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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
第五話「ボク的セカイの歩き方」
189/228

 8、「はいよるこんとん」

 ぺったんぺったん。

 ハンコを押しながら書類を処理して行くうちに、奇妙な問い合わせに気が付いた。

「幼女の国なのに、微妙に幼女とは言えない女の子が居る……?」

 幼女の国の仕様について聞かれてもボクには答えようもなければ、知りようもないのだけれど。幼女の国って基本的には5~6歳くらいから、大きくても10歳くらいの容姿になるんだけれど、どう見ても中学生以上、10台半ばとしか見えない女の子がたまに出没するのだとか。

 さらに言えば。

 先日の灼熱エリアにおけるスーパー幼女(ロリっ子)大戦で、東側の戦いに参加した目撃者によると。フードで隠していたけれど、その顔は巨大イズミちゃん人形にそっくりだったらしい。

 あの時、あの戦いの最後で。イズミちゃん人形のお腹からあふれ出した全裸のニセイズミちゃん、あれの残党じゃないのか?という問い合わせのようだった。

 あの時、始末しきれなかったニセイズミちゃんが居たのは確かだけれど、あくまであれは目くらましみたいなもので、あの後、動かなくなった残骸をシス子ちゃんたちが回収しているし、そして本物のイズミちゃんは侵略戦の時以外では、なぜか島エリアにはほとんど足を運ばない。

 ということは。

「……ねえグレちゃん。これ、もしかして」

 お茶を持ってきてくれたグレちゃんに書類を指さすと。

「……うん。長下部、一純ちゃん。オサちゃんの可能性があるよ」

「そう言えば、一応、灼熱エリアと島エリアってつながってるんだよね。東大もっと暮らしってやつ?」

「アユムはうろ覚えで慣用句使わないの!」

 グレちゃんがふよふよと空中を漂う様にして机の上に降りたった。一緒に浮いていた紅茶のカップが続けてふわりとボクの前に降りてくる。

「お茶ありがと、グレちゃん」

「ん」

 グレちゃんもそのまま机の上にちょこんと女の子座りして、自分用のお茶の用意を始める。

 お茶菓子あったかな、と引き出しを開けてみると、お土産っぽいのが入ってたので開けるとクッキーだった。

 二人して、クッキーを齧りながら。ちょっとお茶を飲んで一息吐く。

「それで、オサちゃんのこと何かわかったの?」

「今の所、目撃情報だけだよ。なんで姿を隠したのか、とか、島で何してるのかって、そういうのは相変わらずさっぱりだね。まあ、たまたまこういう形でオサちゃんの情報が入って来て。一応、島エリアに居たってことはこっちでも確認取れてる」

「あ、そっくりさんとかイズミちゃんの見間違いじゃあなくって、オサちゃんだって確認取れてるんだ?」

「あくまで、少し前に居たってことだけね。今、どこにいるかはわからないよ」

「そうなんだ?」

 まあ、シス子ちゃんたちなら島エリア程度の広さならあっという間に調べがつくよね。

「結局、今どこにいるかはわからないんだし。正直……言おうかどうしようか迷ってたんだけど、アユムたちは知りたいだろうなって」

 今日はグレちゃんが妙に何か言いたげに黙ってることが多いと思ってたら、オサちゃんのことだったみたい。書類を片付けろーって妙にしつこかったのもそのせいかな。

「教えてくれてありがと。イズミちゃんに、このことは?」

「知らせたら島で大暴れしそうだから、ゼノヴィアに頼んで魂の煉獄エリアに隔離したんだよ。たぶん今頃はゼノヴィア経由で伝わってると思う」

 あのイズミちゃんが案内役任されたのにはそんな事情があったのかー。

「そっか。ところでなんでこんな回りくどい方法なの? 直接、教えてくれたらよかったのに」

「……イズミちゃんの方はまだご家族だからって、言い訳できるけど。アユムに教えるのは運営的にはかなりグレーなんだよ? 他のプレイヤーの動向を別のプレイヤーに伝えるのって。特に、オサちゃんは自分の意思で姿を隠したとしか思えない状況だし」

