近づいてきて。

「アユムー、シローウサギがそろいったんログアウトするって……」

 いきなりドアが開いて入ってきたファナちゃんたちが。

 半分押し倒されたボクを見て、目を丸くした。

「アユム、ところかまわずさかるのはかんしんせぬな」

「……アユム、お仕事って名目でルイくんといちゃいちゃしてた?」

「違います。タスケテ」

 ファナちゃんたちに気が付いたルイちゃんもドアの方を見て。

「……え、アユムさんがもうひとり?」

 目をぱちくりとさせた。

 そういや温泉でキャッキャウフフしてた時はファナちゃん、リアルのハナちゃんだったからルイくんがボクの姿したファナちゃんに会うのは初めて?

 というか隙ができた今がちゃーんす!

 よいしょーとルイちゃんの腕から逃れて、しゅたたっとなぃあちゃんの背後に回る。

「ごめんねルイちゃん。流石に無理矢理ってゆーのは、ダメだよ?」

 ボクもあんまりひとの事言えないけど。

 かわいい女の子とイチャイチャするのは大好きだけど、ボク、イズミちゃんと違って誰でもいいってわけじゃあないのだ。まあ、ルイちゃんって割と好みの顔だし、抱きしめてギュ―ってしてちょっとえっちなイタズラくらいはしてみたくなるけれど。

