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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
第一話「ルラレラティアへようこそ!」
19/228

15、「ナィアーツェの思惑」

「まあ、こんなところで立ち話もなんだ。ナィアーツェのねぐらに招待しよう」

 ナィアさんはそう言って、ついて来い、とクネクネ歩き始めた。

 最初に出会った場所はここから3時間はかかる場所だし、昨日別れた時にはすごいスピードで去って行ったから結構街から遠くに住んでいるのかと思っていたけれど。意外に街の近くに住んでいるのだろうか。

 言われるままについて行くと、ナィアさんは近くにある大きな岩の陰に入った。

「――これはナィアーツェの秘密だ。他言無用だぞ?」

 腰の後ろにぶら下げていた赤い石のはめ込まれた銀色のカギを手に持って、ナィアさんが口の端を吊り上げて笑った。ちょっと怖い。

 ナィアさんはまるでそこにドアでもあるかのように、大きな岩にぷすりと手にしたカギを差し込んで。

開錠(カ・チュ)

 謎の呪文とともにカギをひねる。

 すると、大きな岩に亀裂が入って。まるでドアの様に、開いてしまったのだった。

 すっごい、なんか秘密基地みたい。ひらけゴマってかんじ?

「……ナィアさんって、こんなところに住んでるんだー」

 ちょっと覗き込んでみたけれど、ぽっかりと空いた岩のドアの向こう側は真っ暗で何も見えない。ぽっかり空いた暗い穴からはひんやりとした冷たい空気が漏れ出してきて、まるでダンジョンの様でわくわくしてきた。

「……ん? これはねぐらに道をつないだだけだぞ。あまり出入りするところを他人に見られたくはない。遠慮せず早く入るがよい」

「ほえー」

 さっきのカギがマジックアイテムとかで、ナィアさんのお家につながるドアを開ける魔法かなにかを使えるってことなのかな。

 そういやちびねこちゃんもなんかドア使ってやってきたっけ。街では見かけなかったけど、こっちではこういう移動手段とか普通にあるのかな。

「じゃ、おじゃましまーす」

「お、お邪魔します?」

 なんかちょっと目をぱちくりして戸惑っているファナちゃんの肩を抱いて、一歩踏み込んだ。

「すまんがナィアーツェは図体が大きいのでな。早く奥まで行ってほしい」

「あ、ごめんねー」

 明るい所から急に暗い所に入ったのでなんだか目がチカチカしている。けれど影族の身体は暗視が出来るとまではいわないけれど、そこそこに暗い所でもモノが見えるらしい。すぐに周りがなんとなく見えてきたので、暗さにおどおどしているファナちゃんの手をひいて奥に進んだ。

 ねぐらにつないだとナィアさんは言ったけれどここはまだ通路のようで、ガラスのような質感の壁でおおわれている。中の空気は湿り気を帯びてひんやりとしていて、さっきまでの乾燥した暑い砂交じりの風がウソのようだった。

 壁に手をついて、ゆっくり進んでいると。どうやらナィアさんが岩のドアを閉めたらしく、急に真っ暗になった。

「きゃ」

 驚いたファナちゃんが小さな悲鳴を上げて、ボクに抱きついてきた。

「ファナちゃん、もしかして暗い所ってだめなの?」

「……え、ううん。そうじゃないけど」

 さっきからファナちゃんは何か怖がってる気がするんだけど。

「すまぬが、ナィアーツェを先に通してほしい」

「あ、うん」

 闇の中を、するりとナィアさんが身をくねらせていった。ちょっとだけウロコに触れて、ドキドキした。冷たくてざらざらしてるのかなって思ってたけど、なんか暖かくてすべすべした肌触りだった。

「人間をねぐらに招くなど、何十年ぶりのことだろう」

 奥にはさらにドアがあったらしく、先行したナィアさんがドアを開くと。

「……きれい」

 ファナちゃんが感嘆の声を上げた。

「ふぁんたじーって感じだねー」

 ボクも思わず息を飲んだ。

 ナィアさんのねぐらは、広いワンルームマンションくらいの大きさだった。

 その広い空間に、夜間に発行する海の生物のような、青白い仄かな明かりがいくつも部屋の中に浮かんで辺りを照らしていた。

 ナィアさんはするすると床を這って、どこかで見たような丸いクッションにとぐろを巻くようにして抱きつき、寝そべるようにしてこちらを向いた。

「……すまんが、人間が座るための椅子のようなものはこの部屋にはない。適当に座るがよい」

「え、はい」

 下半身が蛇だとそりゃ椅子なんて不要だよね。座れないし。

 よく見るとテーブルのようなものもない。太い木の柱のようなものが何本かあるだけで、床にはほとんど物が置かれていない。代わりに壁に棚がたくさんあって、ずいぶん高いところまでいろいろなものが置かれているようだった。それ以外にも天井からぶら下げられているのか、かなり空間を使っている。

「……」

 ファナちゃんが無言で身を寄せてきた。暖かい。

 というか、この部屋ちょっと寒い感じ?

