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ボク的セカイの歩き方  作者: 三毛猫
第五話「ボク的セカイの歩き方」
182/228

 1、「新人さん、いらっしゃ~い」

 さて、まずはナィアさんの都合を確認しなきゃね。

 シスタブで「かくかくしかじか」とメッセージを飛ばすと、すぐさまナィアさんから返事が返って来た。

『ナィアーツェに問題はないぞ、アユム』

「じゃあ、おねがいねー、ナィアさん。現地に着いたら座標を連絡するね」

『初めてアユムやファナトリーアに出会った辺りであろう? あの辺りはナィアーツェの縄張りだ。すぐに合流できよう』

「あいあい。じゃあ、また後で」

 ちみっ子なナィアちゃんも可愛くてよかったけれど、砂漠の案内だと蛇女のナィアさんの方がいいよね。きりりとしたナィアさんはかっこよくて素敵。

 あとはー、おっと、シェラちゃんにも連絡しとかないと。

 うん。

 今までシェラちゃんとはいつも一緒に行動していたから、必要性を感じなくって、シェラちゃん用のタブレットってもらっていなかったんだけど。

 いろいろあって別行動することも増えたから、神殿に行ってもらってきたんだよね。

 影憑依してる時以外は「ピ」か「プ」としか言わないシェラちゃんだけど、タブレットを手に入れてからは普通にメッセージでやり取りできるようになったのだった。文章だけじゃあなくって、声もシスタブを通すと普通に聞こえるんだよね。どういう仕組みなんだか。

 ……まあ、いつもの「ピ」と「プ」だけでも普通に何言ってるか分かるんだけど。

 ちなみに今日シェラちゃんは、大工房でディアネイラさんのお手伝いをしている。全ての機人種の原型たるシェラちゃんは、新たな機人種を生み出す上で重要な役割を果たしているのだった。

 さて。

 ファナちゃんと砂漠エリアで新人さんの案内をする旨メッセージで伝えると。

 『今すぐ戻ります』のメッセージと共に、【影渡り】でボクの背後にシェラちゃんが現れた。

「ピ!」

 お供します!とばかりにシェラちゃんが満面の笑みを浮かべたけれど。

「もー。お仕事放り出してきちゃあダメでしょう?」

「プ」

 心配そうに、ちょっと口をとがらせるシェラちゃんの唇を、指先でふさぐ。

「大丈夫だってば。新人さんの案内するだけだし、ナィアさんも一緒だから。そんな心配することないって」

「わたしだっているんだし! というか、シェラちゃんはたまにはわたしにアユムを独占させるべきだと思います! 今日はわたしの日だったはずでしょー?」

 さらに、ファナちゃんが横からひょこんと顔を出してシェラちゃんに迫った。

「……ピ」

 シェラちゃんはしばらく悩んでいたようだけど、最終的には頷いてお仕事に戻って行った。

 愛されてるよね、ボク。

 シェラちゃんと出会ってから、一緒に冒険に出かけなかったことってほとんどないから。すっごく心配してくれてるんだと思う。

 ……これまでで一緒に出掛けられなかったのって、「魂の煉獄エリア」関連くらいだったから。特に印象が良くないんだろうけど。

 まあ、新人さん案内するだけでそんな危険があるわけないしね。

 変なフラグとかたってたり……するわけないしー。

「じゃあ、ボクたちも行かないと。ナィアさんだって待ってるだろうし、新人さんも待ってるよ」

「うん、行こう!」

「ええと。準備するものは特にないよね?」

 たいたいの物は【影収納】に入ってるし。シェラちゃんご飯だって作り置きがばっちり。

 砂漠の案内くらいならそれほど強い敵も出ないし、カード構成も適当で大丈夫だよね。

「ん、初期エリア歩くだけなら大丈夫なんじゃないかな?」

 ファナちゃんも特に問題なさそう。

 まあ何かあれば【影憑依】しちゃえば大概はなんとかーって。

 ファナちゃんがボクの姿になって戻らなくなっちゃったから、ファナちゃんとは【影憑依】しない方がいいんだっけ。

 ……まあ、大丈夫、大丈夫。

 ふと、思い立ってシスタブから掲示板につないでみると、向こうも新人さんの話題になっていた。

 案内役お願いされた人、結構いるみたいだね。

「あゆむ、あゆむ、まだ何か用事? 行かないの?」

「あ、ごめんファナちゃん。行こう。グレちゃん、普通にドア開けるだけで合流できるの?」

「んー。出るときに”はじまりの砂漠”を選択してくれたら、こっちで合流地点につなぐよ」

 おー? はじまりの砂漠って、いっちばん最初にボクがルラレラティアに降り立ったときの、あの場所だよね。

 あそこって、ポータルもセーブポイントもないから普通はドアの選択に出て来ないんだけど。今はグレちゃんが設定してくれたのか、ちゃんと選択できるようになっているみたい。