 ……案外さっきルイちゃん振り払えなかったのって、内心流されてもいいとか思ってたのかなぁ。いけないいけない。

「ううー……」

 ルイちゃんは頬を染めたまま、小さく唸ってその場に座り込んでしまった。

「……プ?」

 そこへ、いきなりシェラちゃんが現れた。

 周りを見回して、ボクを見て安心したように息を吐いた。

 お仕事終わったのかな。それとも、ボクのてーそーの危機を感じて飛んできてくれたのかな。

「ちょうどいいところに。悪いけど、ちょっとルイちゃんのことお願いできる?」

「……ピ」

 へたり込んだルイちゃんを見て、何かあったことを察してくれたらしく。シェラちゃんはルイちゃんをひょいとお姫様抱っこで抱え上げて。

「ピ」

「うん、落ち着かせてあげて?」

 シェラちゃんはそのままルイちゃんを抱えて部屋を出て行った。

「……もしかして、今の、修羅場ってヤツですか? ……関係者全員女の子っぽいですけど」

 シロウサギちゃんが目を白黒させながら入り口からちょこんと顔をのぞかせた。

「あー。こんな状態だけど紹介しとくと、最初の子がルイちゃん。あとから来た子がシェラちゃんね。同じパーティの仲間だから覚えておいて?」

「……出来ればもう少し落ち着いた状況で紹介していただけると」

 ため息を吐くシロウサギちゃん。

 まあ、ごもっとも。

「ごめんねー。他のメンバー紹介も兼ねて近いうちにどこかで集まろうか」

「お願いしますね。じゃあ、僕はいったんログアウトしますので。流石にちょっと休憩と、夕ご飯を」

「あれ、ご飯ならこっちで食べればいいのに。美味しいとこ教えてあげるよ? あ、お金の心配なら大丈夫。おごってあげるし」

 最近は現地の人も増えたので、食べ物屋も結構増えたのだ。まあ、定番のご飯と言えばペポちゃんのところの調理ギルドが一番だけれど。

 いつもはシェラちゃんご飯だけれど。たまにはみんなで食べに行ったりするのだ。

「……えっと?」

 なぜか、シロウサギちゃんが「何言ってるんだろうこの人」的な目で見つめて来たので困惑する。

「あ、そうか。シロウサギちゃんって実家住まい? お母さんがご飯用意してたら家で食べた方がいいのかな」

「……いや、あの、そうでなくって。アユムさん、ここゲームの中ですよ。こっちでご飯食べても栄養にはならないですよね?」

「あー」

 ハナちゃんと太郎さんの関係だっていうからすっかり失念してたけど。シロウサギちゃん、ここが別のセカイだって知らないのかー。

「ファナちゃん」

 目配せすると、ファナちゃんは頷いた。

「ん、大丈夫だと思う」

「じゃあ、実際に食べてみた方が早いか」

 うーん、ルイちゃん出て行ったばかりでまだ落ち着いてなさそうだけど。ルイちゃんとシェラちゃんも一緒に誘わなきゃね。

「あの?」

「いいからいから。ログアウトするのはちょっと待って?」

「……ご飯のこともですけど、あの、その」

 もじもじとしながら言いよどむウサギちゃん。かわいい。ぎゅーってしたいなぁ。

 あ。

 そう言えばお昼からずーっと居るんだっけ? もしかして。

「おトイレなら、そこの突き当りを右に行ったところにあるよ。男女別に分かれてるけど、今、幼女の国だからどっち使っても大丈夫」

 というか、ボクもお仕事しながらお茶いっぱい飲んだし、おトイレ行っておこうかな。

「一緒に行こうか」

「え、えーっ?」

 目を白黒させてるシロウサギちゃんの手を引っ張って、トイレに向かう。

「いっぱいだしてらー」

「ファナちゃん、げひーん」



「え? え?」

 シロウサギちゃんが目をぐるぐるに回してるけど、とりあえず個室の便座に座らせる。内側は陶器になってるけど座るとことか木製だし、楕円じゃなくって四角いからちょっと戸惑うよね。

「流石にウォシュレットみたいなのは無いけど、ちゃんと水洗だから安心してー。ロールペーパーは技術的に難しいっぽくて、ここの紙を手で柔らかくして使ってね。ちゃんとよく揉みほぐさないと痛いよ? あんまりやると破れちゃうから揉みほぐしすぎには注意ね。あ、ちゃんと処理されるから使ったあとの紙は流しちゃって大丈夫だから。お水流すのはこの紐ね」

 最近建てられた建物だと普通にリアルと同じか、下手するとずっと未来な感じなんだけど、建て増しされたとはいえ冒険者ギルドはかなり初期に建てられたから、こういうとこまだ古いんだよね。

「隣に入ってるから、何かわからなかったら遠慮せずに聞いてね。じゃあごゆっくり」

 個室のドアを閉じて、隣の個室に入る。

 お昼は人でいっぱいだったギルドだけれど、トイレは静かだった。女子トイレだからだろうか。今はみんな幼女なんだから遠慮することないと思うんだけど。それとも施設が古いせいかな。

 ぼんやり考えながら、用を足す。

 ……ふう、すっきり。やっぱりお茶飲み過ぎだったかなぁ。

 個室から出て手を洗いながら、シロウサギちゃんが入った方の個室のドアを見る。まだ頑張ってるみたい。おっきい方だったかな。だったらボクが居ない方が落ちつくかな。

「シロウサギちゃん、ボク入り口のとこに居るから、何かあったら呼んでね」

「……あの、アユムさん」

「ん、どうかした?」

「……ぱんつ、脱げるんですが」

「βの時は制限かかってたらしいけど、正式版では全裸可能だよ」

「おしっこ、出来ちゃったんですけど……」

「リアルの方で漏らしたりするの心配してるなら大丈夫だよ?」

「……モザイクとか、かかってないんですが?」

「スクショとかは撮れないようになってるけどね。あ、流石にこの場でえっちなこと試すのはやめてね? 中身男の子だから、そういうの興味あるってわかるけど、一応ここ公共の施設だし。プライベートルームの拡張で自室にトイレとか作るといいよ?」

「……」

 カタン、と個室のドアが開いて。おめめがぐるぐる状態のシロウサギちゃんがふらふらと出て来た。

 まあ、いろいろカルチャーショック?だったのかな。女の子になっちゃってるのもアレだろうけど、普通におトイレ出来るって、ここがゲームの中だと思ってたならすごい衝撃あったんじゃないかと思う。

「……ご感想は?」

「この世の物とは思えませんでした」

「おしっこくらいで大げさなー。だいたい自分から女の子で始めたわけでしょう?」

 シロウサギちゃんって島エリアだから幼女になってるわけじゃあなくって、最初っから幼女だったじゃない。

「……ゲームで女性キャラ使ったことを、初めて後悔しましたよ。死ぬほど恥ずかしいです」

 顔を真っ赤にして、ぷるぷる震えながら深く深くため息を吐くシロウサギちゃん。

「恥ずかしがることないのになぁ。島エリアに居るプレイヤーなんて、全員同類なんだし」

「変態だらけですねっ!? ってゆうか、このゲームほんとに大丈夫なんですか? R15どころじゃないですよっ!? まったく規制入ってないしっ!」

「まあ、ぶっちゃけ普通にえっちできるしね」

「ぶはっ!?」

「あれ、信じてない? んー、合意の上でなら問題ないんだけど。試してみる?」

 指先をわきわきと蠢かせながらシロウサギちゃんを見つめると。

「か、からかわないでくださいっ!」

 ぷいっとそっぽを向いてしまった。

「ざーんねん」

 まあ、ほんとに冗談だったんだけどね。




 部屋に戻ると、ファナちゃんがニヤニヤ笑っいながらシロウサギちゃんを「むっつりー」ってからかった。今度ばかりはシロウサギちゃんも言い訳できなかったらしく「ぐぬぬ」ってうなってた。