「む、客には茶のひとつも出すものだな。少し待て」

 いったん落ち着いたナイアさんだったけれど、すぐにとぐろをほどいて壁の方に移動した。

「あ、おかまいなくー」

 一応、遠慮したけれど。暖かいお茶はちょっと欲しい気がした。

 ……って、ほのかな明かりではよく見えないけれど、なんだかシステムキッチンっぽい?

 ナィアさんがヤカンっぽいのを乗っけたコンロっぽい丸いのはIHクッキングヒーターみたいな? あれ、冷蔵庫っぽいのもあるし、水道まで引かれてる?

 十秒も立たないうちにお湯が沸いたらしく、カチャカチャと揺れるカップを宙に浮くお盆に乗せてナィアさんが戻ってきた。

「茶の嗜好はあまり人とは変わらないと思うが、口に合わなかったら言ってくれ」

「ありがとう」

「ありがとうございます」

 差し出されたカップからは、ハーブの香り。なんだか落ち着く匂いだった。

 口にすると舌の上に少し苦みが広がって。なんとなくウーロン茶っぽい味がした。

「……さて、あえて問いはしなかったが。レッドとバーンの姿が見えない、ということはやはり何かあったのだな。パーティ登録が解除された時点で何かあったとは思っていたが」

「えっと」

 答えようとしたら、ナィアさんが手で制した。

「ああ、答える必要はない。今ここにアユムとファナトリーアがいる、という事実だけで十分だ。ただ、この場にいないティア・ローの無事は尋ねたい」

「ちびねこちゃんは、保護者が迎えに来てお家に帰りました」

「そうか。無事であればよい」

 カップを傾けて、ナィアさんが息を吐いた。

 レッドとバーンのことを聞かずに、ちびねこちゃんのことだけ尋ねるとか。それってつまり、レッドとバーンが何かやらかしてボクたちと別れることを想定してたってことなのかな。

「では本題に入ろうか。ナィアーツェの知る遺跡の話だが。その前に、グレイブホールについて話しておこうと思う」

 丸いクッションに寝そべったナィアさんのお胸が、ぶにゅん、と押しつぶされた。わお。

 でもなんかあのクッション、プライベートルームのスライムベッドに似てる気がする。

「あそこは、文字通り、墓穴だ。五百年ほど前に大災害で埋もれた都市の残骸だ。あそこに住まう冒険者を名乗る盗人どもは、ただの墓荒しだ。だから、アユムたちにはそんなことをして欲しくない。まあ、がめつい盗人どもはそもそもよそ者に厳しいからな。散々な目にあっただろう?」

「……うん、まあ」

「あの街の遺跡で手に入る主なものは、これだ」

 ナィアさんがスマホっぽい機械を取り出して見せた。

「これはタブレットと呼ばれている。かつては一人一台、中には複数を所持しているものも居た、当時はありふれたものだ。今では生産するのはほぼ無理だが、当時から冥族や竜族などの長命種に対応していて、遺跡から見つかるようなシロモノでも使えるのだ」

「……そうなんだ」

 遺跡からスマホ発掘する世界観とか、なんかSFちっく。

「五百年前の災害では、為す術もなく大勢の人間が地の底に埋まった。グレイブホールのやつらは、そんな被害者の死体を探してガレキを掘り返し、死者を弔うことなくタブレットを奪い去るのだ。だから、ナィアーツェは盗人の街と呼ぶ。あの周囲にある他の街も似たり寄ったりだ」