 なんだかちょっと懐かしい。まだほんの数か月前のことなんだけどなぁ。

「ん、りょーかーい。じゃあ行ってくるね、グレちゃん」

「いってきまーす!」

 ファナちゃんと二人、グレちゃんに手を振ってドアを開けたんだけど。

「……がんばってね? ってゆーか、アレ何とかしてお願い」

「……え? グレちゃん、今何か」

 最後に何か、グレちゃんが早口の小声で言ったのを聞き返そうとしたら。


 ……もう、ボクとファナちゃんは砂漠の真ん中に立っていた。

 なんだったんだろうね。気になるなぁ。




「……砂漠はすごく久しぶりな気がする」

 ちょっとだけ、感慨深い。ここで初めて、ファナちゃんと出会ったんだよね。

 大きな黒い岩くらいしか目印がないけど。

「だよねー。なんだかんだで街とかあんまり居心地良くなかったし、当時はカードも少なくって全然冒険にならなかったからねー」

「そだねー。って、あれが新人さんかな?」

 大きな黒い岩のそばに。くっきりと浮き上がる白い人影。ひどくちっちゃく見えるのは遠くにいるから? なんだか既視感あるんだけど。

 長いお耳は獣族なのかな。それとも単なるアクセサリ? ウサギさんっぽい。

 ぴょんぴょんと飛び跳ねてるのはこちらに気付いて歓迎してくれてるのかなって、思ってたんけど。

「……あゆむ、あれ、なんか様子おかしくない?」

「うん、なんか変だよね」

 なんというか、必死過ぎる様な。楽しそうに飛び跳ねてるって感じじゃあなくって、飛び跳ねないと「死ぬ」みたいな?

「あ、こっちに来るよ」

「た、た、た、た」

「タタタ?」

「たすけてー!」

 文字通り脱兎のごとくこちらに駆け寄ってきたウサギちゃん。砂の上なのによくあんなスピードで走れるなぁとか感心してたら。

「……おお?」

 いきなり白刃がきらめいて。

 反射的に【影収納】から剣を取り出して、わけもわからず受け流す。

 いろいろあって、この程度は咄嗟に出来るようになったボク、結構すごいかも。

「……へえ。なかなかやるじゃない、あなた」

 気が付いたら、目の前に。女の子が居た。

 ついさっきまで、影も形もなかった、というか。まったく気が付かなかったんだけど。そりゃあ、剣を振るったナニかが居るはずだよね。

 すらりとした細身の身体。上は袖が無いけれど、剣道着っぽい少し厚めの生地で出来た服で、下は膝丈までの薄いスパッツ。足なんてわらじ履きだ。なんていうか、むかーしの忍者マンガに出てきそうな、くのいちって感じの格好。

 ただし、その手に持っているのは白木の鞘の日本刀?ぽい刀で。

 ……どこから持ってきたんだろう。和風エリアとかのかな。

 武器とか持ってるし、変態忍者さんは新人さんじゃあなさそうだけど。

「……えっと、君はだあれ? なんでウサギちゃん追いかけてたの? まさか不思議の国のアリスちゃんとかいわないよね?」

 尋ねると、忍者さんは刀を構えて「ニィ」っと笑った。

「あたしはキルコ。あなた達は見た目的に新人さんじゃなさそうね? 殺し合い、しない?」

 だめだこの人話が通じないってゆーか、なんか聞く耳もたないってゆーか。

 ……性格的にイズミちゃんに似てるかも。

「新人さんを案内しに来たら殺し合ってた件~」

 ファナちゃんなんかラノベのタイトルっぽいことをつぶやいた。けどそんなこと言ってる状況じゃないと思う。

「えっと。ボクはキノサキ・アユムです。こっちはファナちゃん。新人さんの案内に来たんだけど、これってどういう状況? ウサギちゃん?は新人さん、なんだよね? キルコちゃんは案内に来たんだと思うけど、なんでケンカしてたのさ。ウサギちゃんが何かイタズラでもしたの?」

 ボクたちの後ろに隠れた白ウサギちゃんと、刀を構えたままのキルコちゃんを交互に見る。

「ぼ、僕、何もしてないですよっ!? こんにちわって挨拶したら、あの人がいきなり襲いかかって来たんです!」

 近くで見るウサギちゃんは、びっくりするほど小さくって、真っ白で、とにかくかわいかった。瞳と、頭の大きなリボンだけが真っ赤っかで、とっても愛らしい。しかもボクっ()だ。

 けど。うーん? ……なんかどこかで見たことあるような。

「あー。うん。確かにシロウサギちゃんは悪くないよ? あたしがさ、人を斬りたくってちょっと遊んでただけ。遊びなのにかすりもしなくって、ちょっとマジになりかけてたけど」