 ふむー。

 自称神様や女神様たちが権限フル活用すれば、ルラレラティア上に存在するならオサちゃんの居場所の特定なんかすぐに出来ただろうけれど。まあ、出来るからってやるかっていうと、女神様たちにはやる理由がないからね。むしろ運営側が理由もなく特定のプレイヤーに便宜図るようなことをしちゃあいけないっていうのはボクにも分かる。

「それにさ、忘れてるかもしれないけど、オサちゃんってリアルのセカイでは死んでるんだから。立ち位置が特殊だから、完全にルラレラティアの人間として生きる覚悟を決めて、アユムたちから離れたけなのかもしれないし」

 うーん。

「……まあ、元気でやってるようならいいんじゃないかな」

 オサちゃんが姿を隠した理由は全部推測にすぎなくって、結局のところ全く謎なんだけど。

 自分の意思でやってることなら、ボクたちが何か言えることはないのだった。

「でも、幼女の国の影響受けてないっていうのはちょっと気になるね。シロウサギちゃんも元々幼女だったせいか幼女化の影響受けてなかったみたいだけど」

「幼女の国の仕様はキューちゃんしか知らないから、運営側ではなんとも言えないね」

「それもそうかー」

 そういやファナちゃんは幼女の国でもほとんど容姿変わらないけど、種族カードは無効化されてたし、元々幼女だからってのはあんまり関係ないのかな? 謎だー。

 んー。そうすると、オサちゃんらしき人物が元の姿のままなのは……。

 もしかして。

「……システムの影響を受けてない?」

 ふと思いついたけれど、なんとなく正しい気がする。

 結局、あの時、灼熱エリアを封じたり、戦闘をエンカウント方式にしちゃったりとか、システムに介入していた存在は謎のままだった。

「オサちゃん、あのイベントの裏にいた誰か、何かと関わってる?」

 名探偵アユムのピンク色の脳細胞がはじき出した、たったひとつの冴えた答え。

 そうすると、もしかしたらオサちゃん自身の意思じゃあなくって、何かに巻き込まれてる可能性があるのかも。

「いや、確かに結局裏に何があったのかわかってないけどさ、考え過ぎじゃない? アユムは自分が巻き込まれ型の勇者体質だからって、誰でもそうだと思わない方がいいと思うよ」

「失礼なー。ひどいやグレちゃん。誰が勇者体質だー」

 あれでしょ、どこか行く度に殺人事件に出会う名探偵体質とか、そゆのと同じだっていうんでしょっ!?

 いやまあ、実際、ボクってろくでもないことに結構巻き込まれたりしてる気はするけどさっ!?

 抗議のためにグレちゃんをつつこうとしたら。ボクのシスタブがメッセージの着信を告げた。

「……ん? ルイくんから」

『……タス……ケテ』

 消え入るような、小さな文字で一言。

 ええっと。そういやルイくん、新人さんの案内で大森林エリアに行って、妖精さんと精霊さんにさらわれたんだっけ。

「ガ、ン、バ、レっと」

「アユムの鬼畜っ!?」

 グレちゃんが頬に手を当ててムンクのように叫んだけど、まあしょうがないじゃない。

「……森で何度か、ルイくんが頑張ってるとこに遭遇したから。森には助けに行きたくないかなー。他のエリアだったら、行くけどさぁ」

 一応、ボクも乙女ですし?

 妖精さん相手にハァハァしてるルイくんに出くわすのはかなり気まずいし。お邪魔をする気はないのだった。

「んー? でもほら、ルイちゃんってこないだ先行で転族のカードもらってから、ずっと女の子のままのはずだけど」

「あー。そういやそうだっけ?」

 このところ灼熱エリアの温泉めぐりしてたけど、女の子になったからってルイくんもたまに一緒に入ってた気がする。人形みたいにすごく綺麗だから、結構目の保養になるんだよね。

 って。

「……じゃあなんでルイくん、タスケテって。妖精さんたちが欲しがる白いの、出せないよねぇ?」

 母乳は流石に昨日今日で出せるようにはならないだろうし?