「……そうなんだ」

 そう言われると、グレブホールの遺跡に潜れなくてよかった、という気がする。

「そういうナィアーツェさんのタブレットは、どうやって手にいれたんですか?」

 ファナちゃんが、ボクに身を寄せたまま、なぜか強い口調で言った。なんか怒ってる感じ。

「ふん、死体から手に入れたのならナィアーツェも同罪といいたいのか? 安心しろ。これは五百年前に正規の手段で購入したものだ」

「ナィアさんいったい何歳なのーっ!?」

「……種族は違うが、女性に年齢を尋ねるものではないぞ?」

 小さく笑ってナィアさんが手にしたタブレットを操作した。

「さて、換金してもらったことだしチャージしておくとしよう」

 ナィアさんは先ほど渡した小袋から貨幣を取り出すと、おもむろに手にしたタブレットに押し込んだ。

「よし、残りはアユム達のタブレットに入れてよいぞ?」

 小袋を投げてよこしてきたのでキャッチする。

「現金直接入れるのっ!?」

「む? 異邦人のタブレットでは出来ぬのか?」

「ってゆーか、そもそもチャージってナィアさん、何に使うの」

「ゲームは長い間新作が出ないのでな。最近は電子書籍にはまっている」

「ほえー。こっちにもそんなのあるんだ」

 換金した後買い物を頼まれたわけでなし。街に入らない時点で、獲物を換金して何に使うんだろうっと思っていたけれど。ああそういえば、なんか本でボクたちの世界のことを読んだとか言ってたっけ。

「アユムたちの持っているタブレットではできないのか?」

「いや、リアルのスマホはいろいろ出来るけど。こっちのシスタブってたぶん用途が違うから」

「ふむ。異邦人のタブレットは制限がかかっているのか? まて、ミラ様に伺ってみよう」

「ミラ様?」

光神(ひかりがみ)ミラ様だ。オラクルネットワークを管理している」

「ふーん?」

 この世界の神様なのかな? オラクルネットワークって、リアルでいうインターネット?

 ナィアさんがタブレットを操作すると。

「やっほー! みんなのアイドル! 光神☆ミラちゃん見参だぞっ! キラッ☆」

 ナィアさんのタブレットから、デフォルメされた三頭身くらいの小さな人影が飛び出してきた。

 その姿は長い銀髪、紅目。女神ティア様と同じように、巫女服のようなものに上から黄色い貫頭衣をまとっている。デフォルメされてるからわかりにくいけれど、十代前半くらいの女の子のようだった。あとなんか喋るたびにアニメッっぽい☆のエフェクトがキラキラと舞って、なんかウザイ。

「……光の神様?」

「なのだー!」

 きゅぴるん、と謎の効果音。

「新規ネット契約のお客様~! タブレットをだすのだ~☆」

「え? はい」

 よくわからないながら、シスタブを差し出すと。

 ミラちゃんが、するんとボクのシスタブに潜り込んでしまった。

「えー?」

 ミラちゃんは中にいたグレちゃんとハイタッチするように手を合わせて、いぇーい、と二人そろって小さく拍手。一仕事終えたとばかりに、ミラちゃんが飛び出て来る。

「ネット使用料は月額銀貨1枚なので、チャージするか各神殿を通してお布施を納めてね☆」

「あ、有料なんだ」

 現地通貨だから、まぁいいかな。

「そっちの子も、かなぁ?」

 ミラちゃんが、とーうとばかりに飛び上がって。

「きゃ!」

 ぽかんと見ていたファナちゃんのシスタブに飛び込んだ。

 しばらくするとまた飛び出て来て、ナィアさんのタブレットに戻った。

「ご利用ありがとうございましたっ! じゃあ、またね☆」

 きゅっぴるん、という謎の効果音と☆のエフェクトを残して、ミラちゃんは消えてしまった。

「……あれが神様?」

 ずいぶんとフレンドリーというかなんというか。

「異邦人の住む異世界ではあまり神が身近でないらしいが、こちらでは普通に地上にいらっしゃるのでな」

 小さく微笑んで。ナィアさんがいろいろオススメのページや、アプリのダウンロード先を教えてくれた。

 大災害とやらでこういったウェブページを作成や保守できる環境も大幅に減ってしまっているようで、更新頻度はあまり高くないようだ。

 また某ググル先生のような検索エンジンはどうやら長いこと更新されていないようで、生きてるページを探すことすら結構大変なのだとか。

 ただまあ、まったく新しいサイトが無い、というわけでもなく。ポータルサイトとしては最近大きくなりつつある新聞社のサークリングス・トリビューンのHPがよいそうだ。生きてるページへのリンクや更新頻度から利用者がかなり多いらしい。

 ってこっちにも新聞とかあるんだね。

「……あれ、このサイトって」

 その新聞社のサイトには。

「異邦人との体験談大募集!って、書いてある、けど」

 ファナちゃんが、顔を上げてナィアさんを見つめる。

「うむ。電子マネーだが賞金もでるのだ。アユムやファナとの冒険を投稿すれば、きっと多くの人の目に留まるに違いない」

「あー、うん」

 ボクたちが異邦人だからって、ナィアさんが妙に親切だと思っていたら。

 こういう目的もあったんだねー。

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