 キルコちゃんが、刀の切っ先をボクに向けたまま。

 ……なんだか、ちょっとえっちぃ顔で、顔を赤くしながら。

「でも、アユムちゃんだっけ? あなたの方が面白そう。殺し合い、しよ? うん、きっとすごく気持ちよくなれそう。あたし、もう、我慢できそうにないんだけど」

 なんだかハァハァと息を荒くしながら、そんなろくでもないことを言った。

「……もちろん、いやですけど?」

 LROはフレンドリファイアありありで、やろうと思えばプレイヤーを意図的に害する行為、いわゆるPKというのは普通に可能だ。やっても得るものがまったくない上に、基本的にLROでは禁止されていて、悪質と判断されるとアカウントの停止や削除をされてしまうので、ほとんどPKというのは見ないんだけれど。

 キルコちゃんって、人の迷惑を考えない、そういう困った行為が大好きな人なんだろうか。

 いや、一応、同意を求めてくるってことは対人戦大好きな子なのかな。

「え? なんで? いいじゃない。ちょっと命のやり取りするだけでしょ? ほら、死なないんだし。ちょっとだけだから、ね? 先っちょだけでも」

「変態反対っ!?」

 じりじり寄ってくるキル子ちゃんに押されて、思わず後ずさる。

 いやボクだってあんまりひとの事笑えないけどさっ。

「新人の相手してくれないなんてつれない先輩だなぁ。これはもう、問答無用でやっちゃってもいいんじゃない? よし、斬ろう」

「ちょっと待って。キル子ちゃんって新人さんなの? その武器どこからもって来たのさ?」

「え? お家からだけど。ほら流石に銃刀法違反とかになるし、公園とかで振り回すわけにもいかなくって。ルラレラティアでなら死なないから、いくらでも殺し合い出来るでしょう?」

 じりじりする寄ってくるキル子ちゃん。

「あ、じゃあ、そういうのに喜んで付き合ってくれそうな子紹介してあげる」

「……ほんと?」

 ぴたり、と刀の動きが止まった。

「あゆむ、うそつかなーい」

「ってゆーのがたぶんウソな気がするー」

「ファナちゃんは黙っててー」

 ってゆーか、こういう危険人物って似た者同士というか、イズミちゃんに任せたらいいんじゃないかな。キューちゃんとも仲良くバトルしてたし。きっとキル子ちゃんとも殺し合いに付き合ってくれるでしょう。

 シスタブで確認するとイズミちゃんはログインしてるようだったので、メッセージを飛ばすと。

『あん? こっちに来るならついでに鍛えたげてもいいけど』

 そんなよくわからない答えが返ってきた。

「あれ、こっちってイズミちゃん今どこなの」

『新人さん案内しないかってゼノヴィアちゃんに頼まれてさぁ。久々に魂の煉獄エリアなわけよ。まあ部屋にゼノヴィアちゃん居るのは大歓迎だけどさぁ、二度と来たくなかったんだけど』

「あー」

 そういやイズミちゃんの初期エリアって「魂の煉獄エリア」だっけ……。

 ってゆーか、あそこにも新人さんとか振り分けられてるんだ。わお。

 ……前と同じ状況の新人さんだったりしないよね? よね?

『だからさぁ、こっち来たいんならその子に今すぐ腹切れって言ってくれるゥ? ゼノヴィアちゃんがこっち引っ張り込むって』

「……おー。イズミちゃんは戻って来られないの?」

『それが、魂の煉獄エリアってポータルもセーブポイントもないでしょお? 新人どもを迷宮クリアさせるまでが案内とかふざけてるわねっ! しかもそれが終わるまで帰れないのよッ! 死ね! 開発運営クソッタレ! ログアウトは出来るけど、またあたし閉じ込めるとか。マジで死ね』

「……ご愁傷様」

 オサちゃんが行方不明になってから、イズミちゃんもなんか荒れてるなぁ。

 最初は楽観的な感じだったのに、もう2週間以上も音沙汰なしだしね。

 オサちゃんはプライベートルームにも戻らず、シスタブの電源も落としたままなのでシス子ちゃん達も居所が分からないみたいだし。

「……ねえ? まだなの? いやもう、あなたでいいから斬らせて? お願い」

「あー。キル子ちゃん。今すぐこの場で腹切ったら、イズミちゃんに会えるんだけど」

「……え? 自分の腹斬るとか、嫌ですけど? 痛いでしょ。馬鹿じゃないの?」

 きょとんとした顔で、キル子ちゃんは首を横に振った。


 ……他人を斬り殺そうっていうのは馬鹿じゃないのかなぁ。

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