「……さあ?」

「うーん、まあ、ほっといてもひどいことにはならないでしょ? 命を取られるわけじゃあないんだし、一回妖精さん達とは話し合いしてあるから、ほどほどで解放されると思う」

 むしろルイくんは妖精さんと精霊さんに囲まれてウッハウハ状態なんじゃ。

 ……あんまりうらやましくはないけれど。

 んー。ちょっとだけ様子を見て見たくもあるなー。

「それもそうだね。じゃあアユム、お仕事残りがんばってー」

「え、オサちゃんのことを教えてくれる建前だったんじゃ」

「ペッタンしてもらわないとこっちのお仕事が進まないのよ? がんばってー」

「ぐぬぬ、グレちゃんの鬼畜~」




 何か忘れてるような気がしながらも、ぺったんぺったんお仕事を続け。

 ふと気が付いたら日が落ちる寸前だった。

「……すっかり夕方だし。シロウサギちゃんたちどうなったかなぁ」

 ボクもシロウサギちゃんと一緒にミッションこなしたりとかしたかったんだけど。まあ、機会はこれからいくらでもあるよね。

 とんとん、と自分で肩を叩きながらため息ひとつ。

 書類整理は終わったけど、これから必要な事項を島掲示板とか島議会の方に連携しなきゃいけないんだよねぇ。

 もー、お役所仕事って面倒。現地通貨とはいえ、お金もらってなかったら逃げ出してるね、絶対。

 もう一度、深くため息を吐いたところで、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 ファナちゃんたちがもどって来たのかな? わざわざノックするような間柄じゃないけど。

「はい、どうぞー?」

 声をかけると。

「……」

 ドアの向こうから、おずおず、といった様子で顔をだしたのはルイくんだった。幼女の国なので可愛らしい金髪幼女になっている。ルイくんの幼女姿を見るのは何気に初めてかも?

「あ、ルイくんお勤めご苦労さん。ようやく解放されたんだ?」

「ううー。アユムさんひどいです。私、タスケテって、メッセージ送ったのに! 前、何かあったら助けてくれるって言ったのに! ガンバレはないですよね……?」

 ルイくんはちょっと恨めし気な顔で、じりじりと詰め寄ってくる。

 真っ赤な顔で、ちょっと息を荒くして。

 ……なぜかモジモジと大腿をすり合わせるようにしながら。

「いやだって、ルイくんが頑張ってるところに出くわしたら気まずいでしょう? お互いに」

 って、そういや転族のカードで今はルイちゃんなんだっけ?

 よく見ると、ルイちゃんは、可愛らしさが増している、というか、なんだか妙に色っぽいかんじが。男の子の時にも女の子の時にも、ルイくんてすごく美人でかわいいんだけど、あまり色っぽいなんて感じることはなかったのに。しかも、幼女の国でなんて。

 何かあったのかな?

「……うー」

 じりじりと近づいてきるルイくん。新人さんの案内の途中だったせいか、戦闘用のポケットがいっぱいついたローブを着ているんだけれど。

 ……なんだかお股のあたり、膨らんでるように見えるのは気のせい?

 幼女の国なんだし、女の子のはずなんだけど。

「ちょっと質問があるんだけどルイくん。今日のルイくんはどっちだったの?」

 静止するように手を伸ばすと、ルイくんがじりじりとした歩みをぴたりと止めた。

「……私、リアルでは女の子で、こっちでは男の子やってましたけど」

 ボテッ、と何かがルイくんのローブの裾から転げ落ちた。

 キラキラ輝く宝石を抱えた妖精さんが、てへへ、とばかりに小さく頭を掻きながら、ごそごそとルイくんのローブの中へと戻っていく。

 一体、ナニをしてたんだっ!?

「もともと、どっちつかずで、男の子を好きになったらいいのか、女の子を好きになったらいいのかわからなくって、その、そういうことには興味が薄かったんですよ?」

「……ごめんルイくん、いやルイちゃん? 何を言いたいのかわからないって言うか、妖精さんナニしてるのそれ」

「んっ」

 びくんとルイちゃんが一瞬のけぞって。

 蕩けたような眼差しで、ボクをじっと見つめてきた。

「……私が、こんな風になったのは、助けてくれなかった、アユムさんのせいだと思いませんか?」


 ……ええと。ルイくん、もしかして。いわゆる、メス堕ちってやつ、しちゃってる?

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