 なぃあちゃんはそんな二人の様子を見てなぜかにこにこ笑っていて。

「ひさしぶりによいたいけんができた。あゆむとすごすじかんがすくなかったのはすこしさびしいが、はやくぶんしょうにまとめたいのでな」

 そう言って、なぃあちゃんは幼女なまま遺跡に帰ってしまった。

 この後ご飯に行くつもりだったので引き留めたんだけど、蛇女ななぃあちゃんは食の好みが違うから同じものを食べるのは無理だろうという話。

 ちまちま頬張るなぃあちゃんを愛でたかったんだけどちょっと残念。

 それから、少し時間を置いて落ち着いたらしいルイちゃんも誘って、みんなで調理ギルドに行ってご飯を食べた。

 ルイちゃんはどこか心ここにあらずって感じだったけれど。

 ……微妙にシェラちゃんの様子がおかしい気がしたけれど。

 まあ、ルイちゃんを落ち着かせるために、シェラちゃんが何かしてくれたんだろうけれど。

 結局、ご飯を食べ終わったら、ルイちゃんは「ごめんなさい、すみませんでした」って一言だけ謝って、帰ってしまった。

 うーん、難しいね……。決して嫌いなわけじゃあないんだけど。

「それじゃあ、そろそろ僕もログアウトしますね。ごちそうさまでした」

 満足そうにお腹を撫でまわしながらシロウサギちゃんが言った。

「満足してくれたようでなにより。あ、もし夜更かし大丈夫なようなら、今夜0時には島エリアの幼女の国がリセットされて、たぶん侵略戦あると思うから。興味があるなら参加するといいよ」

「んー。僕、PVPってあんまり興味ないですね……」

 シロウサギちゃんは小さく首を横に振って。じゃあ、と帰ろうとしたのだけれど。


”幼女の国のみんなに緊急のお知らせや”


 島全体に響き渡る声。

「キューちゃん? 何かあったのかな」

 少し焦ったような早口の声。侵略戦以外で全体アナウンス使うなんてかなり珍しい。


”なんか仕様変わったらしくって、正式に防衛戦発動するようになったらしくてなー。天使が攻めて来とる。ってわけで、あと10分したら防衛戦始まるんで、幼女の国を護りたい奴は準備してなー? わりぃけど、10分以上は押さえ切れね。マジきつい”


「え、まだ0時じゃないのに」

 これまでは魔王なキューちゃんが攻めてくる侵略戦だけで、魔王が勝つと一定期間島エリアと占領という流れだったけど、占領期間中でも天使側からエリアを奪い返すための奪還戦、魔王側にとっては防衛戦が発生するようになったということらしい。

「ぬこぴー兵にしてこなきゃ」

「えっと、何か突発的なイベントですか?」

 きょとんとした顔のウサギちゃんに、ざっくり内容を説明する。

「というわけで、今からここは戦場になります。ログアウトするなら急いでー。ボクたちも準備に戻るからお別れかな」

「……それじゃ、また今度。失礼しますね」

 シロウサギちゃんは少し考えていたようだけれど、ログアウトすることに決めたようで。小さく手を振って。


「――みぃーつけたぁ」

「えっ!?」


 いきなり振り下ろされた白刃に、とっさにシロウサギちゃんをかばって地面に転がる。

 って。

 いつの間にか、幼女じゃなくなってる。


「うん、あなた達にはもう迷惑かけないっていった。けどさ、これ、プレイヤーとプレイヤーが戦うイベントなわけでしょお? だったら、斬ってもいいよね? ってゆーか、斬る」


 ばさり、と天使の羽を広げて。

 にまあ、とした笑みを浮かべたのは、魂の煉獄エリアに行ったはずのキル子ちゃんで。


「あーっはっはっはっ! 今日こそは魔王のそっ首たたっ切ってやるわよっ!」


 同じく大きく翼を広げながら、空中にイズミちゃんが仁王立ちしていた。

 しばらくは迷宮攻略してると思ったのに。

 二人とも、もう攻略しちゃったんだ?

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